はじめに

ある日突然、舌の先がヒリヒリと痛くなってくる場合があります。
舌に痛みを生じる原因はいろいろあります。例えば、舌を噛んだり、火傷をしたりして痛みが出る場合です。これらは舌に炎症が起こって痛みが生じたもので、肉眼的にも痛みの原因となるものを見つけることが出来ます。

しかし、痛みや違和感を感じて鏡で舌を見てみても、特に異常が見当たらないものもあります。
それを舌痛症といいます。舌痛症についてまとめてみました。

舌痛症ってなに?

舌痛症ってどんな病気?

舌に肉眼的に傷や火傷などの異常を認めないにもかかわらず痛みを覚える病気です。特に舌先に生じることが多いですが、舌の横側に痛みを訴えることも認められます。口腔異常感症や口腔灼熱症候群ともよばれることがありますが、同じ病気を指しています。

舌痛症の痛みの症状は、ヒリヒリと痛くなってくることもあれば、もしくは焼ける様な痛みを訴えることもあり、人によって痛みの感じ方や痛みの強さは異なります。

この痛みには、痛みを感じるときと感じないときとがあり、何かに集中している時や食事中には痛みが生じません。痛みを感じるときは、何もしていないときや寝る前などが多いです。

舌痛症を起こしやすい人

男女間には発症しやすさに差があり、男:女=1:8〜10と、男性よりも女性に多くみられます。年齢的には、思春期以降であればどの年齢層でも発症しますが、30代以下の若年層に生じることは稀です。特に、50代以降の年齢層に多く発症するといわれています。

舌痛症の診断について

肉眼的には異常を認めず、舌の痛みが唯一の症状となる舌痛症ですが、それだけをもって舌痛症と診断するわけではありません。舌痛症と診断を下すための根拠が、国際頭痛分類に記載されています。そこに定められている診断基準に従って診断します。

その診断基準によれば、舌の痛みの発生条件は、痛みが連日にわたって、少なくとも1日あたり2時間以上生じていること、かつ3ヶ月以上続いて繰り返していることとされています。数日前から痛むといった短期間の痛みでは、舌痛症とはみなされません。

また、痛みが生じる部位についても規定されております。痛みは舌の表面にのみ生じ、そして灼熱感を伴う痛みであることと定めています。痛みが生じている舌に外観上異常を認めないことも重要なポイントです。
これらの条件すべてに合致して初めて舌痛症と診断されます。

舌痛症の原因や更年期障害やストレスとの関係性

舌痛症の原因は、よくわかっていないのが実情です。更年期以降の年齢層の女性によく生じることから、更年期障害や自律神経失調症との関連性が示唆されていますが、明確に立証されているわけではありません。

社会的なストレスを受けることで舌痛症の痛みが強まってくることがあります。誤解しないでいただきたいのですが、ストレスが舌痛症を引き起こすというわけではありません。あくまでも一度発症した舌痛症の症状をストレスが強くするという意味です。ストレスは、舌痛症の痛みの強弱に影響を及ぼします。同様に、入れ歯治療などの歯科治療によって舌痛症の症状が強くなった症例の報告もあります。

ところで舌痛症の原因に関して、近年は、舌神経そのものに起因しているのではないかという仮説が立てられています。舌神経は脳神経のひとつです。舌神経からのびている末梢神経が、何らかの原因で傷つけられて舌に痛みが発症しているという考え方です。この仮説に従うと、舌痛症は、実は舌痛症ではなく舌に生じた神経障害性疼痛ということになります。

舌痛症の治療法

軽症の舌痛症の治療法

舌痛症は、進行性の病気でも悪性の病気でもありません。痛みの症状がさほど強くない場合は、そのまま経過観察となる、もしくはうがい薬の処方となることも多いです。

舌痛症の薬物療法について

経過観察でない場合は、薬物療法が基本となり、痛みの強さに応じて、さまざまな薬を使います。
舌痛症の薬物療法では、即効性が得られないことが多く、数ヶ月単位におよぶ長期間の処方が必要となることも珍しくありません。

ストレスの緩和と精神的なリラックス状態を得る目的に抗不安薬、自律神経の調整目的に自律神経調整薬、感覚神経の伝達の改善を目的にビタミンB12製剤、これらの薬物を単剤もしくは組み合わせて処方します。

処方の例として、抗不安薬としてはベンゾジアゼピン系抗不安薬のメイラックス、自律神経調整薬としてグランダキシン、ビタミンB12製剤としてはメチコバールが挙げられます。

舌痛症を神経障害性疼痛ととらえれば、舌痛症の痛みは、痛みを伝える神経伝達物質が過剰に分泌されている結果と考えられます。そこで、神経伝達物質の過剰な分泌を抑える神経障害性疼痛緩和薬も有効となります。

漢方薬を使った治療法

漢方薬を使う場合もあります。漢方薬では、紫朴湯(さいぼくとう)や紫胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)が主に用いられます。

紫朴湯は、神経を落ちつかせて気分をよくし、心と身体のコンディションを整えます。紫胡加竜骨牡蛎湯は、心を落ち着かせたり、ストレスを取り除き自律神経を整える効果があります。なお、漢方薬は、漢方医学に基づいている薬のことです。漢方医学は日本で独自に発達したものなので、中国で作られた薬ではありません。

舌痛症の予防法

舌痛症は、現時点では原因が明確となってはいないので、100%予防するのは困難です。しかし、舌痛症の症状を増悪させる因子を日常生活からなるべく排除させることは、舌痛症を起こしにくくすることにつながる可能性があります。

そこで生活上の注意点として、ストレスをためない様な生活をする、ゆったりした気持ちで日々の生活をおくるようにする、いろいろなことを不安に思い悩まないようにする、こうした精神的にリラックスした状態で過ごせるようにすることをおすすめします。

おわりに

舌痛症は、舌に痛みを訴える病気ですが、肉眼的に異常が認められないのが特徴です。原因はよくわかっていませんが、ストレスや更年期障害との関連性が示唆されています。近年は神経障害性疼痛という考え方もあります。

治療は、軽症なら経過観察となりますが、それ以上の場合は薬物療法となります。単剤処方の場合もあれば、いくつかの薬を組み合わせた症となることもあります。漢方薬が使われることもあります。

舌痛症を起こさないためにも、精神的にリラックスした生活をおくる様にしましょう!

監修

・総合診療医 院長 豊田早苗

・総合診療医 院長 豊田早苗

専門分野 
総合診療医

経歴
鳥取大学医学部医学科卒業。2001年 医師国家試験取得。
2006年とよだクリニック開業。
2014年認知症予防・リハビリのための脳トレーニングの推進および脳トレパズルの制作・研究を行う認知症予防・リハビリセンターを開設。

資格
医師免許

所属学会:総合診療医学会、認知症予防学会

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