はじめに

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ゴゴゴゴゴゴ!突然の地震、立っていられないような揺れ。こうした災害に襲われた時のための、たとえば水や食料などの備えをされている方は増えてきています。
 しかし、どれだけ準備していたとしても、実際に災害に遭われたときは、家屋の倒壊、火災等により死傷者が発生することが想定されます。
ご自身もケガをされるかもしれません。
同時に、地域の医療機関も被害を受けている可能性があります。
災害時にはどのような体調不良に見舞われ、それに対しどのような医療が期待できるのでしょうか。

災害時に鍼灸やマッサージのできること

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私は鍼灸師・マッサージ師です。
今日はその立場から「災害時に鍼灸やマッサージのできること」を主にご紹介しますが、その前にまず、災害が起きた時の医療支援のおおまかな様子を簡単にお話します。

自らが被災者となった時、医療はどうなるか

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例えば下記のようなことが起こるかもしれません。
・夜間に自宅で大地震に襲われたとき、割れた窓ガラスが床に散乱し避難時に足の裏をケガした。
・倒壊した隣の家から負傷した隣人を救出した。
・昼間に職場で被災した時、同僚が倒れてきた棚の下敷きになった。
災害時の負傷は、様々なパターンが考えられます。
まずは病院へ行くことが思い浮かぶと思います。
たとえば首都直下地震を想定している東京では、災害がおきてから概ね72時間まで、ケガや体調不良には「緊急医療救護所」が対応することになっています。
主に地域の大きな病院やその近くにこの救護所が開設されます。
かかりつけのクリニックのお医者さんは、この救護所の応援に行くことがあり、不在になるかもしれません。
そうでなくとも、電気・ガス・水道などライフラインが断たれた状況では、発電機を持たない小さな病院は開きづらいことが大半です。
ですからまず、お住まいや勤務先の近くの「医療救護所」を各自治体HP等で確認しておかれると安心です。
医療救護所は、72時間を経過したら無くなるわけではなく、避難所にも開設される予定です。
そして、地元の医療者だけでは対応しきれない場合のために、災害発生直後より全国から外部支援者が入る体制が整えられています。
但し、「医療救護所」の種類や名称、内容の詳細はお住まいの自治体の地域防災計画によって異なりますので、ご注意ください。

いつもの薬が手に入らないかも

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継続的な薬や処置の必要な持病のある方は、災害によりいつもの病院が閉まったり、主治医に会えず、困るかもしれません。
できるだけ普段から「おくすり手帳」を携行しておくことをお勧めします。
着の身着のままで避難された場合は、手近の紙にご自身の病名と、思い出せる限りの服用中の薬を書いて、いつでも提示できるようにしておくと良いでしょう。
すぐに同じ薬が手に入るとは限りませんが、治療上注意しなくてはいけないご事情などが医療スタッフに伝わりやすくなります。
自分で自分の身を守ることが大切です。

ケガをしなくても・・・

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運よくケガをしなかった場合でも、慣れない避難生活の中で体調を崩される方は多くなります。
2016年の熊本地震では、この避難生活の影響による災害関連死の死者数は、地震発生時の家屋倒壊などによる直接死の4倍を超えているのです。

トイレも大事

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片付け中のケガも注意しなければなりませんが、避難生活でまず注意したいのは感染症です。
これを防ぐためのポイントとなるのが、「トイレ」の衛生環境です。
自宅避難でも、避難所でも、発災直後は断水や下水道の破損からトイレが使えなくなることが知られています。
食事は我慢できても、トイレは我慢できません。
排泄物が適切に管理されないと一気に不衛生な環境となり、胃腸炎などの感染症が流行したり、トイレの回数を減らそうと水分や食事を控えてしまうことから、エコノミークラス症候群や脳梗塞など、命にかかわる病気につながることがあります。
様々なタイプの非常用トイレがホームセンターなどで販売されていますので、備蓄品の中に加えられると良いでしょう。

避難所生活での様々な医療

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次に、避難所での生活が始まった場合はいかがでしょうか。
まず、避難所での医療、生活環境は、全般を通して主に自治体から派遣された「保健師」が広くフォローしてくれます。
「看護師」である場合もありますが、共に、何かあれば気軽に相談されると良いでしょう。
はじめのうちは「医師」も常駐することがありますが、病院機能の回復と共に検査機器などの整った病院に戻ることがほとんどです。

避難所生活では、特にご高齢の方を中心に運動不足になることがしばしばです。
「理学療法士」が体操教室を開いたり、場合によっては個別に運動メニューを考えてくれることがあります。
積極的に参加されることで、体力の衰えを防ぐことができます。

高齢者の不調という点では、「歯科医」や「歯科衛生士」の巡回があり、入れ歯の相談にのってくれたり、口内の衛生状態をチェックしてくれます。
口の中を清潔に保つ口腔ケアは虫歯予防だけでなく、肺炎など感染症の予防をはじめ、多くの効果があることが知られています。
そして、この口腔ケアの効果は高齢者にとどまらず、幅広い世代で有効です。

もしも不眠や悪夢、気持ちの落込み、食欲低下といったこころの不調に襲われた場合は、「精神科医」や「臨床心理士」のチームの巡回があります。
精神科に通院したことのある方だけではなく、些細な不安やイライラでも構いませんのでお話してみてください。
とは言いましても、何もかも初めての環境で、また初めて会う先生に話をするのは難しいもの。
まずは顔馴染みとなった保健師へ相談してみるのも良いかもしれません。
こころの不調は長く続くこともあり、精神科医らは避難所の開設期間にとどまらない年単位のフォローを考えています。

他にも、避難所ではどうしても多くなる食事の偏り、アレルギーや食事形態など個別の食事情に対応してくれる「栄養士」のチームがあります。
生活環境の調整を行ってくれる「言語聴覚士」もいます。
災害時の支援に携わる医療職は多く、全てをここでご紹介することはできません。

鍼灸師やマッサージ師にできること

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さて、このような中で「鍼灸師」や「マッサージ師」はどのような不調に対処するのでしょうか。
私が代表を務める被災地支援団体「災害鍼灸マッサージプロジェクト」では2011年の東日本大震災でのべ約6000名の方へ鍼灸マッサージ治療を提供したほか、2015年の関東東北豪雨、2016年の熊本地震でも支援活動を行ってきました。
この経験をもとにお伝えしますと、狭くてプライバシーも確保しきれない避難所生活では、関節の痛み、肩や背中のこり、全身の疲労、むくみやしびれを訴える方が多くいらっしゃいます。
このような生活上の体調不良に鍼灸マッサージはとても有効です。

 また、津波や豪雨など水害を伴った場合は、水が引いた後の埃がひどく、咽をいためたり風邪をひく方が多くなります。
私自身、避難所で「風邪をひいて喉が痛いが、風邪薬も行き渡っていない」という方の喉の痛みを鍼で除き、非常に喜ばれたケースがあります。

他にも、食欲低下や便秘への対応など、鍼灸マッサージの効果は多岐にわたります。
医師に専門分野があるように鍼灸師、マッサージ師にも得意分野があり、全てに対応できるわけではありませんが、心身の不調については何でも気軽に相談されてみてください。

 また、できるだけ個室か、個室に近い環境を作り、時間をかけて施術することも、鍼灸やマッサージ治療の特徴です。
その中で、ためこんでいた心の内を無理なく伺うことも大事にしていますが、本人が気づいていなかった病気を発見できることがあります。
これまでの活動の中では、鍼灸師が施術中に転移がんを発見し、現場の保健師へ報告した例もあります。
 なお、マッサージは国家資格を持たない方のボランティアを避難所で見ることがありますが、医療としての訓練を受けていなければ、上記のような病気の発見や他の医療職への報告は難しいので、ご注意ください。

地元支援者への支援

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もう一つ、鍼灸マッサージが被災地で果たしてきた大切な役割があります。
それは、地元の支援者への支援です。
自らが被災者でありながら避難所運営や警備、各種支援にあたる自治体職員、警察官、消防署員、医療職など、寝る間もない時期が続きます。
また、避難者が落ち着いてきたころ、復興の最初の足掛かりとなる「罹災証明書」の発行のために夜も寝ないで働く自治体職員がおり、その部署のほぼ全員が高血圧を示すこともありました。
このような、声高に自身の体調不良を訴えることが難しい”被災者”への対処に、鍼灸マッサージは有効です。

まとめ

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 長くなりましたが、災害時は多くの医療職が様々な支援を提供する準備をしていることを知っていただけたらと思います。
特に鍼灸は普段なじみがないかもしれませんが、多様な体調不良に対処し、災害関連死を防ぐ可能性のあることを覚えておいてくだされば幸いです。

プロフィール

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三輪正敬(みわ・まさたか)
鍼灸師
あん摩マッサージ指圧師

東京都立大学人文学部心理学科卒業。
都立国立高校ラグビーコーチ、心理職などを経た後、東洋鍼灸専門学校入学。

2007年同校卒業と同時に東京都調布市にて敬風堂鍼灸院を開院。
いやしの道協会にて、横田観風師に師事し、学・術・道を併せた医道の研鑽に励む。
2011年より「災害鍼灸マッサージプロジェクト」代表。
2013年より羽生総合病院・漢方内科 非常勤。
2014年いやしの道協会副会長。

共著に『あはき心理学入門』(ヒューマンワールド)がある。

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