はじめに

薬物依存症は恐ろしい病気です。薬物をやめたくてもやめられなくなってしまうことで、身体的、精神的、社会的に大きなダメージを負うことになります。

皆さんは、そんな薬物依存症の症状や治療法について正しく理解しているでしょうか?

今回は、薬物依存症の症状、薬物の身体依存と精神依存の強さ、薬物依存症の治療法についてご紹介します。

薬物依存症とは

薬物依存症とは、薬物を繰り返し使用することによって、薬物を止めたくても止められなくなる病気です。

止めたくても止められなくなる理由として、薬物の使用によって身体依存や精神依存、耐性(耐性が少量では効果が得られなくなるため、徐々に使用量が増えていく)ができるためです。こうして、本人の意志では止めることができず、日常生活に支障を来たしてしまいます。

薬物依存症は精神障害に分類されます。一度依存症に陥ってしまうと、精神科で長期に渡る治療・リハビリが必要です。

薬物依存症の症状

薬物依存症の症状は、大きく身体依存と精神依存の2つに分けることができます。それぞれについて説明します。

1)身体依存とは

薬物が使用できない状態になったときに、手の震え、冷や汗、幻覚、意識障害などの離脱症状が現れることを身体依存と言います。こうした不快な離脱症状から逃れるために、繰り返し薬物を使用しなければならないという悪循環に陥ります。

2)精神依存とは

薬物が使用できない状態になったときに、「何としてでも薬物が欲しい」という欲求を抑えきれず、薬物を手に入れる手段を選ばなくなります。こうして取る行動を薬物探索行動とも言います。

薬物別の身体依存と精神依存の強さ

1)麻薬

(1)該当する薬物のタイプ
モルヒネやヘロインなどのアヘン類、コカイン、合成麻薬などが麻薬に該当します。これらの麻薬は、麻薬及び向精神薬取締法によって規制されています。同じ麻薬でも、モルヒネやヘロインが中枢神経を抑制する働きがあるのに対して、コカインや合成麻薬は中枢神経を興奮させる働きがあります。

(2)依存の強さ
*ここでは、依存度の強さを+で表し、+が多いほど依存度が高いことを表します。
モルヒネやヘロインの身体依存は+++、精神依存も+++とどちらも非常に強いのが特徴です。コカインや合成麻薬の身体依存は-、精神依存が+++と非常に強くなっています。

2)覚醒剤

(1)該当する薬物のタイプ
覚醒剤には、メタンフェタミン(強い精神刺激薬)などのアンフェタミン類が該当し、覚醒剤取締法で規制されています。覚醒剤は中枢神経を興奮させる働きがあります。

(2)依存の強さ
覚醒剤の身体依存は-、精神依存が+++と非常に強くなっています。

3)大麻

(1)該当する薬物のタイプ
大麻には、マリファナやハシッシなどが該当し、大麻取締法で規制されています。大麻は中枢神経を抑制する働きがあります。

(2)依存の強さ
大麻の身体依存は±、精神依存は+となっています。

3)毒物・劇物

(1)該当する薬物のタイプ
シンナーやトルエンなどの有機溶剤が該当し、毒物及び劇物取締法によって規制されています。これらの有機溶剤には、中枢神経を抑制する働きがあります。

(2)依存の強さ
有機溶剤の身体依存は±、精神依存は+となっています。

5)指定薬物(危険ドラッグ)

(1)該当する薬物のタイプ
指定薬物とは、麻薬や覚醒剤などの化合物であり、中枢神経を抑制する働きがあります。セロトニン系やフェネチルアミン系など様々な化合物があります。指定薬物を乱用すると、幻覚、筋肉に力が入らなくなるなどの症状が現れます。

(2)依存の強さ
指定薬物の身体依存は±、精神依存は+となっています。

5)参考(アルコールやニコチン)

参考として、お酒に含まれるアルコール、たばこに含まれるニコチンについてもまとめます。アルコールの身体依存は++、精神依存も++とどちらも強くなっています。また、ニコチンの身体依存は±、精神依存は++となっています。意外にも、アルコールやニコチンの精神依存は強いということが分かります。

薬物依存症の治療法

1)薬物依存症の治療の概要

残念ながら、薬物依存症を根本的に治療できる薬物はまだ開発されていません。したがって、対症療法のみとなります。離脱症状が強い場合は入院治療を行い、その後は外来治療へと移行します。離脱症状が治まったからといって、薬物依存症そのものが完治したわけではないため、生涯薬を止め続けるという闘いが必要となります。

2)様々な治療プログラム

薬物依存症は精神疾患であると捉え、医療機関や自助グループ(同じ病気や障害を抱えた患者・家族同士の自発的な集まり)治療を行っていきます。ここでは、治療プログラムの一例を紹介します。
(1)再使用防止プログラム

認知行動療法(精神療法の一つ)を用いた講義形式で行われます。代表的な再発防止プログラムは、SMARPP(スマープ)と言います。そこでは、一人一人が自分の薬物問題を認識すること、薬物の使用欲求や様々なストレスに対処するための行動、断薬のために必要な内容などについて学びます。

外来通院治療として行われるのが原則です。週に2回程度、1回あたり1時間から2時間程度かけて講義が行われます。ただし、通院のみで薬物の再使用が止まらない場合は、1ヶ月から3ヶ月程度の入院中に行われることもあります。


(2)条件反射制御法

薬物依存症に陥っている人は、(薬物そのものがなく)薬物使用をイメージさせるもの(吸引器、空の注射器など)を見ただけでも、薬物を使用した際の快感が湧き上がり、再び使用したいという欲求が強く出てきます。これが条件反射です。一般の人でも、実際には食べていなくても、梅干しを見ると唾液が分泌されるのと同じ現象です。

この条件反射を条件反射制御法によって徐々に弱めていくことで、「薬物を止めなくてはいけないというのは分かっているが、止められない」という状態に対処できるようになります。具体的には、条件反射を弱めるために、わざと空の注射器などを使って薬物を使用するという行動(疑似摂取)をとります。

最初のうちは、かなりの苦痛が伴います。ただし、実際には体に薬物が入ってこないため、「自分はこれから薬物を使用できない状態が続く」という新しい条件反射を植え付けます。この行動を、時間を空けながら1日に何度も繰り返していくことで、依存症状が現れない体を作っていきます。

おわりに

薬物依存症について理解していただけましたか?

薬物依存の症状や、まだ根本的な治療は確率されていないため完治はしない点などから薬物依存の恐ろしさを再確認していただけたのではないでしょうか?

薬物によって依存度に差異はありますが、薬物依存症からの脱却が難しいことは共通しています。

絶対に薬物に手を出してはいけません。

監修

・総合診療医 院長 豊田早苗

・総合診療医 院長 豊田早苗

専門分野 
総合診療医

経歴
鳥取大学医学部医学科卒業。2001年 医師国家試験取得。
2006年とよだクリニック開業。
2014年認知症予防・リハビリのための脳トレーニングの推進および脳トレパズルの制作・研究を行う認知症予防・リハビリセンターを開設。

資格
医師免許

所属学会:総合診療医学会、認知症予防学会

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