はじめに

アキレス腱はふくらはぎの筋肉(下腿三頭筋)の踵に近い部分です。腱なので、筋肉よりも硬く伸縮性は少ないです。つまり、ふくらはぎの筋肉の端はアキレス腱に移行して踵の骨につながっているのです。

そして、走る・跳ぶといったスポーツ動作で幾度となく酷使されるアキレス腱の周囲は炎症を起こしてしまうことが多く、最悪の場合はアキレス腱断裂という大きなケガになってしまいます。

そこで今回は、アキレス腱に関わるケガについてその種類や原因についてまとめました。

アキレス腱炎・周囲炎

言葉の通り、アキレス腱やその周囲が炎症を起こしている状態を『アキレス腱炎・周囲炎』と言います。アキレス腱が伸び縮みするような足首の動きや、歩行やランニングといった体重のかかる状況でアキレス腱やその周囲が痛むことが主な症状です。炎症が強いと炎症のある部位に腫れや熱感、圧痛が生じます。痛みやその他の所見はどちらも似ており、スポーツや日常生活内でのアキレス腱の使いすぎによって起きることが多いケガです。

『アキレス腱炎』はアキレス腱に繰り返し伸び縮みのストレスが加わることで腱の一部が微細断裂をして炎症を起こすものです。スポーツをしている人は、炎症を起こしても、痛みが少し軽減するとまたスポーツをして悪化させてしまうことがあります。これを繰り返すと、腱が瘢痕化(組織の欠損部にできた肉芽組織が古くなって繊維化すること)したり、変性したりして弾力性が低下してしまい、繰り返される伸び縮みのストレスにさらに耐えにくくなります。そして徐々に炎症が起きやすいアキレス腱になってしまいます。
一方、『アキレス腱周囲炎』は、アキレス腱を包んでいる『パラテノン』という薄い膜が炎症を起こしている状態を言います。症状は『アキレス腱炎』とほぼ同じであり、どちらも併発していることもあるので、この二つの鑑別は困難です。

アキレス腱滑液包炎

アキレス腱の周りには、アキレス腱と踵の骨の間に『踵骨後部滑液包』、アキレス腱と皮膚の間に『皮下滑液包』というものがあります。

『滑液包』とは、動きを滑らかにするための液体が入った袋状のものであり、これがアキレス腱の前後にあることで、アキレス腱と踵骨や皮膚との間の摩擦を減らし、アキレス腱がスムーズに動くことができます。
本来はそういった役目を持つ『滑液包』ですが、スポーツなどでアキレス腱を使いすぎることや、ハイヒールやきつめのシューズを履くことなどで皮膚の上からアキレス腱の周りを圧迫されることが続いたりすると、この『滑液包』が炎症を起こしてしまうことがあり、これをアキレス腱滑液包炎と呼びます。アキレス腱滑液包炎になると、足首を動かすことや、歩いたり走ったりの動作でアキレス腱の周囲に痛みがでるので、『アキレス腱炎・周囲炎』と症状はほぼ同じですが、厳密には『踵骨後部滑液包炎』はアキレス腱の前方、『皮下滑液包炎』ではアキレス腱の後方に炎症があるため、痛む部位などが少し違ってきます。

アキレス腱付着部炎

アキレス腱の伸縮が繰り返し起こることで、アキレス腱が踵骨の付着部を引っ張り、引きはがそうとして、踵骨を覆っている骨膜やアキレス腱側の踵骨付着部が炎症を起こす状態を言います。痛みの感じ方としては、アキレス腱というよりは踵の骨の痛みを感じます。場所が近いこともあり上で述べた『アキレス腱滑液包炎』との鑑別は困難です。

ここまでに述べてきたアキレス腱周囲のケガは、全てアキレス腱にかかる繰り返しの伸縮ストレス、または足に合っていないシューズの使用などによるアキレス腱への圧迫ストレスによるものが原因となることがほとんどです。

しかし、同じ量の運動をしてもこれらのケガを発症する人としない人がおり、それはふくらはぎの筋肉(下腿三頭筋)の柔軟性や筋力、アキレス腱の弾力性の差になります。運動前後にストレッチをしっかり行い、下腿三頭筋やアキレス腱が柔軟な状態であればアキレス腱に同じ負担をかけても炎症を起こす可能性を減らすことができますし、下腿三頭筋を中心に脚の筋力がしっかりしていれば、同じ量の運動をしてもアキレス腱にかかる負担は少なくなります。そういった意味で、柔軟性の低下、筋力不足がアキレス腱周囲のケガの原因となってくるのです。

アキレス腱断裂

アキレス腱におけるケガの中で最も重篤で、アキレス腱が切れてしまう状態です。走り出しや方向転換などの瞬間に、引き伸ばされる外力がアキレス腱に一気にかかることで起こります。断裂した瞬間には「バットでふくらはぎを叩かれた」感じや「人やボールが当たった」感じがしたという方が多いようです。

腱の一部が切れてしまう不全断裂と完全にアキレス腱の連続がなくなってしまう完全断裂がありますが、その程度やその後の仕事や運動の状況によって、そのままギプス固定をする保存療法または、アキレス腱を縫合する手術療法で治療することが一般的です。どちらの方法でもアキレス腱に伸張ストレスがかからないように固定した状態で数か月過ごし、徐々に体重をかけていくというリハビリ期間が必要になるので、本格的なスポーツ復帰には最低でも半年はかかります。

こちらも、下腿三頭筋やアキレス腱に急激な伸張ストレスがかかった際に生じるケガなので、運動前に入念なストレッチを行うこと、また運動をすることに慣れていない状態であれば急激な方向転換や発進動作を控えることなどが予防策となります。

おわりに

アキレス腱周囲のケガについて、どんな状態になるのか、またどのようにして予防していけばいいのかなどわかっていただけたでしょうか?
運動量の調節やシューズの検討はもちろんですが、ストレッチや筋力トレーニングといった日頃の積み重ねがケガの予防につながるので、自分でケガの予防を行っておきましょう!

監修

・総合診療医 院長 豊田早苗

・総合診療医 院長 豊田早苗

専門分野 
総合診療医

経歴
鳥取大学医学部医学科卒業。2001年 医師国家試験取得。
2006年とよだクリニック開業。
2014年認知症予防・リハビリのための脳トレーニングの推進および脳トレパズルの制作・研究を行う認知症予防・リハビリセンターを開設。

資格
医師免許

所属学会:総合診療医学会、認知症予防学会

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