はじめに



特に心当たりもないのに、突然胃が痛み出したという経験は、ほとんどの方が一度は経験したことがあるのではないしょうか。

胃痛といっても、その原因は様々なことが多いです。

今回は、そんな胃痛について、

・原因
・考えられる病気
・対処法
・予防法

などについて詳しく説明していきます。

胃痛はなぜ起こる?

胃痛は胃酸と粘液の分泌バランスが崩れて起こる

胃はお腹の”みぞおち”付近にあり、食べた物を消化するため胃酸を出しています。この胃酸が強酸性なので、消化を助けているだけでなく、多くの細菌を死滅させることができます。ですがその反面、胃の表面にある胃壁自体を傷つけてしまう可能性があります。
そこで私たちの体は、胃壁を守るために粘液を分泌させることで胃壁の粘膜を保護しています。
この胃酸と粘液のバランスが何らかの原因で崩れてしまい、粘膜に負荷がかかることで、痛みなどの症状に症状に現れることがあります。


なぜバランスが崩れるの?

胃酸と粘液は自律神経(興奮時に優位になる交感神経と、休息時に優位になる副交感神経)の働きによって調整されています。
副交感神経が優位になることで適度な胃酸の分泌を抑えたり、粘液の分泌や血行促進などが行われます。
しかし、ストレスなどによる緊張や刺激物の摂取などによって、交感神経が優位の状態が続くと、過剰な胃酸の分泌や、粘液の分泌抑制、血行不良などを引き起こしてしまう可能性が考えられます。

つまり、胃痛は様々な原因により、交感神経優位な状態が続くことで、胃液と粘液の分泌バランスが崩れることによって起こることが多いのです。

胃(みぞおち)が痛いときに考えられる病気

胃痛が生じる原因として病気が隠れている場合もあれば、食べ過ぎや飲み過ぎ、精神的ストレスによるものもあります。ここではその原因について説明します。

食べ過ぎ・飲み過ぎ

食べ過ぎや飲み過ぎによって胃が膨らむことによって、突っ張ったような痛みが生じます。

胃下垂・胃アトニー

胃下垂も胃アトニーも、胃の位置が正常よりも下がってしまっているために、胃の働きが弱った状態です。ただし、自覚症状のない場合は病気ではなく、治療の必要もありません。

胃の張ったような痛みがあります。痛み以外の症状はげっぷ、胃もたれ、吐き気、食欲不振などです。

胃痙攣(けいれん)

胃痙攣は胃壁にある筋肉の層が異常に緊張して発作のように痛むために、胃が痙攣しているかのように感じるものです。痛みが数分から1、2時間程度持続します。胃痙攣自体は病気ではなく、原因となっている病気を特定して治療する必要があります。

胃痙攣が起こる原因として胃炎・胃潰瘍、十二指腸潰瘍、膵炎、胆石、強いストレスを感じて緊張した場合が考えられます。

消化器系の病気

みぞおち付近が痛む胃の病気及び胃以外の消化器系の病気について説明します。

(1)胃炎・胃潰瘍
胃炎・胃潰瘍は主に食後に痛みを生じます。きりきりした鋭い、焼けるような痛みと表現されることが多いです。胃炎は胃の粘膜に炎症(腫れ・赤みなど)があるものを言い、胃潰瘍は胃炎が進行して胃粘膜がただれた状態のものを言います。

痛み以外の症状としては、胃の辺りの不快感、吐き気、胸焼け、食欲不振、体重減少などがあります。これらの病気の原因としては暴飲暴食、刺激性のあるもの(辛いものなど)の摂り過ぎ、アルコールの過剰摂取、ピロリ菌の感染、薬(鎮痛剤やステロイド薬など)の副作用、精神的ストレスなどが考えられます。

(2)十二指腸潰瘍
十二指腸とは胃の食物が送られる場所(胃の右隣り)で、こちらも胃潰瘍と並んでよく見られる病気です。きりきりした痛み、焼けるような痛みという点では胃潰瘍と似ていますが、空腹時の痛みが特徴的です。

(3)胃がん
胃がんは初期には症状がほとんど現れませんが、進行すると胃が張ったような痛み、不快感、胸焼け、げっぷ、吐き気、食欲不振、貧血、体重減少など様々な症状が出ます。
※胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がんなどの上部消化管から出血等異常がある場合は、タール便といって便が黒っぽくなります。肉の摂り過ぎによっても便の色は濃くなりますが、食事内容に関わらず黒っぽい状態が続いて上記のような症状が見られる場合は、一度医療機関を受診しましょう。

(4)胆石症
胆嚢(たんのう)や胆管などに結石があるために生じる痛みは、みぞおち付近に起こることがよくあります。胸から背中にかけて起こる鋭い痛み(疝痛(せんつう)発作と言います)が特徴的です。腹部超音波検査や血液検査などで診断します。

(5)膵炎
膵炎の場合もみぞおち付近の痛みを生じることがあります。膵炎のその他の症状は背部痛、右脇腹の痛み、吐き気、お腹が張った感じなどです。尿・血液検査などで診断します。

(6)機能性胃腸症(機能性ディスペプシア)
胃カメラなどの検査を行なっても炎症やただれなど異常所見が見つからないものの、胃付近の痛みが断続的に6ヶ月以上続いている場合に診断されます。

胃痛を和らげるための対処法

楽な姿勢をとる

食事を摂ってから1時間以上経過している場合は、横になって体を休めることで胃痛が軽減する場合も多いです。胃痛が出るときは何らかの原因で自律神経のバランスが崩れており、横になることで乱れた自律神経の働きを整えてくれます。

しかし、食直後は横になってしまうと胃酸が食道に逆流しやすく、逆流性食道炎などになる危険性も高まるため控えましょう。

自分が楽だなと感じる体勢をとるのがベストですが、右半身を下にした体位をとると胃から十二指腸に食物を送る負担を軽減できるためお勧めです。

体を温める

体が冷えると、胃の血流も低下し胃痛の原因となります。ぬるめのお湯にゆっくりつかる入浴も良いでしょう。また、足湯、マフラーなどで首を温める、耳あてなどで耳を温めるといった方法も効果的です。これらの部分を温めることは全身の血流アップにつながるためです。

消化の良い食べ物をとる

(1)温かい飲み物
人肌程度の温かい飲み物は胃に負担をかけず、冷えることもありませんのでお勧めです。

(2)キャベツ
キャベツに豊富に含まれるビタミンUには、胃の粘膜を保護する力を高めたり、血流を改善する作用があります。

(3)大根
生の大根に含まれるジアスターゼという成分が消化を助けてくれます。大根おろしにするのがお勧めです。

(4)大豆製品
タンパク質を摂ることで傷ついた胃の回復力を高めます。脂肪分も少なめな豆腐、納豆、味噌などの良質なタンパク質がお勧めです。

ツボを押す

食べ過ぎや飲み過ぎ、精神的ストレス、冷えなどが原因になって起こる胃痛にはツボを押すことで軽減が見られることがあります。仕事中でも簡単に押すことのできるツボもあります。いずれのツボも痛気持ちいい程度に押すのがポイントです。

(1)胃兪(いゆ)
背中側の肘の高さくらいで、背骨の両脇にあるツボです。消化機能を整え、胃の不調全般に効果があります。

(2)脾兪(ひゆ)
胃兪から指2本分上のところにあります。食欲不振、下痢、便秘などを改善する効果があります。

(3)中脘(ちゅうかん)
へそとみぞおちの中間地点にあります。胃腸の働きを高めることで消化不良を改善する効果があります。食直後は避けてください。

(4)合谷(ごうこく)
手の甲側にある、親指と人差し指の付け根部分で押すとやや痛みを感じる部分です。胃痛の他に、頭痛・肩こり解消、便秘解消、血圧降下作用など様々な効果のあるツボです。

(5)足三里(あしさんり)
膝から指4本分下で、骨の外側にあるツボです。胃痛や胃痙攣に効果があります。

(6)内関(ないかん)
手の内側にある、手首から指3本分肘よりの場所です。ストレスが原因の胃痛を軽減したり、イライラを沈めたりする効果もあります。

(7)百会(ひゃくえ)
頭のてっぺんにあるツボです。やや凹んでいるような感触があります。自律神経を整えるため、胃痛に限らず全身の様々な不調に効果を発揮します。

(8)足裏の土踏まずの部分
両足の土踏まずの部分は、胃腸の消化機能を改善してくれます。押して痛みを感じる人は是非刺激してみましょう。

市販の胃薬を服用する

薬局やドラックストア、最近ではインターネット通販でも様々な胃薬を購入することができます。特に胃痛が出やすい人は、自分の症状にあった胃薬を常備しておくと良いでしょう。反対に、普段あまり胃痛の出ない人や普段とは違う痛みだなと感じた場合などは、店頭で薬剤師や登録販売者と相談しながら薬を購入しましょう。

医療機関を受診する

上記の方法1週間程度試してみても胃痛が改善しない場合、あるいは胃痛の他にも発熱、吐き気、激しい下痢などの症状がある場合は早めに医療機関を受診して医師による治療を受けましょう。

これらの症状がある場合は消化器内科、内科を受診します。受診すると血液検査や胃内視鏡検査(胃カメラ)、胃透視検査(胃バリウム検査)などで病気を診断することになるため、6時間から8時間以上は絶飲食(何も飲まない、食べない)の状態で受診すると検査から治療までスムーズに行えます。

胃が痛くならないための予防法

腹八分目にする

お腹いっぱいまで食べてしまうと胃などの消化器系に負担をかけてしまいます。

胃に刺激になるものの摂取を控える

(1)アルコール・カフェイン
胃痛がよく現れる人は、お酒を飲む頻度や量を減らしたり、アルコール度数を低いものにするなど可能な限り工夫をしましょう。
また、コーヒー、緑茶、栄養ドリンク剤などに含まれるカフェインは交感神経の働きを活発にするため、胃痛が起こりやすくなります。カフェインの摂り過ぎには注意しましょう。

(2)熱すぎるもの・冷たいもの・辛いもの・しょっぱいもの
これらのものは物理的に胃壁に刺激となり、胃痛の原因となります。特にいつもより胃痛の出る頻度が高くなっているときは、胃を休める必要があります。熱いものは冷ます、飲み物は常温に戻す、アイスなどは控える、香辛料の使用を控える、塩分の多いメニューを摂らないなど自分の食生活を振り返り、できる範囲で行いましょう。

(3)タバコ
タバコを吸うと血管が収縮し、胃を始めとして全身の血流を一時的に低下させます。節煙・禁煙に努めましょう。

(4)鎮痛剤
偏頭痛持ちの人、生理痛が重い人などは頭痛薬・鎮痛剤を常備している場合も多いのではないでしょうか。しかし、空腹時に解熱鎮痛成分入りの薬を常用していると、胃の粘膜が荒れてしまって胃痛の原因になります。薬を飲む際は何かしら食事を摂るか、一緒に胃薬も飲んで胃を保護するように心がけましょう。

予防的にツボを押す

東洋医学で言うところのツボを刺激しても、基本的には副作用はありません。胃や全身の血流を促進するため、リラックスするために日常的に前述したツボを刺激するのも良いでしょう。

こまめにストレス発散をする

緊張状態が続くと交感神経優位となり胃痛の原因となります。特に心配性、緊張しやすい、完璧主義、神経質などの特徴を持った人は知らず知らずのうちに自律神経のバランスが崩れ、胃痛の原因となります。自分がリラックスできる方法をいくつでも持っておくようにしましょう。散歩、ゆっくりお風呂に浸かる、ストレッチ、深呼吸などは有効です。毎日の生活の中に組み込み、ストレスコントロールすることが大切です。

ピロリ菌の除菌治療を受けるのも一つ

日本では40歳以上の約75%がピロリ菌に感染していると言われています。
(衛生環境の向上などによって、年齢が若くなるほど保菌率は低いとされています。)

ピロリ菌に感染していると胃痛の原因になったり、胃がんの発症リスクになると言われています。現在は飲み薬を一定期間服用することでほぼ除菌できるようになり、保険適応となります。ピロリ菌に感染しているかは胃カメラや血液検査で分かりますので、特に血縁者に胃がん患者がいる(いた)人や年配の人は、胃痛・胃がんなどの予防のために、ピロリ菌感染の有無や除菌治療を検討すると良いでしょう。

まとめ

このように、胃痛の原因は様々あります。胃痛はもしかしたら病気により起きている可能性もあるため、いつものことだからとほっておくのではなく、強い痛みを感じる際は近くの医療機関を受診しましょう。

また、胃痛を起こさないためにも普段から本記事にあるような予防法で対策してみてはいかがでしょうか?

監修

・救急医、内科医 増田 陽子

・救急医、内科医 増田 陽子

専門分野 
微生物学、救急医療、老人医療

経歴
平成18年 Pittsburg State大学 生物学科微生物学・理学部生化化学 卒業
平成22 年 St. Methew School of Medicine 大学医学部 卒業
平成24年 Larkin Hospital勤務
平成26年 J.N.F Hospital 勤務

資格
日本医師資格
カリブ海医師資格
米国医師資格

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