はじめに

アルツハイマー型認知症とは、いくつか症状分けされる認知症の中で最も多いと言われています。
もしも、自分の家族や身近な方がアルツハイマー型認知症になったときに困らないためにも、アルツハイマー型認知症の症状や介護方法などを知っておきましょう。

アルツハイマー型認知症とは

アルツハイマー型認知症は、男性よりも女性の方が発症しやすいです。認知症の中でもアルツハイマー型認知症は近年、増加傾向にあると言われています。一度発症すると完治できない病気ではありますが、進行を遅らせる方法があります。

アルツハイマー型認知症の原因

アルツハイマー型認知症は、「アミロイドβ」や「タウ」という特殊なたんぱく質が脳に溜まることによって、神経細胞が壊死して減少し、認知する機能に障害が起きるために発症します。また、そのことだけではなく脳全体も徐々に委縮していくため体の機能も衰えます。

アルツハイマー型認知症の主な症状

アルツハイマー型認知症を発症すると、いくつかの症状が現れます。認知症の進行度合によっても個人差はありますが、一般的にどのような症状が現れるのかをご説明します。

1.記憶障害
・自分が行ったこと自体を記憶することができなくなるため、周りの人に指摘されても思い出すことができない

2.判断力の低下
・掃除をする際、捨てるものが分からなくなる
・片付け方がわからなくなるため、部屋の中にごみが散らかる
・臭いにも鈍くなるため異臭を気づきにくくなる
・季節外れの服を着ても気にならなくなる

3.見当識に障害が出る
見当識(けんとうしき)とは自分が置かれている状況を認識する能力のことで、見当識に障害が出ることです。
・今日の日付が分からなくなる
・アナログの時計が読めなくなる
・現在地がわからなくなるので迷子になる

4.その他に現れる症状
・鏡に映った自分の顔が識別できなくなり、自分の顔に対して怒る
・自分の物を盗まれたと妄想してしまう
・徘徊
・介護拒否

アルツハイマー型認知症の予防法

アルツハイマー型認知症になる原因は、まだ解明されていないこともありますが、日常生活を見直し、改善することで予防できることがあります。そこでアルツハイマー型認知症を予防する3つのポイントをご紹介します。

運動をする

アルツハイマー型認知症の予防には運動することが効果的です。運動すると神経細胞を壊死させる原因である「アミロイドβ」を分解する酵素が活性化し、細胞の死滅を防ぐこともでき、体の中の酸化ストレスを減らすこともできます。

運動のポイント
・ジョギングなどの有酸素運動をする
・毎日約30分を目安に軽い運動をする
・楽しく運動をする

運動をしていない方が急激に運動することは体にとってよくないため、自分が負担に感じない程度の、穏やかな運動から始めるとよいでしょう。また、高血圧の人は運動をすると逆効果になることがあるため、担当医に相談しながら行うようにしましょう。

質のいい睡眠を取るようにする

眠っている間の脳は、溜まった老廃物を出す機能が働きます。そのとき、アルツハイマー型認知症の原因の1つである「アミロイドβ」を排出することができます。しかし、睡眠不足が続くと「アミロイドβ」が溜まり、アルツハイマー型認知症を発症する可能性が高まります。ただ眠るだけでなく、質の良い睡眠をとることが大切です。また、約30分程度の昼寝をすることにより、アルツハイマー型認知症を予防することにもつながります。

バランスのいい食事をする

アルツハイマー型認知症を予防するためには、ホウレン草などに含まれるビタミンEを摂ることが有効です。また、ビタミンEの他にもアルツハイマー型認知症の予防に効果がある栄養素をご紹介します。

・DHAを多く含む青魚
・抗酸化物質セサミンが豊富なゴマ
・亜鉛が含まれるウナギ
・鉄が含まれるレバー
・カルシウムが豊富な丸ごと食べる小魚
・ベータカロテンが含まれるにんじん
・ビタミンCが含まれる柑橘類
・カテキンが含まれる緑茶

アルツハイマー型認知症の治療法

薬物治療

アルツハイマー型認知症の治療するためには、薬物療法を行うことがほとんどです。アルツハイマー型認知症では病気の進行を遅らせるための薬と、行動や心理状態を抑えるための薬が処方されます。一度薬を処方されたらといって、長期間同じ薬を飲み続けるわけではなく、アルツハイマー型認知症を発症した人の症状や薬の効果、副作用などを見ながらその都度状態に合わせて調節していきます。

薬を使わない治療法

アルツハイマー型認知症を発症してもすぐに症状が悪化するわけではありません。初期症状など比較的軽度な症状であれば、薬を使わずに進行を遅らせる方法をとる事もあります。

・回想法
回想法とはグループで集まり、昔の話や若い頃の写真などを見て話をすることで、脳を刺激する方法です。アルツハイマー型認知症は現在のことを思い出すのは難しいですが、昔のことを思い出すことができるのが特徴です。そのため複数人で昔のことを話したりすることで脳が刺激され認知機能を高めることができます。

・認知リハビリテーション
計算や漢字、絵を描いたりすることで脳を活性化させることができます。ただし、無理に行わせることは逆効果になりますので、本人のヤル気があるときに進めるようにしましょう。

・音楽療法
音楽を聞くことで心と体の健康状態を正常に保つことが出来ます。脳が活性化することで気持ちが落ち着き、自分から物事に取り組む姿勢が見えてきます。また、音楽だけでなく野菜や花を育てることも効果があります。

・リアリティ・オリエンテーション
リアリティ・オリエンテーションとは、自分のいる環境をきちんと認識させる方法です。例えば、自分はだれか、今いるこの場所はどこか、今日の日付などを認識させます。これを繰り返すことで認知能力が上がります。

この他にも、動物と触れ合うことも効果があると言われています。ですが、症状を改善したいからといって、本人に無理やり治療を押し付けると、そのことが苦痛になり全てを拒絶するようになりますので様子を伺いながら声掛けを心がけましょう。

アルツハイマー型認知症の介護ポイント

アルツハイマー型認知症の方を介護する上で重要なポイントは「対応の仕方」です。アルツハイマー型認知症の方を介護することは精神的にも肉体的にも大変なことです。介護のポイントを見ていきましょう

同じ話をしても怒らない

アルツハイマー型認知症の方は、何度も同じことを繰り返し話したり聞いてきます。介護側の方も始めは返答できても、日が経つにつれて同じ事ばかり聞かれることに対して怒りさえ感じてしまう方がいるかもしれません。すると本人が「怒られた」という不快な感情だけが残ってしまい、うつ病を併発することもあります。そうならないためにも同じ話をされても、できるだけ付き合って上げるようにしましょう。ただし、介護側の方もずっと付き合うことは心の負担にもなりますので、ご自身に興味があることに話題を変えることもよいでしょう。

メモなどを利用して分かりやすくする

アルツハイマー型認知症の方は予定などを忘れてしまうので、大事な予定はメモやカレンダーに書いて分かるようにします。それだけでなく物の場所なども書いておくと、取り出す時にもしまう時にもわかりやすいです。

薬の管理をする

アルツハイマー型認知症の方は薬を飲むことを忘れたり、飲み忘れたことを思い出し、大量に服用することがありますので、家族や周りの方が薬を管理しましょう。薬袋に日付を書いたり、カレンダーに薬を張ったりすることで飲み忘れを防ぐことができます。ただし、症状によっては家族が飲むまで見届けなければならない場合もあります。

徘徊行動に対する対応

アルツハイマー型認知症の方は、自分から外出した最中で突然迷子になることがあります。迷子を未然に防ぐためにも、事前に名前や連作先を服や鞄につけたり、携帯のGPS機能を利用するとよいでしょう。

無理強いをしない

アルツハイマー型認知症の方は、動くこと全てが面倒になり、拒否するようになります。


・お風呂を入らなくなる
・服を着替えなくなる

そのような場合、本人が安心するように声掛けをしてあげることで、気持ちが落ち着き、安心して行動するきっかけになります。ですが、行動してくれないときは無理強いをせず時間を置いたり別の話をするなどして様子をみましょう。
また、その他にも本人にとって不快な場面、場所を避けることも効果的です。

日常生活を快適に送るための工夫

アルツハイマー型認知症の方が、日常生活を快適に送るためには、症状に合わせて工夫をしていくことが大切です。工夫するポイントをご紹介します。

衣類の工夫

・動きやすい服を選ぶ
・季節に合わせた服を用意する
・特定の気に入っている服があれば、着まわせるように同じ服を何着か買う
・同じ服を何日も着用することがないように、洗濯することを声掛けし、清潔を意識させる
・残存能力と呼ばれる、今使える体の機能をこれ以上衰えさせないためにも着替えはなるべく本人に行ってもらう

食事の工夫

<食事をしたことを忘れて何度も食事を要求する場合>
1.一度に摂る食事量を減らす
2.別でおにぎりやおやつを用意する
3.再度要求された場合には小出しする

<食事の摂り方を忘れてしまった場合>
1.声かけをして介助する
2.自分自信で食事をする意思が出てきたら自分で食べてもらう
3.自分で食べている最中に遊び食べを始めたら介助する

アルツハイマー型認知症の方は食べられないものを口にしてしまう可能性があります。そのためにも口に入る大きさの物は近くに置かないようにしましょう。また、手づかみで食べたり食べこぼしたりすることも増えるかもしれませんが、注意することはやめておきましょう。注意することによって食事を拒否する可能性があります。食事中はなるべく穏やかな雰囲気作りを心掛けて本人を見守るとよいでしょう。

住宅の工夫

アルツハイマー型認知症の方は昔から住んでいる自宅の中でもトイレの場所を忘れて迷子になることがあります。その他にも電気の点灯方法を忘れてしまうことなどもあります。そのような場合、トイレまでの道順に矢印をつけて誘導したり、使い方を書いた紙を壁に張ったりしておくとよいでしょう。

日常生活を快適送るためには外出時迷子にならないように近所の方に協力を求めたりすることも大切です。急な生活環境の変化は余計脳が混乱して症状が悪化する可能性もありますので、本人が今までと同じ生活ができるように心掛けましょう。

まとめ

いかがでしたか?
アルツハイマー型認知症は急に悪化していく病気ではありません。さまざまな治療を受けながら進行を遅らせ、その人らしい生活ができるようにしていきましょう。

監修

・総合診療医 院長 豊田 早苗

・総合診療医 院長 豊田 早苗

専門分野 
総合診療医

経歴
鳥取大学医学部医学科卒業。2001年 医師国家試験取得。
2006年とよだクリニック開業。
2014年認知症予防・リハビリのための脳トレーニングの推進および脳トレパズルの制作・研究を行う認知症予防・リハビリセンターを開設。

資格
医師免許

所属学会:総合診療医学会、認知症予防学会

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