鍼治療とは

鍼治療は、奈良時代に中国から日本に伝わった、2000年もの歴史を持つ民間療法です。
中国、日本、韓国などで主に鍼治療は行われていますが、韓国では特に鍼治療が重視され、『一鍼二灸三薬』などと言われています。

また、よく日本の鍼は細く、中国の鍼は太くて力強いなどと聞きますが、細いタイプの中国鍼もあります。
日本鍼と中国鍼の違いは、鍼そのものというより、鍼治療に対する考え方にあります。

日本の鍼治療は、医療の補助となる代替治療として考えられおり、民間療法とされています。
これに対して中国では、鍼治療も医療と同等に治療として考えられています。
古代から、漢方薬と共に医療の一分野として理解されてきました。

鍼治療では、鍼を用いて病変のある患部や経絡に刺激を与えることで、気血の滞りを改善し、体内のバランスを整えます。
鍼を施すことで、免疫系や自律神経系に刺激を与えることができます。

鍼治療の効果は多岐にわたり、神経系疾患から、小児科疾患、婦人系疾患など、身体の様々な不調において効果があると言われています。
2002年に、世界保健機構(WHO)も、鍼治療の有効性を認めています。

鍼の種類

日本で主に行われている鍼は、『ごう鍼』と呼ばれる鍼で、ステンレス製の鍼に柄が付いているタイプです。

これを、『管鍼法』で刺します。

管鍼法とは、鍼を細い管に入れてから皮膚に立て、鍼の頭を軽くたたいて差し入れる方法です。
この方法だと、痛みが出にくく、細い鍼を正確に刺すことができます。

ここでは、日本で使用されている鍼の種類をご紹介します。

ごう鍼

前述した、日本で一般的に使われている鍼です。
日本で鍼というと、主にごう鍼を指します。

集毛鍼(しゅうもうしん)

小児鍼(しょうにしん)治療という、子どもの疾患に施す鍼で、夜尿症や夜泣きなどに効果があります。
この鍼は皮膚に刺す鍼ではなく、ツボや経絡をなでたり、擦ったりすることで、皮膚に軽い接触刺激を与えます。
また、大人でも頭のてっぺんにある『百会(ひゃくえ)』のツボを刺激するのに使われます。
ここを優しく刺激することで、リラックス効果が得られると言われてます。

皮内鍼(ひないしん)

非常に細く短い鍼で、皮膚の組織内に刺して使います。
絆創膏などで上から固定し、1日~数日間そのまま置いておきます。

灸頭鍼(きゅうとうしん)

鍼の柄にもぐさを巻き付けて燃焼させるタイプです。
鍼・灸両方の効果が得られると言われています。

電気鍼

『パルス療法』とも言われ、体内に刺した鍼を電極とし、鍼に低周波流します。

三稜鍼(さんりょうしん)

先端に三角錐の形をした鍼があり、皮膚を少し傷つけて使います。
皮膚を切ることで停滞している血液を体外に出します。

鍼治療の流れ

鍼治療は次のような流れで行われのが一般的です。
普通の病院よりも、たっぷりと問診の時間があります。

①問診表の記入

予約時間の15分くらい前に到着するようにし、施術前に問診表に記入します。
体のどこにどのような不調があるか、飲んでいる薬があるか、手術した経験があるかなどの質問に答えます。
なるべく詳しく書くことで、施術者が症状を理解しやすくなります。

②問診

問診表を見ながら施術者がいくつか質問します。
どこが、いつから、どのように痛むかなど、なるべく詳しく説明しましょう。
また、施術について心配なことや質問などがあったら伝えておきましょう。

③着替え

ゆったりとした、くつろげる恰好になります。
治療院の多くは着替えを用意しており、用意されている服は、施術しやすいように後ろが開くタイプの場合が多いようです。

④脈診

手首や首などで脈を測ります。

⑤触診

主に体全体やお腹などを軽く触り、痛んだり、不快感があるかを確認します。
触診しながら不調のある場所に相応するツボを探します。

⑥治療・置鍼

触診で探したツボに鍼を施します。
鍼がツボに当たると、ズーンという重い感覚があるかもしれません。
鍼を刺したまま少しの時間置く場合があります。鍼を刺したまま置くことで、じわじわと鍼の効果が出ます。
この間、施術者によっては、お灸やマッサージをしてくれることもありあます。
症状が軽い場合は、置鍼をしている間に症状が軽くなることもあります。

⑦抜鍼

鍼を取り除き、症状を確認します。
この時、引き続き鍼治療が必要なのかも判断されます。

⑧自宅ケアの説明

最後に、以下のような家に帰ってからできるセルフケアの説明があります。
・鍼灸治療によって体全体に変化が起こっているので、アルコールは控えましょう。
・鍼治療で筋肉をリラックスさせているので、当日の過度な運動は避けましょう。
・鍼治療の直後2~3時間は、なるべくゆっくりと過ごすことをおすすめします。

鍼治療で痛みはある?

鍼治療で多くの方が不安に感じるのは、痛みだと思います。
「鍼を体に刺すのだからきっと痛い」と思ってしまうのも無理はありません。

しかし、鍼治療で使用する鍼は約0.2mmで、髪の毛と同じくらいの細さです。
このような鍼を熟練した鍼灸師が刺すと痛みを感じることなく受けることが可能です。
少しチクッとする場合もありますがその程度で、痛みはさほど大きくありません。鍼が患部に触れる時に、ズーンという鈍痛がある場合もありますが、この感覚は鍼が患部にしっかりと入っている場合がほとんどなので驚かなくても大丈夫です。
担当する施術者に伝えると調節してくれるので遠慮なく伝えましょう。

また、まれに身体の衰弱している場所に鍼を刺すと、出血したり、水ぶくれができたりすることがあります。これも体内に滞った血液を体外に排出することに繋がりますので心配の必要はありません。
施術中にも鍼灸師から説明があるのでよく聞いておきましょう。

痛みを感じた時の対処方法

それでも痛みを感じた場合には、すぐに施術者に伝えましょう。

痛みが苦手な人は、鍼の代わりに電気をあてる電気鍼という方法もあります。
痛みもほぼなく、痕も残らないので、鍼に抵抗のある方におすすめです。
また、先にご紹介した、集毛鍼という刺さない鍼や、極細で短い皮内鍼などもあるので、それらで施術してもらうように先生に相談してみましょう。

また、どうしても鍼が苦手という方は、お灸でも鍼と同じような効果が得られるので、試してみると良いかもしれません。

おわりに

鍼治療は古代から受け継がれている伝統的な治療です。
副作用がほとんどなく、体のバランスを整えてくれます。

特に、なんとなく体調が悪いというような原因が分からない症状で、いわゆる不定愁訴と呼ばれるような症状がある場合は、全体のバランスを整えてくれるのでおすすめです。

表面に出ている症状だけを治療しても、根本的な原因を治療しない限り、また同じ症状に悩まされます。

鍼治療をすることで体全体の気血のバランスが整い、免疫力がついたり、痛みが緩和したりします。
予防医療として生活に取り入れてみるのも良いでしょう。

この機会にぜひ鍼治療を試してはいかかですか?

監修

・総合診療医 院長 豊田早苗

・総合診療医 院長 豊田早苗

専門分野
総合診療医

経歴
鳥取大学医学部医学科卒業。2001年 医師国家試験取得。
2006年とよだクリニック開業。
2014年認知症予防・リハビリのための脳トレーニングの推進および脳トレパズルの制作・研究を行う認知症予防・リハビリセンターを開設。

資格
医師免許

所属学会:総合診療医学会、認知症予防学会

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