腹筋の構造とインナーマッスル

『腹筋』とは腹部にある筋肉の総称であり、『腹直筋』、『外腹斜筋』、『内腹斜筋』、『腹横筋』の4つに分けられます。

腹直筋はみぞおちから恥骨まで腹部の前面を縦方向に走行している筋肉です。腹筋群の中で最も皮膚に近い位置にあり、シックスパックを作るなど、見た目にもわかりやすいです。
主な作用は体幹を屈曲させる(曲げる)ことであり、身体を起こしたり、重たい物を持ち上げたりするときなどに大きな力を発揮します。

外腹斜筋と内腹斜筋は身体の側面から前面にそれぞれがクロスするような形で斜めに走行しています。体幹を右に捻るときには左の外腹斜筋と右の内腹斜筋が、左に捻るときには右の外腹斜筋と左の内腹斜筋が作用します。

腹横筋は腹筋群の中で最も深層にある筋肉です。腰のコルセットのように、肋骨と骨盤の間で、腹部から腰部に巻きつく形で横方向に走行しています。
『アウターマッスル』と呼ばれる腹直筋や内・外腹斜筋が、体幹部を動かすことに作用するのに対し、腹横筋は腹圧を高めて腰腹部を安定させる役割をしています。

お腹のインナーマッスルを鍛える効果

■体幹の安定性向上

私たちの背骨(脊柱)は、首(頸椎)から腰(腰椎)まで積み木が積み重なったように並んでいます。加えて、胸や背部には肋骨と胸骨で構成される『胸郭』がありますが、それ以外の部分は、ほかに体幹部を支える骨格がありません。

そこで、体幹部を支えるために大きな役割を果たしているのが、体幹の前面にある腹筋群と背面にある背筋群です。
これらの筋肉がバランスよく働くことで脊柱を支え、身体の中心である体幹部がしっかりと安定することになります。

■腰痛予防

脊柱は手や足のように一つの大きな関節ではなく、積み木のように並んだ脊柱の一つ一つの小さい関節でできています。これらが少しずつ動くことで、体幹全体として曲げたり伸ばしたり捻ったりという動きを作り出します。

腹筋群や背筋群の筋力が不十分であったり、バランスが悪かったりすると、脊柱の一部の関節に過度な負担がかかってしまいます。その結果、関節捻挫を起こしたり、その周囲の靱帯や筋肉を傷めて腰痛を引き起こしたりしてしまいます。
体幹を支えるだけの腹筋や背筋の筋力があり、バランスが取れていると、そのようなことを防ぐことができ、腰痛の予防につながります。

■姿勢改善

私たちの姿勢の良し悪しを大きく左右する脊柱の『アライメント(並び)』を決めるのは、腹筋群や背筋群の働きです。
腹筋、背筋ともに脱力していると、背中や腰が丸まった状態になり、背筋ばかりが働いて腹筋が機能していない場合は、腰が反り過ぎた姿勢になります。どちらの状態も腰痛の原因ともなる不良姿勢といえます。

お腹のインナーマッスルを鍛えることで、良い姿勢を保持するのを助けます。

■手足の筋力向上

私たちの『上肢(腕)』や『下肢(脚)』は、肩関節と股関節によって体幹部とつながっています。手や足に力を入れるときに土台である体幹部がぐらぐらしていては、十分に手足の筋力が発揮できません。

逆にいうと、体幹部が安定することで、手足の筋力も効率よく発揮しやすくなります。
通常、手足の筋力を向上させるためには、手足の筋力トレーニングを行いますが、体幹部のインナーマッスルを鍛えて機能を高めることで、持ちうる手足の筋力を最大限に発揮できるようになります。

■横腹引き締め

お腹のインナーマッスルの代表である腹横筋は身体の側面にあります。
『上体起こし(クランチ)』のような一般的な腹筋トレーニングは、身体の前面にある筋肉を主に鍛えることになるので、腹部前面を引き締めることはできますが、横腹のたるみが残ってしまいがちです。

腹横筋に特化したトレーニングを行うことで、なかなか落ちない横腹のたるみをしっかり引き締めることができます。

お腹を引き締めるインナーマッスルのトレーニング

腹横筋を中心に、お腹を引き締めるインナーマッスルのトレーニング方法をご紹介します。

■ドローイン

ドローインまたはドローイングは、腹横筋を単独で収縮させるトレーニングです。
このあとご紹介するほかのトレーニングは、腹横筋以外のアウターマッスルに含まれる腹筋も使っているトレーニングなので、腹横筋がしっかり機能していなくてもできてしまう場合もあります。
ドローインでしっかりと腹横筋の機能を高めておくことで、その他のトレーニングも効率よく腹横筋を収縮させることができます。

1.両膝を立てて仰向けに寝て体の力を抜きます。
2.両手を体側の床面に置くか、下腹部に軽くあてるように置きます。
3.ゆっくりと息を吸いながら、3~5秒間かけてお腹をふくらませます。
4.吸ったときよりもゆっくり長く息を吐きながら、5~10秒間かけてお腹をへこませます。
5.手順3、4のお腹の動きを協調させた呼吸を繰り返し行います。

■プランク

体幹部をニュートラルな状態のまま固定して支えるトレーニングです。

1. 四つん這いになり、両腕を肩幅に開きます。
2. 肘を90度に曲げた状態で左右の肘から手首が平行になるように床につきます。
3. 足を骨盤の幅に開いてつま先だけを床につき、腕とつま先だけで身体を支えます。横から見た時に肩から足首までが一直線になるように浮かせます。
4. 呼吸を止めることなく身体を支え、30~60秒間ほど姿勢を維持します(姿勢の維持が難しい場合は5~10秒間から始めてみてください)。

インナーマッスルが機能せず、アウターマッスルばかりで支えると肩に力が入って首をすくめてしまったり、腰が丸まってお尻が上がったり腰が反ってお尻が落ちたりしてしまいます。このような代償動作がないか、フォームをよく確認しながら行ってください。

■サイドプランク

サイドプランクは身体を横向きにして持ち上げるトレーニングです。通常のプランクよりもバランスがとりにくく、正しいフォームを維持するためには、体幹の安定性が必要になります。

1. 床に横向きに寝て、下になる方の肘を曲げて肘から先を床につきます。
2. 身体を上から見た時に、肩から足首が一直線になるように姿勢を整え、下になっている側の足の側面と床についた腕だけが床と接触するように腰を浮かせます。
3. 呼吸を止めることなく身体を支え、30~60秒間ほど姿勢を維持します(姿勢の維持が難しい場合は5~10秒間から始めてみてください)。

■スクワット

スクワットは主に下半身の筋力を高めるトレーニングとしてよく行われますが、正しいフォームを維持して正確に行うためには、体幹部の安定性が必要であり、インナーマッスルの機能も必要になります。
しっかりとフォームを意識して行ってください。

1. 足を骨盤の幅に広げて両足を平行にし、つま先が進行方向を向くようにします。
2. 手を身体の横に自然に置いておくか、頭の後ろに組む、もしくは腰の後ろで組むようにします。(開始肢位)
3. 開始肢位がとれたら、ゆっくりと股関節、膝関節をバランスよく曲げ、重心が前後しないように重心を落とします。このとき、体幹が丸まったり、反ったりしないように上半身をしっかりと固定します。
4. 膝が90度程度まで曲がるところ、もしくは大腿部が床と平行になるところまで重心が下がったら、ゆっくりと開始肢位まで戻ります。

トレーニング後のストレッチ

■えびストレッチ

1. 両足を伸ばしてうつ伏せに寝ます。
2. 身体の前に両手をつきながらゆっくりと身体を反らし、少しずつ手の位置を手前にして身体の反りを強めていきます。
3. お腹に伸張感を感じたらその肢位で20秒間ほど静止します。

■脇腹ストレッチ

1. 床に足の裏がしっかりとつく椅子に座り、足を軽く開きます。
2. 両手ともバンザイをし、頭の上で両手を組みます。
3. 足を床につけてしっかりと踏ん張った状態で、ゆっくりと身体を左右どちらかに倒していきます。
4. 倒した方と反対の脇腹に伸張感を感じたら、その肢位で20秒間ほど静止します。
5. ゆっくりと倒した身体を起こしたら、倒す方向を変え、左右反対側の横腹も同じようにストレッチします。

おわりに

今回は、お腹のインナーマッスルを鍛えるメリットやその方法、またストレッチのやり方をご紹介しました。
健康のため、美容のため、強い身体を作るためにお腹のインナーマッスルはとても大切な筋肉です。
今回の内容を参考に、正しいインナーマッスルトレーニングを行い、自分の目標とする身体に近づいていただけたらと思います。

監修

・救急医、内科医 増田陽子

・救急医、内科医 増田陽子

専門分野
微生物学、救急医療、老人医療

経歴
平成18年 Pittsburg State大学 生物学科微生物学・理学部生化化学 卒業
平成22 年 St. Methew School of Medicine 大学医学部 卒業
平成24年 Larkin Hospital勤務
平成26年 J.N.F Hospital 勤務

資格
日本医師資格
カリブ海医師資格
米国医師資格

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