はじめに

ケガは言うに及ばず化膿したときなど、色々な病気にともなう症状が”痛み”です。
この痛みの種類にも色々あって、通常の痛み止め(以下、鎮痛薬と表記)で比較的容易に治るものから特別な薬を使わないと改善しないものまで、様々な痛みとそれぞれに適する薬があります。

ここで紹介するのは、痛みの中でも厄介な痛みである神経障害性疼痛の治療薬リリカについてです。

その効果効能と作用の仕方や副作用などについて解説します。また、リリカは通常の鎮痛薬と効果の現れる仕組みが異なります。リリカという薬をより理解するためには、痛みの種類や痛みを感じる仕組みについての知識が必要です。

ここではリリカという薬だけではなく、痛みの種類と痛みを感じる仕組みの違いについても解説しています。

痛みの種類

侵害受容性疼痛

切り傷などの外傷や化膿など、炎症が生じたときに発生する痛みです。
傷つけられた細胞や炎症部位に集まってきた炎症細胞から、痛みのセンサーである侵害受容体を刺激する種々の痛み物質(カリウム・セロトニン・ブラジキニン・ヒスタミンなど)が放出されます。さらにそれらの痛み物質の作用を強める物質(サブスタンスP・ロイコトリエン・プロスタグランジンなど)も放出されれて痛み物質がより強く侵害受容体を刺激します。そして侵害受容体からの痛みの信号が、大脳の知覚領野に伝えられて痛みを感じることになるのです。

侵害受容体を介した痛みは傷ついたり炎症が生じている部位に限定され、押さえると痛みが出ます。痛みは一定の強さで持続しますが、ときに拍動するように痛むこともあります。また、体を動かすと痛みが強くなるというのも特徴です。打撲や切り傷などの痛みがこれにあたり、通常の鎮痛薬で効果が得られます。

通常の鎮痛薬とは、いわゆる痛み止めとして一般に馴染みのある薬であり、非ステロイド性抗炎症薬(以下NSAIDsと表記:非麻薬性鎮痛薬とも言う)と呼ばれるものです。痛みの原因物質として最強のブラジキニンの作用を、プロスタグランジンという物質が増強して痛みを感じるようになります。このプロスタグランジンを作る酵素であるシクロオキシゲナーゼの働きを阻害するのがNSAIDsです。

つまり侵害受容体を強力に刺激するブラジキニンの作用を強めるプロスタグランジンを少なくすることで、NSAIDsは痛みを和らげます。

神経障害性疼痛

末梢および中枢神経が何らかの原因により直接的に傷つけられて生じる痛みです。
上記の侵害受容性疼痛と異なり、侵害受容器が刺激されずに発生します。神経自体が傷つくことで、その神経に関係する神経が過敏となり、傷ついた神経を持続的に刺激するようになるのです。その後、いくつかの過程を経たのち、痛みを感じる中枢神経細胞内にCaイオンが流入(後述のリリカはこれに作用!)するようになって、痛みを感じる中枢神経が過剰に興奮し痛みを感じやすくなります。さらに関連しているとされるのは、痛みを抑制する系統の神経の機能低下です。

実際の障害としては、腰椎の椎間板ヘルニアによる神経圧迫で生じる坐骨神経痛や、帯状疱疹ウイルスが神経内にとどまって神経を傷つけることで生じる帯状疱疹後神経痛などがあります。

鎮痛薬は、先に述べた通常の鎮痛薬であるNSAIDsと麻薬性鎮痛薬に分けられますが、神経障害性疼痛は、その両方の鎮痛薬の効果が得られないのです。痛みに効果がある薬には鎮痛補助薬といわれる薬があり、神経障害性疼痛に効果が期待できるリリカは鎮痛補助薬に分類されます。

心因性疼痛

心因性疼痛とは、心理的な要因で起こる痛みです。
実際の外傷や炎症および神経の直接の損傷がないにもかかわらず、心理的ストレスがうまく処理できずに生じる痛みです。症状が重度な場合は、精神科領域の疾患として持続性身体表現性疼痛障害と診断されます。この心因性疼痛を直接診断することはできません。身体的に検査をしても、痛みもしくはその痛みの程度を説明できるような身体の障害がない場合にのみ、心因性疼痛とすることができるのです。

鎮痛薬はほとんど効果がありません。抗うつ薬や抗不安薬が使われますが、効果は不確定で心理療法を併用する必要があります。

リリカとは?

痛みに対する薬は、大きく侵害受容体性疼痛治療薬と鎮痛補助薬があります。侵害受容体性疼痛治療薬とは、前述した非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)と麻薬性鎮痛薬です。一般には痛み止めと麻薬と言えばわかりやすいでしょう。リリカは痛み止めや麻薬ではなく、鎮痛補助薬に属する薬です。成分名をプレガバリンといい、剤形により商品名をリリカカプセルあるいはリリカOD錠と言います。

リリカの用量は?

製造販売をしているメーカーの添付文書にによれば、神経障害性疼痛に対するリリカの用量は使用する疾患により異なり以下のようになります。

神経障害性疼痛
通常、成人には初期用量としてプレガバリン1日150mgを経口投与し、その後1週間以上かけて1日用量として300mgまで漸増します。年齢、症状により適宜服用量は増減しますが、1日の最高用量は600mgまでです。いずれの服用量でも、1日2回に分けて服用する必要があります。

線維筋痛症に伴う疼痛
通常、成人には初期用量としてプレガバリン1日150mgを経口投与し、その後1週間以上かけて1日用量として300mgまで漸増します。その後、効果が不十分であれば450mgまで増量可能です。なお、年齢、症状により適宜服用量は1日450mgまでの範囲で増減し、服用はどのような量であっても必ず1日2回に分けて服用します。

リリカの副作用・注意事項は?

リリカの副作用は?

リリカによってめまい、傾眠、意識消失などが表れることが報告されています。服用中は自動車やバイクなどの運転や、危険をともなう機械の操作はしてはいけません。また、高齢者では転倒して骨折した例も報告されており、十分な注意が必要です。

なお、リリカをいきなり中止することによって、不眠、悪心、頭痛、下痢、不安及び多汗症などの症状があらわれることがあるので、最短でも1週間以上かけて減量してから中止していく必要があります。

その他、リリカによって、体重が増えることがあるため、肥満の兆候があらわれた場合は食事療法や運動療法など適切に対処することが大切です。特に、服用量が増えたり服用期間が長期となった場合に体重が増えることが認められ、定期的な体重測定をしていく必要があります。

さらに、リリカの服用によって弱視、視覚障害、霧視、複視などの眼障害が生じる可能性があるため、これらの異常がみられた場合は主治医に相談して、必要であれば眼科で診察を受けるようにしましょう。

服用量についての注意点は?

リリカの使用にあたって注意することは、リリカは肝臓などで分解されることがほとんどなく、約99%が腎臓からそのまま排出されます。そのため腎臓の機能が低下しているときは、尿中に排出されにくくなり体内に蓄積する可能性があります。そのため腎機能が低下している高齢者などが服用するときは、減量が必要です。また、透析をしてる人や腎機能障害の程度によって投与量が指定されています。主治医の指導にしたがって服用して下さい。

他の薬との飲み合わせは?

リリカに併用禁忌薬はありません。しかし、併用するときに注意すべき薬があります。麻薬性鎮痛薬(呼吸不全・昏睡)、オキシコドンとロラゼパムやアルコール(認知機能障害及び粗大運動機能障害の悪化)、アンジオテンシン変換酵素阻害薬など血管浮腫を引き起こす薬剤(顔面、口、頸部の腫脹など)、チアゾリジン系薬剤など末梢性浮腫を引き起こす薬剤(末梢性浮腫)などです。リリカ以外の薬を服用しているときには、主治医に服薬している薬の内容を伝えるようにしましょう。

リリカは妊娠・授乳は大丈夫?

妊娠中の服用について安全性は確立していません。動物実験では、胎児に異常が発生したり出生後の生存率の低下などが報告されています。そのため妊娠中にリリカを服用するときは、治療上の有益性が危険性を上回る場合のみの服用にとどめる必要があります。また、リリカは母乳へ移行することが分かっており、授乳はしないようにしましょう。

まとめ

今回、神経障害性疼痛治療薬のリリカについて紹介しました。リリカは2010年に発表されたばかりの薬ですが、効果が高く神経障害性疼痛の第一選択薬と位置づけられているお薬です。効果のある薬ですが注意が必要な副作用があります。

特に注意すべきは意識消失です。発売2年の時点で意識消失などの副作用で10人が交通事故を起こし、そのうち少なくとも3人がケガをしたことが報告されています。
服用中は車などの運転や危険を伴う作業に従事することは禁止されており、この点には十分に気をつけてください。
・精神科医 米澤 利幸

・精神科医 米澤 利幸

専門分野 
社会不安障害、不安障害、うつ病

経歴
昭和58年 島根医科大学(現島根大学)医学部 卒業
平成 9年 福岡大学精神神経科外来医長
平成12年 赤坂心療クリニック院長

資格
医学博士
精神保健指定医
日本精神神経科学会専門医

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