はじめに

日本では医療といえば、病院などの専門機関に患者が出向いてサービスを受けるのが一般的です。しかし、近年では反対に医療従事者が患者の家を訪問してサービスを提供する在宅医療というものが注目されています。

自分や家族が病気になったときに、自宅で医療サービスを受けるという選択肢を選ぶこともできるのです。そのときに最適な判断ができるよう、メリット・デメリット共に把握しておきましょう!

在宅医療とは

1)在宅医療とは(概要)

在宅医療とは、自宅あるいは老人福祉施設(特別養護老人ホーム)などの施設において受ける医療サービスを指します。この在宅医療サービスは、医師による訪問診療、看護師や保健師などによる訪問看護、介護士などによる訪問介護や訪問入浴、理学療法士や作業療法士などによる訪問リハビリなど、それぞれの専門の職種によって提供されるサービス全体を指します。

在宅サービスを受ける本人及び家族の希望や病状に沿って、計画書が作成され、それに沿ったサービスが提供されます。例えば、週に3回(月・水・金)の11時から12時の間に訪問入浴サービスを利用するというように予め、本人とサービス提供者の間で取り決めが行われます。

在宅サービスの自己負担額は、サービスを受ける人(以下、利用者とする)の年齢や主な疾患名、保険区分、要介護度、サービスを受ける時間帯・時間数などによって異なります。

2)在宅医療サービスが増えている背景

こうした在宅医療を受ける人は近年増加傾向にあります。それには、いくつかの原因があります。

まず一つは、医療技術の進歩です。加齢に伴いがん、心筋梗塞、肺炎、脳梗塞などの病気になるリスクは上昇します。昔であれば、亡くなることの多かった病気でも、医療技術の進歩によって命そのものは助かるケースも増えてきました。

しかし一方で、脳梗塞後に長期のリハビリが必要となる人、肺炎の入院治療(絶食、安静)によって筋力が低下して、歩行ができなくなる人などが急増しました。病院のベッド数には限りがあるため、一定の入院期間を経ると自宅や老人福祉施設などに退院・転院することになります。退院・転院後も入院中のように専門スタッフによるリハビリやケアが受けられるように、様々な在宅サービルが整備されてきています。

もう一つは、急性疾患から慢性疾患へと疾病構造が変化したことです。昔であれば、結核などの感染症(急性疾患)によって亡くなる人も多くいました。しかし、最近では糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生涯に渡って付き合っていくような生活習慣病(慢性疾患)への対策が重要となっています。

そこで、病院での入院治療と同じように、在宅できちんと生活改善や治療を継続できることがより重要となっています。在宅サービスの中には、糖尿病の患者さんに対して、インスリン自己注射の確認や服薬指導を行う訪問看護サービスなども含まれています。

3)在宅医療のメリット・デメリット

(1)在宅医療のメリット

在宅医療の最大のメリットは、病気になっても住み慣れた自宅などで生活を遅れるという点にあります。病院に入院していると、起床時刻、3度の食事の時刻、就寝時刻、入浴可能な曜日や時間帯、配布される病衣の枚数(週2枚までなど)まで決められているため、何かと不便なこともあります。大部屋になれば、プライバシーを確保しようと思っても限界があります。自宅であれば、こうした不自由さはなくなります。また、がんの終末期の患者さんの場合、自宅であれば好きなタバコやお酒を楽しめるというメリットもあります。

他にも、病院に入院する場合よりの治療費よりも在宅の療養費の方が、幾分安く抑えることができます。


(2)在宅医療のデメリット

しかし、在宅医療にはデメリットもあります。家族の介護負担は入院時よりも増すことが多いです。入院中であれば、基本的に病院のスタッフが24時間体制で治療やケア(点滴、痰の吸引、お風呂に入れる、おむつを替える、体の向きを変えるなど)に当ってくれます。在宅医療では、主なケアは医師や看護師、介護士からサービスを受けたとしても、それらの専門スタッフ不在の時間の方が長くなります。その不在時間のケアについては、家族に頼らざるを得ない部分があります。そのため療養期間が長期に及ぶと、睡眠不足などから家族に介護疲れがしばしば見られるようになります。

こうした介護疲れによって家族が心身の体調を崩さないようにするために、レスパイトケア(休息ケア)というサービスもあります。10日から2週間程度の一時的な期間、利用者が老人福祉施設や老人保健施設に入所するサービスです。これによって、家族が自分の時間を確保するという狙いもあります。冠婚葬祭や家族の急な入院などでも活用できるサービスです。

主な在宅サービスと料金

1)訪問診療

(1)訪問診療とは

訪問診療とは医師が自宅などを訪問して診察や検査・治療を行うものです。医師1名に看護師1名が同行することが多いです。例えば、薬の処方、点滴・注射の投与、中心静脈栄養の管理、在宅酸素療法の管理、人工呼吸器の管理、経管栄養の管理、傷や床ずれの管理、心電図検査の実施、腹部超音波検査の実施、採血の実施など多岐に渡ります。

年齢や疾患、症状の重さに関係なく、在宅療養を送っている人や通院が困難な人で、訪問診療を希望する人に対してサービスが提供されます。おおよそ2週間に1回のペースで訪問診療を受けている人が多いようです。


(2)大まかな料金について

自己負担額が1割の場合、定期の訪問診療の料金(平日の6時から17時まで)は1回当たり830円です。臨時訪問(平日の6時から17時まで)は790円、夜間訪問(曜日を問わず17時から22時まで)は1,300円、深夜訪問(曜日を問わず22時から6時まで)は1,950円、休日訪問(休日の6時から17時まで)は980円となります。

2)訪問看護

(1)訪問看護とは

訪問看護とは看護師や保健師または助産師の免許を持ったスタッフが自宅やグループホームなどを訪問して、サービスを提供するものです。主治医が記載した訪問看護指示書に則ってサービスを提供します。そのため、主治医が訪問看護が必要であると認めた人に訪問看護サービスが提供されることになります。

サービス内容は、バイタルサインの測定(血圧、脈拍、体温など)、傷の処置(消毒、洗浄など)、点滴や注射、体に入っている管類の管理(おしっこの管、胃ろうの管理など)、痰の吸引など多岐に渡ります。その他にも、訪問介護と同じような排泄介助や食事介助を行ったり、簡単なリハビリを行うこともあります。


(2)大まかな料金について

サービスの利用区分が医療保険なのか、介護保険なのかで基本的な料金が異なります。

①介護保険で訪問看護を利用する場合

75歳以上の後期高齢者が1割負担(介護保険区分)で訪問看護サービスを受ける場合、1回あたり20分未満では310円、30分未満では463円、30分以上60分未満では814円、60分以上90分未満では1,117円となります。
この料金に加えて様々な加算があり、該当になった場合は料金に上乗せされます。例えば、緊急時訪問加算(予定外の訪問についても要望があれば電話1本で訪問可能となります。1ヶ月で540円。)、特別管理加算(おしっこの管が入っているなど特別な管理を必要とする場合に加算されます。1ヶ月で250円から500円)、ターミナルケア加算(1回のみ2,000円)、複数名訪問加算(30分未満では254円、30分以上では402円)、早朝加算(6時から8時の間に訪問した場合、基本料金の25%増し)、夜間加算(18時から22時の間に訪問した場合、基本料金の25%増し)、深夜加算(22時から6時の間に訪問した場合、基本料金の50%増し)などがあります。

②医療保険で訪問看護を利用する場合

医療保険で利用する場合、訪問看護を利用できる回数は原則週3回までと制限があります。75歳以上の後期高齢者が1割負担(医療保険区分)で訪問看護サービスを受ける場合、1回あたり555円となります。介護保険区分でサービスを受けるときと同様に、この基本的な料金に各加算が上乗せされます。

3)訪問リハビリ

(1)訪問リハビリとは

訪問リハビリとは、要介護・要支援認定を受けている人のうち、主治医が必要であると認めた人に対して行われるサービスです。自宅などに理学療法士や作業療法士、言語聴覚士、看護師などが訪問し、ストレッチ(筋肉や関節を柔らかく保ち、硬くなる(拘縮:こうしゅく)ことを防ぎます)、座位保持訓練(自力で座っていられることを目指す訓練)、立位保持訓練(自力で立っていられることを目指す訓練)、歩行訓練などを行います。1度の訪問につき、20分あるいは40分程度のリハビリを行います。


(2)大まかな料金について

訪問リハビリを1割負担で受ける場合の自己負担額は、20分で1回当たり327円、40分で1回当たり655円です。ただし、病院等から退院・退所して3ヶ月以内の場合、新たに要介護認定を受けてから3ヶ月以内の場合にのみ、1回217円と安くなります。これらの料金体系は要介護度に関わらず、同じ料金で受けられます。

4)訪問介護(ホームヘルプサービス)

(1)訪問介護とは

自宅やグループホームなどに訪問介護士が訪問してサービスを提供します。訪問介護士は介護福祉士やホームヘルパーの資格を所持しています。サービスの内容は、調理、洗濯、掃除、買物などを行う生活援助と、食事介助、入浴介助、排泄介助(おむつ交換や陰部洗浄など)、衣服の着脱介助などを行う身体介護の2種類に分けられます。


(2)大まかな料金について

要介護認定を受けている65歳以上の高齢者が1割負担で訪問介護サービスを利用する場合について説明します。生活援助の場合の自己負担額は、20分以上45分未満で183円から209円、45分以上で225円から257円となります。身体介護の場合の自己負担額は、20分以上30分未満で245円から280円、30分以上60分未満で388円から443円、60分以上90分未満で564円から643円、90分以降は30分増す毎に80円から92円ずつ加算されます。

5)訪問入浴

(1)訪問入浴とは

訪問入浴とは、自宅に専用のバスタブを持ち込んでお湯(訪問入浴車からポンプでお湯を引き込む)を入れ、スタッフに入浴介助とその前後の全身状態の観察(血圧や体温の測定など)、指示された処置(ぬり薬の塗布や傷の処置)などを行なってもらうものです。寝たきりで自力では座った状態を維持できない人、自宅の浴槽に障害(狭い・段差など)がある人などに適したサービスです。
スタッフは看護師免許を持った人1名、介護福祉士かホームヘルパーの資格を持った人が2名の計3名で訪問することが多いです。


(2)大まかな料金について

全身が浸かる入浴(全身入浴)の場合、1回あたりの自己負担額は1,234円から1,407円です。

6)ショートステイ

(1)ショートステイとは

ショートステイとは、何らかの事情(冠婚葬祭、介護する家族の入院など)により在宅で介護することができなくなった場合、利用者を施設(特別養護老人ホーム、療養型の病院など)に一時的に入所してもらい、食事、入浴、リハビリなどの必要なケアを受けられるサービスです。1回の入所で最大30日まで利用できます。要介護認定・要支援認定を受けている人が対象となります。このような急な用事の他にも、家族の介護疲れを予防する目的で定期的に利用することも多いです。ただしその場合は、2ヶ月以上前から予約しなければならないことがほとんどです。利用については、担当のケアマネジャー等に相談しましょう。


(2)大まかな料金について

どのタイプの施設に入所するかによって若干料金は異なります。また要介護度によっても料金は異なり、要介護度が上がるほど料金は高くなります。例えば、要支援1の人がショートステイを1割負担で利用する場合は1日当たり433円から575円です。要介護1では1日当たり579円から778円、要介護3では714円から972円、要介護5では846円から1122円となります。ただし、これら別途ベッド代(大部屋、個室などでも料金が異なります)と食事代(1食およそ300円代)が上乗せされます。

まとめ

在宅医療についての理解は深まったでしょうか?
今や、医療サービスであっても病院や介護施設に必ず出向かなくてはいけないわけではありません。
メリット・デメリットの両方を知った上であれば在宅医療という形態も選ぶことができるのです。

また、一口に在宅医療といっても様々な形態があります。
どのサービスが一番自分や家族に合っているのかを考え、より最適なもの選んでください。

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