はじめに

歯が並んだ状態のことを歯列といます。歯列は上から見ると弓状になっているので、歯列弓ともよばれます。歯列は、1本1本の歯の位置が定まることで作り出されます。その歯の位置は、歯に対して頬や唇の筋肉が外側から押してくる力と、内側から舌が外側に向かって押し出そうとする力のバランスの上に成り立っています。したがって、歯並びはこれらの要因によって出来上がっているのです。

もし、お口やその周辺の組織に頬杖をつく、口で呼吸する、舌を出すなどのくせがある場合、歯並びはその影響を受けてしまいます。その結果、歯並びがきれいな状態にならずに、でこぼこと並んでしまう、すなわち良くない噛み合わせになります。噛み合わせが良くないと、顔貌にも影響が表れることがあります。

悪い噛み合わせについて、まとめてみました。

悪い噛み合わせの種類

上顎前突(じょうがくぜんとつ)

上顎前突とは、上顎の歯が下顎と比べて前方の突出している、もしくは下顎の歯が全体的に後方によっている状態です。上下顎の前歯の噛み合わせについて、上顎の前歯が下顎の前歯よりも前方によっている状態です。前歯の噛み合わせだけでなく、前から数えて6番目の歯である第一大臼歯の上下の噛み合わせの状態も評価します。

下顎前突(かがくぜんとつ)

下顎前突とはいわゆる受け口です。上下の前歯の噛み合わせの関係だけではなく、上下の第一大臼歯の噛み合わせの状態も重要です。

切端咬合(せったんこうごう)

正しい噛み合わせは、上顎の前歯が下顎の前歯よりも少し前に出ている状態です。切端咬合は、上顎と下顎の前歯の先端の位置が一致している状態の噛み合わせのことです。

開咬(かいこう)

開咬とは、上顎と下顎の歯を噛み合わせたとき、前歯が噛み合ず隙間が開いた状態になる噛み合わせのことです。

交叉咬合(こうさこうごう)

交叉咬合とは、咬み合わせたときに、通常であれば上下の歯が当たりますが、当たらずにすれ違ってしまう噛み合わせのことです。

過蓋咬合(かがいこうごう)

過蓋咬合とは、咬み合わせた時に、上顎の歯が下顎の歯を覆う様に噛み合わせてしまう状態のことです。下顎の前歯が上顎の前歯の裏側隠れてしまい見えなくなってしまいます。

叢生(そうせい)

叢生とは、いわゆる乱杭歯のことです。歯の並びがでこぼことした噛み合わせです。

空隙歯列(くうげきしれつ)

空隙歯列とは、隙間の多い歯並びのことです。

捻転・傾斜歯(ねんてん・けいしゃし)

捻転歯とは、歯はまっすぐに生えているけれども、水平方向に回転がかかった状態に生えている歯のことです。傾斜歯とは、前後方向、もしくは頬舌方向に傾いた生え方をしている歯のことです。

異所萌出歯(いしょほうしゅつし)

異所萌出歯とは、本来その歯が生えるべきところから離れたところに生えてしまっている歯のことです。

移転歯(いてんし)

移転歯とは、歯の生えてくる位置が、隣の歯と逆になっている生え方をしている歯のことです。移転歯は異所萌出歯の1種です。

歯数の過不足

永久歯は、前歯が12本、奥歯が親知らずを含めれば20本で合計32本、含めなければ16本で合計28本揃っているのが正しい歯の本数になります。もし、歯の数がこれに満たなければ、または過剰な歯がある場合も、噛み合わせが悪くなってしまいます。
親知らずについては、例えなくても問題ありとはみなされません。

埋伏歯(まいふくし)

埋伏歯とは、歯が埋もれたままで生えてきていない歯のことです。埋伏状態になるのは特に親知らずが多いですが、どの歯にも埋伏したまま生えてこない可能性はあります。

形態異常歯(けいたいいじょうし)

形態異常歯とは、歯の形態が異常を起こしている歯のことです。形態異常歯では、癒合歯という2本の歯が繋がって1本の歯として生えてくるタイプが多いです。これは、形の異常ですが、大きさが異常を呈していることもあり、形態異常歯の症状は多彩です。

噛み合わせが悪いと起こること

顎骨の発育のゆがみを招来する

噛み合わせが悪いと、食べ物を噛む時に左右で均等に噛むことが出来なくなります。噛みやすい側の歯を使って噛みがちになります。

顎の骨を成長させる因子のひとつに、食べる時に噛み合わせる力による刺激があります。すると、よく噛む側の骨が、そうではない側の骨よりもよく成長するようになります。すなわち、噛み合わせが良くないと、顎骨の発育にも影響してくるのです。

顎関節症の原因になる

顎関節症とは、口を開けにくくなったり、口を開けたり閉じたりするときに痛みが生じる病気です。顎関節症の歯ぎしりや食いしばりなど原因はさまざまです。その原因のひとつに、噛み合わせがあります。

顎関節を構成する骨のひとつは下顎骨です。下顎骨は、頭蓋骨からぶら下がった状態になっていますので、その位置は不安定です。下顎骨の位置を定める要因のひとつが噛み合わせです。したがって噛み合わせが悪くなると、下顎骨の位置も悪くなってしまいます。その結果、顎関節症になってしまうと考えられています。

歯周病やむし歯の原因となる

歯ブラシが当てにくくなり、歯みがきがしにくくなります。そして、歯と歯の間に歯間ブラシや糸ようじも入れるのが難しくなるので、むし歯や歯周病になりやすくなります。

歯の破折など、外傷を受けやすくなる

噛み合わせた時に受ける力を、歯列弓全体で均等に受け取ることができなくなります。すると、どこかに力が過剰にかかってくる歯が生まれてしまいます。転倒や交通事故などにより、顎の骨に急激に大きな力がかかった時、いずれかの歯に集中的に力がかかるようになり、その歯が破折する可能性が高くなってしまいます。

むし歯治療がしにくくなる

むし歯の治療では、ちいさなむし歯であればコンポジットレジンというプラスチック製の詰め物をしたり、大きなむし歯なら、神経を取り除いたり、被せ物を装着したりして治します。噛み合わせが悪いと通常の虫歯の治療でさえもしにくくなる可能性があります。

噛み合わせのチェック法

上下の前歯の真ん中の位置

上下の歯を咬み合わせた状態で、上顎と下顎の真ん中が一致しているかを確かめてください。

重なり具合

上顎の前歯が下顎の前歯より少し前に出ているのがいい重なりです。重なり具合を見てみてください。

横顔

顔を真横から見た時に、鼻の頂点から顎先を結ぶ直線上に上下の唇の先が当たっているかどうかみてください。そろっていれば、いい噛み合わせです。

歯の本数

歯の本数に不足がないかどうかを数えてみてください。
上顎の奥歯は見えにくいので、他の人に数えてもらう方がいいでしょう。

歯の並び

歯列が弓状に並んでいるかどうかを見てみましょう。もし並んでいなければ、悪い噛み合わせかもしれません。

悪い噛み合わせの治療法

マルチブラケット法

マルチブラケット法とは、歯の表面にブラケットとよばれる専用の金具を装着して、ブラケットの中央にワイヤーを通す治療法です。ワイヤーの弾性を利用して歯を動かしていきます。

マウスピース法

マウスピースを使って歯を動かす治療法です。マウスピースは食事以外の時間はずっとつけ続けます。おおむね2週間くらいでマウスピースを新しいものに取り替え、歯を動かします。

MTM(Minor Tooth Movement)法

歯を1本、もしくは数本だけ動かしたいときの矯正治療法です。ワイヤーを使ったりマウスピースを使ったりします。

悪い噛み合わせにならないために

舌の癖を治す

舌の先をあてるべき本来の位置は、上顎の前歯の付け根付近の歯ぐきです。ところが、舌を前に突き出す、下の前歯の裏に舌を当ててしまう、このような舌の癖があると、下顎の歯を内側から外に向かって過剰に押し出す原因になり、歯並びを悪くしてしまいます。舌の先は、上顎の前歯の付け根付近の歯ぐきにあてておく様に心がけましょう。

頬杖をつかない

頬杖をつくと、下顎骨を頬杖をついた側の反対方向へずらしてしまいます。歯にもその方向に押す力がかかってきます。その結果、歯並びが悪くなってしまいます。頬杖をつくくせがある場合は、やめるようにしましょう。

口呼吸をしない

呼吸は本来鼻でするものです。口で呼吸をする癖があると、常時口が開いた状態になります。舌の先も空気を通しやすくするために、下顎の前歯の裏にいきがちになります。そして、歯並びが悪くなります。口ではなく鼻で呼吸をする様にしてください。

歯ぎしりをしない

歯ぎしりをすると、歯を前後左右に動かす力が生じます。これにより、歯が全体的に外側に向かって傾斜し、歯と歯の間に隙間が生じる様になります。歯ぎしりをするくせがあるなら、歯科医師と相談してください。

おわりに

噛み合わせが悪いと、顎関節症の原因になったり、むし歯や歯周病になりやすくなります。

また、子どもの場合は成長発育に影響することもあります。そして、噛み合わせは、顔つきにも影響を与える要因のひとつです。

噛み合わせが悪くなるのを防ぐためには、舌や頬杖、歯ぎしりなどの癖を治すことが大切です。
もし、噛み合わせが悪くなってしまった場合は、矯正歯科治療で治しましょう。

監修

・総合診療医 院長 豊田早苗

・総合診療医 院長 豊田早苗

専門分野 
総合診療医

経歴
鳥取大学医学部医学科卒業。2001年 医師国家試験取得。
2006年とよだクリニック開業。
2014年認知症予防・リハビリのための脳トレーニングの推進および脳トレパズルの制作・研究を行う認知症予防・リハビリセンターを開設。

資格
医師免許

所属学会:総合診療医学会、認知症予防学会

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