プライオメトリクストレーニングとは

トレーニングというと、おもりをつけて手足を動かす「筋力トレーニング」を一番に思い浮かべる方も多いかと思います。筋力トレーニングは筋肉を強く太くし、より大きな力を発揮できるようにすることが主な目的です。

しかし、短距離走のスタートダッシュや走り高跳びのジャンプ、サッカーやバスケットボールでの切り替えし動作などでは、強靭な筋力があるだけでは高いパフォーマンスができません。一瞬で爆発的な筋力を発揮し、早い動作をすることが必要となります。
プライオメトリクストレーニングでは、この瞬発力を高めることを目的としています。実際に瞬発的な動きを繰り返し行い、競技力の向上につなげるのです。

プライオメトリクストレーニングの効果

プライオメトリクストレーニングの効果は、瞬発力を高めることです。
私たちの身体には『伸張反射』という私たちの意に反する反射が備わっています。筋肉が一定以上に伸張されると、防御反応として収縮することで、筋肉が引き伸ばされすぎるのを阻止しようとします。

プライオメトリクストレーニングでは、この伸張反射を利用しています。
伸張反射は素早く筋肉が伸張された場合にのみ起こるので、素早い動きの中で反射と自らが起こす筋収縮のタイミングを合わせることで、爆発的な筋力を発揮します。それにより、瞬発性の高い動きを作り出すことができます。

わかりやすい例として、ジャンプをする際に私たちは無意識に一旦しゃがみ込んでから飛び跳ねることがあげられます。ゆっくりしゃがんでゆっくり飛ぶよりも、着地の反動で飛んだ方が、より高く飛ぶことができるでしょう。
これは、ふくらはぎや太もも、お尻の筋肉が伸張され、反射的に収縮した瞬間によって筋力が発揮されているといえます。

また、瞬発的な動きには速く筋肉を収縮させる必要があり、それには日ごろのトレーニングが必要です。
プライオメトリクストレーニングでは、これらの機能を高めることで瞬発力を高め、ジャンプや切り替えし動作、重量挙げなどのパフォーマンスを改善します。

プライオメトリクストレーニングの注意点

プライオメトリクストレーニングを効果的かつ安全に行うためには、いくつかの注意点を守る必要があります。

■しっかりウォームアップとクールダウンを行う

プライオメトリクストレーニングでは、筋肉を一気に伸張して収縮するので、身体にとても大きな負荷がかかります。
ウォーミングアップができていない状態でトレーニングを行うと、筋肉が伸張や収縮に耐えられず『筋断裂(肉離れ)』や『腱断裂』を起こしてしまう可能性が高まります。
ストレッチやジョギング、負荷の軽いジャンプ動作などで身体をしっかりと温めて筋肉の伸張性および収縮性を高めてから行いましょう。

また、トレーニング後も同じようにストレッチや軽い運動などのクーリングダウンが必要です。
筋肉に大きな負荷をかけたあとにクーリングダウンを行わないと、筋肉痛がひどくなったり、疲労の回復が遅れたりしますので、注意してください。

■2~3日あけて行う

筋力トレーニング同様、筋肉に強い負荷をかけると、筋肉に細かな傷がつきます。
これを『微細断裂』といい、断裂を修復する過程で元よりも強い筋肉になっていきます。修復が間に合わないうちにさらに負荷をかけると、筋肉を傷める可能性が高まってしまいます。

プライオメトリクストレーニングで強い刺激を与えた筋肉は、2~3日は筋トレなどその他のトレーニングを控えるようにしましょう。トレーニングを行う場合は、別の部位で低負荷のトレーニングをしてください。

■継続して行う

プライオメトリクストレーニングは、数日行った程度では効果は期待できません。
数か月単位で続けることが好ましく、早く効果を感じられるものでも1か月程度はかかります。間隔をあけながら継続的にトレーニングを行うようにしましょう。

■負荷は徐々に上げていく

プライオメトリクストレーニングの経験がない方が、急に重りなどを使用した負荷の強いトレーニングを行うと、筋断裂などのケガを引き起こしやすくなります。
初めてプライオメトリクストレーニングを行う方は自重(自分の体重)を負荷とする程度とし、回数や速度も徐々に上げるようにしましょう。

■ 未成年は注意して行う

プライオメトリクストレーニングは全年齢の運動能力を高めるために使用することができます。
しかし、思春期前の子どもは、骨の中に『成長骨端線』という骨が成長するための大切な組織が残っています。この部位に大きな衝撃が加わると、成長を阻害してしまう可能性があります。
ボックスからの飛び降りなどを含む高強度のトレーニングは、成長骨端線が閉じるまでは控えるようにしましょう。

プライオメトリクストレーニングのメニューとやり方

プライオメトリクストレーニングのメニューの具体例をご紹介します。

■アンクルホップ

主に足関節(足首)を使って行うジャンプです。

① 両足を骨盤の幅に開いて立ち、手は体側に沿わせておきます。
② 足関節と膝関節を軽く曲げ、床に垂直に思い切り跳び上がります。
③ 着地したら、なるべく早く高く再び跳び上がるという動作を繰り返します。

■ スクワットジャンプ

下半身の筋肉全体を使って行うジャンプです。

① 両足を骨盤の幅に開いて立ち、両手は頭の後ろに組みます。
② 背骨をまっすぐに伸ばしたまま、足関節、膝関節、股関節をバランスよく曲げ、そのあと跳び上がりやすいように重心を落とします。
③ 床と垂直に思い切り跳び上がり着地したら、再びなるべく早く高く跳び上がるという動作を繰り返します。

■デプスジャンプ

ボックスの上から飛び降りることによって高強度のジャンプトレーニングを行います。

① 30~100㎝程度の丈夫なボックスの上に立ち、つま先がボックスの端につくようにします。
② できるだけ自然な落下に近い形でボックスから床に飛び降り、両足を骨盤の幅に開きスクワットジャンプで重心を落としたときと同じ体勢で着地します。
③ 着地したら、なるべく早く高く床と垂直に跳び上がります。

■プライオプッシュアップ

上腕の前面・後面にある上腕二頭筋や上腕三頭筋を中心に、腕から肩甲骨にかけての上半身の筋肉の瞬発性を高めるためのトレーニングです。

① 両手を床につき、肩幅+拳2つ分程度開きます。
② 両手と両足のつま先だけが床につくように腕立て伏せの姿勢をし、肩から足首まで身体を横から見たときに一直線になるように姿勢を整えます。
③ 両肘を曲げて身体を床に近づけたら、勢いよく手で床を押して手を床から離します。
④ できる方は、手が床から離れている間に両手を1回叩いてから、再び両手を床について身体を支えます。

おわりに

今回はプライオメトリクストレーニングについてその原理や効果、注意点、具体的なメニューのやり方についてご説明しました。
一般的な筋力トレーニングや持久力トレーニング、競技トレーニングに加えて行うことで、パフォーマンスが格段に改善される重要なトレーニングです。
正しい知識を持った上で、他のトレーニングとうまく組み合わせて効果を十分に発揮していただければと思います。

監修

・総合診療医 院長 豊田早苗

・総合診療医 院長 豊田早苗

専門分野
総合診療医

経歴
鳥取大学医学部医学科卒業。2001年 医師国家試験取得。
2006年とよだクリニック開業。
2014年認知症予防・リハビリのための脳トレーニングの推進および脳トレパズルの制作・研究を行う認知症予防・リハビリセンターを開設。

資格
医師免許

所属学会:総合診療医学会、認知症予防学会

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