はじめに

パニック障害になった芸能人の告白が目立つようになってきています。しかし、彼らが語るパニック障害の恐ろしさは、なった人でないと分らないものです。そこでパニック障害の症状や治療法について、詳しくかつ分かりやすくお伝えすることにします。

パニック障害ってどんな病気?

パニック障害は、パニック発作と予期不安が生じ社会生活に支障をきたす病気です。ほとんどの場合、これに広場恐怖という状態が加わってきます。

パニック発作は、パニクってしまったなどと一般に使われるパニックとは、少し異なる状態です。一般に使われる意味でのパニックとは、予想外の出来事に直面し思考が停止して判断できなくなっている状態のことを意味しています。しかし、パニック発作はさらに激烈で、不安とともに激しい身体症状を伴うことが特徴です。以下に、パニック障害で生じる症状について詳しく説明します。

パニック障害で見られる症状とは?

パニック障害の症状は非常に特徴的です。それは症状が3つある事と段階的に悪化していくことです。さらに、何の自覚症状もないままある日突然発症することもパニック障害ならではと言えるでしょう。

一体どのようにしてパニック障害の症状が進んでいくのでしょうか?段階ごとの具体的な症状をみていきます。

パニック発作

パニック障害の症状は、先にも述べたようにパニック発作と予期不安です。これに、全ての人にではありませんが広場恐怖という症状が伴います。

まず、パニック発作ですが、これは次のような症状が生じます。
・死ぬのではないか、あるいは気が変になってしまうのではないかと感じるほどの強烈な不安。
・激しい動悸。
・窒息する恐怖を伴うほどの息苦しさ。
・めまい。
・冷や汗。
・全身から血の気が引く感じ。
・以上の症状などにより、立っていられないような状態となる。
などです。

この段階で救急車を呼んで病院に運ばれることも稀ではありません。しかし、パニック発作自体は何時間も続くものではないため、多くは病院で診察してもらうときに症状はかなり軽減していることが多いのです。

医師はもとより本人も、現在ではパニック障害のことをよく知っていることが多いので、2-3回くらいも同じ病院の救急外来を受診することになれば、医師からパニック障害の可能性を告げられ、精神科や心療内科への受診を勧められることになるでしょう。

予期不安

パニック障害で問題となるのは、パニック発作そのものよりも、予期不安です。

パニック発作が短期間に何度も何度も頻繁に生じることはまずありません。しかし、一度パニック発作を経験してしまうと、予期不安という厄介な症状が生じて持続することになるのです。

予期不安とは、パニック発作が死ぬほど怖い体験であったため、また死ぬほど怖いパニック発作になるのではないかと、パニック発作が生じること自体を恐れる状態のことを言います。特に最初にパニック発作が生じた状況を怖がるようになってしまうのです。この予期不安も強烈です。

パニック発作が生じても大事には至らないように、人のいるところに出て行くことや遠出を避けるようになります。家に引きこもりがちになってしまい、外出しなかったから発作が出なかったというような心理的強化反応が生じて、ますます外出しなくなるという悪循環が生じてしまうのです。

引きこもりと異なるのは、多少の必然性が生じればパニック障害の人は外出するということでしょう。よほどの重症例でなければ、パニック発作で引きこもりになることはありません。ただし、これは治療した場合という条件がつきます。治療を行わないか治療を中断してしまうと、引きこもり状態になってしまう危険があるので注意が必要です。

広場恐怖

これらの症状に加えて、ほとんどの場合、広場恐怖という症状を伴います。

広場恐怖という名称ですが、広い場所にいるときと閉鎖された場所にいるときの両方で生じます。不安が生じたときに即座に退避できないとか、人に気づかれずには退避できない場所や状況に置かれると恐怖感を感じるということが広場恐怖です。そして、そういった状況を避けるようになります。

飛行機の中や、高速道路のトンネルで渋滞したとかの状況です。MRIの検査や歯医者さんでの治療中、美容室で洗髪してもらっているときなど、パニック障害のない人には想像しにくい状況でも広場恐怖は生じます。この広場恐怖が生じると、たとえ広い開けた場所であっても、パニック発作が起これば退避することは困難であり、誰も助けてくれないという不適切な考えが生じるのです。
そして、不安となる状況や場所を避けてしまうようになって、社会生活を送るうえでの大きな障害が生じてしまいます。なお、この「避ける」ということは回避行動と呼ばれ、パニック障害が持続する原因となるため治療のポイントとなるのです。

パニック障害は治るの? どんな治療法が効果的?

パニック障害の軽症例は、専門医への受診が遅れることがあります。しかし、軽症であっても何回かパニック発作が生じたようなときやパニック発作が重症であれば、救急病院や内科を受診することが殆どです。そこで医師から精神科や心療内科を受診するよう勧められます。

過呼吸発作程度では精神科や心療内科への受診は勧められないでしょう。しかし、パニック発作レベルの状態なら、ほぼ確実に専門医への受診を勧められるはずです。

では、精神科や心療内科でどのような治療がなされるのでしょうか。

薬物療法

まず第一は薬物療法です。薬物療法の基本は選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)とよばれる抗うつ薬の投与です。

安定剤と一般に呼ばれている抗不安薬は、依存となる可能性があるためパニック障害の発病初期のみに留めるのが原則です。抗不安薬は即時的な効果がえらえます。予期不安や広場恐怖が強くなるような状況に入っていかなければならないときに使えば、驚くほどの効果が得られるものです。

しかし、これが曲者なのです。「抗不安薬を服用する→パニック発作が起こらなかったとか予期不安などが随分軽減したという体験をする→抗不安薬を服用したから大丈夫だったと認知する→服用しなかったら起こるのではないかという不安が形成される→そのような状況のときは必ず服用するようになる」という心理的依存が形成され悪循環が生じてしまいます。

結果として薬から離れられなくなってしまいます。ですから、抗不安薬は、SSRIが効果を発揮するまでの短期間の使用に留めることが重要です。心理的依存が形成されると、SSRIが効果がえられるようになっても、不安状況にさらされる前には必ず抗不安薬を服用することになってしまいます。

呼吸を整える呼吸法

パニック発作の病態に大きな影響を及ぼしているのが、過呼吸状態です。
過呼吸になれば不安が増幅します。ですから、パニック発作になりそうな感じがしはじめたとき、呼吸を整えることが重要になるのです。

時計を見ながら、3秒で吸って3秒で吐くという、規則正しい呼吸を続けることが推奨されます。呼吸の深さは普通の深さでいいのですが、発作が出そうなときは息苦しさを伴っているので深呼吸でも構いません。1呼吸で6秒より短くならないことだけ注意してください。ひどい発作でなければ、この呼吸法だけでパニック発作を乗り越えることができます。

心理教育やメンタルリハーサル

予期不安には、心理教育やメンタルリハーサルと段階的暴露という方法が行われます。

まずは心理教育を行い、パニック発作で生じる窒息感や激しい動悸が、激しい運動をしたときに生じる動悸や息苦しさと何ら変わらず、無害なものであるという認識を徹底的に植えつけるのです。

そしてメンタルリハーサルとして、電車の例では、電車に乗ったときの不安を空想の中で再現できるように訓練します。そして、最大の不安を100として、30くらいの不安を感じる状況をイメージするのです。

それから不安を感じたまま、先に述べた呼吸法を行います。15分以上、不安を我慢してください。徐々に不安は軽減して行くはずです。30の不安状況のイメージで不安を感じなくなったら、次は50の不安、それがクリアできれば80の不安、100の不安というようにイメージの中で不安状況をクリアしていくのです。

その後、実際に電車に乗って段階的暴露という練習をします。このとき、やはり30の不安状況から呼吸法を行い、絶対に15分以上は不安状況から逃げない、つまり電車から降りないようにするのです。降りられる状況でも降りないということが望ましいので、各駅停車に乗って練習するのがいいでしょう。どうしても怖いときには、1駅だけから練習しても構いません。しかし、15分以上、不安状況に身を置くことがポイントですので、1駅で降りずに早期に15分をクリアする必要があります。

ただ、このような段階的暴露を行っているときに、抗不安薬を服用して不安状況をクリアしても意味がありません。抗不安薬を服薬することは電車に乗ることを避けるのと同様、不安状況を避けるという回避行動というものになるのです。回避行動を行っている限りは、パニック障害を克服することはできません。

どうしても服薬しないと不安で段階的暴露を実行できないときは、抗不安薬をはじめのうちは服用しても、徐々にその服用量を少なくしていくようにして訓練するのがいいでしょう。

パニック障害の治療に焦りは禁物!

パニック障害を治すためには上記のような努力が必要です。

薬物療法だけで改善する人もいますが、多くは薬物療法だけで完全に治すことはできません。しかも、努力してもしつこい予期不安はなかなか良くならないものです。

予期不安がなくならなければパニック障害は治りません。諦めずに治療的努力を続ければ、必ずよくなるはずです。焦ることなく、じっくり、マイペースで、主治医とよく相談しながら治療を進めていきましょう。

監修

・精神科医 米澤 利幸

・精神科医 米澤 利幸

専門分野 
社会不安障害、不安障害、うつ病

経歴
昭和58年 島根医科大学(現島根大学)医学部 卒業
平成 9年 福岡大学精神神経科外来医長
平成12年 赤坂心療クリニック院長

資格
医学博士
精神保健指定医
日本精神神経科学会専門医

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