1 はじめに

みんなさんの周りにタバコを吸う方は居るでしょうか?
タバコはかなり一般的な嗜好品の一種ですが、近年は体への害がよく取り沙汰されており、禁煙を考えているなんて人もよく聞くかと思います。
 
しかし止めるやめるといってもなかなか止められないのがタバコの悩ましい所。一体なぜ、タバコはこんなにも止めにくいのか、秘密は身体的依存と精神的依存という2つの言葉に隠されています。
 
今回はそんなタバコの依存性について、詳しく解説していきましょう。

2 タバコがやめられない原因 〜身体的依存〜

タバコがやめられない理由は、大まかに言ってしまえば依存性があるからなのですが、タバコが特に厄介なのは、身体的依存と精神的依存という2つの依存が存在していることです。

身体的な依存というのは、文字通り体の機能的な依存が生じている状態のことで、タバコの他にはアルコールやヘロインなども身体的依存を引き起こすことが知られています。

身体的依存がどうして発生するかと言うと、重要になってくるのは報酬系と呼ばれる脳の回路です。タバコに含まれるニコチンという成分は、この報酬系と呼ばれる回路を刺激し活性化させる作用があります。報酬系はもともと何かに成功したときや、物事を達成したときに働く回路なので、活性化されると快楽を感じるような物質が脳に放出されます。これがタバコを吸ったときのスッキリ感や爽快感をもたらしているわけです。

しかし繰り返しニコチンを摂取していると、脳がだんだん慣れてきてしまい、タバコによるニコチンが入ってくること前提で脳が動くようになってしまいます。そしてニコチンが足りなくなると報酬系回路の働きも下がってしまい、イライラ感を引き起こすのです。これが身体的依存が成立した状態というわけです。

こうなってしまうと自分の意思だけで抜け出すのはなかなか難しくなってしまいます。身体がタバコ前提で動くようになってしまっているため、いわば毎回空腹を限界まで我慢し続けるような渇望と戦わなければならなくなってしまうのです。 

3 タバコがやめられない原因 〜精神的依存〜

続いては精神的依存です。こちらは先ほどと違い、身体に何か具体的な変化があるわけではありません。ではどういうことなのかと言うと、ポイントは成功体験が積み重なっていくということなのです。

例えばタバコを吸ってスッキリした気分で仕事をして、その仕事がとてもうまくいったという経験をしたとします。すると人間の心理として、タバコを吸って爽快な気分でいたおかげで仕事がうまくいったのだ、という意識が少なからず生まれることになります。
 
すると、何となく大きな仕事の前などにタバコを吸っておこうという気持ちが生まれるようになり、また成功が重なるとさらに次の機会でもタバコを吸うようになります。
 
それほど極端でなくとも、こうした小さな成功体験が積み重なると、タバコがあると安心、あるいは逆にタバコがないとなんとなく不安、という心理が働くようになるのです。これが、精神的依存の正体です。

いってしまえばジンクスのようなもので、身体的依存ほど強いものではありませんが、タバコを止めにくくしている1つの要素であることは間違いありません。

4 タバコを止める方法

タバコを止めるためには当然、身体的依存と精神的依存を解消しなくてはなりませんが、特に問題となるのは身体的依存の方です。

身体的依存を解消するためには、摂取するニコチンの量を段階的に減らして、ニコチンなしでも脳が正常に働く状態に戻さなければなりません。そのために用いられているのが、ニコチンパッチやニコチンガムといったものです。
タバコによって摂取していたニコチンをガムもしくはパッチによる摂取に切り替え、その量を徐々に減らしていくことでニコチン依存から脱出させるのです。

他に似たような方法として、ニコチンのように報酬系を活性化させるものの、活性化の度合いがニコチンよりも弱い薬をもちいて、同じようにニコチン依存から脱出する方法もあります。病院の禁煙外来などでよく用いられる方法で、効果も比較的高いとされています。

精神的依存に関しては、身体的依存の解消に伴って自然に無くなってくる場合が多いですが、特に強い場合はタバコの代わりに飴を食べるなどして習慣を徐々に移行していきます。

5 タバコを止めるための期間

タバコを止めるためにどれくらいの期間が必要かと言うと、一概には言えません。自分の力で止めるのか、薬を使うのか、禁煙外来に通うのか、などの条件でかかる時間はかなり変わってくるからです。

しかし一般的には、タバコを止めてから三日目くらいが禁断症状のピークで、そこからだんだんと症状が軽くなってくると言われています。完全にニコチンの影響がなくなるのは半年から一年後とも言われており、禁煙はかなり根気のいる作業になると言えるでしょう。

禁煙外来にかかる場合、標準的な治療は二週間になります。薬を使い、カウンセリングなども定期的に受けられるので、より効果的に禁煙をすすめることが出来るのです。

6 おわりに

タバコは身体的依存が強いだけでなく、精神的依存も引き起こすことが知られており、それらが禁煙をうまく行きにくくしています。

しかしながら現在は薬やカウンセリングなどを用いた禁煙治療も充実しており、一度しっかり取り組み始めれば禁煙できる例も多くなってきています。

大切なのは何がタバコを止めにくくさせているのかを理解し、それに対してしっかりと一つひとつ対策をとっていくことなのです。

監修

・総合診療医 院長 豊田早苗

・総合診療医 院長 豊田早苗

専門分野 
総合診療医

経歴
鳥取大学医学部医学科卒業。2001年 医師国家試験取得。
2006年とよだクリニック開業。
2014年認知症予防・リハビリのための脳トレーニングの推進および脳トレパズルの制作・研究を行う認知症予防・リハビリセンターを開設。

資格
医師免許

所属学会:総合診療医学会、認知症予防学会

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