はじめに

妊娠中は赤ちゃんに栄養などを送らなければいけないため、いつの間にか鉄分が不足して貧血になる妊婦の方がいます。

妊婦にとって貧血は大敵です。貧血がひどくなると出産時に血が止まらなくなったり、血圧が下がったときの救命処置で使う薬が効かなくなったりと大変危険です。

ここでは、妊娠中の妊婦の貧血の原因となりやすい時期、貧血にかかった時の症状と対処方法を説明します。

妊婦の貧血はどうして起こる? 立ちくらみも貧血なの?

貧血は血液中の赤血球やヘモグロビンの濃度が薄くなった状態のことで、血液を少しでも体中に送ろうとして心臓や肺に負担がかかるので疲労感や倦怠感、動悸・息切れを起こすことがあります。

もともと貧血持ちの人もいますが、貧血になったことがない人も、気づかないだけで貧血状態になっている人も多く、日本の女性の4人に1人が貧血だと言われています。また、妊娠中の方々でいくと、妊婦さんに人気の雑誌『たまごクラブ』のアンケートでは読者全体の53%という半数以上の妊婦の方が貧血症状があるとの結果でした。

貧血は鉄分の欠乏、ビタミンB12・葉酸の欠乏、その他の疾患による造血不足などが原因となります。とくに妊娠中は、お腹の赤ちゃんに栄養を送らねばならず、多くの血液が必要になります。
具体的には、妊婦さんの血液量は、8~12週では10~20%増加、妊娠30週以降は約50%増加となるため、血液が薄くなり、赤血球やヘモグロビンの濃度が減少してしまう上に、妊娠中期以降は、鉄分など血液を作る材料の必要量がぐんと増えるため、鉄欠乏性貧血と診断される妊婦さんが多数いるわけです。

貧血が治らないままだと、出産時に大量出血を引き起こしたり、輸血が必要になったり、産後の回復や母乳の出が悪くなる可能性があります。
そのようなことにならないために、妊娠中には貧血検査は必須です。

また、貧血はいわゆる立ちくらみと混同されがちですが、起立性低血圧や脳貧血と言われ血液の濃度には関係なく誰にでも起こりうるものと言えます。

妊婦の貧血に気をつけなくちゃいけない時期はいつ?

妊娠中に血液検査は全部で3回行われます。
1回目の血液検査は妊娠初期で10週前後、2回目は妊娠中期で24週~26週頃、3回目は妊娠後期で36週頃に行います。

この血液検査で貧血検査についても行われます。赤血球や白血球、ヘモグロビンなどの数値を見て、貧血かどうか診断されます。また、貧血の場合は食事指導と鉄剤が処方されます。

妊娠初期から貧血の可能性について意識したビタミンB群の豊富な食生活を送り、妊娠中期以降はとくに鉄分の摂取を意識した食生活を送るとよいでしょう。
妊娠初期にはビタミンAの過剰摂取は注意が必要な場合もありますが、中期以降は摂取が可能となる場合もあるため、レバーやうなぎなどを程よく食べると良いかもしれません。

また、母乳は血液から作られるので、母乳育児を計画している場合には授乳中も継続して貧血対策が必要となります。

妊婦の貧血はどんな症状や影響があるの?

貧血の主な症状は、動悸や息切れ、倦怠感や疲労感、カラダの末端の冷え、口内炎や口角炎、氷食症、頭痛などが考えられます。軽い症状であれば食事で鉄分が多いものを摂ったり、サプリメントで改善する事が可能です。
ただし、出産直前に貧血ということであればきちんと治療した方が安心かと思います。出産時は、多いと500mlを超えてしまう出血量になることがありますので、出産前に貧血だと産後はさらに貧血になってしまうからです。

また、米ハーバード大の研究では、妊娠初期から中期に貧血だった場合、早産や低出生体重児が生まれるリスクがいずれも1.2倍を超えており、貧血も重大な問題と考えられています。

妊婦の貧血への対処方法

①安静にする

貧血が起きている間は視界が歪んでいたり、ぐらぐらと揺れているかもしれませんが、しゃがんだり、椅子に座るなどして急な行動をしないように心がけましょう。
また、横になれる環境があれば、お腹を下にしないようにして静かに横になりましょう。

②栄養素をきちんととる

日頃から鉄分、タンパク質、ビタミンB群、ビタミンC、そして葉酸を多く含んだ食べ物を普段よりちょっと多めかもと思う程度に食べましょう。また、鉄分だけに偏らないために、五大栄養素(タンパク質や脂質、ビタミンなど)をバランス良くとれる食事を心がけましょう。

③生活環境を整える

浴室内には滑り止めのマットを用意する、階段は極力使用しないように避ける、出掛ける際は腰掛けられる場所を見つけておく、重たい荷物を持たないようにするなどして、いつ何が起こっても大丈夫なように身の回りから整えておきましょう。

番外編① 鉄剤の使用について

鉄剤の副作用で吐き気が起こるケースがあります。
つわりがひどい時などは寝る前に服用するとそのまま眠ることができますので、服用タイミングを工夫すると良いでしょう。鉄剤は、鉄とタンニンを多く含んだ飲料と鉄剤はいっしょに飲まないようにしましょう。

番外編② 妊娠中の飲み物

薬剤師からは、鉄剤を服用する前後1時間はコーヒーや茶を飲まないようにとの指示があります。
妊娠中は普段からノンカフェインのネトルやハイビスカス、ローズヒップなどのハーブティーを飲用すると良いでしょう。

まとめ

妊娠性の貧血は多くの妊婦が悩まされますが、鉄剤などによる栄養補給でその症状は改善します。

妊娠が進むに連れて悪化する可能性が高いことを忘れずに、早めの食事療法と服薬で乗り越えましょう。
妊婦と胎児の両方に大きな健康被害を与える貧血なので、自覚症状がないからといって勝手に薬の服用をやめるのは危険です。

食事とサプリメントだけでは補いきれない栄養を薬でカバーするのです。

出産、授乳が終われば貧血は楽になることも多いので、一時期のことだと割りきってしっかりと治療しましょう。

監修

・総合診療医 院長 豊田 早苗

・総合診療医 院長 豊田 早苗

専門分野 
総合診療医

経歴
鳥取大学医学部医学科卒業。2001年 医師国家試験取得。
2006年とよだクリニック開業。
2014年認知症予防・リハビリのための脳トレーニングの推進および脳トレパズルの制作・研究を行う認知症予防・リハビリセンターを開設。

資格
医師免許

所属学会:総合診療医学会、認知症予防学会

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