はじめに

最近、日本では鍼灸の話題が盛り上がりをみせています。さまざまな芸能人が鍼灸治療を行なっており、特に美容鍼灸が流行りをみせ、テレビ番組でも取り上げられています。

そこで、少し視野を広げ、外国では鍼灸がどのように扱われているのかを紹介致します。
アメリカの鍼灸事情を紹介しようと考えていたのですが、アメリカは合衆国であり、各州によって法律が違うこともあり、州によって鍼灸事情が違います。

なので今回は僕が暮らしていたカリフォルニアに絞って鍼灸事情をお届け致します。

カリフォルニアの鍼灸事情

カリフォルニア州では1972年に鍼灸に対する法案の制定がされました。現行の法案は2001年に制定され、治療手段として鍼灸治療以外に生薬、薬膳、補助食品などが明記されています。

つまり、日本の鍼灸師より出来る治療の範囲が広いです。アメリカでは鍼灸師はドクターとしての地位を得ています。厳密に言えば、医師と同等のライセンスではないですが、患者からは西洋医学の医者と同じようにドクターと呼ばれ、信頼を得ています。

カリフォルニアでは医療費が高いこともあり、風邪を引いたり、体調不良の場合に病院へ行かず、鍼灸院に行く人も多くいます。アメリカでは保険が使えても治療費のうち200ドルはカバーされず自費になる場合も多いです。アメリカでの鍼灸治療の費用はだいたい平均60-80ドルほどですので、病院で受診するより安いです。

また、カリフォルニアは比較的新しい都市であるのとメキシコに近い為、移民が多く、アジア人が多くいます。特に南カリフォルニアでは移民に加え中国系アメリカ人や韓国系アメリカ人が多い為、鍼灸を受けることへの抵抗が低い人が他州に比べ多いです。

富裕層を中心にアメリカでは健康志向が高まっており、身体のメンテナンスとして鍼灸治療を受けたり、スポーツ選手も鍼灸治療を受けています。カイロプラクティックドクターや理学療法師のクリニックへ治療に行く人もいますが、内科疾患の治療やメンタル治療も出来る鍼灸治療の需要は高いです。

カリフォルニアの鍼灸資格

カリフォルニアで鍼灸治療をするためには日本と同じように鍼灸免許を取得する必要があります。現在は、カリフォルニアの鍼灸大学を卒業し、年2回ある試験に合格すると鍼灸免許を取得することが出来ます。鍼灸大学卒業には最短でも4年かかります。その後大学院に進学し、2年間の学習で東洋医学博士の学位を取得することも出来ます。

アメリカの鍼灸大学に行く為には、学士を持っている必要があります。つまり、高校卒業してすぐに鍼灸大学へ進学することは出来ず、高卒だと医師と同じように鍼灸免許を取るまで8年間かかることになります。

アメリカには、カリフォルニア州にのみ州独自の鍼灸免許があります。その他の州は統一免許があり、統一免許の試験に合格することで取得することが出来ます。カリフォルニアでは現在、州独自の資格を廃止し、アメリカ全土の資格へと統一することが考えられているようですが、カリフォルニアの鍼灸免許試験は統一免許の試験より難しい為、議論の余地が残されておりすぐに統一されるわけではないようです。

また、カリフォルニアの鍼灸免許には更新が必要であり、2年ごとに更新が行われ、30時間の継続教育が必要とされています。

カリフォルニアの患者層

さまざまな患者が鍼灸治療を受けに来るので一言で良い表すのは難しいですが、大きく4つのグループに大別することが出来ます。

1つ目のグループは、日本と同じように整形外科領域の症状、肩こりや腰痛といった“こり”や“痛み”を伴う筋・骨格系の障害、慢性の関節リウマチ、神経炎などです。

2つ目のグループは身体の違和感であり、特に偏頭痛などの頭痛が多いです。さらにストレスや虚脱感といった症状のものです。

3つ目のグループは日本の鍼灸院にはあまり来ないであろう重症疾患のものです。筋無力症、ALS、AIDS、B型肝炎、C型肝炎、癌などで、その比率は日本よりずっと多いです。

最後のグループは、日本ではあまりない、急性疾患の患者です。高熱を伴っている扁桃炎、インフルエンザ、あるいは限局生の腹膜炎などの患者も時には鍼灸院を訪れます。もちろん、緊急をようする状態であれば鍼灸師は治療をせず病院へと患者を送っています。

このような患者が鍼灸院に訪れる理由は先にもあげたように医療費が高いことがあります。病院に行って300-400ドルとも言われる受診料を払って薬をもらうより鍼灸院に行った方が安いし、鍼灸治療がこういった急性期疾患に対しても効果があるということがカリフォルニアでは広く知られていることも一因だと言えるでしょう。

まとめ

カリフォルニアを始め、アメリカでは鍼灸が盛んになっています。お国柄、良いものは良いと認め、完璧なものはないと常に改正や改良が繰り返されているアメリカにおいて鍼灸の将来の展望は明るいと言えます。今後はもっと発展して行くことでしょう。

日本では、美容鍼灸が盛りあがりを見せ、鍼灸は腰痛や肩こりに効く、年配の方が受けるものというイメージからの脱脚を図ろうとしているように見えます。
しかし、本来鍼灸とは特定のもだけに効く治療ではなく、さまざまな疾患に効く治療法です。日本とカリフォルニアではとりまく環境が違いますが、学べることがあるのでないでしょうか。

ちなみにカリフォルニアにおいて美容鍼灸はハリウッドセレブの間で流行り、その流れで一般でも行われているようです。

鍼灸師としてさまざまな疾患を持つ患者さんを治療している身としては、日本のみなさまに鍼灸の可能性をもっと知って頂けましたら幸いです。



引用
http://www.chuui.co.jp/cnews/000485.php

http://www.jsam.jp/activity/pdf/15usa_california.pdf

プロフィール

 (34158)

松永光将(まつながみつひろ)
鍼灸師
あん摩マッサージ指圧師

神奈川衛生学園専門学校卒業

専門学校卒業後カリフォルニアへの語学留学を経て日本に帰国。1年間在宅訪問鍼灸マッサージで働きながら社会人アメリカンフットボールXリーグ1部 明治安田パイレーツでアシスタントヘッドトレーナーとして活動
2012年から豪華客船へと仕事の舞台を移し、船上鍼灸師として世界中の国の人々を相手に船上で鍼治療を行う。ディズニークルーズ、ホーランドアメリカクルーズ、プリンセスクルーズ、P&O Australiaクルーズと4つの大手客船会社の船での実務経験を持つ。

船を降りている時はバックパックを背負い写真を撮りながら世界を周るトラベルフォトグラファーとしても活動。
世界45カ国、150を超える都市を旅して来た。
世界を周り、世界での鍼灸の可能性を見出し、日本鍼灸を世界に輩出するべくSNSで豪華客船のことや船上鍼灸師の現状、世界の鍼灸事情を発信している。

http://mitsmatsunaga.com/

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