ぎっくり腰のメカニズム

ぎっくり腰とは?

『ぎっくり腰』とは、ある瞬間をきっかけに、急に強い腰痛を発症することです。本来の疾患名は『急性腰痛症』といいます。
腰椎の骨自体や関節、靭帯、椎間板、筋肉といった腰部周囲のなんらかの組織に圧迫、捻り、伸張などのストレスがかかり、炎症を起こした状態を指します。

ぎっくり腰の原因

原因となる動作には、転倒して尻もちをつくこと、重たいものを持ち上げることなど、負荷の強い動作があげられます。このほかに腰を曲げたり、反らしたり、捻ったりするなどの普段当たり前にしている動作も含まれます。
さらには、首の寝違えのように、朝起きたら急に腰が痛くて動けないということもあります。
負荷のかかり方は、原因となる動きによって異なります。

ぎっくり腰の症状

症状は炎症を起こしている組織や程度によって異なり、軽度のものであれば、身体を反らしたとき、曲げた時など、決まった動きのときのみ痛みを感じます。
重度の場合は、座っている・立っているときや、横になって安静にしているときでも、痛みを生じます。

ぎっくり腰になったらどこに行くべき?

まずは整形外科へ

ぎっくり腰になったとき、まず行くべきなのは病院の整形外科です。
どんな治療を受けるにせよ、レントゲンやMRIなどがとれる整形外科を受診し、骨折や椎間板ヘルニアの有無を確認しておくと安心です。

特に、尻もちをついたり、重たい物を持ち上げようとしたりしたなど、腰部に大きな外力が加わったときには、腰椎の骨折の疑いがあります。そのため、なるべく早く整形外科を受診しましょう。
また、中高年以上の方は、骨密度の低下によって起こる『腰椎圧迫骨折』の可能性が高まっているので、注意が必要です。

腰を捻った瞬間や立ち上がった瞬間に急に起こったようなぎっくり腰であれば、骨折の可能性はかなり低く、関節捻挫や靱帯損傷、椎間板ヘルニア、筋肉の損傷が痛みの原因となります。
整形外科を受診すればコルセットや痛み止めの薬の処方をしてもらえたり、場合によっては痛み止めの注射をしてもらえたりすることもあります。

動けない場合は安静に

基本的には炎症を落ち着かせることが最優先なので、病院に行くことすら苦痛で動けない場合は、自宅で安静にし、氷などで患部を冷やすアイシングをしっかり行って炎症を落ち着かせるようにしましょう。
数日たってから整形外科を受診しても遅くはありません。
いずれにしても、急性腰痛にもかかわらず無理に患部を動かすと、炎症が強くなってしまうばかりなので、必ず安静を保つようにしましょう。

ぎっくり腰予防のストレッチ

ぎっくり腰を予防するためには、下半身や体幹部の柔軟性を維持することが重要です。
ここでは、自宅で簡単にできる、ぎっくり腰予防のストレッチをご紹介します。

■膝抱えストレッチ

腰からお尻の筋肉をゆっくり伸ばすストレッチです。

1.仰向けに寝て両足を両腕で抱えます。
2.お尻から腰にかけて伸張感を感じたら、20秒間ほど静止します。

腰の痛みや身体の硬さで両足同時に抱えることが難しい場合は、片方の膝を伸ばしたまま、片方ずつ膝を抱えても構いません。

■腰捻りストレッチ

腰からお尻の側面の筋肉をゆっくり伸ばし、捻りの可動域を拡げるストレッチです。

1.両膝を伸ばして仰向けに寝ます。
2. 右の膝と股関節を90度程度曲げ、身体の左側に右足を持ってくるように腰を捻ります。
3.右側の腰からお尻に伸張感を感じたら、20秒間ほど静止します。
4.右側を伸ばしたら、左右を入れ替えて左側の腰もストレッチしてください。

■お尻のストレッチ

お尻の最も大きい筋肉である『大臀筋』のストレッチです。
大臀筋が柔軟になることで股関節が曲がりやすくなり、腰への負担が軽減します。

1.椅子に座り、片方の足のみあぐらをかくように開き、反対の膝の上に乗せます。
2.腰が丸まらないように背筋を伸ばしたまま、身体を前に倒します。
3.あぐらをかいた方のお尻に伸張感を感じたら、20秒間ほど静止します。
4.片方がストレッチできたら、左右の足を入れ替え、反対のお尻もストレッチしてください。

■太もも裏のストレッチ

太もも裏にある『ハムストリングス』という筋肉のストレッチです。
ハムストリングスが硬くなると、骨盤が後ろに引っ張られて猫背姿勢になり、腰への負担が増えてしまいます。
ハムストリングスをストレッチすることで、姿勢が改善し、腰への負担が軽減します。
また、前かがみになるときもハムストリングスが柔軟であることで腰への負担が大きく軽減します。

1. 床に座って右脚だけを伸ばし、左の膝を曲げて右足の裏を右の内ももにつけます。
2. 背筋を伸ばしたまま、両手で右のつま先を持つように、身体を右足の方に向けて倒します。(つま先まで届かないときは、膝やすねなど届くところを持つようにしてください)
3. 右の太もも裏に伸張感を感じたら、20秒間ほど静止します。
4. 左右の脚を反対にし、左のハムストリングスもストレッチしてください。

■足のつけ根ストレッチ

足のつけ根にある『腸腰筋』のストレッチです。
腸腰筋が柔軟になることで股関節が反らしやすくなり、腰を反らすときの腰への負担が軽減します。

1. 立った状態で両足を前後に大きく開きます。
2. 前にした足の裏を床につけて膝を90度に曲げ、後ろにした脚は立て膝をつきます。
3. 背筋をまっすぐ伸ばして床と垂直にしたまま、重心を前の足に移動させていきます。
4. 後ろになった足のつけ根に伸張感を感じたら、20秒間ほど静止します。
5. 左右の脚を反対にし、逆の足のつけ根もストレッチしてください。

■太ももの前面のストレッチ

太もも前面にある『大腿四頭筋』のストレッチです。
大腿四頭筋も腸腰筋と同じく、股関節の前面を走行しているので、柔軟性を高めることで股関節が反らしやすくなり、腰への負担を減らします。

1.足を前に投げ出すようにして床に座り、左右どちらかの足だけ正座をするように膝を曲げます。
2.左右の膝同士があまり開かないように注意しながら、ゆっくりと上半身を後ろに倒します。(大腿四頭筋が硬く、完全に寝転がることができない場合は、両手を身体の後ろにつき、身体をできる限り倒した状態で支えます)。
3.曲げた方の太ももの前面に伸張感を感じたら、そのまま20秒間ほど静止します。
4.左右の脚を入れ替え、反対側の大腿四頭筋もストレッチしてください。

ぎっくり腰予防の筋トレ

ぎっくり腰予防には、柔軟性を高めることだけでなく、体幹の筋力を維持することも重要です。
ここでは、自宅で簡単にできるトレーニングの方法をご紹介します。

■腹筋トレーニング

腹筋を鍛えることで、背骨の動きをしっかりと支えることができ、腰痛予防につながります。

1. 両膝を立てて仰向けに寝ます。
2. 両手を頭の後ろまたは胸の前に組み、おへそをのぞくように頭、肩甲骨の順に持ち上げます。
3. 今後度は肩甲骨、頭の順にゆっくり下ろします。
4. 手順2、3の動きを繰り返し行います。

できるようになってきた方は、肩甲骨まででなく、身体全体を起こすようにしてみてください。
ただし、反動は使わず、起きるときも戻るときもゆっくり動くようにしてください。

■お尻、背筋トレーニング

背筋は背骨の左右に走行し、腹筋とともに背骨の動きを支えます。
また、背筋とともに働くお尻の筋肉を鍛えることで背筋の負担を減らすことができます。

1. 両膝を立てて仰向けに寝ます。
2. 手をお腹の上に置くか、身体の横で床の上におきます。
3. ゆっくりとお尻を浮かせていきます。
4. 身体を横から見た時に肩から膝までが一直線になるところまでお尻が上がったら、3秒間止め、ゆっくりお尻を下ろします。
4.この動きを10回程度繰り返して行いましょう。

筋力的に余裕がある場合は、お尻を上げたところで肛門をしめるように意識すると、より効果的です。また、片方の脚を反対の膝に引っかけ、片脚でのブリッジを行うと、さらに負荷が上がります。
片脚になると骨盤がぐらぐらしやすくなるので、それを抑えることで腹筋や背筋など体幹の筋力向上にも効果があります。

おわりに

今回はぎっくり腰の発症メカニズムと症状、ぎっくり腰を予防するためのセルフケアの方法についてご説明しました。
多くの腰痛は、日頃のセルフケアによって予防することができます。
逆に、全くケアを行っていない場合には、誰でもぎっくり腰になる可能性が高まってしまいます。
予防のために日々ケアに時間を割くのは、モチベーションの維持が難しいですが、発症してから治すよりも予防の方がはるかに楽であることを知っていただき、是非今日から実践していただきたいと思います。

監修

・救急医、内科医 増田陽子

・救急医、内科医 増田陽子

専門分野
微生物学、救急医療、老人医療

経歴
平成18年 Pittsburg State大学 生物学科微生物学・理学部生化化学 卒業
平成22 年 St. Methew School of Medicine 大学医学部 卒業
平成24年 Larkin Hospital勤務
平成26年 J.N.F Hospital 勤務

資格
日本医師資格
カリブ海医師資格
米国医師資格

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