はじめに

認知症が進行していくと症状が悪化することを知っていますか?
認知症の症状の進行を遅らせるためにも、さまざまなリハビリ療法を行うことが大切です。では、どのようなことに気をつけながら、リハビリを行えばよいのかを見ていきましょう。

認知症とは

認知症を発症すると、さまざまな原因によって脳細胞が死んでしまい、脳の働きが悪くなります。脳の働きが悪くなると精神的・身体的障害が起こり、日常生活をする上で支障が出てきますので、症状に合わせたリハビリを行いましょう。

認知症の種類

認知症を発症する原因はひとつではなく、認知症の種類もいくつかあります。
主な認知症の種類は下記の通りです。

・アルツハイマー型認知症
女性に発症することが多く、発症した方の半分以上がなる認知症です。

・脳血管型認知症
脳の血管障害によって起こり、アルツハイマー型の次に発症数が多い認知症です。

・レビー小体型認知症
男性に発症することが多く、アルツハイマー型や脳血管型の次に多い認知症です。

・前頭側頭型認知症
脳の前頭葉や側頭葉が委縮して起こり、若い方でも発症する認知症です。

認知症を発症した方で、約60%がアルツハイマー型認知症、約20%は脳血管型認知症を発症しています。

認知症の症状

認知症になると主に2種類の症状が現れます。

・中核症状
中核症状とは脳の神経細胞が破壊されることによって起こる症状です。中核症状の主な症状は「記憶障害」です。記憶障害が起こると過去の記憶は残っていますが、直前でしたことなどを思い出せなくなります。その他には「判断力の低下」や「見当識障害」も中核症状として起きます。

・行動・心理症状(BPSD)
行動・心理症状とは、中核症状に環境の変化などが加わって起こる症状です。妄想や幻覚、徘徊なども行動・心理症状によって起きている症状です。その他にもうつや不安感などの「感情障害」なども行動・心理症状として起きます。

認知症は痴呆のこと?

痴呆症という言葉を聞いたことがありますか?
痴呆症とは認知症と同じ症状のことを言いますが、現在は痴呆症という言葉は使われなくなりました。
それは、痴呆症という言葉自体に差別的なニュアンスが含まれているため、2004年から厚生労働省が「認知症」という言い方に変更しました。現在、一般的には使われませんが、行政用語としては使われています。

認知症に効果があるリハビリの種類

認知症は進行していく病気で、現段階では完治する方法が見つかっていません。しかし、リハビリを行うことで認知症の進行を遅らせることができます。では、認知症に効果のあるリハビリには、どのような種類があるのかをご紹介します。

音楽療法

・音楽を聞く「受動的音楽療法」
・歌うことや楽器を演奏する「能動的音楽療法」

リラックス効果を高め症状を改善へと導きます。どちらの音楽療法も認知症の方が慣れ親しんだ歌謡曲や演歌、童謡、気分を落ち着かせる効果のあるクラシックなどの音楽を使います。

回想法

回想法は昔の楽しい気持ちを思い出してもらうことで、心の安定を図るために行います。認知症になると新しいことは忘れてしまいますが、昔のことはよく覚えていることが症状の特徴です。その特徴をいかして昔の生活用品やおもちゃなどを用いて、昔の体験や思い出を話してもらうことにより、心の安定を図ります。

アニマルセラピー

動物の可愛さに癒されたり、「世話をしたい」という優しい気持ちが生まれることによって気持ちを落ち着かせ、主体性を取り戻し症状の改善を目指すリハビリです。

美術療法

絵を描いたり、折り紙を折ったり、粘土細工などを作ることによって、絵などを描く為の対象物に触れることで五感を使い脳の活性化を図ります。

作業療法

料理などの家事や買い物など家庭内での役割を作業してもらうことによって症状の改善を図ります。家事以外にも手芸や工作などを行ってもらうこともあります。

その他のリハビリ

上記以外にも、園芸療法やアロマ療法、オリエンテーションやリクレーションなどのリハビリがあります。特に認知症によって昼夜逆転しているなどの不規則な生活を送っている方は、散歩やストレッチなど軽い運動をしてもらうこともあります。軽い運動を行うことで夜にしっかり睡眠をとることができるようになり、徘徊行動や夜間に幻覚症状を起こす「夜間せん妄」などの症状を改善することができます。

リハビリを効果的に行うポイント

リハビリを効果的に行うためには、「体を動かす」「考える」「心の満足」という3つのポイントをできるだけ同時に取り入れることです。頭で考えたことを体を使って行い、感謝や充実感などを得られることが大切です。

例えば女性の場合料理などを行うと、段取りを考えながら複数の作業を行うので脳が活性化されます。そして、料理をすることによって家族から認められ、自分の必要性を感じ取れるため、心の満足感も得ることにつながります。

男性の場合は仕事や趣味を活かした作業を行うことが効果的です。認知症になっても昔行っていたことは覚えているので、失敗も少なく、能力を発揮することができます。

例えば、農家の方は家庭菜園などを行ってもらったり、大工の方は壊れたものを治してもらうことで症状の改善を図ることができます。

また、認知症の症状が進行して寝たきりになっている方は、心肺機能や体のバランスを取ることができる「座る」ことを目標にするとよいでしょう。

リハビリで期待する効果と注意点

認知症の方がリハビリで得られる効果とはどのようなものがあるのでしょうか?また、リハビリを行う上での注意点について見てみましょう。

リハビリで期待する効果

認知症の治療は、薬物治療とリハビリを組み合わせて行います。
なぜ組み合わせて治療するのかというと、認知症を発症すると一度壊れた脳の神経細胞は戻すことができないため、徐々にさまざまな機能が失われていきます。

しかし、リハビリを行うことで残っている正常な機能を維持しながら、認知症による症状の進行を遅らせ、日常生活に支障をきたす症状を改善する効果があります。その他にも妄想や徘徊などにもリハビリを行うことによって改善が見込めます。

脳の神経細胞は日頃、眠っているものもあるため、「見る」「聞く」「嗅ぐ」「味わう」「触れる」という五感を使った、リハビリをすることで脳に刺激を与えることができるだけでなく、眠っている脳細胞を目覚めさせ、壊れた神経細胞の代わりとなって活動する可能性があるので、リハビリを行うようにしましょう。

リハビリをする上での注意点

リハビリを行う上で注意することは、本人にストレスを与えないようにし、家族など周りの方が認知症の方を尊重する気持ちを持つことです。また、リハビリを無理強いすると、リハビリを行うことを苦痛に感じ、拒否する可能性もあるので焦らないことも大切です。

認知症の方は記憶障害も起こしますが小さな子供ではありません。子供扱いをするとプライドを傷つけてしまいます。プライドが傷つくとリハビリを中断する可能性もあります。そのためにも本人がやりたいことを優先させたり、リハビリを行って嫌がるようであれば、別のリハビリに切り替える判断をしましょう。

まとめ

いかがでしたか?
認知症の方が行うリハビリは運動機能を高めることよりも、脳の活性化を図るものが主体です。
無理に行うようなことはせず、生活の中にリハビリを取り入れることもよいでしょう。
また、本人の様子を見ながら無理のない範囲で行っていくことが、リハビリ生活を送る上での大切なポイントです。

監修

・総合診療医 院長 豊田 早苗

・総合診療医 院長 豊田 早苗

専門分野 
総合診療医

経歴
鳥取大学医学部医学科卒業。2001年 医師国家試験取得。
2006年とよだクリニック開業。
2014年認知症予防・リハビリのための脳トレーニングの推進および脳トレパズルの制作・研究を行う認知症予防・リハビリセンターを開設。

資格
医師免許

所属学会:総合診療医学会、認知症予防学会

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