はじめに

身体を動かす筋肉にはとてもたくさんの種類があり、それぞれ大きなパワーを発揮する筋肉や関節を安定化させる筋肉など役割が違います。
スポーツ競技では、競技内容やポジションによって瞬発力や持久力など必要な能力が異なるため、必要なトレーニングも違ってきます。
そこで、今回は瞬発力を高めるトレーニングについて必要な筋肉の特徴や鍛え方をご紹介します。

瞬発力を高める速筋とは

人間の身体を動かす筋肉はたくさんの筋線維が束になって1つの筋肉になっています。
そして、それぞれの筋線維は「速筋(別名:白筋)」と「遅筋(別名:赤筋)」の2つに分類されます。
「速筋」とは、あまり酸素を必要とせず瞬発的に大きな力を発揮することが得意な筋線維です。
一方の「遅筋」は、大きな力を発揮することは得意ではありませんが、多くの酸素を使って長時間働き続けることが得意な筋肉です。
どの筋肉にも速筋と遅筋が混在していますが、大腿四頭筋(太ももの前側の筋肉)のようにジャンプや蹴る動作などで大きな筋力を発揮する筋肉は速筋の割合が多く、ヒラメ筋(ふくらはぎの深部の筋肉)のように歩行などで長時間体重を支え続ける筋肉は遅筋の割合が多くなっています。

瞬発力を高める速筋の効果

「速筋」とは、瞬発的に大きな筋力を発揮するのが得意な筋肉であることをお伝えしましたが、速筋を鍛えることで具体的にはどんな効果があるのでしょうか。
一番わかりやすい効果としては、短距離走が速くなったり、ジャンプ力が上がることです。短距離走では、着地の瞬間に地面を力強く蹴ることで地面からの反力を推進力に変えていきます。また、ジャンプでも瞬間的に地面を強く蹴る力がジャンプの高さとして表れる。
次に、サッカーでボールを蹴る力も速筋に大きく関与します。サッカーボールを蹴るインパクトの瞬間は一瞬なので、そのタイミングで大きな力をボールに伝えることができれば、キックの飛距離も格段に伸びてきます。
さらに、ラグビーのタックルにおける力強さも速筋に関与します。相手とぶつかる瞬間に全身を固め、相手を押す力は腕の力も必要ですが、それ以上にジャンプなどと同じように足や腰の力が必要になります。
このようにスポーツにおいて瞬発力を必要としている場面は大変多いです。
ですから、速筋をピックアップしてトレーニングする意義は十分にあると思われます。

速筋を鍛えるトレーニング方法(ジム編)

ジムで筋トレを行う場合は色々な器具を使用できるかと思いますので、効率的に速筋を鍛えることが可能です。

RMとは?

「RM」は「repetition maximum」の略語で、筋力トレーニングの運動強度の指標として使われる単位です。
例えば、バーベルを担いで行うスクワットを考えるとき、1RMというのはその人がなんとか1回ならスクワットを行うことのできる重さのバーベルを使用することで、筋力の100%の負荷ということになります。
2RMはぎりぎり2回スクワットを行える負荷のことで筋力の95%、6RMは85%、14RMは65%とされています。

速筋を鍛えるためのトレーニングのポイントは?

速筋は瞬発的に大きな筋力を発揮する筋肉ですので、それを鍛えるためには何回でもできるような負荷ではなく、1RMに近いような負荷でトレーニングを行うことが必要になります。
しかし、逆に1RMの負荷では負荷が大きすぎて瞬発的な速い動きを行うのが難しくなります。
そこで、瞬発的な動きができる重さを用いて速い動作でのトレーニングも行うことが必要です。

具体的には、
2~6RMの負荷で2~6回のトレーニングを3セット
15RMの負荷で15回のトレーニングを2セット
(こちらはできる限り素早くスピード感を持って行う)
の2種類を同じ動きのトレーニングで行うことが速筋を鍛えるポイントになります。

スクワット

下半身の速筋筋力を効率的に鍛えられるトレーニングとしては、スクワットが代表的です。

1. 足の幅は骨盤の幅かもう少し広い程度に開き、つま先はやや外向きに向ける。
2. バーの下に入って両肩と両手でバーを担ぎ、バーベルをラックから外す。
3. 背筋が丸まらないように伸ばした状態で、ゆっくりと腰を落としスクワットを行う。
(腰を落とす位置は、太ももが地面に平行になるまでが基本ですが、踵が浮いてしまったり、筋力的に落とした腰を持ち上げられなくならないように各々調整しておこなってください。)
4. 3の動きを繰り返して終了したらゆっくりとバーベルを元の位置に戻す。

このスクワット動作を2~6RMと15RMの二種類でそれぞれ行います。
また、バーベルスクワットのフォームは、バーを担ぐ高さやバーを持つ手の幅など、細かいポイントがあります。
初めてバーベルスクワットを行う方は、必ずトレーニング指導のできる方のもとで行うようにしてください。

ベンチプレス

上半身の速筋筋力を効率的に鍛えられるトレーニングとしてはベンチプレスが代表的です。

1. ベンチプレスの台に仰向けになり、バーがちょうど肩のラインにくるようにする。
2. バーを持つ手の幅が肩幅の1.5倍程度になるようにしてバーをしっかりと握り、足は台をまたいで床にしっかりとつき踏ん張れるようにする。
3. バーベルをラックから外し、バーベルを胸の前まで持ってくるとともに肩甲骨をしっかりと内側に寄せたら、肩甲骨を前に押し出すように意識しながら肘を伸ばし、バーベルを真上に持ち上げる。
4. 3の動きを繰り返して終了したらゆっくりとバーベルを元の位置に戻す。

この動作を2~6RMと15RMの2種類でそれぞれ行います。
ベンチプレスも間違えたフォームで行うと、肩や肘のケガにつながりますので、慣れるまでは必ず指導者のもとで行って下さい。

速筋を鍛えるトレーニング方法(自宅編)

自宅でのトレーニングとなるとなかなかトレーニング器具を用意できない場合も多いかと思いますので、ここでは自重のみで行うことのできる速筋トレーニングをご紹介します。

ジャンピングスクワット

自重でのスクワットでも筋肥大の効果はありますが、瞬発力をさらに高めるために効果的なのがジャンピングスクワットです。

1. 通常のスクワットの開始肢位と同じように骨盤の幅に足幅をとり、両足が平行になるように立ちます。
2. ゆっくりと太ももが床に平行になる程度まで沈み込んだら思いっきり高くジャンプします。
3. 着地時はしっかりと衝撃を吸収するように膝や股関節を曲げるようにし、慣れるまでは一回ずつ開始肢位にセットしなおすようにしますが、慣れてきたら着地で沈んだところから再びジャンプすることを繰り返します。

ボックスジャンプ

ジャンピングスクワットが習得できたら、ボックスなどの障害物を置き、前後や左右にジャンピングスクワットを行うボックスジャンプを行います。
ジャンプ前後の着地場所は変わりますが、基本的な動作はジャンピングスクワットと同じです。
競技特性などに合わせて必要となる動きに類似したものから行うと、よりパフォーマンスの向上につながります。

腕立て伏せ

ベンチプレス同様、上半身の速筋を総合的に鍛えられるのが腕立て伏せです。

1. 手の位置は肩のラインとし、肩幅より拳2つ分広く床に手をつき肘をしっかりと伸ばします。
2. 足はつま先だけが床につくようにし、身体を横から見た際に肩から足首までが一直線になるようにします。
3. ゆっくりと肘を曲げ胸が床につく手前まで来たら、また肘を伸ばして身体を持ち上げる動作を繰り返します。

速筋を鍛えるためには2~6RMと15RMのトレーニングを行うのが理想的なので、筋力によって普通の腕立て伏せでは2~6RMとならない場合には、つま先を台の上に上げて置くことで身体の角度を変えるなどして負荷を増やすようにし、15RMの際にはペースを上げて行うように工夫してください。

おわりに

今回は、瞬発力を高めるために必要な速筋の鍛え方についてご紹介しました。
それぞれのスポーツの競技特性などによって必要な筋肉や動きが異なり、ちょっとしたトレーニングのやり方の違いで大きくパフォーマンスが変わってきます。
ご自身に不足している能力を見極め、正しく効率の良いトレーニング方法で身体能力を向上させていっていただきたいと思います。

監修

・救急医、内科医 増田陽子

・救急医、内科医 増田陽子

専門分野 
微生物学、救急医療、老人医療

経歴
平成18年 Pittsburg State大学 生物学科微生物学・理学部生化化学 卒業
平成22 年 St. Methew School of Medicine 大学医学部 卒業
平成24年 Larkin Hospital勤務
平成26年 J.N.F Hospital 勤務

資格
日本医師資格
カリブ海医師資格
米国医師資格

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