はじめに

多くの女性を悩ませるもの、それが便秘です。体質的に男性よりも女性のほうが便秘になりやすい傾向があり、大腸がんの発生率が女性の方が高い原因の一つは、便秘ではないかと考えられています。

今回は便秘が起こるメカニズム、薬に頼らない改善方法として効果が期待できる「腸もみマッサージ」の方法を解説します。

便秘になる原因

まずはどうして便秘が起こるのかを知ることから始めましょう。
便秘といっても、実は原因によっていくつかの種類に分けられています。女性にみられる代表的な便秘のメカニズムを解説します。

便秘には種類がある

便秘が起こる原因は、大きく分けて二つ考えられます。
一つは腸に原因がある場合、もう一つは便に原因がある場合です。

あなたの便秘はどのタイプでしょうか?

弛緩性便秘(しかんせいべんぴ)

排泄は、腸の筋肉が動きながら便を送り出すことで起こります。この腸の動きを蠕動運動(ぜんどううんどう)といいます。
弛緩性便秘では、腸の筋肉が緩んでしまったり、十分に筋肉が動かなくなってしまうことで起こります。蠕動運動が十分に起こらない結果、腸の中で便が停滞してしまうのです。
女性に最も多いのがこのタイプの便秘です。

便秘薬を常用することで、ますます腸が自力で蠕動運動を起こす力が弱まっていくという悪循環に陥りやすいのが、このタイプの便秘といえるでしょう。

痙攣性便秘(けいれんせいべんぴ)

痙攣性便秘は、ストレスなどが原因となって腸が痙攣状態になることで起こります。
腸がひきつれたような動き方をするため、便の通りが悪くなってしまうのです。痙攣性便秘の特徴は、便秘と下痢が交互に繰り返される点にあります。
腸の蠕動運動を促進させる便秘薬の常用などが原因の一つといわれています。

直腸性便秘(ちょくちょうせいべんぴ)

腸の一番最後の部分は「直腸」と呼ばれます。お尻の穴の一歩手前です。
直腸まで便が到達すると、反射的に「便意」が起こるようにできています。ところが、この直腸反射が十分に働かない場合、便があるにも関わらず、便意を感じられなくなってしまいます。これが直腸性便秘です。
トイレを我慢してしまうなど、便意があるときに排泄できない状態が続くことが主な原因です。

食事性便秘(しょくじせいべんぴ)

食事性便秘は、腸ではなく便に問題があって起こることがほとんどです。
食物繊維の不足や食事量の減少などで、便の量そのものが減ってしまうケースや、水分不足などにより、硬くなった便が腸の中を進んでいけないケースなどがあります。

偏った食事や、過度な食事制限、脱水などが原因で起こります。

その他の便秘

その他の原因として、
・服用している薬の副作用
・がんや潰瘍などで腸が狭くなってしまう
・腸の奇形
などがありますが、これらは医学的な専門治療が必要になります。

便秘が体に与える悪影響

排泄とは、体の中の不要なものを外に出す行為です。それがスムーズに行われないということは、全身に悪影響を及ぼしてしまうということです。

便秘が与える影響にはこのようなものがあります。

肌荒れ

腸は主に「吸収」を担当する臓器です。
便秘によって便が腸内にとどまっていると、本来ならば不要であるはずの老廃物までも吸収されるようになってしまいます。
その結果、吹き出物などの肌荒れが起こるのです。

口臭・体臭の増加

便秘によって便が腸内に長くとどまっていると、次第に腸内細菌バランスが乱れてしまいます。善玉菌よりも悪玉菌が増えてしまうのです。
悪玉菌は腐敗ガスを発生させます。腸内で発生した腐敗ガスと、再吸収された便内の老廃物が体中をめぐるため、口臭や体臭がきつくなってしまいます。

食欲低下

私たちが空腹感を感じる理由の一つは、腸の中が空っぽになったことが脳に伝わることです。

腸内に便が溜まったままだと、空腹感を感じにくくなり、食事量が減少してしまいます。その結果、ますます便秘になってしまうという悪循環に陥ります。

血行の悪化

腸は体の中でもとても大きな臓器の一つです。
腸の動きも筋肉によるものですから、腸が十分に動かなくなることで全身の血行が悪くなってしまいます。
その結果、ますます便秘が悪化するだけでなく、冷え性・むくみなどを引き起こす要因となるのです。

イライラなどの精神症状

便が適度に排泄されないと、お腹の張りを感じるようになります。これはとても不快感を伴いますから、イライラしやすくなります。

さらに「出ない」という意識的なストレスも加わるため、精神的に不安定な状態に陥りやすくなってしまうのです。

痔・大腸がん

大腸では主に水分の吸収を行っています。そのため、長時間、腸内に便がとどまっていると、どんどん便は硬くなっていきます。
カチカチになった便を無理やり排出しようとすると、痔になるリスクが急上昇します。痔は一度なってしまうと再発しやすく、入院手術を要することもあるのです。

また、大腸がんはS状結腸・直腸という部位にできるケースが大半です。この部分は特に便がたまりやすい構造となっています。「便秘=がん」と直接的な証明がなされているわけではありませんが、「便秘と大腸がんは何らかの関係性を持っているのではないか」というのが医学上の見解です。

腸もみマッサージが便秘に与える効果

便秘改善の方法の一つが「腸もみマッサージ」です。腸をもむことで「蠕動運動」を促す効果があります。便秘薬に頼ることなく、続けていくと自然な腸の動きにまで整えてくれる作用が期待できます。

腸もみマッサージが有効なのは、基本的に腸の動きに問題があるタイプの便秘です。自分でできる薬に頼らない便秘解消法として活用してみてください。

基本的な「腸もみマッサージ」

では、具体的な「腸もみマッサージ」の方法を解説します。

大腸は5つに分かれる

腸もみの基本は、腸の向きに合わせてもむことにあります。
私たちの大腸は、5つの部分に分かれています。
①上行結腸(じょうこうけっちょう):大腸の始まり部分。右わき腹を下→上に向かっています。
②横行結腸(おうこうけっちょう):大腸の真ん中の部分。肋骨の下を右→左に向かっています。
③下行結腸(かこうけっちょう):大腸の終りに近い部分。左わき腹を上→下に向かっています。
④S状結腸(えすじょうけっちょう):大腸の最後の部分。へその左側を左斜め下に向かっています。
⑤直腸(ちょくちょう):腸の一番最後の部分。ここまで便が到達すると便意が起こります。

腸の曲がり角をもむ

腸もみを行う際、意識したいのは腸の曲がり角です。

大腸は右下腹部から始まり、右肋骨下まで上にのぼります。そして横向きに形を変えます。これが上行結腸から横行結腸までの部分です。
次に、左肋骨下から下向きに変わります。この部分が下行結腸です。左骨盤近くまで来ると、今度は右斜め下に向きを変えます。ここがS状結腸にあたります。

このような腸の分かれ目になる「曲がり角」は、特に便が停滞しやすい場所なのです。腸もみでは、各曲がり角を重点的にもむのがポイントです。

基本の腸もみマッサージのやり方

では、基本的な腸もみの方法です。

①親指以外の4本の指で、痛くない程度にお腹をゆっくり押します。
②指先でほぐすようにもみこみます。
③腸の向きに沿って指を移動させていきます。
④腸の曲がり角は、ピンポイントで10回程度もみほぐします。

その際、呼吸を意識してみましょう。
5秒程度かけて鼻から吸い、10秒程度かけて口から吐きます。

症状別「腸もみマッサージ」

続いて、便秘の症状別にマッサージのやり方を解説します。

便が硬い・便秘と下痢を繰り返す

このような痙攣性便秘タイプの人は、
①みぞおちを右→左にもみます。
②続いて左わき腹を上→下にもむのが有効です。
大腸の中でも横行結腸と下行結腸という腸の終りに近い部分を刺激します。

腸の動きが悪い

もっとも一般的な便秘である、弛緩性便秘に有効なのが、右わき腹を下→上にもむ方法です。
この部分は、大腸の始まりの部分である上行結腸がある位置です。スタート地点を刺激することで、蠕動運動が起こりやすくなります。

便意を感じにくい

便意そのものを感じにくい直腸性便秘の人の場合、へそから指3本くらい左側を上→斜め右下に向かってもむのが有効です。

この部分はS状結腸という部分で、直腸に続いています。ここを刺激してあげることで、便意が起こりやすくなります。

便秘解消以外に役立つ腸もみマッサージ

腸もみマッサージの効果は、単純な便秘解消だけにとどまりません。女性が嬉しいいろいろな効果も期待できるのです。腸の動きが正しくなった結果、
・むくみの解消
・体臭・口臭の減少
・ダイエット効果
・冷え性改善
・美肌効果
・ホルモンバランスを整える
なども期待できます。

おわりに

「体質だから……」とついついあきらめがちな便秘ですが、安易に薬に頼るとますます便秘を悪化させる可能性があります。腸の動きを助けてあげる腸もみマッサージで、腸本来の自然な運動をサポートしてあげましょう。

腸の動きが整うと、便秘だけでなくさまざまなメリットも生まれます。簡単で気持ちいい腸もみマッサージを、ぜひお試しください。

監修

・総合診療医 院長 豊田早苗

・総合診療医 院長 豊田早苗

専門分野 
総合診療医

経歴
鳥取大学医学部医学科卒業。2001年 医師国家試験取得。
2006年とよだクリニック開業。
2014年認知症予防・リハビリのための脳トレーニングの推進および脳トレパズルの制作・研究を行う認知症予防・リハビリセンターを開設。

資格
医師免許

所属学会:総合診療医学会、認知症予防学会

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