はじめに

ここ数年は山ガールという言葉が生まれたことからもわかるように、山登りをする人の層が拡大し、より多くの人が山登りを楽しむようになりました。

そんな山登りをする人が注意すべきことのひとつに高山病があります。高山病にならないために、また、なってしまったときに適切な対処法ができるように、高山病について学んでおきましょう!

高山病とは

標高の高いところに行くと、徐々に酸素濃度が低下し、それに伴って血中酸素飽和度も低下します。血中酸素飽和度とは、血液中にあるヘモグロビンが酸素と結びついている割合のことです。通常の健康な人間であれば平地の血中酸素飽和度は97%から100%が正常です。しかし、標高の高いところ、例えば富士山頂ではかなり個人差があるものの、血中酸素飽和度は平均で81%程度まで低下すると言われています。血中酸素濃度の低下は体に十分な酸素が運ばれない状態を引き起こします。

このように標高の高いところで体が酸欠状態となり、様々な体の不調を来たすものが高山病です。高山病の主な症状としては、頭痛、息苦しさ、脈が速くなる、吐き気、めまいなどがあります。

高山病の症状

高山病は、標高の高い場所、つまり気圧の低い場所に行くことで血液中の酸素濃度が低下し、それに伴って起こる様々な症状のことを言います。ここでは、その症状について説明します。ただし、症状には個人差があり、すべての症状が現れるわけではありません。

○頭が重い、頭痛(鈍い痛みであることが多い)
○眠気、あくびが増える
○食欲低下
○お腹が張る(おならが出る)
○腹痛
○下痢
○吐き気
○胸の圧迫感
○息苦しい
○脈が速くなる
○めまい
○全身のだるさ、体が重く感じる
○ふらつく
○むくみ(手、足、顔など)

これらの様々な症状は、血管を通して、脳や筋肉、心臓、肺などに十分な酸素が供給されないために起こります。

高山病の原因

高山病そのものは血液中の酸素濃度の低下が原因で起こります。ここでは、こういった状態に陥りやすい条件を説明します。

1)急激な高度の上昇

一般的に高度が2000メートル以上(高齢者では1500メートル以上)になると、高山病を起こしやすくなります。ただし、体質やその日の体調などの個人差によるところも大きいです。ヘリコプターなどで急激に高度を上げてしまうと、体が気圧の急な低下に適応できず、高山病の症状が現れやすくなります。

2)酸素消費量が大きい

運動量が大きくなると、その分酸素消費量も大きくなり、体の酸欠状態に拍車をかけてしまいます。そうなると高山病の症状も出やすくなります。具体的には、歩幅が大きい、太ももを上げるように歩く、会話しながら歩くなどです。

3)貧血がある

冒頭で説明したヘモグロビンは赤血球の中にあります。血液中の赤血球の数が少ない状態やヘモグロビンの量が少ない状態のことを貧血と言います。貧血だと、そうでない人に比べて酸素を運ぶことのできるヘモグロビンが少ないため、高山病になるリスクが高くなります。ちなみに、高齢者は加齢による影響で、若い人よりも貧血傾向になります。したがって、高齢者は若い人よりも高山病のリスクが高いです。

4)睡眠不足・疲労の蓄積・風邪・二日酔いがある

登山に限らず、運動、普段の仕事や家事などは体調不良があるとパフォーマンスが下がってしまいます。酸素が少ないという条件に適応するためには、睡眠を十分に取る、前日の過剰飲酒は避けるといった基本的なことを守る必要があります。

5)脱水がある

脱水も高山病の原因の一つとなります。脱水になると血液が濃縮され(ドロドロ血液)、血流も悪くなります。すると通常よりも酸素供給に時間がかかるため、高山病の症状が現れやすくなります。高度が上がるほど気温は下がり、のどの渇きを感じにくくなるかもしれません。時間を決めて、こまめに水分補給をすることが大切です。

高山病の治療法(対策法)

最後に、高山病にならないための予防方法、及び高山病の症状が現れたときの対処方法を説明します。

1)ゆっくり高度を上げる(高所順応)

高山病は1日に500メートル以上高度を上げたときに起こりやすいとされています。登山計画は余裕を持って、休息をとりながらゆっくり上るようにしましょう。

2)歩幅は小さく、一歩一歩をゆっくりにする

体の酸素消費量(運動量)を上げてしまうと、高山病になりやすくなります。歩幅を小さくする、早歩きでは歩かない、太ももを上げすぎない、ということを心がけましょう。

3)ゆっくりと呼吸をする

疲労や焦り、緊張などがあると無意識のうちに呼吸は浅くなってしまいます。ゆっくりと息を吸い込み、ゆっくりと吐き出すという練習を登山前からしておくと良いでしょう。また、深くゆっくりとした呼吸の妨げとなるようなきつい衣服やベルトは避けましょう。

4)休憩時は横にならずに座るか45度ほど起こした状態で寝る

軽い高山病の症状が現れた際には、横になってしまいたい気持ちもします。しかし、ゆっくりと深い呼吸を助けるためには、横になるよりも座った状態で休憩するようにしましょう。腹式呼吸時には横隔膜が関わっています。横になった状態では、横隔膜が上(肺側)に押し上げられるため、腹式呼吸を行いにくくなり、呼吸が浅くなります。結果として、高山病のリスクを高めたり、悪化させてしまいます。

5)水分補給はこまめに行う

脱水は高山病の原因の一つとなります。少量ずつ、頻回に水分を摂るようにしましょう。

6)登山当日に向けて体調を整える

過労、睡眠不足、風邪、二日酔い、貧血などがあると高山病のリスクが高まります。登山前日はしっかり7時間から8時間程度は睡眠を取るようにしましょう。お酒が好きな人は、翌日に残るほどの飲酒は控えましょう。

また、貧血傾向にある人は日頃から鉄を多く含む食品(魚、肉、野菜、大豆製品、海藻など)を摂ったり、サプリメントで補うようにしましょう。鉄分はビタミンCと一緒に摂ると吸収率が高まります。反対に、タンニン(お茶やコーヒーなどに含まれる成分)と一緒に摂ると吸収率が悪くなるため、注意が必要です。

7)登山を中止する

高山病の症状が現れ、対処法をとっても症状が改善せず、むしろ悪化する場合には下山するのが賢明です。前述の症状を参考にしながら、無理はしないようにしましょう。

おわりに

今回は山登りをする人が注意すべき高山病についてご紹介しました。
楽しい山登りは健康な身体があってこそのものです。山登り当日に向けて体調を整えたり、それでも身体の調子が悪い時は中止するという決断も必要です。

高山病にならないように注意して山登りをしましょう!

監修

・救急医、内科医 増田陽子

・救急医、内科医 増田陽子

専門分野 
微生物学、救急医療、老人医療

経歴
平成18年 Pittsburg State大学 生物学科微生物学・理学部生化化学 卒業
平成22 年 St. Methew School of Medicine 大学医学部 卒業
平成24年 Larkin Hospital勤務
平成26年 J.N.F Hospital 勤務

資格
日本医師資格
カリブ海医師資格
米国医師資格

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