はじめに

睡眠の質を意識していますか?

睡眠の質は疲労回復にも関わっています。
睡眠を意識することで、毎日健康的に過ごしましょう!

睡眠の質

睡眠の質を知るには、まず睡眠を知らなくてはなりません。睡眠はレム睡眠とノンレム睡眠の2つで構成されています。

レム睡眠では寝ている時に眼球が活発に動いています。いわゆる浅い眠りの状態で、体は休息していますが脳は活発に動いています。このレム睡眠時に脳は、海馬という部分と大脳新皮質という部分で情報をやり取りして記憶の整理を行い、記憶を長期間脳に保存できるようにしています。

ノンレム睡眠とは、レム睡眠でない状態を表し、眼球は動かずぐっすり寝た状態で、脳の休息時間だと考えられています。ぐっすり寝ている状態のノンレム睡眠中に起きたり、起されると熟睡が出来なかったと感じたりすることがあります。

レム睡眠とノンレム睡眠を一つのセットとすると、約90分で1セットがおこなわれています。このレム睡眠で活発に動いた脳を、ノンレム睡眠中にしっかり休息させているかどうかで、睡眠のクオリティが問われます。※1

また、睡眠時間については、6.5時間睡眠の人の方が8時間睡眠の人より長生きだった事がわかっています。これは、ノンレム睡眠とレム睡眠が90分のサイクルを4回繰り返す事が理想的な睡眠時間の可能性が高い事を示唆しています。

睡眠による疲労回復のメカニズム

動物は睡眠をとる事により脳の疲労回復を行います。体の疲労回復は体を動かさなければ回復しますが、脳の疲労回復は睡眠によるところが非常に重要になります。

では、睡眠による疲労回復とはなんでしょうか。それは近年明確になりつつあります。脳は長時間覚醒していると、脳神経細胞に栄養(グリコーゲン)を与える細胞の栄養が不足してアデノシンという物質が蓄積されます。このアデノシンの蓄積が睡眠を促し脳内の栄養を補充します。※2

さらに、2012年に脳の新しい保守システム「グリンパティック系」というものが発見されています。これは細胞内のミトコンドリアを使って脳の老廃物を除去するものです。このシステムは特に睡眠中に活発になります。つまり寝ている間にミトコンドリアが脳細胞のゴミを出してくれるのです。※3

これらが、睡眠による疲労回復のメカニズムです。人によって適正な睡眠時間に違いがありますが、それは上記のシステムがしっかり働く健康な人は、睡眠時間が短い可能性が高いと言えます。

睡眠の質を高める事の効果

睡眠の質を高める事の効果は多くあるのですが、まず重要な点から考えると記憶の構築です。

記憶の種類は主に2つあります。1つ目は「宣言的記憶(顕在記憶)」といわれるもので、これはこれまでの人生の過去のエピソードや、勉強した知識など語ることが出来る記憶です。2つ目は「非宣言記憶(潜在記憶)」といわれるもので、車の運転やキャッチボール、知人の顔の認識など経験や練習を通じて獲得する記憶です。この「宣言的記憶(顕在記憶)」はノンレム睡眠時に、「非宣言記憶(潜在記憶)はレム睡眠時に長期記憶にするのを促進しています。

これら2種類の記憶力が人間の能力を左右します。ここでは、内容とずれてしまうため深くは説明しませんが、脳の発揮する高次機能は記憶で成り立っています。仕事、スポーツ、恋愛、趣味どれをとってもこの2種類の記憶力がパフォーマンスを決めると言っても過言ではありません。睡眠の質を高める事は脳の機能を高め人生に必要なパフォーマンスを向上させてくれます。

さらに、最近の研究では良質な睡眠とそうでない場合と比べて、新しい運動技能の実行で正確性が失われることなく運動速度が改善される、認知課題への新たな洞察を得る能力を50%高める、健康な細胞分裂を促すなどがわかっています。※3

睡眠の質を高める方法

1・糖質制限で睡眠の質を高める

皆さんは、お昼ご飯を食べた後に眠くなった経験はありませんか。食後の眠気の要因の一つに血糖値の低下があります。白米、麺類、砂糖など食べると、急激に血糖値を上がります。すると血液の糖質を下げるために膵臓からインシュリンというホルモンが急激に放出されます。白米、砂糖、麺類による急激な血糖値の上昇は、大量のインシュリン放出につながります。そうすると、今度は必要以上に血糖値が下がってしまい、眠気が起こります。

これを利用して、睡眠前の食事以外は糖質を摂取しないようにして、睡眠前の食事に糖質を摂取すると睡眠の質が上がるそうです。また、普段から糖質制限をしている人は寝る前に生ハチミツを少しなめる同じように睡眠の質が向上します。※3

2・サプリメントや魚を食べてメラトニンを増やす

睡眠の質を上げるにはメラトニンというホルモンが非常に大切になります。メラトニンは眠気を起し体温を低下させる事によって睡眠周期を作っています。

そのため、睡眠の質を上げるためにサプリメントとしてメラトニンを摂取したり、メラトニンになるセロトニンという神経伝達物質の材料のトリプトファンというアミノ酸を摂取する事があります。

もちろんメラトニンやトリプトファンを摂取するのもいいのですが、それでも効果が出来にくい時は、「DHA(ドコサヘキ酸)」がお勧めです。「DHA(ドコサヘキ酸)」はセロトニンの分泌を助け、ストレスホルモンの濃度を下げ、インスリン感受性を改善し、筋肉の成長を促す作用があります。メラトニンやトリプトファンを摂取するより、複合的には「DHA(ドコサヘキ酸)」を摂取する事をお勧めします。※3

3・腹式呼吸

深呼吸(1分間に3~4回のペース)で脳波にα波が増大することがわかっています。α波はリラックス時に出る脳波で、睡眠に入る時にはリラックスが必要なため、寝る前に5分ほど腹式呼吸や丹田呼吸法などすると入眠しやすくなります。

また、腹式呼吸や丹田呼吸法などを3か月ほど続ける事でセロトニンの分泌量を常時増やすことが出来る事も分かっています。セロトニンは睡眠に必要なメラトニンの前駆物質です。質の良い睡眠のために是非取り入れたい習慣です。※4

効果的に睡眠がとれる快眠グッズ

1・琥珀色の電球

一般的な電球は睡眠ホルモンのメラトニンの自然な生成を止めて睡眠の質を妨げる要因になります。それに対して、琥珀色や赤色の光に対しては、体が暗闇に対するのと同じ反応をします。そのために、睡眠前に長時間過ごす部屋では、琥珀色の電球を使う事をお勧めします。

2・バスタオル

枕の高さを調節するのに使います。実は睡眠の質の低下は寝返り動作によって起こる事があります。人間は動かず同じ個所に圧力がかかり続けると細胞が壊死してしまうため寝返りをして、体の同じ個所に圧力がかかり続けないようにしています。しかし、この寝返り動作がスムーズでないと睡眠の質を下げてしまいます。そこで、枕の高さを確認して寝返りの妨げになっていないか確かめます。

まず、低めの枕を使って実際に寝返り動作を確認します。その後、1枚のバスタオルを強く巻きつけて寝返り動作を確認します。バスタオルを1~3枚くらい使い最も寝返りしやすい高さを見つけます。実際に今までと違う枕の高さに最初は違和感を覚えるかもしれませんが、寝やすい枕の高さが必ずしも体に合っているとは限らないので、しばらく様子を見ながら調節する事をお勧めします。

終わりに

睡眠の質を上げて疲労回復をする事により仕事や勉強だけでなく、スポーツまでの結果向上する事まで期待できます。しかし、それは特別な寝具やグッズを買ったりするのではなく、まず日々の習慣を見直す事から始める事をお勧めします。砂糖、麦、麺類など直接糖を3食たべていないか、運動不足はないか、ストレスをためすぎていないか、寝室の環境は睡眠に適した環境かなどをしっかりと確認する事か始めてみて下さい。

※1牧野出版 脳機能を活性化する超快眠術 著:苫米地英人
※2丸善株式会社 第3版カールソン神経科学テキスト 脳と行動 著:Neil R. Carlson
※3ダイヤモンド社 シリコンバレー式自分を変える最強の食事 著:デイヴ・アスプリー
※4サンマーク出版 脳からストレスを消す技術 著:有田秀穂

監修

・総合診療医 院長 豊田早苗

・総合診療医 院長 豊田早苗

専門分野 
総合診療医

経歴
鳥取大学医学部医学科卒業。2001年 医師国家試験取得。
2006年とよだクリニック開業。
2014年認知症予防・リハビリのための脳トレーニングの推進および脳トレパズルの制作・研究を行う認知症予防・リハビリセンターを開設。

資格
医師免許

所属学会:総合診療医学会、認知症予防学会

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