はじめに

妊娠した時、親は五体満足で元気に生まれて欲しいと願うものではないでしょうか?

しかし、すべての子どもが障害がなく生まれてくるわけではありません。
では、知的障害はいつ、どのような時に判明するのでしょうか?
また、予防出来るものなのでしょうか?

今回は知的障害について詳しく解説していきます。

知的障害(精神遅滞)とは

知的障害は以下のように定義されています。

1.知的機能に制約がある事
2.適応行動に制約を伴う状態である事
3.発達期に生じる障害である事

知的障害の大まかな診断としてはIQ指数が用いられ、IQが70以下の場合、知的障害と診断されます。

知的障害(精神遅滞)の原因

知的障害を引き起こす原因として、大きく3つの要因があります。

生理的要因

身体的には特に異常は見受けられないが、脳の発達障害によって知能が標準より低い水準に偏ったと考えられます。

これは知的障害の親からの遺伝や、知的障害のない親から偶然に知能が低くなる遺伝子の組み合わせで生まれた事等が原因です。

病的要因

これは脳に何らかの病気や損傷があって、知能の発達が妨げられてしまう場合です。知能の発達を妨げる脳の病気や損傷は様々な原因が考えられます。

胎児の時に考えられる脳の異常としては、お腹にいる時に母体が風疹や梅毒等、胎児に大きな影響を及ぼしてしまう感染症に罹患してしまった場合や有機水銀等の身体に悪影響を及ぼす毒物による中毒等があります。次に乳幼児の場合は、脳外傷、感染症、出血等が原因として挙げられます。

また染色体異常による知的障害もこれに分類されます。染色体異常でポピュラーなのものとしてダウン症が挙げられます。

心理的・社会的要因

知的発達に著しく不適切な環境に置かれている場合にも知的障害を発症する事があります。

典型的な例としては児童虐待が挙げられます。

知的障害と精神遅滞の違いは?

知的障害と精神遅滞はほぼ同義語です。

一般的に医学用語では精神遅滞を用います。

そして学校教育においては知的障害を用いて使い分けをしています。

知的障害(精神遅滞)の症状

知的障害と一言に言っても、その症状は千差万別です。

染色体異常が原因の場合、身体奇形を伴う事が多いので、出産直後に判明する事が多々あります。
身体発達に問題がない場合、子供の成長する過程で親や周囲の大人が気付く事が多いようです。

では、具体的にどんな症状が現れるのでしょうか?

知的障害は言葉の遅れ、遊びの不得手、身体の動きの不器用さ等、知的能力の遅れだけではなく、社会生活への適応にも影響が出てしまいます。社会生活への適応の影響は様々で、読み、書き、計算といった限定された部分の発達障害の他に、全体的な発達は水準以下ですが、ある分野にだけ飛びぬけた能力を発揮する子もいます。

これは極端な例ですが、有名なハリウッド俳優で、読み書きができない方もいます。これも知的障害の一種と言えます。その他に多動性障害や自閉症等も知的障害に分類されます。

知的障害(精神遅滞)の予防法

では、知的障害の予防法はあるのでしょうか?要因別に見ていこうと思います。

1.生理的要因

これは脳の発達障害によるものなので、残念ながら予防するのは難しいです。

2.病的要因

病的要因の中でも染色体異常や脳に何らかの障害がある場合は生まれつき持った障害なので予防するのは難しいです。

ただし、外傷性のものは、外から脳にダメージを受けて起こりますので、予防は可能です。例えば、自転車に乗る時はヘルメットを被せたり、車に乗せる時は必ずシートベルトを締める等、心がけで防げる事もあります。

また、妊娠中の風疹や感染症をママさんが予防する事で生まれてくるお子さんの健康を守る事が出来ます。
妊娠中は抵抗力も弱っていて感染症に罹患しやすくなっているので、外出時は必ずマスクをし、帰ってきたら手洗い、うがいは勿論の事、時間があるのならシャワーを浴びて、外から付着してきた菌を洗い流しましょう。人体に悪影響を及ぼす毒物も同様で、危険な場所に近寄らない等、ママさんが注意して生活する事で防ぐことができます。

3.心理的・社会的要因

この場合は大人が環境を整えてあげる事が大切です。子供に虐待を行わない事は当然ですが、子供の前で暴力的な行為や暴言を避ける等、対策を立てる事が出来ます。

知的障害(精神遅滞)の治療法

基本的に出産前に知的障害を検査する事は現代の医学では出来ません。

羊水検査で発見が可能なダウン症も知的障害の可能性や知的障害の程度等、詳しい状態までは確実に調べる方法はありません。ただ、知的障害は環境を整えたり、療育やトレーニングで改善する事が出来るのです。

その他に代謝異常等の病気を発症している場合は、その病気の治療によって改善する事もあります。

現段階での知的障害の根治治療は確立されていません。
しかし、個々に合った対策を講じることで大きな変化が期待出来ます。

例えば、その子に合った療育プログラムを利用したり、学校で必要な支援を受け、成長を促す事は出来るのです。そして成人後は就職支援等も受けられるので、知的障害を持っていても社会人として働いている方も沢山いらっしゃいます。子供が社会に溶け込んで生活出来るように家族や周りの方の手助けが大事なのではないでしょうか?

また、子供を支える上で家族の姿勢や心のゆとりも重要です。今は病気のお子さんを持つご家族に対して、カウンセリングを行ったり、同じ病気を持つお子さんのいるご家族と交流を持ち、悩みを相談しあったりする支援制度もありますので上手く活用する事をお勧めします。

まとめ

知的障害の原因は生理的要因、病的要因、心理的・社会的要因の3つに分類されていて、原因によって予防出来るものと出来ないものがあります。

知的障害の症状は人によって様々で、その子に合ったケア方法を見つける事で、症状が改善する事があります。

知的障害は決して珍しい病気ではありません。ご家族だけで抱え込むのではなく、様々な支援を利用して、子供が将来、社会に溶け込めるようにしていくと共に、家族も支援を受けて、心にゆとりを持って接するようにしましょう!

監修

・総合診療医 院長 豊田早苗

・総合診療医 院長 豊田早苗

専門分野 
総合診療医

経歴
鳥取大学医学部医学科卒業。2001年 医師国家試験取得。
2006年とよだクリニック開業。
2014年認知症予防・リハビリのための脳トレーニングの推進および脳トレパズルの制作・研究を行う認知症予防・リハビリセンターを開設。

資格
医師免許

所属学会:総合診療医学会、認知症予防学会

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