はじめに

近年、ADHD(注意欠陥障害)についてテレビで紹介されたり多くの書物も出版されるようになって、自分はあるいは自分の子どもがADHD(注意欠陥障害)ではないかと悩む人が増えてきています。ADHD(注意欠陥障害)の人は、子どもであっても大人であっても、生きづらさという特性を持っているのだと言うことができるでしょう。

この生きづらさの質が障害とは見なされづらいのです。例えば、うつ病であれば元気がないとか落ち込んでいるとか、他人から見ても心配されるような状態となります。しかし、ADHD(注意欠陥障害)の人は、約束を守らない、宿題をしてこない、人の話を聞いていないといったように、性格の問題であるかのようなことが症状となるのです。

ここで示しているのは、この分かりにくいADHD(注意欠陥障害)の徹底解説です。あなたのお子さんが、ADHD(注意欠陥障害)の可能性があるかを判断する一助となればと思います。

ADHD(注意欠陥障害)は3つの特徴をもった発達障害

ADHD(注意欠陥障害)は、正式には「Attention Deficit Hyperactivity Disor-der」と言って、略にもAD/HDと「/」が入ります。また、日本語訳も主要な学術学会は、注意欠如・多動症もしくは注意欠如・多動性障害とするのが普通です。

しかし、日本ではADHD(注意欠陥障害)という言い方が一般には使われていることが多いため、ここでもADHD(注意欠陥障害)と表記します。

ADHD(注意欠陥障害)は、不注意、多動性、衝動性に関する問題が主症状となる発達障害です。これらの問題は、7歳までに明確に現れるという基準から、12歳になるまでに明らかに現れてくるというように、診断基準が改められています。日本での有病率は正確には分かってはいませんが、厚労省の関連サイトでは学童期の3-7%であるとしています。

具体的な症状3つ

【不注意】
米国精神医学会のDSM-5による診断基準を多少分かりやすく示すなら、以下の9つのうち6つ以上あるとADHD(注意欠陥障害)と診断されます。

・見逃したり見まちがえたりするなどのケアレスミスが多く、することが不正確で綿密に注意を持続できない。
・会話や読書、ビデオ鑑賞などですぐに注意がそれてしまう。
・直接話しかけられているのに、聞いていないように見える。
・すぐに他のことに気が散って、物ごとを集中してやり遂げられない。
・段取りよく計画を立てて物ごとを行うことができず、行き当たりばったりである。
・宿題など努力を要することに取り掛かるのを先延ばしする。
・必要なものを頻繁になくす。
・するべきことや約束を頻繁に忘れてしまう。

なお、好きなことには異常に集中するという過集中や整理整頓ができないという症状は、ADHD(注意欠陥障害)で非常によく見られるものの、診断基準には入っていません。

【多動性および衝動性】
多動性と衝動性は明確に分離しがたいので、一緒の判定基準としてまとめられています。不注意と同様に、以下の9つのうち6つ以上あるとADHD(注意欠陥障害)と診断されます。

・手足を頻繁に動かしたりして、そわそわもじもじと落ち着きがない。
・座っていなければならない状況で、しばしば席を立ってしまう。
・ふさわしくない状況で、走り回ったり高いところに登ったりしてしまう。
・静かに遊んだりするなど、ゆっくりと自分の時間を過ごすことができない。
・ファミレスなどで落ち着かず、じっとしていることができない。
・静かにできず常に喋っているか喋りすぎる。
・質問が終わる前に答え始めることが多い。
・順番が回ってくるのが待てず、しばしば割り込んでしまう。
・他人が一所懸命なにかをしているのに、ちょっかいを出して邪魔をする。

ADHD(注意欠陥障害)には3つのタイプがある

●多動性・衝動性優勢型
男性に多く、一方的に喋り出して止まらない、他人のことにはお構いなしで自分のことばかり話す、空気が読めずに場にそぐわないことや失礼なことを言ってしまう、貧乏ゆすりなど常に体を動かしたりしていて落ち着かないなどの特徴があります。

●不注意優勢型
女性に多く、注意散漫で集中できず、約束や期限を守れない、忘れ物や無くし物が多い、途中で脱線して課題を最後までやり遂げられないなどの状態が目立ちます。

●混合型
多動性衝動性の症状と不注意症状が同じ程度に混在するタイプです。

ADHD(注意欠陥障害)は親のしつけが原因ではない!

ADHD(注意欠陥障害)の原因ははっきりとは分かっていません。
しかし、一般的な親のしつけに問題があるということは否定されています。その一方で、虐待など情緒の障害をもたらす養育の仕方は、悪影響を及ぼす可能性があります。
発達障害に詳しい杉山登志郎医師によれば、被虐待児には発達障害の子どもが多く、また逆に虐待の結果として多動や衝動性の問題が生じることが医療の現場でよく見られるとしています。ADHD(注意欠陥障害)の子どもに虐待とも思えるような厳しい指導を行えば、ADHD(注意欠陥障害)の症状が悪化する可能性があるので注意が必要です。

ADHD(注意欠陥障害)は遺伝する傾向があります。一卵性双生児での発症が一致することはよく見られ、親兄弟もADHD(注意欠陥障害)であることも多いようです。そのためADHD(注意欠陥障害)は、遺伝的要因に何らかの後天的要因が作用し合って発病すると推測されています。
しかし、権威ある海外の雑誌に報告された複数の研究では、大人になってADHD(注意欠陥障害)の診断基準を満たすような人の約70-90%は、子どもの頃にはADHD(注意欠陥障害)であったと診断される症状を示していなかったという報告もあり、まだまだ未解明であるというのが現実です。

ところで、ADHD(注意欠陥障害)で異常が認められるとされる脳の部位は、大きく3つ指摘されています。注意をそらさないでおく機能をつかさどる右前頭前野、反射的な反応を抑制する尾状核と淡蒼球、そして動機付けに機能する小脳虫部です。これらの部位が、健常児童に比べて萎縮しているとの報告があります。その他、脳血流量の低下、出産時の頭部外傷、脳内のドパミンやノルアドレナリンという神経伝達物質の不足などが関係しているという説があります。
しかし、正確な発症メカニズムは解明されてはいないのです。

ADHD(注意欠陥障害)と向き合う方法と治療内容

対処の原則

対処を行うにあったって最も大切なことは、子どもの自尊心を破壊しないということです。

現在、発達障害は病気ではなく、著しく偏った個性と、それに伴う生きづらさであると考えるようになってきています。子どもの個性を大切にして、自尊心を養い、得意なところを伸ばすというように、苦手なところを矯正するのではなく良いところを強化することで、苦手なところを自ら変えていこうとする気持ちを高めて行くことが大切です。
そのためには医療や教育の専門家の手助けが不可欠です。お母さんやお父さんだけで戦っても勝ち目はありません。適切な専門家との連携をしなければならないのです。

自分の子どもがADHD(注意欠陥障害)ではないかと思ったら、一人で考え込まずに地域の発達障害センターなどに相談するようにしましょう。親だけの相談も受けつけています。なるべく早く相談することをお勧めします。

具体的な対処法

ADHD(注意欠陥障害)の子どもさんは、聴覚情報よりも視覚情報の方が理解しやすい傾向があるので、絵や文字で指示を与える方が伝わりやすいかもしれません。ただ、読字障害という学習障害を併発している子どももいるので注意が必要です。読字障害を併発しているときには、長い文章ではなく絵や単語で指示を伝えるといいでしょう。

また、ADHD(注意欠陥障害)の子どもは、普段から自分は何か友達たちとは違うという違和感を感じていたり、何をやっても上手にできなかったり友達とうまくいかないことによって、自信を失っていることが多いものです。そのため、たとえ失敗したとしても頭ごなしに叱ったりせず、行おうとした意欲と努力をほめてあげてください。先に述べたように、それぞれの子どもの個性と得意分野を伸ばすようにしてあげてください。

治療法

【療育治療の実際】
治療法には、対人関係をスムーズに行えるように模擬練習するソーシャルスキルトレーニング(SST)や、社会ではこのうような状況ではどう対応し何を話していいのか悪いのかを、自分で考え出したと思えるように誘導するソーシャルストーリーの訓練、子どもとの接し方を学ぶ親側の訓練であるペアレントトレーニングなどがあります。
その他、不注意症状に対して注意がそれそうになったときに役立つリマインダー(スマホアプリにあるリマインダーとは違います)というものを利用したり、いろいろな注意訓練があります。専門家に相談すると指導してもらえるはずです。

【薬物療法】
薬物療法は必須ではありませんが、多くの子どもで効果が確かめられています。日本では、メチルフェニデートの徐放カプセル(商品名コンサータ)とアトモキセチン(商品名ストラテラ)というお薬が使用できます。両者ともに安全性は十分です。
しかし、依存性の高い覚せい剤類縁物質であるメチルフェニデートを、子どもの頃から使い続けることに危うさを感じるお父さんお母さんもいるかも知れません。これも専門の医療機関でよく相談する必要があります。

ADHD(注意欠陥障害)は予防できるの?

結論から言えば予防はできません。しかし、早期に気づいて専門的サポート(療育)を受けたり治療を行うことはできます。早期に治療と療育を行って子どもの自尊心の低下を防ぎ、将来への可能性を広げることがADHD(注意欠陥障害)の治療における最重要ポイントです。

低下してしまった自尊心の回復は、並大抵のことでできるものではありません。自尊心の低下はストレスへの弱さであったり、うつ病などの精神疾患へのなりやすさを高めてしまうものです。その他、アルコール依存や不安障害へのなりやすさにも繋がります。

これらのメンタル面での病気になるという二次障害を引き起こさないためにも、早期の発見と早期の治療が大切です。

まとめ

ADHD(注意欠陥障害)は発達障害であり、子どもにだけ生じると思いがちです。しかし、子どもの頃に目立たなかったにもかかわらず、大人になってからの方が生きづらさが目立つようになる人がたくさんいます。

このような人も、もし子どもの頃から療育や治療を受けていれば、大人になってからの生きづらさは生じなかったかもしれません。療育や治療は症状を治すという意味合いよりも、より本来したいことに向かえるようになるためのものです。少しでも自分の子どもに違和感を感じているようなら、早めに専門機関で相談するようにしましょう。

監修

・精神科医 米澤 利幸

・精神科医 米澤 利幸

専門分野 
社会不安障害、不安障害、うつ病

経歴
昭和58年 島根医科大学(現島根大学)医学部 卒業
平成 9年 福岡大学精神神経科外来医長
平成12年 赤坂心療クリニック院長

資格
医学博士
精神保健指定医
日本精神神経科学会専門医

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