はじめに

眠り癖という言葉はなかなか聞きなれないとは思いますが、今回は眠り癖について説明しつつ多くの人が抱える睡眠トラブルについての紹介と原因、予防策について説明します。

今回取り上げる眠り癖の症状

①いびきが大きい
②睡眠中ときどき息が止まっている
③朝、口が乾いている
④起きると、よだれを垂らしている
⑤朝、なかなか起きられない
⑥夜、なかなか寝付けない
⑦夜、足がむずむずとした不快感がある
※①から④の症状に該当する人は2.睡眠時無呼吸を、⑤・⑥に該当する人は起立性調節障害を、⑦に該当する人はむずむず脚症候群を参照してください。

睡眠時無呼吸

睡眠時無呼吸とは

睡眠中に10秒以上の呼吸停止があるものを無呼吸と言います。1時間に5回以上、あるいは7時間睡眠の場合で一晩に30回以上無呼吸が出現するものを、睡眠時無呼吸(SAP:sleep apnea syndrome)と言います。脳に十分な酸素が送られず頭痛などの症状を引き起こします。さらに、心臓や血管が酸素を送ろうとして負担がかかってしまうため心疾患、脳梗塞などのリスクも高めます。
睡眠時無呼吸の症状としては、いびきが大きい、寝ているときに呼吸が止まる、睡眠中にときどきむせる、寝汗をかく、熟睡感がない、起床時に頭痛・頭重感がある、朝口が乾いている、朝起きるとよだれを垂らしている、日中強い眠気がある、疲労感、倦怠感などです。
※よだれを垂らしていたり、口が乾いているということは口呼吸をしているというサインです。

2つのタイプの睡眠時無呼吸

睡眠時無呼吸には実は2つのタイプがあります。一つは閉塞性睡眠時無呼吸と言い、空気の通り道(気道)が何らかの原因によって狭くなるために起こります。もう一つは中枢性睡眠時無呼吸と言い、呼吸中枢である脳に異常があるために無呼吸を生じるものです。ただ、睡眠時無呼吸の9割が閉塞性睡眠時無呼吸であると言われています。

閉塞性睡眠時無呼吸になりやすい人の特徴

閉塞性睡眠時無呼吸になりやすいのは肥満、あごが小さい、首が短い、舌が長い、扁桃腺が大きいなどの身体的特徴がある人です。こういった特徴がある人が仰向けで寝ていると、舌の根元などが落ち込み、気道を塞ぎやすくなるのです。

閉塞性睡眠時無呼吸への対処法

(1)減量
体重(kg)を身長(m)の2乗で割った数が25以上の人は肥満です。肥満になると、舌の周りにも脂肪が付き、睡眠時無呼吸を招きやすくなります。食生活や運動習慣を見直して、適正体重を目指しましょう。
※重度の肥満で、すでに睡眠時無呼吸のある人は専用の機械(SPAP:シーパップ)を使って呼吸を補助する治療が必要な場合もあるため、早めに医療機関(呼吸器内科など)を受診しましょう。

(2)横向きで寝る
仰向けで寝ていると気道が狭くなりやすく、睡眠時無呼吸を引き起こします。抱きまくらを使用したりするなど、夜間仰向けにならないような工夫をしましょう。

(3)口呼吸ではなく鼻呼吸を意識する
口呼吸の人は鼻呼吸の人よりも気道が狭くなりやすく、睡眠時無呼吸を招きやすくなります。また、口呼吸になると口腔内が乾燥しやすくなるため、歯周疾患や感染症のリスクを高めます。反対に鼻呼吸が自律神経の働きを整えるために良いとされています。
対施策としては、まず日中鼻呼吸を意識しましょう。アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎などの耳鼻科系疾患がある人は、治療をきちんと継続しましょう。また、睡眠中の鼻呼吸をサポートするグッズ(鼻テープ、口テープ、マウスピースなど)を活用するのも良いでしょう。

(4)アルコールや睡眠薬の使用を控える
アルコールには筋肉を弛緩(しかん:緩ませること)させる働きがあるため、舌・喉周りの筋肉も弛緩して睡眠時無呼吸を助長してしまいます。過剰なアルコール摂取は止めましょう。
また、睡眠薬の副作用の一つに筋弛緩作用というものがあります。これもやはり睡眠時無呼吸を助長してしまいます。睡眠時無呼吸の症状がある人は市販薬は使わず、医師と相談した上で睡眠薬の種類や量を決めましょう。

起立性調節障害

起立性調節障害とは

起立性調節障害は交感神経(興奮時に優位になる)と副交感神経(リラックスしているときに優位になる)という2つの神経のアンバランスによって、血圧と脈拍のコントロールも乱れて様々な症状を引き起こします。
主な症状としては、朝起きられない、夜なかなか寝付けない、低血圧、立ちくらみ、倦怠感、立っていると具合が悪くなる、疲れやすい、頭痛、集中力の低下、イライラする、食欲不振、動悸などがあります。これらの症状は午前中重く、午後には軽快するというのが特徴です。
子供の頃に起立性調節障害だった人の約4割が、成人になってからも何らかの症状を抱えていると言われています。

起立性調節障害のタイプ

起立性調節障害には新起立試験(※)という検査を行った際の症状の現れ方によって、4つのタイプ(起立直後性低血圧、体位性頻脈症候群、神経調節性失神、遷延(せんえん)性起立性低血圧)に分けられます。

※新起立試験
まず仰向けの状態で10分間安静にします。この間に血圧と脈拍を3回測定します。10分後立ち上がり、血圧・脈拍を1分後、3分後、5分後、7分後、10分後と測定します。

起立性調節障害への対処法

(1)水分・塩分を摂取する
体内に必要な水分や塩分がなければ血圧を維持できず、起立性調節障害は悪化します。そのため、1日1リットルから1.5リットル程度の水分と1日10gから12gの塩分を摂るようにしましょう。

(2)起床・就寝時間を徐々に早める
起立性調節障害の人は、夜寝付けないために朝も遅くまで寝ているという悪循環に陥りがちです。いきなり何時間も起床・就寝時間を早めるのは無理があるため、30分ずつなど少しずつ時間を早めるようにしましょう。
就寝1時間前のゲーム、パソコン、スマホなどが習慣化している人は、それらを止め、ホットタオルなどで目元を温めるだけで睡眠の質が上がります。というのは、パソコンなどの液晶画面の光は交感神経を刺激し、寝付きを悪くします。反対にまぶたの筋肉には副交感神経を優位にするスイッチがあり、ここを温めることで副交感神経が優位になって入眠効果を高めます。

(3)起き上がりの動作をゆっくり行う
特に症状が重くなりがちな起床からお昼頃までは、立ち上がり・起き上がりの動作はゆっくり行いましょう。また、ふくらはぎは第2の心臓と呼ばれており、足から心臓に血液を送るポンプの役割を果たしています。そのため、朝布団の中で足首の背屈(はいくつ:つま先をお腹の方に向けるイメージ。)と底屈(ていくつ:つま先を地面に向ける。バレリーナのようなイメージ。)を20回程度行ってから出るなど工夫をしましょう。

(4)適度な運動を行う
適度な運動を生活に取り入れることで、交感神経と副交感神経のアンバランスを調節する効果が期待できます。運動はあまり負荷のかかるものではなく、散歩やヨガなど軽めのもので十分です。

(5)医療機関を受診する
生活改善で症状が改善しない場合は、医療機関を受診し適宜薬物治療を受けましょう。その際、子供は小児科、大人は循環器科内科あるいは心療内科を受診します。

むずむず脚症候群

むずむず脚症候群とは

むずむず脚症候群は、はっきりとした原因は解明されていませんが、脳内伝達物質の一つであるドーパミンの機能障害、鉄分の欠乏、遺伝などによって起こるとされています。
主な症状としては、夜寝ようとして布団に入っても脚にむずむずとした不快感があるために寝付けない、仮に寝付いたとしても何度も寝返りを打ちながら脚を動かしたりします。熟睡感がなく、日中の眠気や集中力が低下します。また、足の不快感は日中にも出現することがあり、足がむずむずするために、じっと座っていられないなどの症状として出現します。

治療・対処方法

(1)むずむず脚症候群を引き起こす薬の使用を中止する
薬剤の中には副作用としてむずむず脚症候群を引き起こすものがあります。
抗うつ薬、抗ヒスタミン薬(花粉症の治療薬としても使用されます)などを使用している場合は医師に相談しましょう。

(2)嗜好品を控える
カフェイン(栄養ドリンク、コーヒー、紅茶、一部のお茶など)、アルコール、ニコチン(たばこに含まれます)は症状を悪化させると考えられているため、控えるようにしましょう。

(3)食習慣・運動習慣の見直し
偏食・欠食が習慣になってしまっている人はビタミン・ミネラル・植物性蛋白質などの栄養素が不足している場合があるため、1日3食バランスよく食べるようにしましょう。特に鉄分不足はむずむず脚症候群の原因と言われるため、牛乳、小松菜、小魚などを積極的に摂るようにする他、サプリメントを補助的に使用するのも良いでしょう。
また、運動不足あるいは就寝前の過剰な運動は症状を悪化させることがあります。短めのウォーキング、ストレッチ、マッサージなどを行いましょう。

(4)病院で薬物治療を受ける
鉄欠乏性貧血がある場合は、鉄剤を服用します。また、ドーパミンの機能障害が原因として考えられているため、ドーパミン作動薬や抗てんかん薬を使用することによって症状を抑えられることがあります。ドーパミン作動薬はパーキンソン病に使われる薬剤です。
医療機関は睡眠外来が近くになければ、神経内科、精神科、神経内科などを受診しましょう。

まとめ

今回の記事で初めて眠り癖という言葉を聞いた人も多いかと思います。
ご自身の就寝中の症状なのでなかなか自覚することは難しいとは思いますが、まずはご家族などに上記で挙げた症状などが無いか確認してみましょう。

監修

・救急医、内科医 増田陽子

・救急医、内科医 増田陽子

専門分野 
微生物学、救急医療、老人医療

経歴
平成18年 Pittsburg State大学 生物学科微生物学・理学部生化化学 卒業
平成22 年 St. Methew School of Medicine 大学医学部 卒業
平成24年 Larkin Hospital勤務
平成26年 J.N.F Hospital 勤務

資格
日本医師資格
カリブ海医師資格
米国医師資格

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