はじめに

認知症を発症することは高齢者の方だけではありません。
年齢が若くても認知症になる可能性があります。「若年性認知症」という病気です。
一般的な認知症については理解していても、「若年性認知症」についてはご存じでしょうか。
本記事では、若年性認知症についてご説明します。

若年性認知症とは

若年性認知症とは64歳以下で認知症を発症すことです。

若年性認知症はすぐに認知症と診断されることが少なく、老化による認知症よりも年齢が若いことから、うつ病や更年期障害などの病気と間違われてしまい、診断が遅れることがあります。診断が遅れることは認知症の症状悪化にもつながります。

特に男性の方が若年性認知症になりやすく、認知症の種類も「脳血管性型」と「アルツハイマー型」が多く見られることが特徴です。高齢者の方にみられる「レビー小体型」や「前頭側頭葉型」などの認知症の若年発症例はありますが比較的少なめです。

若年性認知症の初期症状

若年性認知症にはさまざまな症状がありますが、若年性認知症ではない人にも起こりうる症状であるため、若年性認知症と判別することが難しいです。どのような症状が現れるのかをいくつかご説明します。


<記憶力が落ちる>
・日付がわからなくなる
・同じことを繰り返し聞く
・メモに書き残しても書いたこと自体を忘れる

<計画や問題解決ができなくなる>
・計画をたてて行動することができなくなる
・集中力がなくなり、問題解決をすることに時間がかかる
・レシピ通りに料理が作れなくなる
・家計簿の計算が合わなくなる
・月々の支払いを忘れたり、計算できず滞らせてしまう

<やり慣れたことができなくなる>
・自宅までの道のりを忘れて運転できなくなる
・電子レンジなどの使い方がわからなくなる

<目で見たものなどを判断しづらくなる>
・色やコントラストなどがわからなくなる
・距離感がつかめずぶつかる

<周りが話していることが理解できなくなる>
・会話についていけなくなる
・自分の会話の最中で何を話していたか忘れて止まってしまう
・同じ話を繰り返し話す

<自分の行動をたどれなくなる>
・自分の物をいつもと違う場所に置いたり片づけてしまう
・どこに置いたのかを忘れしまい探し続けたり、誰かのせいにしてしまう

<判断力が悪くなる>
・買い物で高額な商品を購入してしまう
・身なりを気にしなくなる

<人との関わりを嫌がるようになる>
・趣味など今まで続けていたことを突然やめてしまう
・仕事で人と会うことを避けるようになる

<人格などが変化する>
・ポジティブな性格だった人が閉鎖的になる
・人を信用できなくなる
・周りの人に対して攻撃的になる


上記が若年性認知症でよくみられる症状の一部です。これらの症状が複数現れた場合は、若年性認知症の可能性があるかもしれません。また、ご自身で判断がつきにくい場合は、病院を受診してみてもよいでしょう。

若年性認知症の方への対応方法

若年性認知症は高齢の方が認知症になるより大変です。それは、年齢が若いため現役で仕事や車の運転をしていることがあるからです。では、若年性認知症に自分や家族がなったらどのように対応していけば良いのでしょうか。周りの方の対応方法をいくつか見ていきましょう。


<物などを忘れないような工夫をする>
・カレンダーに予定を書き込む
・薬は1回の服用分ごとに袋へ入れて薬用カレンダーに貼り付ける
・カバンの中身は最低限のものにする
・本人だけでなく家族も確認することができるようにする

<迷子になったときの対策をとる>
・鞄や服などに名前と連絡先をつけておく
・GPS機能が付いた携帯を本人に持たせる
・症状が進行している場合は、徘徊行動が増えるため、外出時は家族や周りが同行する

<本人を意見を頭から否定しない>
・本人が物をどこかに置き忘れたけれど、忘れて探している場合、周りの人のせいしてサポートする側も嫌な気持ちになるかもしれませんが、真向から否定せずに、一緒に探すなどして気持ちを和らげる
・介護を嫌がるようになるため、本人の話を受け入れながら他の話にすり替えるなどして対応しましょう

<運転をさせないようにしましょう>
・記憶力や判断能力が低下している状態での運転は大変危険ですので運転させないようにする
・家族や周りの人が説得して、できれば運転免許証を返納する

これらの対応方法はごく一部です。
年齢がまだ若く現役で働いている方などに若年性認知症を告知すると、精神的ダメージを受けさせることになり、それが原因でうつ病を発症することもあります。しかし、早い段階で告知ができることで、本人の望む治療を選択できるメリットもあります。ただし、そのためには家族が身近でサポートすることが告知を受ける本人にとって大切です。

若年性認知症の症状が進行に伴い、周りの人がその人に合わせた対応方法を考えていかなければなりません。また、若年性認知症になった人によっても症状はそれぞれ異なります。進行度合いを見ながら対応方法をとるようにしましょう。

若年性認知症の予防法や改善方法

若年性認知症は物忘れと勘違いされるため、周りからも自分も気がつきにくい病気です。気づいた頃には症状が悪化していることがあり、常に進行していく病気のため、症状を少しでも緩和していくことが大切です。その他、予防や症状の改善に役立つ方法をいくつかご紹介します。


<食生活の改善>
・栄養バランスのいい食事をする
・塩分や糖分などの摂りすぎに注意する
・よく噛んで食べる
・DHAやEPAを含む青魚を積極的に摂る

<運動での改善>
・ある程度負荷のかかる運動を行うようにする
・ジョギングなどの有酸素運動を行う

<生活習慣の改善>
・睡眠不足にならないように規則正しい生活をする
・禁煙や禁酒をする
・食べ過ぎ、飲み過ぎをしない

<若年性認知症の症状の改善方法>
・音楽を聞く
・歌を唄う
・声に出して本を読む
・簡単な計算をする
・簡単なルールのゲームをする
・絵を描く

体や脳に刺激を与えることによって、若年性認知症の症状を改善することができます。ただし、患者本人にとって負担にならない程度に、また、無理に強いることのないように行うことが大切です。上手く声かけをして本人がリハビリを行えるように精神面でのサポートをするとよいでしょう。


若年性認知症の予防や症状の改善のためには、早期発見、治療することが大切です。早く発見することで症状の進行を遅らせる治療にも効果が出てきます。また、家族だけで介護することは介護側に負担がかかってしまうため、デイサービスやショートステイなどを利用し、患者本人だけでなく家族の負担も軽くすることが良策です。

まとめ

いかがでしたか?
若年性認知症になると長期間病気と付き合うことになります。患者本人だけでなくサポートする家族にも負担になってきます。周りの人の助けを借りながら、お互いに負担にならないように若年性認知症に向き合っていきましょう。

監修

・総合診療医 院長 豊田 早苗

・総合診療医 院長 豊田 早苗

専門分野 
総合診療医

経歴
鳥取大学医学部医学科卒業。2001年 医師国家試験取得。
2006年とよだクリニック開業。
2014年認知症予防・リハビリのための脳トレーニングの推進および脳トレパズルの制作・研究を行う認知症予防・リハビリセンターを開設。

資格
医師免許

所属学会:総合診療医学会、認知症予防学会

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