はじめに

人の体は骨や筋肉、脂肪で形が作られ、その中を血管や神経がとりまき、空洞に内臓が含まれています。背中の痛みは、ちょっとした筋肉の間違った使い方をしたり疲労によって簡単に起きるもので、多くの人が経験する痛みのひとつでしょう。しかしその痛みが左側にだけ起こったり、痛みの原因がつかめなかったりした場合には、内臓の病気のサインとなることがあります。ここでは背中の左側が痛むときに考えられる病気について詳しく説明することにします。

背中の左側が痛くなる病気

背中の左側の表面的な痛み

▪筋肉痛
背中の左側だけ痛いと感じるときも、何かぶつけた、ひねったなど自覚症状があり、原因を想定できる場合であれば、それに合わせた対処をすればよいです。背中の左側の筋肉は僧帽筋(そうぼうきん)といわれる筋肉が位置します。しかし、脊椎の変形などによって腰痛もある場合、僧帽筋以外の筋肉から筋肉痛を感じることもあり得ます。

▪腰痛症
骨の変形により腰の神経を圧迫することで腰に痛みを発するものです。背骨を支えているのは筋肉です。筋肉はいくつかに分かれていますが、背中全体につながっているので腰の筋肉の衰えや疲労が背中の左側の痛みとして現れることがあります。

背中の左奥側にある痛み

▪尿路結石
腎盂、腎臓、膀胱までの間の尿路に結石が生じて尿の通り道を塞いでしまうことで炎症などを起こす病気です。痛みは結石によって内圧が上がってしまうことで生じると考えられます。腎盂や腎臓は左右の背中部分に位置するため、腹痛も起きますが左側に結石がある場合は背中の左側に痛みを生じることが多くなります。

背中の左側が痛い時に考えられる病気は?

心臓に関わる病気

▪心筋梗塞、狭心症
心臓は全身に血液を送るポンプとしての役割であり、その心臓に酸素や栄養を送るための冠動脈という血管がつながっています。動脈硬化などでこの動脈の内管が狭くなるのが狭心症で、塞がってしまうことで細胞が壊死してしまうのが心筋梗塞です。呼吸困難や意識消失もありますが症状のメインは胸痛です。その痛みが背中の左側に感じることがあります。

▪解離性大動脈瘤
大動脈は3つの層を形成している形状ですが、動脈硬化や先天的な原因で層が避けてしまい、心臓に酸素や栄養が行きわたらなくなります。突然に起こる胸や背中に何かを刺されたような激痛が特徴的な症状です。

胃に関わる病気

▪胃潰瘍
胃からは食べ物の消化のために胃酸が分泌されます。その胃酸によって胃の粘膜がただれたり、穴が開いたりすることもあります。空腹時や食後に心窩部痛が特徴的な症状ですが、背中の痛みにまで発展することがあります。

膵臓に関わる病気

▪急性膵炎
アルコールが主な原因ですが、胆石などが弊害となる場合もあります。
膵臓は食べ物の消化にあたって消化酵素を分泌する働きを持っています。その酵素の通り道がアルコールによって内圧が上昇してしまう、あるいは胆石で通路を塞いでしまうことで分泌された酵素の行き場がなくなると、自分で自分の膵臓を消化してしまうことになります。膵臓は横長の形状で胃の後ろ側に位置します。痛みは上腹部に多く発生しますが、ときに左側腹部から背中にかけての痛み(放散痛)が伴う場合があります。

▪慢性膵炎
急性膵炎は突然の痛みなどの症状がみられるのに対し、慢性膵炎は長い時間膵臓で炎症が起きている状態です。原因はほとんどがアルコールによるものが多いとされます。痛みが背中の左側まで及ぶ場合があります。

治療法や気を付けるポイントは?

筋肉痛

背中の左側の筋肉は僧帽筋という筋肉ですが、コリをほぐすためのマッサージはその部分だけではなく腰や首、腕の付け根なども含めて行うことが効果的です。また慢性的なコリの場合には、立った時やデスクワーク時の姿勢を見直し、悪い癖を治すことや軽いストレッチを継続させることが大切です。

腰椎症

腰痛を起こしている原因疾患がわかっている場合(椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症など)は、手術などで患部を治療、または神経ブロック注射などで神経の痛みをシャットアウトすることが大きな治療法です。腰痛症は血行が悪くなって生じるケースが多いため普段から温めたり、筋肉を鍛えたりする運動なども必要となってきます。

心筋梗塞、狭心症

血管を広げるまたは、バイパスを作る、血栓を取り除くなどの手術方法はありますが、普段の生活における予防にも気をつけましょう。バランスのよい食事、適度な運動、塩分や糖分を摂り過ぎない、禁煙、ストレス解消など、規則正しい内容を求められます。

解離性大動脈瘤

裂けた血管を人工の血管に置き換える手術法があります。あとは薬物療法で血圧のコントロールが重要となります。予防や対策法としては禁煙や減塩など血管に負担を与えない生活が基本となります。

尿路結石

結石が大きくなると排除しなければならないので結石破砕装置を使用するか内視鏡を使用するかの方法を利用して砕石術を行います。予防としては、普段からは水分を多く摂取することが重要です。

胃潰瘍

胃酸を抑える薬剤や粘膜の保護剤で薬物療法がおこなわれますが、治療中はもちろんですが普段から日常生活に気をつけなければなりません。禁煙禁酒、暴飲暴食をさける、刺激物となる食品を摂らない、ストレスを無くすなどです。

急性・慢性膵炎

膵炎の治療として、まずは禁食と安静です。痛みに対する治療は非ステロイド性消炎鎮痛剤や麻薬性鎮痛剤を用いることもあります。膵臓の酵素が自傷行為をしているため蛋白分解酵素阻害剤や抗生物質も用います。予防は何といってもアルコールを過剰摂取しないことと、暴飲暴食を避け、膵臓への負担を重くしないことです。

まとめ

背中の痛みにつながるものは単に筋肉や神経痛といったものではないことがお分かりいただけたと思います。体の要である心臓や他の器官の疾患が隠れていることも少なくないので、生活習慣の見直しも大切ですが、病気を治すためには治療への早期介入が一番大切です。普段より健康診断などで自分の故障部分の有無を知るようにしましょう。

監修

・総合診療医 院長 豊田早苗

・総合診療医 院長 豊田早苗

専門分野 
総合診療医

経歴
鳥取大学医学部医学科卒業。2001年 医師国家試験取得。
2006年とよだクリニック開業。
2014年認知症予防・リハビリのための脳トレーニングの推進および脳トレパズルの制作・研究を行う認知症予防・リハビリセンターを開設。

資格
医師免許

所属学会:総合診療医学会、認知症予防学会

関連する記事

関連するキーワード

著者