はじめに

1902年に初めて、道徳的抑制の病的欠如として報告されたADHD(注意欠陥多動性障害)は、様々な経緯をたどり1987年のDSM-Ⅲ-Rという診断分類により、その概念が固まりました。ADHD(注意欠陥多動性障害)は、自閉症スペクトラム障害と並んで代表的な発達障害の1つです。

この発達障害では、脳機能に支障が生じていることが分かってきています。もっとも新しい考え方は、脳機能の3つの領域に機能不全があるというものです。ここでは、この3つの脳機能不全からADHD(注意欠陥多動性障害)の症状や原因、治療および治療薬であるコンサータについて解説します。

ADHD(注意欠陥多動性障害)の症状や原因・治療法

ADHD(注意欠陥多動性障害)の症状

先の述べたように、ADHD(注意欠陥多動性障害)の症状は厄介です。ADHD(注意欠陥多動性障害)の人は、頼んだことを忘れているとか、何度教えても覚えない、何回も注意しているのに同じミスを繰り返す、昨日までできていたのに今日は勝手なやり方で処理してしまう、社会人としては不適切で配慮のない失礼な発言をしていまうなど、性格や育てられ方に問題があると思われ勝ちな行動言動が症状となります。

そのため、これらの症状が病気としては見なされず、周囲から厄介者あつかいされ孤立化することがあるのです。このような状態は、3つの症状領域の問題とされています。3つとは、不注意と多動性および衝動性の問題です。具体的には以下のような症状が認められます。

・不注意
なくし物が多い
することを直ぐ忘れる
嫌なことは直ぐに投げ出す
細かいことに注意を払えずミスが多い
興味があること以外では注意を持続できない
優先順位をつけられず段取りをうまく立てられない
しなければならないことも途中で脱線してやりとげられない

・多動性
動き回ったりして落ち着きがない
動いていないと落ち着かない感じがする
ソワソワしてじっとしていることができない
静かにしていなけらばならない状況でも喋り過ぎる
座っていなければならない状況でも席を離れてしまう

・衝動性
順番を待てず割り込んでしまう
相手が話終わる前に出し抜けに答えだす
他人が真剣に取り組んで作業しているのに邪魔をする

ADHD(注意欠陥多動性障害)の原因

・ADHD(注意欠陥多動性障害)の遺伝や環境的要因

ADHD(注意欠陥多動性障害)の確定的な原因は分かっていません。しかし、遺伝が影響していることや環境の影響を受けると考えられています。遺伝に関して分かっているのは、一卵性双生児や親兄弟では一般よりも発病率が高いことです。環境的な要素では、出生時体重1500g未満であることや妊娠中の飲酒やタバコを吸うことなどの関係が指摘されています。


・ADHD(注意欠陥多動性障害)の3つの脳機能障害

ADHD(注意欠陥多動性障害)には3つの脳機能障害があるとの仮説が注目されています。時間処理障害と遅延報酬障害、そして実行機能障害の3つです。

1つ目の「時間処理障害」とは、時間の経過とともに目の前に現れる事がらに優先順位をつけて段取りよく処理したり、原因から結果を予測する機能の障害のことです。主に小脳が関与する機能で、脳内伝達物質のノルアドレナリンが関係します。

2つ目の「遅延報酬障害」は、我慢すれば先にもっといいことがあるから今は我慢するという機能の障害です。脳の一部である線条体・側坐核・眼窩前頭野などの報酬系というシステムや視床などが関係するとされています。伝達物質ドーパミンが関係します。

3番目の「実行機能障害」は、計画したりまとめたり、行動の開始や先延ばしを調節する機能の障害のことです。これにより、知識や経験をいかして判断行動できないという障害が現れます。これは前頭前皮質の機能であり、ノルアドレナリンとドーパミンという2つの神経伝達物質が関係しています。

何だか頭が混乱してきそうですね。

ポイントは、
「時間処理障害」にはノルアドレナリン、
「遅延報酬障害」はドーパミン、
「実行機能障害」ではノルアドレナリンとドーパミンの2つ
が重要な働きをしているということです。

ADHD(注意欠陥多動性障害)の治療

ADHD(注意欠陥多動性障害)治療の根本は、自尊心の回復と言っていいでしょう。治療の主役は、教育と治療を融合した心理社会的治療です。この心理社会的治療をよりスムースに行うために、薬を「一時的に使用」するという方向で治療は進められます。現在、十分な効果を期待できる薬が日本でも使えるようになっているのです。日本で使用できる薬は3種類ですが、ここでは日本で最初に認可されたコンサータについて解説します。

ADHD(注意欠陥多動性障害)の治療薬コンサータについて

コンサータとは?

コンサータは、中枢神経刺激薬に属するメチルフェニデートの徐放製剤です。 2000年4月に米国で認可され、日本では2007年12月に販売が開始されています。

ところで、徐放製剤とは、成分がゆっくりと徐々に放出される薬のことです。コンサータの場合、まず表面にコーティングされているメチルフェニデートが溶け出し、直ぐに効果を発揮し始めます。そしてカプセル内部のメチルフェニデートが、体内の水分を吸って膨張するピストンのような役割をするプッシュ層の膨張により押し出されて、カプセル先端の小穴から徐々に放出されるといいう構造になっています。カプセル自体は体内で解けないため便と一緒に排出されます。便と一緒にカプセルが出てきても驚かないでください。なお、コンサータは販売名をコンサータ錠◯◯mgといい、18、27、36mgのものがあります。

ADHD(注意欠陥多動性障害)へのコンサータ作用の仕方と薬の特徴

先に述べた3つの脳機能障害のことを覚えいるでしょうか?要点は「時間処理障害」にはノルアドレナリン、「遅延報酬障害」はドーパミン、そして「実行機能障害」ではその両方が重要な働きをしているということでした。

コンサータは、主にドーパミンを増やす薬ですが、ノルアドレナリンも増やします。コンサータの効果を理解するために、また少々こみ入った説明をしなければなりません。お薬の特徴を理解するために大切なことですので、我慢して読み進めてください。

脳が正常に機能するためには、神経伝達物質というものが放出され、相手の神経細胞に信号が伝わる必要があります。そして、放出された神経伝達物質は、それを放出した神経にある回収部位から回収(再取り込みといいます)されて、それを放出した神経に戻っていくのです。ノルアドレナリンやドーパミンも神経伝達物質です。これらの伝わりが悪くなることで「時間処理障害(小脳などのノルアドレナリン)」、「遅延報酬障害(報酬系部位のドーパミン)、「実行機能障害(前頭前皮質のノルアドレナリンとドーパミン)」が生じます。

コンサータの成分はドーパミンの回収部位に作用し、ドーパミンを回収しないようにすることでドーパミンを増やす働きをします。放出されたドーパミンを回収しなくなると、次々に放出されるドーパミンが溜まって増えることにより、神経の情報伝達が改善することになるのです。

さらにコンサータは、報酬系を構成する線条体ではドーパミンの放出を直接的に増やす働きがあることもわかってきています。

では、コンサータはノルアドレナリンを増やす効果がないかといえばそうではありません。ドーパミンの回収部位がほとんどない脳の部位では、コンサータがノルアドレナリン回収部位に作用して、ノルアドレナリンの回収を少なくする働きがあるのです。そのためコンサータは、ノルアドレナリンを増やすようにも作用します。つまり、上記の全ての脳機能障害に効果が期待できるのです。


まとめてみると、コンサータは機能障害を起こしてる脳の部位で、その機能を促進するドーパミンとノルアドレナリンを増やし、その中でも報酬系ではドーパミンを直接的にも間接的にも増やす働きがあるということです。つまり報酬系に関しては、強く薬の効果が現れるというのが特徴といえるでしょう。

ただ、この報酬系のドーパミンの増加は、依存を引き起こすリスクも生じさせます。つまり、コンサータへの依存が生じる可能性があるということです。

ただし、同じメチルフェニデート製剤であるリタリンに比べ成分の放出がゆっくりであり、薬が十分に体内に残っているときと切れるときの差が少ないことから、薬への渇望感は軽減されて依存のリスクは格段に少ないと言われています。

コンサータの服用の仕方

コンサータは18歳未満の場合と18歳以上の場合では最大投与量のみが異なります。18歳未満の最大投与量は54mg以内、18歳以上では72mgです。初回投与量は共に18mgで開始します。1週間以上の間隔をあけて、1日あたり9mgまたは18mgの増量を行います。

コンサータの服用にあたっての注意点

一般的な注意点

お薬の服用を継続するかどうかは、効果と副作用のバランスによって決めることが大切です。効果がないときは服用を中止します。効果があっても許容できない副作用があるときも使用を中止します。効果による利益が副作用による不利益を上回るときのみ服薬を継続するのです。

コンサータ特有の注意点

・次のような人にはコンサータを投与することができません。

過度の不安・緊張・興奮(症状が悪化)
緑内障(眼圧を上昇)
甲状腺機能亢進(循環器系に影響)
不整頻拍・狭心症(症状の悪化)
コンサータの成分(メチルフェニデート)に対しする過敏症
運動性チック(突然に出現し素早く繰り返される運動または発声をするという症状)のある患者
Tourette症候群(多種類の運動チックと1種類以上の音声チックが1年以上にわたり続く病気)またはその既往歴・家族歴(症状の悪化または誘発)
重症うつ病(抑うつ症状の悪化)
褐色細胞腫(血圧を上昇)
モノアミンオキシダーゼ阻害剤(エフピー)を投与中または投与中止後14日以内の人です。


・コンサータの服用にあたっては、次のようなことを注意しなければなりません。

高血圧・心不全・心筋梗塞を起こしたことのある患者では血圧や心拍数の上昇
脳血管障害(脳動脈瘤・血管炎・脳卒中など)のある患者またはその既往歴のある患者での症状悪化や再発
統合失調症や精神病性障害・双極性障害・薬物依存またはアルコール中毒などの既往歴のある患者での異常行動を伴う精神的依存
心臓に構造的異常や他の重篤な障害がある患者での突然死
高度な消化管狭窄のある患者でコンサータ錠が詰まる(コンサータは溶解しません)ことによる閉塞症状
攻撃性が高まること
幻覚等の精神病性や躁病の症状が見られることがあります。

また、てんかんまたはその既往歴のある場合は、発作を誘発させるおそれがあります。このような症状が認められた場合は、服薬を投与中止を考慮すべきです。

小児のコンサータの副作用

小児における国内臨床試験では216例中174例(80.6%)に副作用が認められています。

多いものから順に、
食欲減退91例(42.1%)
不眠症40例(18.5%)
体重減少26例(12.0%)
頭痛18例(8.3%)
腹痛12例(5.6%)
悪心12例(5.6%)
チック11例(5.1%)
発熱11例(5.1%)です。

また、子どもに長期間コンサータを投与した場合、体重増加の抑制や成長遅延が報告されています。身長や体重の増加が一定以上妨げられるときには、服薬を中止させるようコンサータの説明書に記載されています。

成人のコンサータの副作用

成人における国内臨床試験では272例中、副作が認められたのは209例(76.8%)です。

頻度の多いものからあげると、
食欲減退108例(39.7%)
動悸59例(21.7%)
体重減少54例(19.9%)
不眠症49例(18.0%)
悪心45例(16.5%)
口渇40例(14.7%)
頭痛29例(10.7%)などがあります。

他の薬物やアルコール依存などが生じていた人にはコンサータの依存が生じる可能性があるため特に注意が必要です。

コンサータの重大な副作用

剥脱性皮膚炎(広範囲の皮膚の潮紅や浸潤・強いそう痒など)が0.1%程度と、重篤な副作用としては無視できない頻度で発生するので注意が必要です。

その他、狭心症、悪性症候群(発熱や高度の筋硬直などをともない死に至る可能性がある)、脳血管障害(脳梗塞・脳出血など)、重度の肝機能障害などが発生する可能性がります。

このような重度の副作用が認められたときはすぐに服薬を中止しなければなりません。

併用してはいけない薬

コンサータと組み合わせてはいけない薬は、セレギリン塩酸塩(商品名エフピー)のみです。エフピーは、パーキンソン病の薬です。コンサータと併用するとセレギリンの作用が増強されて高血圧が生じる可能異性があります。

併用するときに注意を要する薬

併用により次のような副作用が生じる可能性があります。

昇圧剤で血圧が上昇
クマリン系抗凝血剤(ワルファリンカリウム)でクマリン系抗凝血剤の作用を増強
抗けいれん剤(フェノバルビタール・フェニトイン・プリミドン)で抗けいれん剤の作用を増強
三環系抗うつ剤(イミプラミンなど)や選択的セロトニン再取り込み阻害剤(フルボキサミン・パロキセチン・セルトラリンなど)でそれらの作用の増強
選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害剤(アトモキセチン)でコンサータの作用の増強
クロニジンで突然死、アルコールで精神神経系の副作用の増強の可能性などです。

コンサータを投与するときに慎重でなければならない病気

てんかん(発作を誘発)
高血圧・心不全・心筋梗塞(血圧や心拍数の上昇または症状の再発)
脳血管障害(症状を悪化または再発)
統合失調症・精神病性障害・双極性障害(行動障害や思考障害または躁病が悪化)
薬物依存またはアルコール中毒(慢性的乱用により過度の耐性および様々な程度の異常行動を伴う精神的依存)
心臓の構造的異常または他の重篤な問題(突然死)
高度な消化管狭窄(コンサータ錠は消化管内でほとんど変形しないため閉塞症状)
などの病気があるか、もしくはそれらの病気にかかったことのある人には十分な観察をおこない、それらの病気の悪化や再発のサインがあるときにはコンサータの使用を中止することも考えなければなりません。主治医とよく相談してください。

まとめ

投与量が十分量であれば、ADHD(注意欠陥多動性障害)に対するコンサータの効果はすぐに現れます。

しかし、最大の問題は依存の可能性です。同じメチルフェニデート製剤であるリタリンに比べると少ないとはいえ、依存の問題は避けて通ることができません。コンサータは十分量になってから2週間も3週間もたってから効果が現れてくることはまずありません。コンサータを使用するメリットとデメリットを十分に考慮して、服薬を継続するかどうか決めるべきです。

また、効果が不十分な場合は、他のADHD(注意欠陥多動性障害)の薬と併用することもできます。しかし、薬を服用するときには可能なかぎり単剤での使用が原則だということを忘れないでください。

薬はADHD(注意欠陥多動性障害)治療の主役でないにしても、心理社会的治療の効果を高める可能性があります。よりよい生活の質を得るために、コンサータの使い方を主治医とよく相談してみてはいかがでしょうか。

監修

・精神科医 米澤 利幸

・精神科医 米澤 利幸

専門分野 
社会不安障害、不安障害、うつ病

経歴
昭和58年 島根医科大学(現島根大学)医学部 卒業
平成 9年 福岡大学精神神経科外来医長
平成12年 赤坂心療クリニック院長

資格
医学博士
精神保健指定医

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