腕立て伏せの6つの効果

1. 上半身・体幹の筋力アップ

腕立て伏せでは、自重(自分の体重)を両腕で支え、重心を上下に動かします。
この運動により、胸から肩、腕にかけて上半身の筋肉が、まんべんなく鍛えられます。それとともに、体幹部をまっすぐに保持することで、腹筋や背筋といった、体幹部の筋肉も鍛えることができます。

2. 肩こりの改善

肩こりは筋力の弱い女性に比較的多いです。
腕立て伏せをすることにより、首から肩、肩甲骨周りの筋力が増強されるため、同じ動作にかかる負担が軽減され、肩こりの改善につながります。
また、腕立て伏せでは、肩甲骨を動かすので、肩こりに関係する筋肉の血流を促すことになり、症状の緩和につながります。

※肩こりの改善効果については、個人差が大きく、逆に悪化するケースもあります。痛みや違和感がある場合は、直ちに実施をやめてください。

3. 肩関節周囲の痛み・ケガの予防

肩関節は様々な方向に動かすことのできる、自由度の高い球状の関節です。関節の周りは『関節包』と呼ばれる繊維状の膜や靭帯、軟骨などで覆われ、脱臼しないように保護されています。
しかし、転倒して手をついたり、無理な方向に引っ張られたりすることで、脱臼しやすい関節でもあります。

腕立て伏せによって肩関節周囲の筋肉が発達すると、肩関節を守るものが多くなるので、脱臼や『肉離れ』を始めとするケガを予防することができます。
また、年齢に伴う筋力低下は『五十肩』や『六十肩』の原因の一つですが、腕立て伏せを行うことが、それらの予防にもつながります。

4. 姿勢の改善

腕立て伏せで肩甲骨を大きく動かすことで、肩甲骨の内側にある『菱形筋』という筋肉が鍛えらます。この筋肉を鍛えると、胸を張りやすくなり、猫背の解消につながります。
また、腕立て伏せで腹筋群や背筋群も鍛えることにより、背中や腰を支える力がつき、姿勢が改善します。

5. バストアップ

腕立て伏せで主に鍛えられる『大胸筋』は、バストアップに有効な筋肉です。
大胸筋は胸部全体に大きく広がっており、バストの脂肪の深層にあるため、大胸筋が発達すると、バストアップ効果が期待できます。
また、年齢とともにバストが下がってくるという女性ならではの悩みも、大胸筋を鍛えることで改善され、張りのある若々しいバストを保つことができます。

6. 代謝の向上

腕立て伏せでは、上半身や体幹部の比較的大きな体積を占める筋肉が鍛えられます。
腕立て伏せによって全身の筋肉量が増えると、身体が引き締まるだけでなく、代謝が上がって脂肪を燃焼しやすくなり、太りにくい身体になります。

腕立て伏せのバリエーションと鍛えられる筋肉

腕立て伏せはスタンダードプッシュアップを基本とし、フォームややり方を変えることで、負荷や鍛えられる筋肉などを少しずつ変化させることができます。
ここでは、様々なバリエーションプッシュアップ7種類をご紹介します。

1. スタンダードプッシュアップ(基本的な腕立て伏せ)

最も基本的な腕立て伏せのやり方をご紹介します。
胸の前面にある『大胸筋』、肩関節を前後から包み込む『三角筋』、二の腕にある『上腕二頭筋』や『上腕三頭筋』を中心とした上半身と腕の筋肉を鍛えることができます。また、身体を保持し続けることで、『腹筋群』や『背筋群』といった体幹部の筋肉も鍛えられます。

① 床の上で四つ這いになり、肩の真下に両手がくるよう肘を伸ばして手をつきます。
② ここから、両手を肩幅より拳2つ分ほど広くなるように開きます。
③ 足を腰幅に開き、つま先だけが床につくようにし、膝を伸ばします。
④ 体を横から見たときに、頭、肩、股関節、足が一直線になるようにし、体幹部をまっすぐに保ちます。
⑤ 肘を曲げながらゆっくりと体を床に近づけていきます。
⑥ 頭や胸が床ギリギリまで近づいたら、肘をゆっくりと伸ばしながら元の体勢に戻ります。
⑦ 肘を曲げて伸ばす動きを繰り返し行います。

2. インクラインプッシュアップ

『インクラインプッシュアップ』では、基本の腕立て伏せで床についていた両手を、少し高さのある台の上に置いて行います。

身体がやや起き上がった状態で行うので、両腕にかかる体重が減って負荷量が少なくなります。筋力不足でスタンダードプッシュアップがうまくできない方におすすめです。
また、大胸筋の下部に特に負荷をかけることができるので、下から盛り上がるような胸板を目指す方にもおすすめのトレーニングです。

3. デクラインプッシュアップ

『デクラインプッシュアップ』は、インクラインプッシュアップとは逆に、足側を台の上に置いて頭側が下がるような形で行うプッシュアップです。

両腕にかかる負荷が増えるので、スタンダードプッシュアップでは物足りない方におすすめです。
また、大胸筋の上部に特に負荷をかけることができるので、分厚く、見栄えの良い胸板を目指す方にもおすすめのトレーニングです。

4. 膝つきプッシュアップ

スタンダードプッシュアップではつま先を床につきますが、『膝つきプッシュアップ』では両膝を床について行います。肩から膝までが一直線になるようにし、膝下は曲げて浮かすようにして行いましょう。

このやり方では、支える身体の長さが短くなるので、負荷が少なくなります。また、体幹部をまっすぐに安定させておくことがかなり楽になるので、体幹部の筋力が弱い方におすすめの方法です。

5. ナロープッシュアップ

『ナロープッシュアップ』は両手の幅をスタンダードプッシュアップよりも少し狭くし、肩幅程度にする方法です。

両手の幅を狭くすることで大胸筋が発揮する力が低下し、肘の曲げ伸ばしによる動きが協調されます。そのため、二の腕にある上腕三頭筋や上腕二頭筋への刺激が強くなります。


ナロープッシュアップの中でも、両手をさらに近づけ、両手の親指と人差し指で三角形を作って手をついて行うやり方を『ダイアモンドプッシュアップ』と言います。
筋力を発揮しにくい姿勢になるので、上腕三頭筋や大胸筋への負荷がかなり高くなります。

6. ワイドプッシュアップ

『ワイドプッシュアップ』は、ナロープッシュアップとは逆に、両手の幅を広めにとる方法です。
肘を曲げて重心を下げたときに、大胸筋がより大きくストレッチ(伸張)され、この状態から収縮することになるので、大胸筋に対する負荷が高まります。
他の筋肉よりも大胸筋への刺激を大きくしたい方におすすめの方法です。

7. バランスボールプッシュアップ

『バランスボールプッシュアップ』は、インクラインプッシュアップと同じようなフォームになりますが、手をつく場所が台などの安定したところではなく、弾力性のあるゴムボールの上になります。

不安定な面に手をついて行うので、肩関節や体幹部を安定させるための『インナーマッスル』に負荷をかけることができます。それだけでなく、大胸筋や上腕三頭筋などの筋肉にも、通常よりも負荷がかかります。
スタンダードプッシュアップが上手くできるようになって負荷量をあげたい方や、競技力向上目的でバランス力や安定性を高めたい方におすすめの方法です。

腕立て伏せのメニューと回数

腕立て伏せに限らず、筋トレでは、目的に応じてかけるべき負荷が異なります。最大筋力(発揮することのできる最大の力)の向上、筋肉の肥大、筋持久力の向上、肩こり解消など、何が目的かを明確にして必要な負荷をかけなければ、十分な効果が期待できません。

必要な負荷を考える指標として『RM』という単位があります。
1RMは「その人が連続で1回しかその動作を行うことのできない量の負荷」、10RMは、「その人が連続して10回その動作を行うことのできる量の負荷」をいいます。よって、個人の筋力次第で1RMの負荷量は変化します。
トレーニングでは、目的に応じて自分に必要なRMの負荷をかけることで、期待する効果を得ることができます。

ここでは、腕立て伏せを行うにあたり、目的別にどのような負荷のトレーニングを行うべきなのかをご紹介します。

1. 最大筋力の向上

最大筋力を向上させたい場合には、1~4RMのトレーニングを行う必要があります。
スタンダードプッシュアップを連続して1~4回以上行うことができる場合には、デクラインプッシュアップで角度をつけて負荷を増したり、背中の上におもりを乗せてプッシュアップを行ったりするなどの工夫が必要です。
自分が1~4回しか連続して行うことができない負荷を見つけて行いましょう。

2. 筋肉の肥大

筋肥大が目的の場合は、5~14RMのトレーニングが適切です。
スタンダードプッシュアップで5回以上連続してできない方は、インクラインプッシュアップや膝つきプッシュアップなど、5~14回行うことのできる負荷を見つけてください。
逆に、15回以上できる方は、デクラインプッシュアップやおもりを用いたプッシュアップに変更する必要があります。

3. 筋持久力の向上

筋持久力の向上が目的の場合には、15RM以下の負荷を用いたトレーニングが適切です。
スタンダードプッシュアップが15回以上できる場合には、それを続けて行いましょう。
難しい場合には、インクラインプッシュアップや膝つきプッシュアップに変え、15回以上行うことのできるプッシュアップを行ってください。

4. 肩こりや五十肩の改善

肩こりや五十肩改善のために肩関節周りの血流を促すことを目的として行う場合も、15RM以下の負荷を用いたトレーニングが適切です。
スタンダードプッシュアップが15回以上できる場合には、それを続け、難しい場合には、インクラインプッシュアップや膝つきプッシュアップを15回以上行いましょう。

※肩こりや五十肩の改善効果については、個人差が大きく、逆に悪化するケースもあります。痛みや違和感がある場合は、直ちに実施をやめてください。

腕立て伏せのセット数

筋トレは連続して行う回数とともに、セット数も考えると、より効果的に行うことができます。

厳密な決まりはありませんが、通常、1回に2~3セットが好ましいとされています。
1セットだけ行うより2~3セット行った方が、より効果が期待できます。さらに、それ以上行っても、効果は頭打ちになるということも分かっています。
よって、数十秒~数分間の休憩をはさみながら、1回2~3セット行うのが最適です。

ただし、筋トレ初心者の方や初めて腕立て伏せに挑戦する方は、最初の何回かは安全のために1セットだけにしておきましょう。初めての動作を無理に行うと、ケガにつながる可能性があります。

おわりに

腕立て伏せの効果や様々なバリエーション、行うべき回数や負荷の調整についてご説明しました。
腕立て伏せはポピュラーなトレーニングではありますが、正しいフォームで行うのは意外と難しいものです。
今回の内容を是非参考にしていただき、自分の目的に合った腕立て伏せに挑戦してみてください。

監修

・総合診療医 院長 豊田早苗

・総合診療医 院長 豊田早苗

専門分野
総合診療医

経歴
鳥取大学医学部医学科卒業。2001年 医師国家試験取得。
2006年とよだクリニック開業。
2014年認知症予防・リハビリのための脳トレーニングの推進および脳トレパズルの制作・研究を行う認知症予防・リハビリセンターを開設。

資格
医師免許

所属学会:総合診療医学会、認知症予防学会

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