はじめに

ヒトは、食事や会話、あくびなど日常生活で口を開けたり閉めたりすることが欠かせません。口を使わない日はないといっても過言ではありません。

ところが、口を開けると痛みが生じたり、開けることが出来なくなったりする病気があります。骨折などの外傷、悪性腫瘍などもその原因として挙げられますが、こうした症状を発症する代表的なものは、顎関節症です。

顎関節症になると日常生活に支障を来す様になります。
今回は、顎関節症についてまとめてみました。

顎関節症ってなに?

顎関節に生じる病気です。口を開けたり閉めたりするときに、顎を動かす筋肉や顎関節に痛みが生じたり、口を開けにくくなったりするのが主な症状です。こうした症状が単独で起こることもあれば、組み合わさって起こることもあります。

顎関節症の検査

顎関節症と診断するためには、まず検査が必要です。

問診

症状とその経過を尋ねます。顎関節症を引き起こしそうな日常生活での問題点の有無なども確認します。

触診

顎関節の動きや痛み、雑音の有無、筋肉痛の有無を調べます。

レントゲン検査

顎関節を構成している骨の状態を確認します。シュラー氏法という撮影方法を使えば、両側の顎関節の動きも確認することが出来ます。

顎関節症の原因

歯ぎしりや食いしばり

顎関節症の原因として最も多いと思われるのが、歯ぎしりや食いしばりです。
上下の歯は、実は何もしていないときは接触していません。これを安静時空隙といい、上下の歯の噛み合わせは、およそ5mmほど隙間が開いているといわれています。この安静時空隙が保てるように、口を開け閉めする筋肉や顎関節腔の広さはバランスをとっています。

歯ぎしりや食いしばりの癖があると、口を閉じる閉口筋を常に使った状態になり、そして顎関節では、下顎頭という下顎骨の頂点に当たる部分が顎関節を常に突き上げた状態になります。その結果、閉口筋を中心とする筋肉痛や、口を開いたり閉じたりするときに顎関節痛が起こるのです。

食べ物の嗜好

硬い食べ物を日常から好んで食べている場合、特に片側咬みの癖があると、関節や筋肉に大きな負荷がかかるために、顎関節症を起こします。

楽器の演奏

主に管弦楽器に見られます。長時間にわたって楽器を口にくわえていることで、顎関節やその周囲の筋肉に負担がかかるのが原因です。
バイオリンは管弦楽器ではありませんが、バイオリンを抱える姿勢が同様に負担をかけることで、顎関節症を引き起こす原因になることがあります。

頬杖をつく癖

日常的に頬杖をついていると、頬杖をついた側の反対方向へ下顎骨を不自然に押してしまうことになります。関節腔内の圧力が高まったり、関節内部の関節円板という部位の位置がずれてしまうことで、口が開きにくくなる開口障害や開口痛が発現します。

外傷

転倒や交通事故などにより、顎関節を強くうった場合に、開口障害や疼痛が発現することがあります。これを外傷性顎関節症といいます。ただし、顎関節に骨折を認めた場合は、下顎骨骨折となるのでこの病気には該当しません。

顎関節症の治療法

薬物療法

口を開けたり閉めたりする時に痛みが強い場合は、鎮痛薬で痛みを取り除きます。鎮痛薬としては、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)が用いられます。

咬筋や側頭筋など、筋肉痛による痛みの場合は、消炎鎮痛薬に加えて、筋肉の緊張を和らげる目的で筋弛緩剤が処方されます。

鎮痛薬は痛みの強さに応じて毎食後の定期処方にするか、痛いときのみに飲む屯用にするかの2パターンがあります。筋弛緩剤については、定期処方のみとなります。

開口訓練

口を開けるのが困難な場合に行なわれます。開口器を用いて行なうのですが、顎骨骨折の手術後や悪性腫瘍の放射線治療後に生じた開口障害など、顎関節症以外の開口障害にも行なわれます。

スプリント療法

スプリント療法とは、いわゆるマウスピースを使った治療法です。正式名称は咬合挙上副子といいます。
スプリントを歯に装着すると、上下の歯に隙間ができます。そして、顎関節部の負担が軽減され、安静が図れる様になります。食いしばりなど噛み合わせによって生じた顎関節症の治療に有効です。

関節腔洗浄療法

顎関節腔に注射針を2本刺し、一方から生理食塩水や局所麻酔薬などを流し込み、もう片方から排出を図ることで関節腔内部を洗浄する方法です。関節腔内にたまった炎症性物質や老廃物を洗い流し、関節の動きをスムーズにし、痛みと開口障害を和らげます。

パンピングマニピュレーション

パンピングマニピュレーションでは関節腔洗浄療法に加えて、関節腔内に圧力を加える様にします。関節腔とは、関節を形成している二つの骨の端の間にある狭い空洞です。関節腔内に加圧をすることにより、関節腔の容積を拡大し、開口障害を緩和しようとする治療法です。

マイオモニター

マイオモニターとは低周波治療器のことです。顔にパットを装着し、顎関節の周囲の筋肉に電気的な刺激を与えることで、筋肉の緊張を緩和します。筋肉のリラクゼーション効果とともに痛みを緩和する効果があります。

顎関節症の予防法

顎関節症にならない様にするためには、その原因となる行為をしないようにすることが大切です。

歯ぎしりやくいしばり

朝起きた時に、顎がダルい、もしくは口が開けられない、そんな症状があれば、寝ている間に歯ぎしりをしたり、食いしばったりしている可能性があります。日中、重いものを持つ仕事をしていたり、パソコンなどをよく使う仕事をしていたりすると、知らない間に歯を食いしばっていることがあります。

このようなときは、歯ぎしり治療用のマウスピースを使うといいでしょう。ストレスが歯ぎしりや食いしばりを誘発していることがあるので、ストレスを緩和し、リラックスした生活をおくるよう心がけましょう。

噛み方

食事の際に、両側の歯を使って均等に噛んで食事をする様に心がけてください。食べ物の硬さは、極端に硬いものや軟らかいものに偏るのを避け、バランスの良い食事をする様にしましょう。

噛み合わせを治す

むし歯や歯周病を放置し、もしくは歯が欠損したままなど、きちんと噛み合わせることが出来ない状態にあれば、しっかり治療しましょう。

楽器の演奏

長時間にわたって口にくわえる様な楽器の演奏をしないように気をつけましょう。そして、定期的にこまめに休憩をはさみ、関節に負担がかからない様にして下さい。

頬杖などの癖

頬杖をつく癖など、顎関節に負担がかかってくる様な癖は治しましょう。

おわりに

顎関節症は、口を開けたり閉めたりする時に痛みが生じたり、口を開ける行為そのものが難しくなったりする病気です。

顎関節症を生じる原因はいろいろあります。代表的なものは歯ぎしりや食いしばりですが、食べものの嗜好や楽器など、一見すると関係なさそうなものもあります。もし、こうしたことに心当たりがあるのなら、顎関節症を予防するためにも注意しておいた方がよいでしょう。

監修

・総合診療医 院長 豊田早苗

・総合診療医 院長 豊田早苗

専門分野 
総合診療医

経歴
鳥取大学医学部医学科卒業。2001年 医師国家試験取得。
2006年とよだクリニック開業。
2014年認知症予防・リハビリのための脳トレーニングの推進および脳トレパズルの制作・研究を行う認知症予防・リハビリセンターを開設。

資格
医師免許

所属学会:総合診療医学会、認知症予防学会

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