はじめに

お酒のイメージといえば、「二日酔い」「太る」「内臓を悪くする」など、悪いものばかり。しかしそんなお酒も、飲み方を考えれば、いつまでも元気に楽しめることができます。

お酒の効能

まずは、お酒の良い面を見ていきましょう。
1981年にイギリスのマーモット博士が発表した「飲酒と死亡率のJカーブ効果」という疫学調査があります。

調査結果を見ると、毎日適量飲酒する人は、全く飲まない人や時々飲む人に比べて、心筋梗塞などの冠動脈疾患による死亡率が低い傾向にあります。

ただし、毎日大量飲酒する人やアルコール依存症患者では、冠動脈疾患による死亡率が極端に高くなります。さらに、誰でも「適量のお酒=健康」になるとはいえませんので、こちらも注意が必要です。
また、お酒にはリラックス効果があります。

お酒を飲むことで、理性の源である大脳皮質の働きが鈍くなり、精神の高揚を促します。これも、適度な量を守らないと、かえって逆効果になるため注意が必要です。
Jカーブ効果

Jカーブ効果

お酒は、まったく飲まない人や大量に飲む人よりも、適正量飲む人のほうが死亡率が低い、などのメリットがあることが分かった研究結果のグラフです。

お酒の飲み過ぎによる悪影響

お酒は体内で、どのように働くのでしょうか。体内に入ったアルコールは、肝臓でアセトアルデヒドという物質に変化します。その後、最終的に二酸化炭素と水に分解されるのですが、そのときに発生する熱エネルギーにより、体が温まり尿が出やすくなります。

つまり、お酒を飲んでトイレに行く頻度が増えるのは、決して悪いことではなく、体内でアルコールをきちんと分解している証拠なのです。

アルコールは、非常に小さい物質なので、体のあらゆる部分、脳や神経の細胞にも簡単に入っていきます。実は、アルコール自体は、脳に作用して酔っぱらっている状態、いわゆる酩酊(めいてい)状態にはなりますが、細胞を壊すような直接的な毒性はありません。

問題なのは、肝臓が手に負えないくらいアセトアルデヒドが、分解されずに増えすぎることで、細胞を壊してしまうことなのです。
もちろん、飲酒により、分解場所である肝臓は弱くなります。また、アルコールを分解するための物質を出し続けてくれる膵臓も、お酒を飲めば飲むほどその分弱ってきます。

肝臓は、糖尿病や腎臓病など二次的な病気も起こしやすい臓器ですし、膵臓は、本当に悪くなるまで症状が起こりにくい沈黙の臓器です。
やはり、いつまでもお酒を楽しむためには、適量が良いようです。

体にやさしいお酒の飲み方

では、「体をこわさないためのお酒」の飲み方を考えていきましょう。

① 飲酒量

飲酒の適量は、人によって変わります。性別で比べると、体の小さい女性は、男性に比べて飲酒量は少なくしないといけません。また、肝臓が弱い人は、アルコールの分解に時間がかかるため、飲酒量に注意すべきです。

具体的には、アルコール量でいうと、男性が1日20g以下、女性が1日10g以下が適量とされています。ビールだと350mlで12.7g、日本酒だと1合で23.5gのアルコール量が含まれます。
日頃からお酒を飲む習慣がある人にとっては、すぐに超えてしまう可能性のある量なので、特に注意したいですね。

② 飲酒頻度

よく「休肝日」という言葉を聞くと思います。週に何日か、お酒を飲まない日をつくって肝臓を休めましょう、という日です。

人によっては、「適量を飲むのであれば、毎日飲んでもかまわないのでは?」という方がいると思います。
肝臓は、アルコールを分解することだけでなく、毎日体内に入ってくる食物の分解にも大きく関わっています。

毎日絶えずお酒が体に入ってくると、その分肝臓の仕事が増えてしまいますし、また、お酒というのは、飲み始めると気分が良くなることもあり、飲酒量の調節が難しくなります。休肝日を設けることは、理にかなっているようです。

③ お酒のお供

お酒ばかりを飲み続けると、体内でアルコールばかりが吸収されて、毒であるアセトアルデヒドが急激に蓄積されていきます。これを防ぐのが「食べ物(おつまみ)」と「水」です。

食べ物をお酒の前に、またお酒と同時に体内に入れることで、胃や腸でのお酒の急な吸収をやわらげてくれます。特に、お酒はほぼ糖質の割合が多いため、たんぱく源を食べ物でしっかり摂っておきましょう。

揚げ物など高カロリーな食べ物も初めのうちに食べておくことをおすすめします。お酒が進むにつれて、食欲が増すためです。

そして、お酒を飲む合間に、水やお茶などの「水分補給」を忘れないようにしましょう。お酒が体内に吸収される速度を遅らせる働きがあります。

やってはいけないお酒の飲み方

① 「意外に飲める人」は注意

日本人は、遺伝的にお酒に弱い人が多い(アセトアルデヒドの分解能力が弱い)こと
が分かっています。割合としては、お酒が強い人が全体の60%、逆に弱い人が10%、
そして、そこそこ飲める人が30%です。

この「そこそこ飲める人」というのは、一応飲める体をもっているため、限界を認識しにくくなります。また、飲酒を繰り返していると強くなる、という話も聞きますが、これは、アルコールを分解するための物質
が増えるため、アルコール濃度が早く下がるためです。

しかし、アルコール濃度が下がるということは、毒性のあるアセトアルデヒドがたくさん作られるということにもつながります。「そこそこ飲める」というのは、そのときの体調やお酒の種類などによっては「飲めなくもなる」状態にもなり得ると考え、より慎重になるべきです。

② チャンポン

あの美味しい麺類ではなく・・・お酒の種類を色々楽しむことを「チャンポンする」とよく言います。

このチャンポンは、一般的に酔いやすいと言われますが、まさにその通りです。お酒は、種類によって、アルコール度数が異なり、また飲み方(割材)も異なります。

ですので、最初のお酒のペースで飲み続けると、途中でアルコール度数が強くなっても、変化に対応するのが難しく、その分体内のアルコールがどんどん増えていきます。気持ちも高まってくるせいか、度数の違いにも気づきにくいです。

違う種類のお酒を楽しみたいときは、焼酎やウイスキーなど調節できるようなお酒を選び、薄めに飲み始めることが大切です。

おわりに

日本人は、人種的にもアルコールの分解能力が低いと言われています。
飲める人は過信することなく、また、お酒に弱い人は楽しめる種類と量で、その場にいる人全員が楽しめるような、コミュニケーションツールの一つになると良いですね。

監修

・総合診療医 院長 豊田早苗

・総合診療医 院長 豊田早苗

専門分野 
総合診療医

経歴
鳥取大学医学部医学科卒業。2001年 医師国家試験取得。
2006年とよだクリニック開業。
2014年認知症予防・リハビリのための脳トレーニングの推進および脳トレパズルの制作・研究を行う認知症予防・リハビリセンターを開設。

資格
医師免許

所属学会:総合診療医学会、認知症予防学会

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