タクティールケアとは

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タクティールケアは、スウェーデン発祥の緩和ケア療法で、1960年代に看護師シーヴ・アーデビーやグニッラ・ビルケスタッドらによって考案されたマッサージ法です。この「タクティール」という言葉は、ラテン語の *tactilis*(触れる)に由来しています。

一般的なマッサージのようにツボや筋肉を強く刺激するのではなく、タクティールケアでは手を用いて相手の手や手足を優しく包み込むように触れることで、リラクゼーション効果を引き出します。施術は通常10分程度行われ、穏やかな触れ合いが相手に幸福感をもたらし、不安やストレスを軽減させるとされています。

このケアがもたらす効果は、オキシトシンと呼ばれるホルモンの分泌促進に関係しています。オキシトシンは「幸せホルモン」として知られ、信頼感や安心感を高める働きがあります。同時に、ストレスに反応して分泌が増加するコルチゾールのレベルを低下させることで、心の緊張を和らげる効果も期待できます。

さらに、タクティールケアには、触覚を優しく刺激することで脊髄にある「ゲート」を閉じ、痛みの信号が脳へ伝わるのを妨げる働きもあります。このため、痛みを感じにくくする効果も確認されています。肌への優しい触れ合いが、心と体の両方に癒しをもたらすこの療法は、ストレス緩和や痛みの軽減に寄与するだけでなく、信頼関係の構築にも役立つとされています。

タクティールケアの活用範囲

タクティールケアは、認知症ケア、介護ケア、がんの緩和ケア、未熟児ケア、障がい者ケア、ストレスケア、いじめ予防と幅広く活用されています。

うつ病

タクティールケアは、うつ病の改善に効果があるのではないかと注目されています。うつ病は、強いショックや慢性的なストレスが原因で脳内の神経伝達物質であるセロトニンが減少し、その結果、神経伝達の働きが鈍くなることで発症するとされています。

この点において、タクティールケアが有効ではないかと考えられる理由は、「オキシトシン」と呼ばれる癒しのホルモンの分泌促進にあります。オキシトシンは“安静ホルモン”や“愛情ホルモン”とも呼ばれ、心身をリラックスさせ、ストレスを和らげる効果が期待される物質です。さらに、オキシトシンにはセロトニンの生成を助ける働きがあることが知られています。この作用により、うつ病患者の脳内で不足しているセロトニンの量が一定まで増加し、症状の改善に寄与するのではないかと考えられています。

タクティールケアは直接的な治療法ではありませんが、心に安らぎを与え、ストレスを軽減する手段として注目されており、精神的なケアの一環として役立つ可能性が期待されています。

疼痛の緩和ケア

疼痛の緩和ケアには、前述のゲートコントロール効果が大きく関わっています。タクティールケアは、優しく撫でるような触覚刺激が特徴で、この刺激がゲートコントロール効果を引き出し、痛みを軽減する働きがあると考えられています。特に、痛みとともに不安感を抱えるガン患者に対しては、タクティールケアが効果的な緩和ケアの方法として注目されています。痛みの緩和だけでなく、精神的な安心感ももたらすことが期待されており、患者の心身の状態を改善するための有力な手段となっています。

タクティールケアの活用例

タクティールケアは、認知症、うつ病、関節リウマチなどに効果的なので病院や老人ホームなどで取り入れられています。

以下症状ごとにタクティールケアを取り入れた患者の変化を記載しますので、ご参考にして頂ければと思います。

認知症

84歳の男性で認知症を患っていた方は、タクティールケアを行う前は感情の波が激しく、ベッドの柵を外すことが頻繁にあり、車いすで過ごすことが多かったそうです。職員が声をかけても、返事はせず、うなずく程度でした。しかし、タクティールケアを始めると、初回から「気持ちいい」「手が柔らかくなった」と言葉を発し、職員もその効果に驚いたといいます。ケアを重ねるごとに、昔話をするようになり、柵を外すことも徐々に減少したとのことです。さらに、夜9時半には自然に眠りにつくようになり、車いすで過ごす時間も減ったという結果が報告されています。このように、タクティールケアは心身に良い影響を与え、生活の質を向上させる可能性があることが示されています。

関節リウマチ

関節リウマチを発症して9年の患者さんは、ケアを受ける前に、自律神経の影響で体の部位ごとに温度差や熱感が大きく異なり、また急に痛みが出ることがしばしばありました。しかし、ケアを受け始めてから、これまで感じていた部位ごとの温度差や熱感の違い、突然の痛みが徐々に改善され、少しずつ消えていったようです。

誰でもできるからこそ専門家から学ぼう

タクティールケアは、特別な道具や専門的な知識がなくても実施できるため、誰でも取り組むことができるケア方法です。しかし、効果的にケアを行うためには、圧力のかけ方や指の動かし方といった感覚的な技術を正しい方法で習得することが重要です。

そこで、タクティールケアを学べる日本の学校をご紹介したいと思います。

・スウェーデン福祉研究所
こちらの研究所は、タクティールケアに関する教育や認定資格を提供しています。タクティールケアを学べる講座が5つあり、各講座は基本的に2日間で修了できるため、忙しい方でも無理なく学べるのが特徴です。そのため、限られた時間でもしっかりとタクティールケアの技術を身につけることができます。

このように、タクティールケアは気軽に学べるので、もしもの時に備えて、家族や大切な人のために学んでみてはいかがでしょうか。

まとめ

タクティールケアについて、少しでも理解が深まったでしょうか。このケアはまだ一般的には広く認知されていない方法ですが、他のケア手法とは異なり、特別な道具や高度な専門知識は一切必要ありません。誰でも手軽に習得でき、すぐに始めることができるのが大きな特徴です。

さらに、このケアは対象となる症状が非常に幅広く、うつ病や認知症、がんの緩和ケアをはじめ、乳児から高齢者まで、健康な方にも看護や介護が必要な方にも対応可能です。多様な場面で効果的に活用できるため、さまざまな状況に応じて役立てることができます。

ぜひ、この機会にタクティールケアを学び、身につけてみてはいかがでしょうか。

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