ファンクショナルトレーニングとは

『ファンクショナル』とは、直訳すると『機能的な』となります。

筋力トレーニングは筋力増強を、持久トレーニングは持久力を高めることを目的としており、その内容もわかりやすいでしょう。一方、ファンクショナルトレーニングは一見どのような機能を高めるのかよくわかりません。

ファンクショナルトレーニングは、『人の動作』に着目しています。

トレーニングでは、まず、スポーツ競技または日常生活で行う動作の一つをピックアップします。
その動作と同じか、その動作の作用を含む動きを理想的なフォームで反復して練習することで、身体に正しい動作を染み込ませます。
身体に無理な負担をかけず、自分の身体能力を最大限生かすことができます。

ファンクショナルトレーニングの効果

1. 効率のよい動作を習得できる

ファンクショナルトレーニングでは、実際に行う動作に近い運動を反復して練習することで、効率のよい動作を習得します。

例えば、高跳びなどやバレーボール、バスケットボールといった高く飛べることでパフォーマンスが向上する競技があります。
これらの競技において、太ももやお尻の筋力は絶対的に必要ですが、筋力とジャンプ力は必ずしも比例していません。
高くジャンプするためには、足関節、膝関節、股関節をバランスよく曲げて下半身にパワーをため、そこから一気に全ての関節を伸ばすことが必要です。
このように高いパフォーマンスを発揮するためには、複数の関節や筋肉をバランスよく動かし、一つの動作として最も効率のよい動きをする必要があります。

ファンクショナルトレーニングでは、自分の持っている筋力や関節の動きをうまく組み合わせ、目的とする動作を効率よく行う方法を習得することができます。

2. 動作の安定性を高める

ファンクショナルトレーニングでは、正しい動作が身体にしみつくまで反復して練習する必要があります。
例えば、本来スピードのある動作でも、ゆっくりとフォームを確認しながら行います。
慣れてきたら、徐々にスピードアップして実際の動作に近づけるということも行います。
このように、同じ動作を反復して練習していくことで、徐々に安定したフォームで動作が繰り返されるようになります。
実際のパフォーマンスでもフォームが崩れることなく、安定した動きができるという仕組みです。

3. ケガを予防できる

効率のよい動作を行うと、自分の持っている筋力や関節の可動域をうまく発揮することができます。
1か所の関節や筋肉に負担が集中することもないため、ケガをしにくくなるというメリットが、ファンクショナルトレーニングにはあります。
また、反復して練習することで動作の安定性が高まるという点においても、フォームが崩れにくくなり、ケガを防ぐことにつながります。

マシントレーニングとの違い

ファンクショナルトレーニングはマシントレーニングとどのように違うのでしょうか。
それぞれのメリットやデメリットを含めてご説明します。

1. 実際に行う動作を使う

マシントレーニングとの最も大きな違いは、ファンクショナルトレーニングでは、競技や日常生活で使う動作を取り入れているという点です。

マシントレーニングによる筋力強化では、筋力は着実に向上しますが、だからといって競技や日常生活の動作がうまくできるようになるとは限りません。

一方、ファンクショナルトレーニングでは、目的とした動作を反復して練習します。
そこでできるようになれば、競技や日常生活でその動作を行うときにパフォーマンスの向上が見られます。

2. 複数の関節や筋肉を一度に使う

マシントレーニングでは、マシンによって鍛える筋肉がはっきりと絞られています。

一方、ファンクショナルトレーニングでは、あらゆる筋肉を同時に使いながら一つの動作を行います。
いろいろな筋肉がバランスを取りながら役割を果たすことで、一つの動きが完成するという点でマシントレーニングと大きな違いがあります。

3. 必要以上の筋力を使わない

マシントレーニングは筋力増強を目的としています。
決められた反復回数をこなす中で、できるだけ大きな負荷をかけて行うということが、マシントレーニングの基本です。

一方、ファンクショナルトレーニングでは、効率的で正しい動作をするということが目的なので、その動作を行う以上の筋力は基本的には使いません。
一定以上の筋力はつきませんが、その動作を行うために不足している筋力があれば、正しいフォームをとることがでないので、どの筋力が不足しているかが分かります。
この点はファンクショナルトレーニングのメリットでもあります。

4. 負荷は自重

マシントレーニングでは、錘で負荷の調節を行いますが、ファンクショナルトレーニングでは、基本的に自分の体重が負荷になります。(道具を持って動作を行うこともあります)
自重だけだと物足りない方もいらっしゃるかもしれませんが、自重をしっかりとコントロールして動かすことは、パフォーマンスの向上にも直結します。

ファンクショナルトレーニングのメニューの具体例

ファンクショナルトレーニングの具体例をご紹介します。

1. スクワット

スクワットは、跳躍競技や相撲、ラグビーといった相手と組み合うような競技において大変重要な動きです。
高くジャンプするには、踏み切りで重心を下げたときにしっかりと下半身でパワーをため、ジャンプとともに開放することが必要です。
足関節、膝関節、股関節が連動して曲がり、連動して伸びることで高い跳躍を可能にしています。

また、相撲やラグビーなどの競技では相手とぶつかったときにも負けない下半身の粘りが必要です。
跳躍と同じように足関節から股関節までを連動して曲げ、重心位置を常に身体の中心に保つことで、押されても負けない安定した身体になります。

① 両足を骨盤の幅に開き、つま先は進行方向に合わせて立ちます。
② 手は胸の前か身体の後ろに組む、もしくは身体の横に沿わせておきます。
③ 足関節、膝関節、股関節を全て同じくらい曲げ、ゆっくりと重心を落としていきます。
④ ハーフスクワットでは膝が90度程度に曲がるところまで、フルスクワットでは太ももが床と平行になるところまで重心を落とします。
⑤ ゆっくりと重心を上げて元の体勢に戻ります。

2. トランクローテーション

野球のバッティングやゴルフなどの競技では、身体の回旋が重要になります。
身体の軸をぶらさずに回旋することと、股関節と脊柱(背骨)の動きを連動させて大きな回旋可動域を得ることが、パフォーマンスのポイントです。
ここでは、回旋を用いたファンクショナルトレーニングをご紹介します。

① 骨盤の幅に足を開いて立ち、両肩の上に適当な長さの棒を乗せて担ぎます。
② 頭から背骨にかけての身体の軸を意識しながら、身体を左右交互に捻ります。

肩に担いだ棒が前後左右に傾いていないか、左右同じくらい身体が捻れているのかを確認しながら行ってください。
これができるようになったら、スクワットの始めの体勢のように軽く腰を落とした状態でこのローテーションを行います。
野球のバッティング動作やゴルフのスイングでは、軽く下半身を曲げた状態で回旋するので、重心を下げた状態で同じように軸を保って回旋できるとよいでしょう。

3. アームレッグクロスレイズ

この動作はバレーボールのスパイク動作などで必要になるものです。
ジャンプして大きく身体を反らしてボールを打つという動作を行う際に、手だけでボールを打つのではボールに力が伝わりません。また、腰が反り過ぎると、腰痛を引き起こす原因にもなってしまいます。
そのため、腰が反り過ぎないように体幹の筋力で固定した上で、身体のしなりと肩甲骨、肩関節の動きが連動することで、安全かつ強烈なスパイクを実現することができます。

① 四つ這いになり、両肩の真下に両手、両股関節の真下に両膝をつきます。
② 身体を横から見たときに、肩から股関節までがまっすぐになるように腹筋と背筋で体幹を固定します。
③ 右手を前に伸ばすと同時に、左足を股関節から大きく後ろに伸ばします。
④ 手足の左右を反対にしながら、交互に対角になる手足を動かします。

手先から足先までのラインが滑らかなカーブを描くように注意しましょう。
手足に対して極端に腰が反っていないか、手と足がバランスよく伸びているか、体幹部が左右に傾いていないかなどを確認しながら行ってください。

おわりに

今回は、ファンクショナルトレーニングについてその目的やマシントレーニングとの違い、ファンクショナルトレーニングのやり方を具体的な例を使ってご紹介しました。
動作の細部まで注意しなければならず、最初は難しいと感じることもあるかと思いますが、自分の持っている力を最大限に活かして最高のパフォーマンスにつなげる近道になるトレーニングです。
パフォーマンスに伸び悩んでいるとき、改めて自分の動きを見直したいとき、ケガに強い身体を作りたいときなど、ぜひ挑戦していただければと思います。

監修

・総合診療医 院長 豊田早苗

・総合診療医 院長 豊田早苗

専門分野
総合診療医

経歴
鳥取大学医学部医学科卒業。2001年 医師国家試験取得。
2006年とよだクリニック開業。
2014年認知症予防・リハビリのための脳トレーニングの推進および脳トレパズルの制作・研究を行う認知症予防・リハビリセンターを開設。

資格
医師免許

所属学会:総合診療医学会、認知症予防学会

関連する記事

関連するキーワード

著者