安眠とは

睡眠中は身体や脳を休め、疲労を回復させます。それだけでなく、新陳代謝を高めることで子どもの成長を促したり、新しい細胞を作り出して肌を美しく保ったりするなど、私たちの身体に重要な働きがあります。
そういった働きが十分に行われるために必要な睡眠時間は、個人によって違います。しかし、大切なのは、「睡眠の質」を高くすることです。

最低限の睡眠時間でしっかりと身体や脳の疲れがとれ、すっきりと目覚めることのできる方は、深い眠りについていると考えられます。
一方、十分だと思われる時間眠っていても疲れが取れていない方や、頻繁に目が覚めてしまうような方は、眠りが浅いと考えられます。

このようなことからも、肉体や精神の健康を保つためには、忙しい日々の限られた睡眠時間の中で、どうやって効率よく睡眠をとり、快適で深い眠りにつくかが重要になります。

寝る前のストレッチが安眠につながる理由

寝る前に筋肉をゆっくりと伸張するストレッチを行うことで、しっかりと身体を休め、安眠につなげることができます。
ここでは、なぜストレッチが安眠につながるのかの理由を具体的にご説明します。

■血流が良くなり、体温が上昇する

ストレッチを行うと、筋肉がゆっくり伸ばされたり、縮んだりすることでその周囲の血流が促されます。
血流が良くなると、体温が上昇し、ぽかぽかして眠気を誘うきっかけになります。

■副交感神経を刺激する

日中、学校や仕事など活動することで活動時に働く『交感神経』が刺激され、覚醒状態になります。また、他者と接することなどで、何らかのストレスを抱えることもあります。
そういった日にゆっくりと深い呼吸をしながらストレッチを行うと、心や身体がリラックスします。そうなると、安静時に働く『副交感神経』が優位になり、安眠しやすくなります。

■呼吸がしやすくなる

背中や胸など体幹部のストレッチを行うと、呼吸に関与する肋骨周りの筋肉の緊張が緩和します。そうすることで、ストレッチを行う前よりも楽に呼吸ができるようになり、安眠することができます。

安眠ストレッチの方法

安眠につながる主なストレッチのやり方とポイントをご紹介します。

ストレッチを行う際は、伸びた姿勢をとったところで20~30秒間程度静止し、ゆっくり元の体勢に戻ってください。このとき、息を止めず、ゆっくりと心地よい呼吸を続けてください。

■首ストレッチ

首の筋肉は呼吸に大きく関与しています。
また、日中にたまったストレスで、首から肩にかけての筋肉が緊張しやすくなっているので、緊張を緩和することでリラックスしやすくなります。

1. 立位または座位で背筋を伸ばし、顔を下に向けます。
2. 両手または片手を頭の上に乗せ、首の後ろ側に伸張感を感じたら、そのまま姿勢を保持します。
3. 一度首をまっすぐに戻したら、今度は斜め左下に顔を向けます。
4. 左手を頭の上に乗せ、首の右側に伸張感を感じたら、そのまま姿勢を保持します。
5. 再び首をまっすぐに戻したら、左右を逆にして首の左側の筋肉も同じようにストレッチしてください。

■内ももストレッチ

ももの内側にある『内転筋群』を伸ばし、下半身の血流を促します。
特に、足の冷えで寝つきが悪い方におすすめのストレッチです。

1.あぐらを組むように床に座り、左右の足の裏同士を合わせます。
2.合わせた足をなるべく手前に引いて身体に近づけるようにし、背筋を伸ばしたまま身体をゆっくりと前に倒して足の方に近づけていきます。
3.左右の内もものつけ根に伸張感を感じたら、そのまま姿勢を保持します。
4.余裕がある場合は、そこから膝を伸ばし、でできるだけ左右に開脚した状態で、身体を前に倒します。

■広背筋ストレッチ

『広背筋』は背中から腰にかけて広がる大きな筋肉です。
日中立ちっぱなしや座りっぱなしで緊張した背部の筋肉をストレッチすることで、背中をリラックスさせることができます。

1. 内ももストレッチの肢位と同様に、左右の足の裏を合わせるように座り、背筋を伸ばします。
2.バンザイをした状態から、両手を頭の上で組みます。
3.そのまま身体を左にゆっくり倒します。
4.右側の脇の下から脇腹に伸張感を感じたら、そのまま姿勢を保持します。
4.一度身体をまっすぐに戻したら、今度は右にゆっくり倒し、左側もストレッチしてください。

■太もも裏ストレッチ

太ももの裏には『ハムストリングス』という大きな筋肉があります。
座りっぱなしの方はいつも座面で圧迫され、立ちっぱなしや歩行量の多い方は、立ち姿勢を保持することで緊張しやすい筋肉です。寝る前にストレッチをすることで緊張が緩和し、リラックスすることができます。

1.両脚を伸ばして床に座り、左の膝を曲げて右の内ももに足の裏をつけます。
2.なるべく背筋は伸ばしたまま、両手で右足のつま先を持つように身体を右足の方に向けて倒します(つま先まで手が届かないときは、膝やすねの届くところを持つようにしてください)。
3.右の太もも裏に伸張感を感じたら、そのまま姿勢を保持します。
4.一度身体をまっすぐに戻したら、左右を逆にして左のハムストリングスもストレッチしてください。

■胸椎ストレッチ

『胸椎』は背骨の中で頸部(首)と腰部に挟まれた背中の部分です。
猫背姿勢になっている方は特に、このストレッチを行って背中を伸ばすことで、血流がよくなり、背中の周りがぽかぽかとしてきます。

1. 床の上に正座します。
2. 両手を膝の前につき、そのまま床の上を滑らせながら、ゆっくりと両手を前に伸ばしていきます。
3. お尻が浮いたところで胸を床に近づけるようにして背中を反らし、そのまま姿勢を保持します。

■お尻ストレッチ

お尻の最も大きな筋肉である『大臀筋』は、ハムストリングスと同じように、座りっぱなしでも立ちっぱなしでも緊張しやすい筋肉です。
お尻のストレッチをすることで、下半身全体の血流を促したり、緊張を緩和したりすることができます。

1.仰向けに寝て右膝を立て、左足の足首を右の太ももの上あたりに来るようにひっかけます。
2.そのまま両足を持ち上げ、両手で右の太ももを持ってできる限り自分の胸に近づけるように引き付けます。
3.右のお尻に伸張感を感じたら、そのまま姿勢を保持します。
4.一度足を下ろして左右を入れ替えたら、左のお尻もストレッチしてください。

■胸開きストレッチ

胸の前にある『大胸筋』のストレッチを行いながら身体を捻ることで、肋骨周囲も伸ばすことができます。
肋骨の動きを改善すると、呼吸がしやすくなり、安眠につながります。

1. 両脚を伸ばして床やマットに寝て、両腕を肩の位置で真横に大きく開きます。
2. 右膝を90度に曲げ、腰をゆっくりと捻って左脚の外側の床につきます。
3. 上半身だけを天井に向け、右側の胸から脇腹に伸張感を感じたら、そのまま姿勢を保持します。
4. 左右の脚を入れ替え、同じように左胸もストレッチしてください。

おわりに

今回は、快適で良質な睡眠をとるためにおすすめのストレッチをご紹介しました。

寝る前数分間の習慣だけで朝すっきりと目覚められたり、疲労がしっかりと取れたりすれば、今以上に日中の活動を充実させることができます。
睡眠の質に自信のない方や、最近よく眠れないと感じている方は、是非寝る前のストレッチを試してみてください。

監修

・総合診療医 院長 豊田早苗

・総合診療医 院長 豊田早苗

専門分野
総合診療医

経歴
鳥取大学医学部医学科卒業。2001年 医師国家試験取得。
2006年とよだクリニック開業。
2014年認知症予防・リハビリのための脳トレーニングの推進および脳トレパズルの制作・研究を行う認知症予防・リハビリセンターを開設。

資格
医師免許

所属学会:総合診療医学会、認知症予防学会

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