・現在のお仕事や活動内容について

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モーニングでの連載がひとつの区切りを迎えたので、作画の練習などをしつつ、次へ向かうための構想を考えています。
また、他のWeb漫画サイトに掲載するための作品も思案中です。
漫画以外のところでは、家事と子育てに追われる日々です(笑)

・素直なカラダを執筆するにあたって

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私が一念発起して、漫画家を志したきっかけの一つは、東日本大震災です。
「明日何かが起こって突然終わりになってしまうかもしれない。」そう強く思いました。
「だから、後悔しないためにやってみたかった事をやってみよう。あわよくば、形として残したい!」という思いから再度描く事を始めました。

また、震災後からの私の目標の中に「お世話になった人たちへの恩返しをする」というものがありました。生まれ育った盛岡の街、そして鍼灸・東洋医学の世界は、私を形作ってくれたものの1つです。
自身の治療技術も高いわけではないし、大きなネットワークも持っているわけではないその他大勢の中の一人の私が、じゃあ、何ができるだろう?

そう考えたときに「今身を置いている漫画という分野だったらどうだろう?」と思いつき、鍼灸をテーマに漫画を描こうと思いました。

漫画界では、鍼灸は、まだまだ未開の分野ですし、漫画はカルチャーとしても、広く多くの方が触れる機会があります。
昨今では、漫画やアニメにおける「正の外部性」も注目されています。漫画という媒体で、東洋医学・鍼灸が少しでも多くの方の目にとまってもらえれば、何か役に立てるかも知れないと思いました。
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鍼灸業界において、認知度と受療率の向上は重要な問題になっていると思います。
最近色々な方のお話を聞く中で、業界内で異分野(異業種)との、コミニュケーションを積極的に進めている方々が沢山いらっしゃることを知りました。

とても素晴らしいことだなと思います。
対峙する双方の分野のギャップが大きいほど、面白い反応が起きるのではないかと思います。

双方の分野の距離が遠いほどその二つの間に包括される人達の多様性も高くなり、色々なチャンスやアイディアが生まれていくのではないかと期待しています。

・苦労した点について教えてください。

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まず「東洋医学の知識にない方に、どうすればわかりやすく伝えることができるか」
というのは一番の課題でした。

鍼灸は、様々な流派考え方の先生がいらっしゃるので、東洋医学の部分の表現の仕方もあまり偏り過ぎないように、あまり深くまで掘り下げないようにという事を念頭に置いて描きました。
ともすれば、解説ばかりの漫画になりかねません。
専門的な小難しい理論は「東洋医学に初めて触れる読者」にはハードルを上げてしまうことになると思いました。

あくまでも、「漫画」という事を頭にすえて、エンターテインメント性も重視しなければと思いながら描きました。

施術の描写に関しては、漫画的表現を意識するようにしました。
実際の施術は、正直派手なものではないので。
曲直瀬の手の動きには気持ちを入れて描いていました。

実際の熟練した治療家の先生方の、「柔らかい手の動き」を、静止画でもどうにか表現したくて、何度も描き直したりしました。

鍼灸という題材は、西洋医学の医療漫画のように、生死にダイレクトに関わるような、インパクトがあって、ドラマティックな展開もなかなかありません。
正直漫画としての印象は弱くなってしまいます。
そこをどうやったらカバーできるか、担当の加藤さんとも色々話し合いました。

そこで、「キャラをいかしたストーリー展開にする」ことを念頭に進めることにしました。
曲直瀬という、ミステリアスで飄々として、つかみどころのないキャラクターを軸にし、曲直瀬の感情的表現が薄い分、周りのキャラには感情表現を沢山させてバランスを取るように心がけました。

なお、作中の東洋医学の解説部分は、恥ずかしながら自身の知識のみでは心もとない部分もありました。
その際は、九州医療専門学校の村上晋介先生に色々とご教授いただきました。
村上先生なくしてはこの作品は成り立たなかったことと思います。心より感謝しております。

また、作画に関してもお力添えをいただいた方がいらっしゃいます。いかんせん漫画家としてのスタートも遅く、アシスタント経験も無い新人の私です。絵や、漫画的表現においても未熟で課題点ばかりでした。
そんな時にご縁があってお会いしたのが皆川正幸先生です。

皆川先生は、「タッチ」など数多くの名作を生み出した、あだち充先生のプロダクションにも在籍されていた事のある、素晴らしい先生です。
ご自身も連載経験がおありで、漫画の講師もなさっています。

皆川先生にもまた、色々とご教授いただきました。本当に感謝しております。

漫画の執筆中には、生活時間も不規則になり、家族にはたくさん迷惑をかけてしまいました。
それでも家族も周りの方々も否定せず、協力してくれました。
本当に色々な方々に支えていただき、完成した作品なのだと思っています。

・伝えたいこと

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正直、この「素直なカラダ」という漫画のみで、鍼灸の奥深さや、魅力を伝えることができるとは思っていません。それを伝えることができるのは、全国の鍼灸師の先生方だと思っています。

患者様が実際に、受療し、体感し、そこで初めて伝えられるものがあるのだと思います。

この漫画は、誰かがそのファーストステップを踏み出すための、前前前段階くらいのきっかけになってくれれば嬉しいと思っています。

・これからについて

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「素直なカラダ」に関しては、初めから短期集中連載でということでしたので、一応1巻でまとまっています。
しかしながら、私の頭の中には、まだ描ききれていない部分が色々と残っています。
何かの機会があれば、その部分もぜひ描けたらいいなと思っています。

プロフィール

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岩手県盛岡市在住。2013年『桜の木の下で』で第3回いわて漫画大賞大賞を受賞。
2016年『宇宙の孤独』で第69回ちばてつや賞奨励賞を、『てっちゃんと』で第70回ちばてつや賞佳作を受賞。受賞時のペンネームは空木由子。

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