はじめに

まず腰痛とは、読んで字のごとく腰に痛みが生じる疾患です。この腰痛ですが、実は男性では1番目、女性では肩こりに次いで2番目に多く訴えられる症状といわれています。さらに腰痛を訴える人は現在4人に1人ほどとされ、この数は年々増えています。また小学生~高校生といった年代にも腰痛がみられることもあり、幅広い年齢層で腰痛を訴える人がいることも分かっています。

年代別腰痛の診断名

10代に多い腰痛

10代はこれから身体が出来上がっていく時期です。この年代に多い腰痛としては「筋・筋膜性腰痛症」や「腰椎分離症」などがあげられます。

20代~40代に多い腰痛

20代~40代はいわゆる働き世代です。この年代には「腰椎椎間板症」や「腰椎椎間板ヘルニア」といった腰痛が多く見られます。

50代以降に多い腰痛

50代以降は中高年といった年代になります。この年代ではそれまでの生活習慣の影響などが深く関係する「変形性腰椎症」「変形性腰椎すべり症」「腰部脊柱管狭窄症」「腰椎圧迫骨折」などが多く見られます。

年代別腰痛の原因

10代に多い腰痛

10代に多く見られる筋・筋膜性腰痛症や腰椎分離症は、体の発達が未熟であるために起こることが多いとされています。

筋・筋膜性腰痛症は特にスポーツ時の障害で起こることが多いとされ、無理な体勢をとったり、急に負荷がかかってしまうことで腰部の筋肉や筋膜が損傷を受けてしまうことで起こる腰痛です。

この腰痛は動作時に痛みが出現することが特徴で、安静にしているときには痛みが落ち着くことが多いようです。

腰椎分離症はいわゆる腰椎の疲労骨折です。こちらも筋・筋膜性腰痛症と同様、まだ骨が出来上がっていない時期に無理な体勢をとったり負荷がかかってしまうことで起きてしまいます。

こちらもスポーツ時などに起こることが多いとされています。

20代~40代に多い腰痛

この年代に多く見られる腰椎椎間板症や腰椎椎間板ヘルニアは、主に日常的な姿勢や仕事などの生活習慣が大きく関係しています。

腰椎椎間板症は、腰椎と腰椎の間にある椎間板という部分がつぶれてしまった状態を指します。

この椎間板がつぶれてしまう原因としては、この椎間板に繰り返し負荷がかかることが挙げられます。

主には動作が大きく関係しており、重たい荷物を持ち上げたりおろしたりといった動作に加え、腰をひねる動作が加わることで椎間板に負荷がかかることで発症しやすくなります。

また腰椎椎間板ヘルニアも腰椎椎間板症と同じような動作をとることで発症しやすく、こちらは腰椎と腰椎の間にある椎間板が変形して突出してしまうことで、この後方を走っている脊髄という神経を圧迫してしまい、腰痛がおこるものとされています。

50代以降に多い腰痛

この年代に多く見られる変形性の腰痛は、主にそれまでの生活習慣によって腰に負荷がかかり、結果として腰の骨や椎間板などに変形が生じることで現れます。

特に変形性腰椎症や変形性腰椎すべり症などは、加齢によって椎骨や椎間板が変形することで神経を圧迫しやすくなり、症状が現れます。

また腰部脊柱管狭窄症も加齢によるところが多く、年を取るにつれて神経の通り道である脊柱管が狭窄してしまうことで症状が現れます。

年代別腰痛の予防法

10代に多い「筋・筋膜性腰痛症」「腰椎分離症」

これらの腰痛は、身体の発達が未熟であるために起こりやすくなると述べました。

そのため、腰部を支える体幹の筋肉を鍛えることが大切です。

具体的には、腹筋や背筋を鍛えるための筋肉トレーニングや、柔軟性を高めるためのストレッチがこれらの腰痛には効果的です。

20代~40代に多い「腰椎椎間板症」「腰椎椎間板ヘルニア」

これらの腰痛は、椎間板に繰り返し負荷がかかることが原因で、椎間板がつぶれてしまったり(腰椎椎間板症)、椎間板が突出してしまう(腰椎椎間板ヘルニア)疾患です。

そのため予防法としては、腰に繰り返し負担をかけないことが重要です。

椎間板に負荷をかけやすい動作としては、前かがみで重たいものを持ち上げたり、その状態で腰をひねる動作が加わった場合などがあげられます。

そのため重たいものを持ち上げる際は前かがみになるのではなく、膝を曲げて下半身の力で持ち上げるようにしましょう。

また左右への回旋が必要な場合は腰をひねるのではなく、身体の向き自体を変えるなど、少しの工夫で大きな予防策となりますよ。

50代以降に多い「変形性腰椎症」「変形性腰椎すべり症」「腰部脊柱管狭窄症」

これらの変形性疾患や狭窄症などは、主な原因は加齢によるものになりますが、予防法としては、良い姿勢を保つことや骨や筋肉を鍛え、しっかりと栄養を摂ることなどがあげられます。

年を取るとどうしても骨密度や筋力の低下などがみられます。ですが、筋力が低下することで筋肉による体の支えが弱くなり、姿勢が悪くなったり、支えられない分の負荷が骨や椎間板などにかかりやすくなってしまいます。

そのためきちんとした食事を摂り、運動習慣を日常生活に取り入れることが大切です。これにより体幹を支えるための筋力を維持することができ、結果として腰痛予防につながります。

同じく50代以降に多い「腰部圧迫骨折」

腰部圧迫骨折は、しりもちをつくなどして腰に強い負荷がかかることで、腰部で骨折を起こしてしまう状態をさします。

これは、加齢による骨粗鬆症が原因であることが多いとされています。特に閉経後の女性は、ホルモンバランスの変化によって骨粗鬆症になるリスクが高いとされており、ほかにも喫煙習慣のあった人や生活習慣が大きく偏っていた人などにも多く見られる傾向にあります。

そのため腰部圧迫骨折を避けるためには骨粗鬆症を予防することが大切です。予防法としては、カルシウムやビタミンDといった骨を強くする栄養素をうまく取り入れながら、バランスのよい食事を心がけることが大切です。また骨を強くするためには運動も不可欠です。

具体的にはスクワットや階段昇降などが効果的とされているため、ぜひ運動習慣も日常生活に取り入れてみてはどうでしょうか。

年代別腰痛の治療法

筋・筋膜性腰痛症による腰痛の場合、まずは安静にしましょう。そして痛みが軽減したらストレッチなどを行い、筋力や柔軟性が低下してしまうのを防ぎましょう。
痛みに対しては消炎鎮痛剤の内服や湿布の貼付などが有効です。

腰椎分離症

腰椎分離症はいわゆる腰の骨の疲労骨折です。そのため、ギブスやコルセットなどで固定することが第一選択となります。万が一この方法で改善しない場合や神経の圧迫などで日常生活に支障が出る場合は、固定術や圧迫除去術などの手術が行われる場合もあります。

腰椎椎間板症・腰椎椎間板ヘルニア

痛みが強いときにはまずは安静にしましょう。そして痛みが軽減してきたらまずは保存療法を行います。

保存療法としては、NSAIDなどの消炎鎮痛剤の内服を行います。それでも痛みが強い場合は、痛みを引き起こしている部分の神経周囲に局所麻酔を行い、炎症を抑える神経ブロックを行うこともあります。

これで効果がみられない場合や、神経圧迫による症状が進行するは手術療法を行います。

変形性腰椎症・変形性腰椎すべり症・腰部脊柱管狭窄症

これらが原因の腰痛の場合も、腰椎椎間板症や腰椎椎間板ヘルニアなどと同じような治療法が行われます。
まずは保存療法による消炎鎮痛剤の内服や神経ブロック、これで改善が見られない場合は手術療法となります。

腰部圧迫骨折

腰部圧迫骨折の場合、まずは骨の癒合を試みるためにコルセットなどにより固定し、安静を保ちます。症状に合わせて、疼痛がひどい場合は消炎鎮痛剤の内服を行うこともあります。

また腰部圧迫骨折は、骨粗鬆症が原因であることが多いため、骨を強くする薬の内服も併せて行うことが多いようです。

これらの保存療法で改善が見られない場合は、固定術や椎体形成術などの手術が行われます。

おわりに

このように、年代によっておこりやすい腰痛はそれぞれ異なります。また腰痛の多くは保存療法が第一選択となりますが、症状が進行する前の早期から治療を開始することが望ましいとされています。そのためただの腰痛と思って放置せず、気になる場合は早めに整形外科を受診しましょう。

監修

・総合診療医 院長 豊田早苗

・総合診療医 院長 豊田早苗

専門分野 
総合診療医

経歴
鳥取大学医学部医学科卒業。2001年 医師国家試験取得。
2006年とよだクリニック開業。
2014年認知症予防・リハビリのための脳トレーニングの推進および脳トレパズルの制作・研究を行う認知症予防・リハビリセンターを開設。

資格
医師免許

所属学会:総合診療医学会、認知症予防学会

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