ホテル業界の現状

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インタビュアー 横澤あゆみ(以下 横澤): 「ウェルネス」がホテル業界でもキーワードとなってきているようですが、傾向を教えていただけますか?
清瀬 真一さん(以下 清瀬):最近の傾向でいうと、「観光」というものが、観光客目線で言うと、今まではその土地に行って、観光地巡るとか美味しいものをいっぱい食べるなど、アウトドア系なアクティブな要素が強かったものが、段々とせっかく旅行に行ったから久しぶりの休みだから、自分をチャージするとかリラックスしたいなどインドアっぽい方向に進み始めているって言うのが、大きく1つあると思います。

そして、ホテル側も、2000年代は、ホテルにスパがあるとイケているよねってなっていたところが、スパがあるのは当たり前になり、今は世の中の「健康志向」、「エコ」という流れにものって、2010年ごろから「ウェルネス」という言葉が出てきたようです。「スパ」以上に「ウェルネス」の方が集客力があります。ただ、実際「ウェルネスとは何?」ってなると、具体的な定義はないですし、お客様からも、このサービスはウェルネスで、このサービスはウェルネスじゃないねって、言われることもありません。

スムージーなど健康的なメニューのオプションが増えたから、「ウェルネス」と、言っているホテルもあるし、今まではトレーニングジムしかなかったけど、ヨガやメディテーションを提供することで、「ウェルネス」とうたっているところもあります。定義が曖昧なので、ちょっとおまけ程度でも「ウェルネス」ですね。

世界の流れとしては、早いところだと、タイの”チバソム”が1990年代から健康に特化した施設を作っていて、現在有名なところでは、東南アジアではシックスセンス(SIX SENSES Resort The & Spas)やコモシャンヴァラ(COMO Shambhala Estate)、アメリカだとキャニオンランチ(Canyon Ranch)が宿泊型健康施設として有名ですね。ヨーロッパだとランサーホフ(Lanserhof)やシャー(Sha Wellness Clinic)といった滞在型ウェルネスクリニックもありますね。

 ホテルでも宿泊をする以外の目的として、ダイエット、デトックス、ストレスマネージメントをフォーカスし、食事もプログラムも合わせて提供するウェルネスプログラムがメジャーでしょうか。

横澤: 海外のウェルネスプログラムの中に鍼灸治療というオプションはありますか?
清瀬: 僕の知っている限り、 鍼のオプションがある場合が多いと思います。
理由としては、宿泊型健康施設で”朝から晩までホリスティックに体を見ていきましょう”というコンセプトなので、東洋医学とかアーユルヴェーダとか包括的なアプローチっていうのは、必然的に選択肢になってくるのかなと思います。
先ほど出てきた、スペインにあるシャーウェルネスクリニックは、20年ほど前にスタートしていますが、年間を通して宿泊客が多く、以前は、東洋医学がメインになっていたようです。

一方で、個人的な意見ですが、ほとんどのホテルのスパは、当たり前ですがスパ出身の方がマネージャーとして運営しているので、東洋医学の良さを落とし込んでプロデュースができていないのが現状なので、まだまだこれからの分野ともいえますね。また、会社それぞれの理念とかテーマとかによって、東洋医学の立ち位置は変わっていくかなと思っています。フィットネスに特化をしていたら、スポーツ鍼灸みたいな立ち位置でしょうし、ストレスマネージメントであれば気のコントロールを鍼灸でするみたいな感じですね。

ホテルリゾートにおける鍼灸の可能性

横澤: 鍼灸師が、ホテルやリゾートのウェルネスプログラムなどに関わって仕事をする可能性はどんなところにありますか?
清瀬: 仕事のスタイルとしては、おそらく3パターンあると思います。
1つ目は、東洋医学を取り入れている施設の、東洋医学のドクター(Acupuncturist)として、常駐する働き方。
2つ目は、コーディネーターのような形で、カウンセリング(問診)して、ゲスト一人一人の目的にあったプログラムをデザインする役として働く。鍼灸だけではなく、運動のこと、食事、スパのメニューや全体的なスケジュールをどうするかといったアドバイザー的な働き方。
3つ目は、特にリゾートホテルなどでみられますが、出張専門(Visiting Specialist/Visiting Practitioner)として、施術の要望があるときにホテルに出向くといった働き方ですね

横澤: 色々な働き方があるんですね。皆さん、どうやって働く場所を探しているんですか?
清瀬: ホテルのサイトに求人が載せていることもあるので、そこに履歴書を送る人や、また、海外の人だと、もう自分でグングン売り込んでいくことが多いですね。結構、ホテルのサイトには宿泊予約問い合わせ用メールアドレスって載っているじゃないですか?あそこにみんなバンバン送ってきて、スパの責任者と繋げてくださいってくるんですよ。

その後、ご縁があったとしても、3つ目の出張専門に関しては、完全にフリーランスなので、引き続き今度はホテルのゲストに自分でドンドン売り込まないといけません。この働き方は、ハイリスクハイリターンと言うか、自分でやった分で、そのまま返ってくるみたいな。最近よく聞く豪華客船で働く鍼灸師さんたちと同じスタイルですかね。ホテルのスパが常にプロモーションしてくれるわけではないから、自分で売り込めずに予約が全く入らなければ当然その期間の収入はゼロになってしまいます。

横澤: 気になるところですが、日本の免許で大丈夫なんですか?
清瀬: 鍼灸だと、ライセンスの問題があるので行きたい国で自由にできるわけではない。って感じですね。
例えば、タイでは、国内で鍼ができる条件としては、タイの鍼灸の資格を持つか、もしくは、クリニックのライセンスを施設で持っていて、所属ドクターにこの人にまかせますと一筆処方を書いてもらえれば、大丈夫なようです。ちなみに、申請の問題で、タイでも鍼灸の試験を受けることはできるようですが、全てタイ語なので、現実的に難しいですね。

また、ベトナムは、おそらく、もう日本の免許ではダメになったのかな?2−3年前まではやって良かったんですけどね。国の流れとして、タイと同じで、施設のライセンスを取らないといけないと思います。

横澤: 会社もサポートしてくれるかもしれませんが、基本的には自分で事前に調査しないとダメですね。
清瀬: それが大事ですね。

日本のホテルスパ業界での鍼灸プログラム

横澤: 日本のホテルのスパ業界での鍼灸プログラムは今後どうなっていくと思いますか?
清瀬: そこに関しては、個人的には発展して欲しいですけれども、そうはならないんじゃないかなって気がしています。その理由は、日本のホテルがやっぱり伝え方というかプロデュースの仕方がスパ寄りになるので、どこまでスパ業界の中で鍼が生かせるかなって言うところです。そして、日本人の意識にリトリートとか、ウェルネスにお金をかける概念がまだ浸透していない。

ですが、鍼灸師の方が、ホテルのスパの環境で活躍できる余地はたくさんあるとは思います。美容鍼灸をはじめとして、リラックスにとかデトックスにとかホテルの中で提案すれば、受ける人がいるような要素って東洋医学には十分にあると思うんです。ホテルのスパのセラピストさんで、鍼灸の免許持っている人も多分、一定人数いると思うんですけど、施術者として入ってさらに、マネージャーレベルの仕組みを作る人として入り込んで、みたいになっていくケースが増えていくと可能性が広がるのかもですね。

横澤: そうですね。仕組みを作っていくのがなかなか難しいですかね。
清瀬: 仕組みを作っていって、どんどん変わっていくと面白いですよね。
治療以外の要素、施設の環境とか雰囲気とか、来てくれるお客さんのマインドセット的なところも含めて、東洋医学が求めている要素が結構あるような気がするんで、うまく歯車が合うといいのかななんて思うんですけどね。

<あとがき>
ご自身も鍼灸師の資格持ち、自分の理想を求めより大きなフィールドでの活躍するために、工夫をしながらどんどん色々なことにチャレンジされている姿はとても素敵ですね。鍼灸の可能性が広がっていることが感じられ、お話を聞いているだけでとてもワクワクする気持ちになりました。 清瀬さんの力で、鍼灸師さんが活躍できる世界をぜひ作ってください!

プロフィール

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清瀬 真一 さん

〈経歴〉
2012年 米国・ハワイ州 Institute of Clinical Acupuncture and Oriental Medicine(ICAOM)入学
2013年 中国広州中医薬大学・天津中医薬大学 研修
2014年 ICAOM 卒業、同州鍼灸ライセンス取得
2016年 帰国 
2017年 現在のホテルリゾートグループ、東京支店に勤務
2018年 同グループ内、タイ支店にてディレクターに着任
2020年 帰国

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