はじめに

「風邪のひき始めには葛根湯〜♪」といった宣伝を見たこと、聞いたことがある方もいるかもしれません。

その影響かもしれませんが、私の周りでも「風邪引いちゃった!やっぱり葛根湯かな?!」とか、「健康に気を付けていて、風邪っぽいなーと思ったら葛根湯を飲むようにしています」などと言ってきてくれる方々もいます。

しかし、実は間違っているケースも少なくありません。これを読んで頂いた方は、正しい漢方の選び方をマスターして、セルフケアを充実していきましょう。

葛根湯≠総合風邪薬

風邪を引いた時は、市販の総合風邪薬を頭に浮かべるのではないでしょうか?
そして、葛根湯も同様なイメージで、風邪だと思った際は葛根湯を飲めば良いのではと考えている方もいるのではないでしょうか。

しかし、この「葛根湯=総合風邪薬」というイメージが必ずしも正解ではありません。

"風邪を引いたときに飲む漢方"は数十種類あり、その一つ一つにベストマッチした症状・身体の状態があります。言い方を変えると、症状とベストマッチした時にこそ漢方の効果は最大限発揮されるということです。

葛根湯も例外ではなく、ある症状・身体の状態には効くがその他多くの症状には効き目は薄く、実は別の漢方を飲んだ方が効果的である場合もあるのです。

漢方を飲む前に、先ずは正しくその時の症状を見分け、今手に持っている漢方と身体の状態が合っているのかを判断することが非常に大切になります。

漢方から見た風邪の症状

身体に現れている症状を正しく判断するため、まずはどのように漢方(東洋医学)が風邪を捉えているかをご説明します。

風邪と言っても、ダルさ・寒気・発熱・頭痛・節々の痛み・咳・喉の痛み・痰・鼻水……などなど、たくさんの症状があり、西洋医学ではこうした風邪の原因を「菌・ウイルス」によるものとし、それを対処するために薬が処方されます。

一方、漢方では、「熱い」もしくは「冷たい」“悪い気”が風に乗って身体に入り込んでしまったために、風邪の症状が起こると考えます。
(ここでいう「風」は、所謂ピューピューと外で吹いている風のことを指していますが、広義の意味で捉えると身の回りの「環境」とも解釈できます)

西洋医学と同じように、漢方でも風邪の原因は“外部から悪いもの”が入ってきたと考えていますが、ここでポイントとして頭に入れておいて頂きたいのは、「熱い・冷たい」は単に温度で測ることができる「暑い・寒い」ではなく、東洋医学的な視点から判断した風邪の属性のようなものであるということです。

実際の臨床現場ではさらに、細かい悪い気(乾燥や湿気など)や人それぞれの体質、その時弱っている身体の箇所などが関係し、最終的に症状として出てくる事になりますが、今回は分かりやすくするために、大元である「熱」と「冷」の風邪を中心に話をしていきます。

熱い風邪 VS 冷たい風邪

では、具体的に「熱」と「冷」にはどんな症状の違いがあるのでしょうか?

東洋医学的に見ると「熱い風邪」は主に肺から入ると考えられており、代表的な症状は、発熱(寒気よりも強く感じる)、口の渇き、咳、鼻水が黄色い、喉が鋭く痛いなどが挙げられます。
舌は赤っぽくなり、脈は通常より早くなります。

一方、「冷たい風邪」は身体の表面にへばりつき、陽気(体を温めたり元気にしたりする気)を縮こめてしまうと考えられ、主な症状は、寒気(発熱よりも強く感じる)、頭痛、節々の痛み、水っぽい鼻水、下痢などで、舌は白っぽくなり、脈も遅くなります。

この「熱」と「冷」の違いはわかりづらいかもしれませんが、風邪になった時にご自分の症状を注意深く分析してもらうと、上記のような違いが何となくお解り頂けるでしょう。

風邪になったからといってすぐに薬に手を伸ばすのではなく、症状を観察してその風邪の属性を判断することで、「熱」が原因であれば→涼める漢方を、「冷」が原因であれば→温める漢方を選んでいただければ、より早い身体の改善が期待できます。

逆を返せば、間違えて「熱」が原因の時に温める漢方を飲んだり、「冷」が原因の時に涼める漢方を飲んでしまったりした場合は「火に油を注ぐ」状態になり、風邪が長引く・悪化する場合もあるということになってしまうのです。

葛根湯を飲んでほしい時の症状

「症状に合わせて漢方を選ばなきゃいけないことは解ったけど、じゃあ葛根湯はどのような時に飲むのが正解なの?」と思われているかもしれません。

こちらをご覧ください。

まず葛根湯は熱い風邪に効くのか冷たい風邪に効くのか、どちらでしょうか。答えは「冷たい風邪」です。前述した冷たい風邪の主症状は、寒気(発熱よりも強く感じる)、頭痛、節々の痛みでした。

この基本の症状に追加して、首肩の倦怠感、発汗なし、下痢気味、肌が敏感になる(ゾクゾクする)といった症状がある場合に、葛根湯が効果的になり、数日でスッキリと体調改善が期待できます。繰り返しになりますが、このような症状ではなく別の症状(例えば喉が痛い、鼻水・痰がある、咳が出るなど)がある時に葛根湯を飲んでも効果を感じる可能性は低くなります。

もし、別の症状の時に葛根湯を飲んで改善したご経験があるという方は、どのくらいの期間をかけて体調が良くなったかを思い出してみると一週間以上かかっていることもあるかもしれません。そのような場合は、実際は漢方の効果ではなく、体の自然治癒力によって回復したのではないかと考えられます。

その他の症状の時に服用したい漢方一覧

葛根湯の症状はお解り頂けたかと思いますが、最初に申し上げた通り、風邪の時に飲むべき漢方は他にもたくさんあります。

他の症状が出た時にお試し頂きたい漢方を下記に簡単にまとめました。

【冷たい風邪編】

・小青竜湯(しょうせいりゅうとう):基本の症状に追加して、サラサラした透明の鼻水が出る、咳が出る、痰が絡む時。

・参蘇飲(じんそいん):風邪が長引いて中々完治しない(2〜3週間以上)、熱もあまりなくどちらかというと寒い、手足に力が入らない、軽い咳が続いている時。

・柴胡桂枝湯(さいこけいしとう):疲れが溜まっている、ボーッとして風邪っぽい。特に目立った咳や鼻はないが、喉が痛くなりそう、胃が張る感じがある時。

・辛夷清肺湯(しんいせいはいとう):鼻詰まりや痰がひどく、蓄膿症のような症状が続いている時。

【熱い風邪編】

・銀翹散(ぎんぎょうさん):熱があって頭がクラクラする、頭痛、口が渇き、喉が痛い時。

・柴胡清肝湯(さいこせいかんとう):扁桃腺が腫れているような鋭い喉の痛み、頭痛、熱っぽい時。蕁麻疹のような肌の症状がある時も効果的。

・麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう):強い咳が出る、痰が絡んで胸がゴロゴロするなどの時。

まとめ

漢方は薬というよりビタミン剤のようなものと思っており、何を飲んでも大丈夫な気がするかもしれませんが、症状に合わせた漢方選びをすることが大切になります。

また、漢方は“長く飲まないと効果がない”、“即効性がない”といったことを思う方もいるかもしれませんが、正しい漢方を飲めば西洋医学の薬と同じようにすぐに効果を感じることも少なくありません。

今回読んでいただいた情報を参考に、風邪で困ったときは漢方を選びをしてみてはいかがでしょうか?人それぞれ症状が違うのが解り、漢方選びがスムーズにいくかもしれません。

監修

・総合診療医 院長 豊田 早苗

・総合診療医 院長 豊田 早苗

専門分野 
総合診療医

経歴
鳥取大学医学部医学科卒業。2001年 医師国家試験取得。
2006年とよだクリニック開業。
2014年認知症予防・リハビリのための脳トレーニングの推進および脳トレパズルの制作・研究を行う認知症予防・リハビリセンターを開設。

資格
医師免許

所属学会:総合診療医学会、認知症予防学会

関連する記事

関連するキーワード

著者