はじめに

スポーツをしていると『肉離れ』という言葉をよく聞きますが、実際にはどのような状態をいうのでしょうか?また、肉離れを起こしてしまったときにはどのような症状がでて、どのように対処、治療すればよいのでしょうか?

今回は、身近なようではっきりと知らない『肉離れ』についてふくらはぎの筋肉を中心にまとめてみました。

肉離れとは

『肉離れ』という言葉は一般的に使われる名称であり、正式には『筋断裂』と言います。

手足の筋肉の多くは、『筋線維』と呼ばれる糸のような筋肉の組織が束になって一つの筋肉として形成されています。これが、走ったり跳んだりする際に伸びたり縮んだりすることを繰り返すのですが、スポーツ中に急激な動きをしたり、普段出さないような力を発揮することで、筋肉の一部の線維が断裂してしまいます。これが『筋断裂』いわゆる『肉離れ』です。また肉離れは、筋肉が伸び切っているときに急激に力を入れて収縮したときに起きやすいという特徴があり、ふくらはぎや太ももの筋肉など下半身の筋肉によく起こります。

肉離れの原因

肉離れを起こしやすい筋肉にふくらはぎの筋肉『下腿三頭筋(かたいさんとうきん)』があり、ジャンプの踏み切りや、全力疾走をしているときなどに起こります。下腿三頭筋は膝の裏から始まり、アキレス腱となって踵の骨についており、地面を蹴ったりつま先立ちをするときなどに足首を動かす作用を持っています。ここでは、ふくらはぎの筋肉を例に肉離れの原因について紹介します。

1.筋力不足や筋肉の疲労

肉離れは筋肉が引き伸ばされる力に対し、筋肉が収縮する力が負けてしまうことで起こります。ジャンプの踏み切りの瞬間は足首が深く曲がり、ふくらはぎの筋肉が引き伸ばされます。その時に、引き伸ばされる力以上の力で筋肉を収縮することができれば、肉離れを起こすことはないのですが、筋力が不足していて収縮する力が負けてしまうと筋肉が断裂してしまいます。

また、試合や練習で疲れた状態で、いつもと同じように踏み切ろうとしたときも、いつものような筋肉の収縮ができないため、筋断裂を起こしてしまいます。

2.柔軟性の不足

筋肉が収縮する力に対して引き伸ばされる力が大きいときに肉離れを起こすと言いましたが、引き伸ばされても筋肉の伸張性が高く、ゴムのようにのびて切れることがなければ肉離れを回避することができます。そこで、重要なのが筋肉の柔軟性です。

スポーツの前にしっかりとしたストレッチや準備運動を行っておらず、筋肉の伸びや血流が悪い状態で激しい動きをすると筋肉が引き伸ばされることに耐えることができません。ですから、日頃からストレッチをしっかりとして柔軟性を高め、特に運動前には念入りに筋肉の柔軟性を高めておくことが重要です。

3.気候の変化

冬は夏に比べて体が硬いことを実感したことのある人もいるかと思いますが、いくら柔軟性を高める努力をしていても、気温が低いときは血流がよくなりにくく、筋肉も柔らかくなりにくい環境になります。ですから、いつもと同じストレッチや準備運動をしていても夏に比べて冬は肉離れの危険性が高くなりますので、注意が必要です。

肉離れの症状

次に、肉離れの症状について説明します。肉離れといっても程度によって症状が異なりますが、次にあげる点で肉離れの症状かどうか判断することができます。

1.運動時痛

肉離れがあれば、多かれ少なかれあるのが運動時痛です。

ふくらはぎの筋肉で言えば、ひどい肉離れの場合は足首を動かすだけ、足を地面について体重をかけるだけで痛い場合もありますが、軽い肉離れの場合は歩行には痛みがなく、ジョギングやジャンプ、ダッシュなどかなりの運動負荷をかけないと痛みの出ない場合もあります。

また、運動時痛とともによくある症状が伸張痛であり、ふくらはぎの筋肉をストレッチすると断裂した筋肉の間をさらに拡げるような状態になり、痛みを伴います。

2.圧痛、陥凹

自分では特定できない場合もありますが、肉離れを起こしている部位には少なからず指で押してみたときの痛み『圧痛』があります。

また、肉離れの程度がひどい場合には皮膚の表面から患部を触ってみても筋肉が断裂して連続性を失っている部分に凹みを感じることができ、これを『陥凹』といいます。

3.皮下出血、腫れ

肉離れを起こすと断裂したところからの出血を伴います。

肉離れの程度がひどいと出血量が多くなり、肉離れを起こしてから数時間から数日後に皮下出血が見られます。出血量が多いと、皮下出血の範囲も広くなり、受傷から数日後にかけて肉離れの範囲の何倍も広くなることがあり、見た目にも重傷感がでてしまいますが、広がったり、場所を移動させながら徐々に皮下出血は引いていくので、必要以上の心配はいりません。

また、皮下出血とともに患部がふっくらと腫れることもあります。

肉離れの治療法と予防法

肉離れの治療はほとんどが保存療法になりますが、筋肉の線維全てが連続性を失ってしまっている完全断裂の場合には、手術を行うこともあります。ここでは、保存療法について段階を追ってご紹介します。

1.急性期

受傷して数日は、患部の炎症や傷が広がらないようにすることが第一なので、筋肉を動かさないことが重要です。
痛みがある動作はしないことが基本で、足首をなるべく動かさないようにしたり、体重をかけないようにすることが大切です。
そのほかにも急性期の重要な処置がありますが、詳しくはこのあとの応急処置の部分で述べていきます。

2.亜急性期

受傷後、数日から数週間のことを言いますが、肉離れの程度によっても治療の進め方が違うので、整形外科の医師や理学療法士などに相談しながら進めましょう。少しずつリハビリを開始できる段階になったら、まずは足首を上下に動かすことから始めます。患部の痛みを確認しながら徐々に足首の運動範囲を広げていきます。

3.回復期

受傷後数週間以上が経過し、患部の状態が落ち着いてきたら徐々に運動できる元の状態になるよう筋肉の状態を戻していきます。荷重やストレッチを開始し、徐々に歩行、ジョギング、ジャンプといった具合に負荷を上げていきます。
次に、肉離れの予防法についてです。

基本的には上で述べた肉離れの原因となるものを取り除けばよいということになります。ですから、最も大切なことは運動前にしっかりとストレッチや準備運動を行って、体を温めるようにしたり、筋肉の柔軟性を高めた状態で運動を開始するということです。

また、ストレッチを行うといっても、慣れない運動を急に100%の力で行うことは肉離れの可能性を高めます。
普段運動していないのに、子どもの運動会で急に全力疾走をするということはとても危険ですので、事前にジョギングから少しずつ走る練習をするなど準備をして走り慣れておくことが大切です。
重量物を持ち上げるなど、急激な力を加える際には重さを徐々に重くしていくなど、調整するようにしましょう。

肉離れが起きた時の応急処置方法

ここからは、肉離れが起きた時の応急処置方法についてご紹介します。

『RICE』処置については、肉離れに関わらず突然の外傷に対して万能な処置になります。応急処置がうまくできるかどうかによっても、その後の回復にかかる時間が変わってきますので、是非参考にしていただければと思います。

1. Rest(安静にする)

損傷部位の拡大や出血を抑えることができます。

2. Ice(冷やす)

肉離れを始め、どんな外傷でも突然のケガは患部の炎症を伴います。

炎症を早く鎮めることが大切ですので、そのためにIcing(アイシング)を行います。ビニル袋などに氷を入れて患部全体にあてます。15~20分を目途に、皮膚の感覚がなくなったり痛みが麻痺するくらいしっかり冷やして一旦離し、また痛みを感じるようになってきたら冷やすを繰り返します。

3. Compression(圧迫)

弾性包帯で患部を巻いたり、パッドなどをあてて固定したりします。

患部の拡大や出血を防ぎ、炎症や腫れをコントロールするとともに、やむを得ず患部を動かしてしまったときも、痛みを抑えることができます。

4. Elevation(挙上)

患部を少し挙げた位置、もしくは心臓よりも高い位置に挙げて安静にします。患部へ送られる血流を少なくすることで、出血、炎症を抑えます。

おわりに

肉離れは骨折や靭帯損傷に比べると軽視されやすい外傷であり、完治させることなくスポーツ復帰してしまっている方もたくさんおられます。しかし、完治していない筋肉は肉離れを再発しやすく、繰り返すことで治りにくい筋肉になってしまいます。ですから、ここでご紹介した肉離れに関する情報を参考にしっかりと治療し、再発しにくい状態で思い切りスポーツなどを楽しんでいただきたいと思います。

監修

・総合診療医 院長 豊田早苗

・総合診療医 院長 豊田早苗

専門分野 
総合診療医

経歴
鳥取大学医学部医学科卒業。2001年 医師国家試験取得。
2006年とよだクリニック開業。
2014年認知症予防・リハビリのための脳トレーニングの推進および脳トレパズルの制作・研究を行う認知症予防・リハビリセンターを開設。

資格
医師免許

所属学会:総合診療医学会、認知症予防学会

関連する記事

関連するキーワード

著者