はじめに

AIが人間を超えるシンギュラリティ(技術的特異点)が間近に迫っていると言われています。
一説では2029年と言われていますが、その観測は急速に早まりつつあります。

「AI」「ロボット」「ブロックチェーン」などが今まで人間にしか備わっていないと思われていた様々な産業の構造を変化させることにより、「人類」は新たなステージを迎えようとしています。

「種の起源」にて進化論を提唱したチャールズ・ロバート・ダーウィン(Charles Robert Darwin)はこう残しています。

「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。
唯一生き残ることが出来るのは、変化できる者である。」

と。

地球上の生存競争における絶対的勝者となった「人類」。
その強みであった二足歩行の獲得と、それを可能とし多様な創造性を生み出した「中枢神経」及び「脳」。
新たな新時代において、脳と体の存在は新しい世界の中で「変化できる者」への真価を問われています。

AIやロボット、スマートフォンが世界を変え、仕事、人生、経済のあり方を変えていくこの時代において、人の役割に特化した価値を提唱する「次世代の療法」である作業療法の存在感は日に日に増してきています。

作業療法が提供しうる役割と、今後作業療法が活用される可能性を含め、多角的な視点から人が「生きる」ことの意義について紐解いて行きます。

統計的視点

日本の高齢者人口は3千万人を超え、若年人口が大幅に減少している今日において介護スタッフの需要は今後、雪だるま式に増加してゆく事は誰の目から見ても明らかです。

厚生労働省の予測では介護職の人材不足は2025年には38万人に達すると見込まれています。

各国がIT技術の介護への導入を模索していますが、システム強化や設備による努力は今後も続けられるでしょう。
しかしながら日本人では補いきれない需要を、外国人労働者に寄って確保する取り組みも今後加速し、当たり前の様に病院や高齢者施設のスタッフが外国人になる時代は間近に迫っています。

少子高齢化だけでも深刻な問題であるのに、更に悩みの種になるデータがあります。それは障害者の増加、特に精神疾患患者の増加です。

平成26年には精神疾患患者は392万人と過去最高を記録しています。平成11年が204万人だったことを考えればこの15年間で患者数は倍増しています。

それと同時にロボットやAI、金融システムの技術革新も合間見えて、今後労働者市場のパラダイムシフトが急速に進む事が予想されます。

作業療法士に目を向けると、その9割近くが医療施設及び高齢者施設に従事しています。その理由は医療保険点数上の役割が対象者への直接介入を基本としているため、介護労働力として計算の中に組み込まれている事が大きな理由だと考えられます。

地域社会において活動をしている作業療法士も増えてきてますが、医療機関や介護施設との連携内での活動が主になっている事が多い印象です。

需要と供給のアンバランスに対して課題解決すべき場所は作業療法士の活躍の場であり、障害者が活動する場所は企業、組織、学校などあらゆる人の活動の場へ広がりを見せているのに対して、作業療法士の活動範囲が限定されている事が見て取れます。

メディア的視点

ネットメディアからの情報ですが、アメリカでは今後期待がされる職業の常に上位にランクしています。

また理学療法アシスタントや作業療法アシスタントといったリハビリテーションに付随する職業が注目されています。

これらの職業はよりリハビリテーションを効果的に行う為に、技術を補う様なスタンスが取られている。

現在おいても今後、分業制でより細やかな技術提供のため、作業療法アシスタント等の職業について議論が進められて行く必要があると思います。

現場的視点

作業療法士(Occupational Therapist)の立ち位置は国の政策、法律によって大きく影響を受けながら存在しています。

例えば福祉先進国であるスウェーデンであれば、OTの社会的地位は非常に高いです。理由は病気や障害そのものの治療よりも、その人らしく主体的に生きる事に価値をおいているからであり、その人らしさを演出する作業療法士の存在は認められています。

彼らは福祉施設においては対象者を評価、プログラムを策定し、それに従ってアシスタントスタッフがプログラムを実施しています。

またアメリカでは、資格取得は大学院制度になっており、開業権を有しています。
学校や地域との調整役を活動の場にしている人が一定数います。

急速に社会が発展した中国では医療福祉の専門職が不足しており、海外から積極的に専門家を招こうとする動きが都市部を中心に起こっています。

作業療法士に対する認識には文化レベルや経済による影響が大きく、各国でその地位や収入、仕事内容に大きな差があります。

今後の可能性

「作業療法士」とは「名称独占」に過ぎません。
つまり「作業療法士」とは「作業療法士」という資格を持った「人」です。

しかしながら、今後予想される雇用環境やキャリアがパラダイムシフトし、コミュニケーションや人間に着目される時代が到来した際、疾患や障害を抱えた人など複雑な背景を抱える「人」の諸問題解決の「経験」と「知識」双方を有する活躍の場は単に医療介護分野に止まらなくなるのでは無いでしょうか?

特に企業内においては福利厚生や、人事、環境調整が行える総合職としての適性は高く、環境調整やコミュニケーション力が期待される従業員数が多い職場における、調整役として必要になってくる公算は高いです。

実際、アメリカ某大手IT企業ではOccupational Therapistが勤務しており、メンタル面、体調面、モチベーション等を管理、調整しています。

最後に

この地球において、人として今を生きるとは?

Occupationというものの枠に囚われず、より広い視野から選択した場合、その答えは本人が何に価値を置き、行動するかによって変化する事に気付くはずです。

「作業療法」に対する認識は未だに「機能障害」に対するリハビリの専門職であるというイメージが強いです。法律で定義されている内容や実際の活動から見えば当然です。

作業療法の強みは、環境若しくは人の能力を活用して目的を達成する事を支援をする視点を持っている事です。

身体的特徴や、精神面を「障害」と捉えるのか「特徴」と捉えるのかでその対象者の行動や意識に大きな変化をもたらします。

「障害を持つ人の生活支援」という課題に対し、face to faceで取り組みを積み重ね続けてきた作業療法士の活躍の場は、情報技術のシェアが進み「意識」の時代を迎えた現代において活躍の可能性は無限大です。

「人」という漢字は2本が支え合って「人」になります。

どんなに時代が変化して、世界が形を変えたとしても、人の境遇は様々であり、生きる意味が多様化しても「人」は「人」である。

一人一人がその役割を実感して生きる社会の実現において、作業療法士の存在が一般社会のおいて活用される事は、一人一人が個性生かした社会、ノーマライゼーション実現の為一助になる事でしょう。

プロフィール

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中西一雄(なかにしかずお)
作業療法士(Occupational Therapist)。

WFOT(World Federation of Occupational Therapists)会員。
大学病院、高齢者療養型病院、精神科勤務を経て、現在は障害者支援や講演活動を
中心にフリーランスで活動中。

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