はじめに

最近はテレビで取り上げられたり、自身がアスペルガー症候群であることを公表する著名人もいるため、病気そのものへの認知度は以前に比べて上ってきました。

しかし、アスペルガー症候群に対する正しい知識を持っている人はまだ多くはないのではないでしょうか?アスペルガー症候群の人が身近にいる人はもちろん、そうではない人も含めてきちんとした知識を持つことが必要とされています。

今回は、前半部分でアスペルガー症候群の症状の特徴をまとめ、後半部分で症状への対応の仕方についてまとめます。

アスペルガー症候群とは

1)アスペルガー症候群と自閉症スペクトラム障害について

もともとアスペルガー症候群は、最初に症例を報告したオーストリアの小児科ハンス・アスペルガーにちなんで名付けられた診断名です。

しかし、現在は2013年に出版されたDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)によって、アスペルガー症候群、高機能自閉症、早期幼児自閉症などといったそれまで別々の診断名だったものが、自閉症スペクトラム障害という一つの診断名に統合されています。スペクトラムとは連続体を意味していて、それぞれの診断名に境界線を設けないという考え方があります。

2)アスペルガー症候群と3つのタイプについて

(1)小学生くらいまでは積極的なタイプ

アスペルガー症候群に最も多いタイプで、小学生くらいまでは理屈っぽい、口達者な一面が見られます。また、好奇心旺盛で周囲の出来事への関心も高いのです。

しかし障害の特性上、相手の事情について考えるのが困難なため、節度やマナーが乏しく見られがちです。例えば会話において、相手と交互にコミュニケーションをとるのではなく、一方的に質問を繰り返す、自分の興味のあることを話し続ける、反応が乏しいなどが見られます。つまり、会話のキャッチボールが苦手です。

小学生くらいまではユニークな子、面白い子という評価を得ることも多いです。しかし、年齢が上がるにつれて周囲から奇異な目で見られるようなり、また本人もそれを自覚するため、積極的ではなくなり、大人しくなっていくことが多いです。


(2)受け身のタイプ

(1)に次いで代表的なタイプで、対人関係において消極的なのが特徴です。自分から相手に関わりを求めたり、話しかけることはありませんが、周囲への関心は持っているため、話しかけられたりすると対人関係を楽しむことができます。奇異さはあまり目立たず、おとなしく、優しい子という印象を持たれます。しかし、何かのきっかけで相手からのアプローチが途切れると、交友関係が自然消滅します。


(3)孤立するタイプ

(1)や(2)と異なり、周囲への関心そのものが薄いのが特徴です。相手から関わりを求められても反応が乏しく、そっけない印象を与えてしまうため、相手は拒絶されたと感じ、交友関係を築きにくくなります。

3)アスペルガー症候群全体に共通した2つの特徴

アスペルガー症候群は、上記のような3つのタイプに分けることができます。これらに共通しているのは、①対人関係が不器用なこと、②強いこだわりを持っていることです。②については、鉄道や昆虫、数学などのある特定の分野において並外れた知識量と関心を持ちます。

アスペルガー症候群の症状やその特徴

アスペルガー症候群の症状には、①社会性の障害、②コミュニケーションの障害、③反復性の行動(同じ行動を繰り返す)・限局性の興味(狭い分野への関心)という3つの大きな特徴があります。このそれぞれの特徴について説明します。

1)社会性の障害

(1)アイコンタクトが不自然

アスペルガー症候群の人とは視線が合いにくく、相手の顔をあまり見ようとしないのが特徴です。


(2)表情や声の調子などから相手の感情を読み取るのが苦手

相手の視線・声の調子・身振りによって伝えようとしているニュアンスを読み取ることが苦手です。その原因として、アスペルガー症候群の人は顔を見分けたり、表情からその人の感情を読み取る能力を身につけるのが、健常者に比べて何年も遅れるためとされています。また、アスペルガー症候群の人自身も表情や身振りが乏しい、声の調子が単調などという特徴があります。


(3)交互に会話ができず、一方的に話す

言葉のキャッチボールができず、スピーチや講演会のようになってしまいます。


(4)相手の気持ちや考えを察するのが苦手

相手が口に出した言葉は、額面通りに受け取ってしまいます。したがって、皮肉や建前が分かりません。また、自分の行為を相手がどう受け取るかが想像できないため、(悪意がないのにも関わらず)相手を不愉快にするような言葉を口にしたり、傷つけてしまいます。例えば、ダイエット中であるもの、あまり減量効果の上がらない女性に対して、「へえ、全然痩せてないじゃん」と平気で言ってしまいます。


(5)自身の外見に無頓着

人からどう思われているか、ということには興味があまりありません。そのため、服装や身だしなみにも無頓着なケースが多く、ボサボサの髪、化粧っけがない、いつも同じ服を着ているなどが見受けられます。このように、人からの評価よりも自身の興味のある分野の事実に関心が向けられます。


(6)一人を好む

集団遊びや集団行動が苦手で、一人で楽しめる遊びなどを楽しいと感じます。また、アスペルガー症候群の子供はごっこ遊びをあまりせず、ルールが決まっているシステム化された遊び(カードゲーム、テレビゲーム、将棋など)に熱中すると言われています。

2)コミュニケーションの障害

アスペルガー症候群のコミュニケーション障害の特徴は、言語能力そのものには優れているのにも関わらず、コミュニケーション(相手との言葉のキャッチボール)を不得意としていることです。そのため、以下のような症状が見られます。


(1)ユーモアや冗談が通じない(文字通りの言葉を受け取る)

相手が言った何気ない冗談を、攻撃として受け取ってしまうことがあります。例えば、相手に「トイレに行って来るから、鍋を見ておいて」と言われたとします。しかし、アスペルガー症候群の人の場合は、鍋から焦げ臭い匂いがしていても、ただ鍋を見ているだけということがあります。その後、相手から怒られて黙っていたため、「ウンとかスンとか言いなさい」と言われると、「スン」と返答することがあります。このように、アスペルガー症候群の人は言葉を文字通りに受け取るため、なぜ真面目に鍋を見ていたのに自分は怒られなくてはいけないのかと疑問に思い、逆に腹を立てることも少なくありません。


(2)コミュニケーションが一方通行になる

自分が興味や関心のあることについて、状況や相手の立場、場所と言ったTPOをわきまえず一方的に質問したり、話し出します。例えば、初対面の人に未婚か既婚かを質問したり、年収を尋ねたりします。このようになる原因として、アスペルガー症候群の人は言葉を話す・書く能力に比べて、言葉の意味を理解して聞き取る能力が弱いためとされています。つまり、ヒアリング能力が弱いと言えます。


(3)自分の感情を言葉にするのが苦手

アスペルガー症候群の人は、相手の感情に無頓着なだけでなく、自分の感情や感覚についても自覚するのが苦手です。今の気持ちが怒りなのか、悲しみなのか、悔しさなのかが見分けられず、単に不快な感じとして自覚されます。そのため、感情をコントロールできずに癇癪(かんしゃく)を起こす、自分の気持ちが分からない、自分の気持ちを上手く言えないなどということが起こります。

3)反復性の行動・限局性の興味

(1)同じ行動パターンを好む

アスペルガー症候群の人は、慣れ親しんだ方法で反復することにこだわります。そのため、同じように行動することに対しては安心感を持ちますが、急な変更に対しては、強いストレスが生じてパニックを起こすこともあります。例えば、何時間も物をあるルールに沿って並べる、手をひらひらさせる、身体を前後に揺らす、物をリズミカルに鳴らすなどがあります。このように同じ行動を反復する行為を、常同行動と言います。


(2)狭い分野に興味を持ち、並外れた記憶力を持つ

アスペルガー症候群の人は、周囲の人に煩わされることなく、自分の興味を持った世界に没頭できます。そのため、ずば抜けた集中力を発揮し、専門家顔負けの知識を持っていることがあります。

アスペルガー症候群の人への対応(付き合い方)

ここでは、職場や学校において、アスペルガー症候群の人とどのように接すれば良いかについて説明します。

1)スケジュールをパターン化し、ルールは視覚的に分かる方法で示す

アスペルガー症候群の人は、社会的常識が分かりにくいという弱みがあるものの、ルールや規則は守るべきものだという意識が高いことが多いです。そのため、その日やるべきことを目で見て分かる形(紙に書く、電話よりもメールで伝えるなど)にしましょう。また、ルールを伝えるときは、理由も一緒に添えるとアスペルガー症候群の人にも理解してもらいやすくなります。

2)極力、変化することを避ける

アスペルガー症候群の人は、様々な変化に対応することが苦手です。クラス替えや配置転換に加えて、昇進などの周囲から見れば良い変化と思えるようなことも、本人にとっては大きな負担となります。そのため、愚痴や弱音を言い出しやすい環境を作る(無理していないか、疲れが溜まっていないか声をかけるなど)ことが大切です。また、そもそもむやみに配置転換をしないという配慮も必要となります。その方が、アスペルガー症候群の人は問題なく一つのことに高い能力を発揮し続けることが多いからです。

3)広く浅くよりも狭く深く、を尊重する

アスペルガー症候群の人に対して、2つ以上のことを同時進行することを求めたりすると、作業効率は2分の1以下になるだけでなく、強いストレスとなって抑うつ症状や頭痛・腹痛などの身体症状が現れることもあります。したがって、一つの作業に集中できる環境を作ることが賢明です。特に、単調な作業をとても正確に淡々と続けることができるという強みを持っているため、その特性を活かした作業を任せるようにしましょう。

おわりに

今回はアスペルガー症候群についてご紹介しました。

注意してほしいのは、今回ご紹介したアスペルガー症候群の症状が全ての人にあてはまるというわけではないことです。一口にアスペルガー症候群といっても、その症状の有無や度合いは様々で、一概にこうだというものはありません。

私たちは、アスペルガー症候群の人と接するという意識ではなく、障害の特性も理解しながらその人自身としっかり向き合う姿勢をもつことが大切です。

監修

・総合診療医 院長 豊田早苗

・総合診療医 院長 豊田早苗

専門分野 
総合診療医

経歴
鳥取大学医学部医学科卒業。2001年 医師国家試験取得。
2006年とよだクリニック開業。
2014年認知症予防・リハビリのための脳トレーニングの推進および脳トレパズルの制作・研究を行う認知症予防・リハビリセンターを開設。

資格
医師免許

所属学会:総合診療医学会、認知症予防学会

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