胸の筋肉の構造

たくましい胸板を作るために欠かせない胸の筋肉と言えば『大胸筋』です。
大胸筋は胸の中心部から、『上腕骨(肩から肘の骨)』の上部に付着して走行しています。
この走行から、脇を閉めたり、手で反対の肩に触れたりする際に働きます。

大胸筋を細かくすると、『上部線維』、『中部線維』、『下部線維』に分けられます。
筋線維の方向や働き方がそれぞれ少しずつ異なるので、バランスよく大胸筋を鍛えるためには、トレーニングに工夫が必要です。

胸筋を大きくする自重トレーニング

自重トレーニングとは、自分の体重を負荷として行うトレーニングのことです。
胸筋を大きくするための自重トレーニングとしておすすめなのが、『プッシュアップ(腕立て伏せ)』、『ディップス』、『懸垂』の3つです。

プッシュアップは大胸筋を鍛えることのできる代表的なトレーニングですが、方法を少しずつ変えることで大胸筋の中でも内側、外側、上部、下部と、鍛えられる部位を変えることができます。また、筋力が弱くノーマルなプッシュアップが難しい方でも、やり方を工夫することで徐々に筋力を上げることもできます。
ここでは、手の位置や足のつけ方を変えた、6種類のバリエーションをご紹介します。

■プッシュアップ① ノーマルプッシュアップ

まずは、最もノーマルな形のプッシュアップからご紹介します。

1.四つ這いになり、肩の真下の位置に両手を着いたら、肩幅よりも拳2つ分広げた幅に手を開きます。
2.足を骨盤の幅に開き、膝を伸ばしてつま先だけが床につくようにします。
3.身体を横から見たときに肩から足首までが一直線になるようにし、腰が反ったり曲がったりしないようにします。
4.手順3のポジションが崩れないように気を付けながら、ゆっくりと肘を曲げ、身体を下ろしていきます。
5.身体や顔が床につく手前まで下ろしたら、ゆっくりと肘を伸ばして元のポジションに戻ります。
6.手順4と5の動きを繰り返し行います。

■プッシュアップ② ナロープッシュアップ

ナロープッシュアップでは、『上腕三頭筋(二の腕の外側)』への負荷が強くなってきますが、大胸筋の内側へも負荷をかけることができます。そのため、両胸の間の部分の盛り上がりが欲しいという方におすすめです。

行う際は、最初に着く手の位置を肩幅より狭め、できる方は両手の親指と人差し指で三角形を作るように手を置いて始めましょう。
運動自体はノーマルプッシュアップと同じです。

■プッシュアップ③ ワイドプッシュアップ

プッシュアップでは、両手を広く着くことで、より大胸筋に特化したトレーニングをすることができます。他にも、『上腕三頭筋』や『三角筋(肩関節を覆うようにある筋肉)』などが鍛えられます。

やり方は、最初に両手を肩幅の約2倍の幅に広げて着き、ノーマルプッシュアップと動作を行います。

■プッシュアップ④ デクラインプッシュアップ

デクラインプッシュアップは、足の方を台の上に上げ、頭や手の側が下がるように傾斜をつけて行うプッシュアップです。

上半身で支える重量がノーマルプッシュアップよりも増すため、負荷がより大きくなります。
また、傾斜をつけることで大胸筋上部に対する効果が高まります。

■プッシュアップ⑤ インクラインプッシュアップ

インクラインプッシュアップは、デクラインプッシュアップとは反対に、ベンチなどやや高さのあるところに手をついて身体に傾斜をつけて行うプッシュアップです。
傾斜をつけることで大胸筋下部に対する効果が高まります。

また、身体を大幅に起きあがるようにすると、上半身にかかる重量自体が減るので、筋力が弱くノーマルプッシュアップが難しい方でも行えるようになります。
初心者の方は、立った状態から壁に手をついて少し傾く程度で肘の曲げ伸ばしを行うところから始めても構いません。

■プッシュアップ⑥ 膝つきプッシュアップ

ノーマルプッシュアップが難しい方のために負荷を落としたもう一つの方法として、膝つきプッシュアップをご紹介します。

1.ノーマルプッシュアップと同様に、手を肩幅よりも拳2つ分広げた幅で肘を伸ばして床に着きます。
2.両膝を骨盤の幅に開いて床に着き、横から見たときに肩から膝までが一直線になるようにします。このとき、膝を90度程度に曲げ、膝から下は浮いた状態にします。
3.ノーマルプッシュアップ同様に、肘の曲げ伸ばしの動作を繰り返します。

■ディップス

『ディップス』とは、平行棒などの安定した2本の棒を使い、上肢の力で自分の体重を支えるトレーニングです。
トレーニングジムなどにはディップス専用の器具もありますが、代わりになるような安定した椅子や台が2つあれば自宅でも行うことができます。
大胸筋への負荷を上げるためには、平行棒や台の幅を肩幅よりもやや広い状態で行うようにしましょう。

1. 肘を伸ばした状態で平行棒または台を片手に1本ずつ持ったら膝を曲げて身体を浮かせます。
2. そのまま膝をやや後ろに引き、上半身が前傾するようにします。
3. ゆっくりと肘を曲げ、落とせるところまで身体を落としたら、息を吐きながら、ゆっくりと肘を伸ばして元の状態に戻ります。
4. 手順3の動きを繰り返し行います。

■懸垂

懸垂は大胸筋を効果的に鍛えることのできる自重トレーニングです。
公園の鉄棒などを使えば、特別な器具がなくても行うことができます。
手の向きや幅によって大胸筋や『上腕二頭筋(二の腕の力こぶを作る筋肉)』の働き方が変わってくるので、フォームに注意して行ってください。

1. 手の甲が自分の方に向くようにし、肩幅よりもやや広めに鉄棒を持ちます。
2. 膝を曲げるなどして足が地面につかないようにしたら、ゆっくりと肘を曲げて身体を持ち上げていきます。
3. 顎が鉄棒につくくらいの高さまで持ち上げたら、ゆっくりと肘を緩め、元の位置に戻ります。
4. 肘を曲げ伸ばしする動作を繰り返し行います。

胸筋のストレッチ

大胸筋のトレーニングを行う前後には、筋肉をしっかりと伸ばすストレッチを行いましょう。そうしておかないと、筋肉痛がひどくなったり、トレーニング中に肉離れを起こしたりするなど負傷のリスクが高まってしまいます。

ここでは、大胸筋のストレッチの方法を2つご紹介します。
大胸筋の中でも上部線維、中部線維、下部線維をそれぞれストレッチするためには、伸ばす方向が少しずつ異なります。そのため、腕を上げる向きを斜め上、真横、斜め下など変えながら行うとより効果的です。

■大胸筋のストレッチ① 臥位

1.両足を伸ばして仰向けに寝て、両手を肩と同じ高さで真横に広げます。
2.右足の股関節と膝関節を曲げ、右足が左足の左側にくるように腰を捻ります。
3.右胸に伸張感を感じたら、その体勢のまま20~30秒間静止します。
4.左右を入れ替えて左の大胸筋も同じようにストレッチします。

■大胸筋のストレッチ② 立位

1.柱や壁の左側に立ち、右手を斜め上にバンザイした状態で柱を持つ、または壁に置きます。
2.前方に体重をかけるように前傾姿勢をとり、右腕がやや後ろに引かれるようにします。
3.右胸に伸張感を感じたら、その体勢のまま20~30秒間静止します。
4.左右を入れ替えて左の大胸筋も同じようにストレッチします。

筋トレの時間と頻度

筋トレの効果を高めるためには、筋トレを行う回数やセット数、頻度が重要です。
大胸筋を肥大させるためには、5~15回程度連続して行うと限界になる程度の負荷で、2~3セット行うことが理想的です。
20回以上連続して行えるような軽い負荷では、筋持久力はついても、筋肉が肥大しにくいので、自身の筋力に合わせて適度な負荷になるトレーニングを選択しましょう。

また、筋肉の肥大を目的とするような強度の高い筋トレは、毎日行うべきではありません。
必ず2~3日以上空けてから、同じトレーニングを行うようにしてください。

強度の高い筋トレを行うと、筋肉の微細な断裂を起こし、その損傷が修復される過程で元の筋肉より強く肥大した筋肉になります。
その損傷が修復される前に次の筋トレを行ってしまうと、筋肉を傷めるばかりになってしまい、ケガにつながる恐れがあるので危険です。

おわりに

今回は、たくましい胸板を作るために必要な大胸筋のトレーニングとストレッチの方法をご紹介しました。

筋肉が肥大するまでには、最低でも数か月は筋トレを続ける必要がありますが、自身に合った負荷で正しいトレーニングを行うことで、憧れのたくましい胸筋に近づけます。
自宅でできるトレーニングもたくさんありますので、是非チャレンジしてみていただきたいと思います。

監修

・総合診療医 院長 豊田早苗

専門分野
総合診療医

経歴
鳥取大学医学部医学科卒業。2001年 医師国家試験取得。
2006年とよだクリニック開業。
2014年認知症予防・リハビリのための脳トレーニングの推進および脳トレパズルの制作・研究を行う認知症予防・リハビリセンターを開設。

資格
医師免許

所属学会:総合診療医学会、認知症予防学会

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