鍼灸師になろうとしたきっかけ

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親族に医者がいたこともあり、初めは医学部を志望していました。しかし当時、親戚が盲腸で手術をすることになったのですが、手術が始まり麻酔をしたところうまくいかずに植物人間になってしまいました。これが本当にショックでした。

そこで担当医に説明を求めることになりますが、対応も悪く取り合ってもらえないという経験をしました。その時になんとかしようと一生懸命頑張ってくれたのが鍼灸師の先生でした。そこで初めて鍼灸を知りました。当時は免許が必要だということさえ知りませんでした。そこから興味を持って鍼灸の学校に進学しました。

現在はどのような活動をされていますか?

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現在は呉竹学園東京医療専門学校で教員として仕事をしており学科長も勤めています。もちろん授業もやっていますが、それだけでなく学科運営も携わっています。授業は学生に直接会える時間なので、とても大切にしています。講演も積極的に活動しており年間20回ほど行っています。

最近では海外からのお問い合わせも多いです。アメリカ、ヨーロッパ各国、インドネシア、ブラジル、イスラエル、サウジアラビアと多数の国からのお問い合わせがありました。中には、半年来て欲しいというご依頼もあったほどです。

また、鍼灸を通じてイベントに参加することも多いです。大小問わず学会や勉強会に参加することはもちろんですが、様々なイベントで鍼灸ブースを設営し直接鍼灸の治療を体験してもらう活動も実施しています。近年は世界鍼灸学会連合会や世界スカウトジャンボリーなど世界的なイベントも日本で行われたので企画運営を通して精力的に活動することができました。

東洋医学を信じていなかった?

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鍼灸治療といってもすべてが東洋医学の考え方による治療ではありません。初めは西洋医学的な鍼灸から学び始めた経緯もあり、東洋医学をどのように理解していけば良いか全くわかりませんでした。例えば、手首の脈を触ることで症状や状態を判断したりする脈診がありますが、全然信じていませんでした。また当時の鍼灸業界のイメージは、今よりもマニアックでとても入りやすい雰囲気ではありませんでした。

そこからどのように信じられるようになったのですか?

国家試験に合格して学校は卒業しましたが、治療院で働きながらもくすぶっていて悩んでいる時期がしばらく続きました。これではまずいと思っていた時に、専門学校時代の同級生から聞いたのが鍼灸の教員養成学科でした。教員になる為の勉強をしながら、有名な先生に治療を教えてもらえると聞いて入学しました。はじめは鍼灸の先生になるつもりはなかったので不思議なご縁を感じています。

当時の養成科は業界の有名人ばかりだったので毎日本当に刺激的でした。そこで、出会ったのが経絡治療学会会長で神宮前鍼療所所長の岡田明三先生です。岡田先生に声をかけていただき治療院へ学びに行くようになりました。治療院では岡田先生の治療を見させてもらったのですが、それはもう圧倒的なレベルでした。そこから意識が変わったのを覚えています。

こちらでは技術や知識はもちろんなのですが、絵画や音楽の鑑賞の薦めや食事の仕方、お酒の飲み方など治療のことと言うより人としての大切なことをたくさん教えてもらいました。時には、人の真贋(しんがん)の見極め方なども教えていただき驚いたことがあります。人として厚みのない治療家は、本当の治療ができない。だからまず先に人の厚みをつけなさいと言われたことは未だに深く刻み込まれています。岡田先生からの課題や頼みごとを一生懸命やっているうちに東洋医学や経絡治療が少しずつ身についてきたので本当に感謝しています。

刺さない鍼で治療する?

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鍼灸師としてのキャリアをスタートさせてから、うつ病や心の悩みを抱えている患者さんが多いことに気がつきました。鍼灸治療でどうにかできることがあるのではないか?と思うようになり、そこから研究に研究を重ねていきました。

ある程度治療効果の得られる施術ができるようになってきた時に一つの壁に当たりました。それは鍼を刺すという行為そのものに恐怖のイメージがあることでした。

『鍼を刺されるのが怖い』

しかし、心の悩みを抱えている人にとって、もっと負担がなく簡単に受け入れてもらえる方法はないか?刺さずに効果の出る鍼はないだろうか?と模索するようになり、行き着いたのが鍉鍼(ていしん)という刺さない鍼による治療との出会いです。

鍉鍼は金、銀、チタン、銅、ステンレスなどの素材で出来ています。形状は先端が柔らかくカーブしており、鍼のように皮膚の下に刺さらないことが特徴です。これを擦ったり、当てたり、軽く叩いたりして物理的刺激を与えることにより状態を整えることが可能です。鍼は痛いという恐怖心を払拭することができるだけでなく、衛生的で、安全な手法として知られています。

首藤 傳明先生の「経絡治療のすすめ」をはじめ、先人の残した様々な書物を読んだり、多くの先生方のスタイルを見に行ったり話を聞いたりして、きっかけをつかんでいきました。それが今のさざなみ鍉鍼術としてスタイルに繋がっています。

今までの鍼灸師としてエピソード

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統合失調症うつ病の患者さんが治療中に、院内で暴れてしまったことがありました。その時に私はなにもできませんでした。なす術がなかったのです。

そこで、どうしようもなくてその方の彼氏に連絡をとり迎えに来てもらうことになりました。その時に、天と地ほど違うくらい良い顔をしました。さっきまでものすごい形相で暴れていたのに、人の対応ひとつでこんなに違うのかと本当にびっくりしました。警察を呼んだりして本当に大変だったのですが、そこから治療でも何かできるのでは?と思うきっかけとなる出来事でした。

鍼灸治療、東洋医学の課題とは?

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とにかく過去は鍼灸治療や、東洋医学が今よりもさらにメジャーではありませんでした。学説的根拠が乏しかった部分も多かったように感じます。ただ、職人気質の先生が大半だったので腕はとても良かったのです。人数も増えて業界に色んな人達が入ってきているので盛り上がるのは良いのですが、昔ながらの良い部分が崩れすぎてしまっているなと思います。

インターネットの出現により情報が溢れ、経験がなくても経験豊かな先生のように見せることができなくもないので、患者にとって正しい情報か否か心配になることはあります。

スポーツでもそうですが、鍼灸もやはり勉学や技術における鍛錬と積み重ねです。昔はシンプルでした。腕がよければ、食べれる。しかし、今は情報戦略に寄りすぎているような気もします。その中でも新しいことをやっている人でも、信念でやっている人たちも知っているので、全て悪いということではないです。良くなったところとしては、業界として若くなったと思います。

また女性がとても増えました。今までは男性社会でしたが、女性が活躍して来たことで良い方向に変わりつつあると思います。女性が安心して通える治療院も巷にも増えていると感じます。熱が溜まってくれば、良いも悪いも出てくる。というのが東洋医学的にも言えることではないでしょうか。

例えば美容鍼がここ10年くらいで人気を集めています。当初は賛否両論、受け入れづらい業界であったと思うのですが、今では確立されて人気があります。うつ病や心に問題を抱えている患者にも、見た目や顔が変わる美容鍼灸で症状が良くなっていくことがあることもたくさん経験しました。ですので、今時代に求められていることだと感じます。東洋医学的にも、陽気と明るさはやはり大事だと思います。

今後の鍼灸の可能性とは?

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新しい可能性はたくさんあると思います。

まず私が感じていることは日本鍼灸が世界的にまだまだ広まっていくという実感です。おもてなしの心を持って丁寧に治療するというのは世界的に見ても類を見ないものです。そのくらい私たちがやっているものは優しく繊細なのです。海外に出れば出るほど、日本人は医療の根源である、思いやりを持ち体現しながら治療に入っているのだなということを認識しました。

近年では東洋医学をテーマにしている本が売れていますがいかがでしょうか?

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実は私もこの度本を出版することになりました。この盛り上がりは肌で感じています。

また医師でも東洋医学に興味を持っている人が増えました。医師が中心となって運営されている学会にも2つ参加しているのですが、東洋医学としての意見をすごく求められます。しかし良いものだから是非取り入れたいと思っても、鍼灸師側の用意もまだ不十分なところがあるようです。ここがお互いに整ってくれると医療チームとして成立する未来はあるのではないでしょうか。

僕の考える統合医療は、町のお医者さんと町の治療院が相互に協力する世界です。もちろん病院の中でそれが行われるのも良いのですが。金沢大学小川恵子教授と話した時に、『チーム医療ができる鍼灸師を育てて欲しい』と言われてハッとしました。学校教育の現場でもカリキュラムが変わることでこのような動きが加速しています。西洋医学の中でしっかりと東洋医学を語れることが大切です。

医師とのチーム連携をした時にとても喜ばれたことがあります。それは、患者様のパーソナルデータを伝えるということです。医師は一人の患者様だけを長い時間かけてみることができません。しかし、鍼灸師であればもう少しゆっくり話しながら重要なパーソナルデータを聞き出すことができます。あと鍼灸師は社会貢献をあまり考えてこなかったように思います。ちょっとしたツボを押すことで体に変化が出たり、興味を持ってもらえることがたくさんあります。企業のところに自分たちが出ていって、そこで直接話すことで人々の健康に寄与し社会貢献につながると思っています。

これから目指していること

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私にとって教員がやはりベースなので、まずはそこでしっかりと成果を残したいです。

あとは社会貢献として、様々なシーンでもっと子供のケアもたくさんやっていきたいです。子供たちを診ながらご両親にも必要なことをお伝えしています。小学校の時期に東洋医学の哲学や考え方に触れるだけで変わることがあるものです。

そして大きな目標は、鍉鍼(ていしん)の教科書を作り世界に発信したいと考えています。そのためにもっと研究して理論や技術を深めていきたいです。

最後にメッセージをお願いします

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一般の方には、鍼灸をもっと身近に感じてほしいです。

そのために東洋医学について興味を持ってもらい、鍼灸への入り口を作るつもりで本も書きました。普段様々なところから、疲れているという言葉をよく耳にします。そんな時に、鍼灸治療が効率的に簡単でこんなに効くということを知ってください。何かあれば気軽に鍼灸院に駆け込めるような世界にしたいです。

鍼灸師に向けて、特に若手には色々な治療院に行ってもらいたいです。そして治療を実際に受けてください。

私は学生時代から卒業するまでに、50件以上は治療院を回ったと思います。例えば、ラーメン屋さんもある程度周らないと本当に美味しいラーメンがわかりません。いろんな分野のいろんな有名な先生に受けにいって本物を知って欲しいです。ちゃんとお金を払ってプロの技術をしっかり受けてください。

是非一つでも多くの本物に触れてください。そこから治療も必ず変わるかと思います。

プロフィール

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鍼灸師 船水隆広

経歴
東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科科長
心身健康科学修士 
伝統鍼灸学会理事 総務部長 
経絡治療学会評議員 
更年期と加齢のヘルスケア学会幹事 
多文化間精神医学会会員

20年の臨床歴をもち、欧米やアジア各国など、国内外で鍼灸の指導に当たっている。
ストレスケアとこころの病に対する治療が専門分野。

震災直後には被災地にて鍼灸治療スタッフとして施術を行う。
施術効の科学的研究など幅広く活躍。目指すのは「やさしく美しい鍼」。
著書に「深い疲れをとる自律神経トリートメント(主婦の友社)」がある。

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