1. はじめに

「2.0%」
この数字を見て「ピン」と来た人にとってこの記事は、不要なものなのかもしれませんしもしかしたらより知識や発想を広げる一助になるのかもしれません。

「2.0%」とは平成25年4月1日に変更になった、障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)に基づく、50人規模以上の民間企業に対する障害者法定雇用率です。国、地方公共団体、都道府県教育委員会に対してはこれより高いものになっています。(官庁・特殊法人は2.3%、教育委員会は2.2%)

「50人」とは、どのくらいの人数なのでしょうか?例えば通勤ラッシュで満員のバス、ホテルで行う結婚式の披露宴とかでしょうか。私のよく行く場所でイメージするなら、某讃岐うどんチェーン店の座席数あたりが「50人」という数値のイメージに近いと思います。

「50人に1人」という数値が大きいのか、小さいのか、それは解釈によって判断は分かれるでしょう。いずれにしても何らかの根拠と総合的な理由があって、この程度の規模の人数が集まる組織、団体、場所には障害を抱えた人が就労している事が望ましいと考えて施行されているのでしょう。

あなたにとって大切なものは何でしょう?お金、家族、地位、名誉、はたまた利他でしょうか?
価値観がどこにあるにせよ、人は誰しも「幸せに生きたい」と願うものです。そして健康である事が「当然」であると考えます。
しかしその「当然」が、生まれた時から損なわれた人や、ある日突然障害を負いそれと向き合って生きている人たちがいます。

 現在私はたまたま障害者に区分される人を多く雇用し、支援している現場にいました。その視点から、就労の形を考えていきたいと思います。

私は本質的に「障害」という言葉が嫌いです。最近では「障碍」と表記する事も増えてきたようです。私は「障害」ではなく「個性」や「特徴」だと考えていますが、今回は厚生労働省や東京都の資料を中心に進めていきますので表記は「障害」として扱っていきます。

2. なぜ障害者が就労する必要があるのか?

あなたは「今」インターネット書物であるこの記事を読んでいます。

その事実はすでに「ある障害」はない可能性が高いです。
それは重度の「視覚障害」です。目が見えない人は記事は点字で読むしかありません。

同様に競輪選手には手足の切断の人は少ないでしょうし、パニック障害の先生も難しいかもしれません。

人は生存競争における優位性を獲得する為の進化を遂げてきました。人間が地上の覇者になった最大の要因は「二足歩行」とそれによって浮いた「2本の手」でした。

そして創造的で複雑な動作を実現する為に発達した「人間脳」は他の動物にはない社会を形成してきました。

大脳皮質が発達し、高度に社会が発達した時代に生きる現代人に必要な事は衣食住「だけ」ではありません。現代人が社会の中でその人らしく生きる為には「目的」や「役割」が必要であり、大脳皮質を中心に発達した「人間脳」による人間らしいコントロールと大脳辺縁系を中心とする「動物脳」による情動のバランスを取りながら社会行動を形成して生きています。

現代そしてこれからも情報共有が進んだグローバル化社会で生活していれば、障害の有無に関わらず「目的」や「役割無し」に生きる事はもはや困難でしょう。

また障害者が就労する事は、経済や社会システムにおいても意味があります。
障害者が年金や公的付与に依存して生活した場合と比較すると、自立した生活を送りながら就労し、納税者側に回る事は結果的に社会保障費を削減しながら他の予算を増やす事になります。

第3の視点として、障害者が自立して生活できる社会システムは普通に生活している人にとっても生活しやすい環境であり、障害がある人が生活や仕事を共にする事で今まで気づけなかった価値観や工夫が生み出される可能性があります。

いづれにしても、障害者が社会参加する事には様々な意義があります。

3. 「障害」の種類ってどんなものがあって、どのくらいいるの?

人の数だけ過去があり、人の数だけ夢がある。
一言で「障害者」と言っても様々な状態がある事は皆さまもご存知の通りです。

四肢切断もあれば、心筋梗塞でペースメーカーを入れている人、統合失調症や双極性障害、鬱、パニック障害の人も障害ですし、ダウン症や脳性麻痺の子供達も同じ様に「障害」があると言えます。

日本で障害を区分する際に用いられるのが俗に言う「障害者手帳」になります。障害者手帳は「身体障害者手帳」「療育手帳」「精神障害者保健福祉手帳」の3種類があります。

3つの手帳についての説明を抜粋して紹介していきます。

療育手帳

愛の手帳(東京都療育手帳)は、東京都愛の手帳交付要綱に基づき、知的障害者(児)の保護及び自立更生の援助を図るとともに、知的障害者(児)に対する社会の理解と協力を深めるために交付し、知的障害者の福祉の増進に資することを目的としており、障害の程度によって、1度から4度に区分されます。

身体障害者手帳

身体障害者手帳は、身体障害者福祉法に基づき、法の別表に掲げる障害程度に該当すると認定された方に対して交付されるものであり、各種の福祉サービスを受けるために必要となるものです。手帳の交付対象となる障害の範囲は、身体障害者福祉法別表によって定められており、身体障害者障害程度等級表(身体障害者福祉法施行規則別表第5号)により1級から7級までの区分が設けられています。(ただし、7級の障害が一つのみでは手帳の対象にはなりません。)東京都では、これらを具体的に判断するため東京都身体障害認定基準を定めており、これにより障害認定を行っています。

精神障害者手帳

対象者

精神障害のため、長期にわたり日常生活又は社会生活への制約がある方
障害等級

障害年金の等級に準拠します。
申請時の診断書等に基づいて審査を行い、決定されます。
1級 日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度
2級 日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度
3級 日常生活又は社会生活が制限を受けるか、日常生活又は社会生活に制限を加えることを必要とする程度
参考までに東京都の障害者数は以下の通りになります。
知的障害者「愛の手帳」交付状況
総数 82,999人
1度(最重度) 2,985人
2度(重度)20,173人
3度(中度)20,973人
4度(軽度)38,868人
via 東京都心身障害者福祉センター 知的障害者「愛の手帳」交付状況
身体障害者手帳交付状況
総数 465,324人
肢体不自由 244,899人
聴覚・平衡機能障害 45,395人
音声・言語・そしゃく機能障害 7,116人
via 東京都心身障害者福祉センター 障害者施策推進サービス支援課 身体障害者手帳交付台帳登録状況
精神障害者保健福祉手帳
総数93,935人
1級 5,805人
2級 47,293人
3級 40,837人
via 東京都立中部総合精神保健福祉センター 精神障害者保険福祉手帳所持者数
この統計データは平成27年のものですが、平成17年と比較すると、知的障害者の数は約1.4倍、精神障害者の数は約2.3倍に急増しています。

重複して所持している方もいるため正確な数値ではありませんが、東京都における障害者手帳発行数の総計が約63万人であり、東京都の人口は約1,364万人である事からおよそ4.6%程度の方が何らかの手帳を有して生活をしています。また潜在的には10%程度存在していると言われています。

この数値の捉え方は人其々ですが、決して無視できる数ではない事はご理解いだだけるでしょう。

4.どんな就労支援 をしているのか?

サッカーにおいてサポーターは12番目の「フィールドプレイヤー」である。
まずは行政側からの視点です。

平成28年4月(一部公布又は平成30年4月)より改正障害者雇用促進法が施行されました。これによって障害者に対する差別の禁止、合理的配慮の提供、苦情処理・紛争解決援助等、障害者の権利に関する条約の批准に向けた対応が明文化されました。また法定雇用率の算定基礎の見直しでは今まで雇用割合の低かった精神障害者の雇用を促す改定が行われています。法定雇用率は前述の通りです。

ジョブコーチや就労支援施設の設備は行政主導では整備されてきていますが、条件や制約が大きく、また専門職の配置が足りずに十分な成果を挙げられていない事が少なくありません。

また民間企業の障害者雇用を促進する為の助成金、給付金、補助金等もありますが、各自治体の財政状況や方針によってそれぞれ大きく異なります。


それに対して企業側の対応は様々です。産業医を配置しているのは元より、心理カウンセラー等を配置して対応する企業も増えてきている様です。

精神障害は他の障害と比較して理解し辛いと言われています。これは身体障害や発達障害が先天性あるいは人生の比較的早期に負った障害であるのに対して、精神疾患はある程度人格形成が成された後に起こった中途障害である事も要因です。従って脳を損傷して発症する高次脳機能障害の方の就労も同様の状況にあります。

他の障害と比較して目に見えづらい為、支援する側の理解が得られずらかったり、同じ疾患であってもタイミングや抱えている問題によって支援しようとする事が返って逆効果になることもある為です。

厚生労働省は精神障害者の雇用環境改善の為、「精神発達障害者しごとサポーター」を設立しました。

女性の社会進出や労働環境等、国際競争を勝ち抜く根幹として「人材」を重視する欧米では、企業内に専門職種を配置し、就労環境をサポートする対策チームを設置する組織が増えてきています。

産業や仕事の在り方が変化する時代に置いて単体として人を見るのではなく、企業を障害者を含めた「集合体」として捉える考え方は今後日本でも必要になってくると考えられます。

5. 実際どんな仕事をしているの?

【発達障害】
発達障害を有する方が一般企業に就職する場合、主に事務関係職に就く事が多い様ですが多様な価値観を受け入れ、事業の戦力として活用しようとする企業も増えてきています。

知的障害の場合、仕事に集中できる環境が与えられ、監督する人がいる安心感の中で業務を行う事で能力を発揮出来る場合があります。

またダウン症は屈託のない性格が特徴の疾患です。海外ではその特性を生かして人とのコミュニケーションを円滑にする為に事務補助職として活躍している職場もあります。

アスペルガーやADHDなどの障害がある場合、その本人の個性や興味を明確化する事が重要になります。
障害者の特徴に合わせた職業訓練を行う革新的なシステムを構築し、きめ細かいアフタフォーローによって就労定着率に大きな実績を上げているある都内の就労支援施設から、F1の部品製造メーカーに就職した方がいます。その方は人付き合いは苦手であるものの、メカニックに関する集中力を買われ重要なエンジン部品のチェックを行っているそうです。
広汎性発達障害の場合、その人の特性と業務内容が上手くマッチングした際には特異な集中力や能力を発揮する場合もしばしば見られます。


【身体障害】
切断等の身体障害の方は、外回り営業や企画運営などアクティブに活動している人が多い様です。
ある福祉用具メーカーでは、車椅子などの機器を販売する営業職を、車椅子に乗った人が車を運転して納品まで行っています。

無いものを補いながら人生を送っている人は、活動する為の環境さえ整えば、主体的に行動することが自然と身についている分だけ、障害の無い人よりも問題解決能力に長けているかもしれません。

【精神障害】
精神疾患の方々に対する支援は、現在積極的に行われる様になっていますが、障害者就労者の総数に占める割合は約10%であり、まだまだ改善の余地がある様に見受けられます。

雇用は主に「リワーク」が中心で、職種は事務職に就く事が多い様です。大多数の方が就労支援施設や作業所などで活動参加している状況です。

これは身体障害や発達障害が先天性あるいは人生の比較的早期に負った障害であるのに対して精神疾患はある程度人格形成が成された後に起こった中途障害である事も要因です。従って脳を損傷して発症する高次脳機能障害の方の就労も同様の状況にあります。

他の障害と比較して目に見えづらい為、支援する側の理解が得られずらかったり、同じ疾患であってもタイミングや抱えている問題によって支援しようとする事が返って逆効果になることもある為です。

いづれにしても、活躍の場や環境は依然と比べ物にならない程改善されてきていると言えます。

6. 障害者雇用の現場の声は?

事務職としての採用が多い事は前章で述べた通りですが、経営者側からの視点として法定雇用率を遵守する事も大切です。障害者雇用率は特例子会社を関連会社として含め、法人グループ全体で計算できる為、大手企業ではこの制度を活用して雇用している場合が多い様です。

私のお手伝いさせて頂いていた会社は、どの障害者手帳かは問わず手帳を有していた方を積極的に雇用していました。
この様な雇用を実現出来た理由は、ズバリ経営者です。障害者に対する理解が深く、自分の子供の様に親密に対応して出来る仕事を振り分けていた事が最も大きい要因でしたが、同時に補助金や制度に関して人一倍貪欲に情報収集し、役所に対しても積極的に働きかける行動をしていました。

現場はアットホームであり、服装やスペースなど障害者と一般スタッフの区別となるものは何一つ無いため見た目では判断がつきません。スタッフはフォローする事は確かに多くイレギュラーな案件も多々あります。能力相応の仕事を任せ、日々モニタリングして改良しある程度パターン構築するとそれが日常化していっている印象でした。

様々な事件、報道等で障害者に対する認識はそれぞれあると思いますが、私の見てきた現場の現状はこの様なものでした。

7. 福祉大国「スウェーデン」での取り組みは?

スウェーデンには「Shamhall AB」という障害者だけで2万人を雇用する巨大企業が存在しています。1980年創業し、国内約250箇所に拠点を持ち製造分野、サービス業分野、労働派遣事業分野の3分野で事業展開しています。

この他にも発達障害児に対する就労支援として15歳から4年間の職業訓練制度が用意されており、高い就職率を保っています。また仮に就職出来なかった場合でも就労移行支援施設が用意されており、障害のケアや状態に合わせたフォローアップが用意されています。

また障害者による労働組合組織があり定例会が行われ、権利擁護や主張が行える環境も用意されています。

良い面ばかり掲載しましたが、これだけの事を実現するには大きなコストが発生します。Shamhal は人件費の8割を補助金に依存していますし、障害者就労支援などは国によって管理されています。
それだけの負担をどこかに強いる事になります。

これだけの事を実現する為には、国民一人一人の価値観も重要になります。長い歴史と平和国家の礎の上で、国を豊かにする為にと培った独自と哲学と、真の民主主義の実現の為に行ってきた幼児教育から一貫した人材育成により、国家に対する信頼感が結実した結果と言えるでしょう。

日本が「真の福祉大国」である為には「高い理解力」と「安定した経済システム」、それを実現する為の「想像性豊かな政治力」と未来の為に身を切ることを受容する「強靭な忍耐力」が必要になります。

8. まとめ

如何だったでしょうか?

今回私は、「福祉大国」と言われて久しいスウェーデンにて障害者施設等で研修する機会を得ました。私が現地で感じたのは、「障害とはただの個性に過ぎない」事でした。

私の視察を案内してくれた通訳は視覚障害を持っており認定も受けていますが、平気で一緒に街を歩いているどころか世界中を飛び回っています。

スウェーデンの障害者就労支援作業所には労働者組合があり、その決議には法的拘束力も発生するそうです。彼らは自分達の権利を擁護する為には行動を起こしますし、一人一人が尊厳を持った生き方をしていました。

以前私が勤務していた会社は、障害者雇用を積極的に行なっており40%以上の職員が何らかの障害者手帳を有していました。全国を見渡しても恐らく他にない試みをしていたのではないかと思います。

当然の事ながら日々問題は山積でした。意思疎通が難しい場面や、有りえないミスなど日々対応に四苦八苦していました。
ただ病院というある種完成された「プラットホームシステム」が作られた環境下で「患者」として対象者を見てきた私にとって不思議な魅力があったのは、課題や問題に対して障害者同士が出来ない部分を補い合う努力をし、実際に活動が成立している事でした。
これは障害者でもあり、職員でもある一人一人が「自分で何とかしなければならない」場面を与えられ、出来る範囲の問題解決を「現実」として取り組んできた結果でした。

それは企業における現場能力を伸ばす為の人材育成と、大枠では共通しているのではないでしょうか。

そもそも仕事でも生活でも、100%の「正解」は存在無いと思いますし、行動した「結果」が納得のいく事であれば、どれも「正解」だと思います。

人は「環境に適応しながら」生きていく生き物ですし、その環境を変えうるのもまた人だとすれば、多様な障害を持った方々を複合する事で今まで発見出来なかった価値観や能力を開発することも出来うるはずです。

AIやオートメーション化が発達進行し、シンギュラティの先に新たな「産業革命」が起こりうるこの現代社会において「働く事」の意味や新しい時代における「人材」の在り方について考える事が重要になります。

その時代、つまり近未来型社会において障害者雇用について考える事は、単なる「慈善事業」ではなくイノベーティブな発想や人間関係問題の解決などに対する「ソリューション」を提供する事になり得るのではないでしょうか?

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