平均寿命は伸びた、健康寿命は?

世界的にも長寿で有名な沖縄を有する日本、日本全体でも平均寿命は昔と比べ格段に伸びました。一方、健康寿命は同じく伸びているものの、平均寿命と比べるとそのスピードは遅いです。僕は以前、日本の在宅訪問鍼灸マッサージの会社で働いていて、寝たきりの患者さんや慢性疾患に苦しむ患者さん、健康ではあるものの薬に頼りきっている患者さんを多く見てきました。

現在働いている豪華客船でもさまざまな慢性疾患に悩む年配の方々を多く見かけます。
西洋医学がカバー仕切れない範囲の問題が数多くあるように思います。その代表的な例が生活習慣病でしょう。
古来、中国やアジア諸国では、庶民の知恵として病気に掛かった時の食養生法が親から子へと生活の中で伝えられていました。しかし、西洋薬が著しい発展を遂げ、薬で症状を抑えられるようになった影響で食養生の知恵が忘れ去られて来ているように思います。

たとえ、薬を飲まなくても改善させられる症状はあります。良く寝て、良く食べて、しっかりと排便することが出来れば、症状は自ずと回復していくのですが、生活習慣の乱れや高いストレスの影響で現代人はさまざまな症状を抱えて生きています。

寿命は伸びたけど、健康なまま長生きをする人の割合は決して高くないように思います。
そんな現代で鍼灸師は一体どんな役割を担っていけるのでしょうか?

メインは治療、サブとして食養生の指導と生活習慣の指導を

鍼灸師として働いている以上、治療をすることが主な役割となっている人が多いことでしょう。患者さんは、症状を改善して欲しくて治療院に来たり、訪問治療のサービスを予約することでしょう。しかし、鍼灸師は治療だけを行なっていれば良いと僕は思っていません。
治療後のセルフケアの指導、食養生の指導を行うことも大切な鍼灸師の役割だと思います。

特に患者さんの身体に触れることもせず、電子カルテを見るだけで薬の処方をする医師が増えている現状、患者さんと触れ合い、そこから読み取った情報を元に生活指導をすることは、仕事に忙殺されている医師ではカバー仕切れない領域となります。
そこにこれからの鍼灸師が担っていくべき役割があると僕は考えています。

病人を増やさない為の予防として、鍼灸師は大きな役割を担うことが出来るのではないでしょうか?必要に応じて治療を行い、症状が回復した後も予防として患者さんとの関係を保っていく。そういう鍼灸師がもっと増えて行けば、鍼灸師が日本の医療界でもっと活躍していけるのではないでしょうか?

人が集まる場所ではなく、人と人をつなげる存在に

他に考えられる人の身体を診る鍼灸師だからこそ適任な役割は、人と人とを繋げたり、組織と組織をつなげることではないかと僕は考えています。
人間の身体はさまざまな情報を発しています。それは姿勢であったり、仕草であったり、脈やお腹にも現れます。人の身体を触り、さまざまな情報を読み取れる鍼灸師であれば、誰と誰の相性が良いのか、会社の福利厚生として組織内で治療をして行けばその組織の特徴を掴み、別の会社との橋渡し役となることが出来るのではないかと僕は考えています。

患者さんを良くしてあげたい、症状を改善してあげたいと目の前の存在に集中し過ぎてしまう方が鍼灸師には多いですが、彼ら彼女らが視点を変え、広い視野を持つことが出来れば、
鍼灸師が社会で担っていく役割の幅が大きく広がるのではないかと僕は思います。


治療院を拠り所に人と人とが繋がる小さなコミュニティを形成するのも良いですし、
逆に村や町内会に入って行き、コミュニティ内の人々をつなげる役割を受け持つのも良いのではないでしょうか?
これから鍼灸師に求められることは、治療院の外で何が出来るのかということに尽きると思います。外に出ることでより患者さんが増えることにも繋がるでしょう。

最前線の医療現場から美容業界、スポーツ業界、さらにはビジネス業界まで

鍼灸師という仕事の1番の魅力は、多様性の幅がとても広いことでしょう。おそらく、多くの鍼灸師がまだそのことをしっかりと認識していません。治療をすることに囚われてしまい視野が狭くなっています。
一度周りを見渡して見れば、さまざまな現場で鍼灸師が活躍していることを見ることが出来ます。

病院に入り、医師と提携をして鍼灸治療を行っている人もいれば、
美容鍼を売りに芸能人やモデルをターゲットにしつつ、一般の人も治療して行く鍼灸師もいます。
プロスポーツ選手や舞台俳優、歌手やダンサーを相手に治療をしている鍼灸師もいます。

今後増えていくであろうと僕が予測しているのは、ビジネス業界に進出していく鍼灸師です。ビジネスマン、特に起業家と言われる人たちには、PCやスマホを使う時間が長い上に睡眠時間が短い人が多くいます。彼らの健康面でのサポートをするのに鍼灸師はとてもよい存在になれることでしょう。会社の福利厚生として鍼灸マッサージ治療を取り入れる企業が増えています。
鍼灸師の中には、治療以外に副業としてビジネスを行なって行く人もいることでしょう。

鍼灸師が社会の中で働ける場所の選択肢は多いです。
全ての人の健康のサポート、生活指導やメンターとしての役割を鍼灸師が担って行くことが出来るのではないでしょうか?

これからの鍼灸師に必要なこと

治療技術や知識は当たり前に身につけることを前提として、
さらに人々が健康でくらしていけるように導けるような食養生の指導が出来るようになること、悩み相談や困った時の駆け込み場所となれるような人間性を磨くこと、
そして、人と人をつなぐことが出来るコミュニケーション能力が新時代を生きる鍼灸師に求められることなのではないかと思います。
すべての鍼灸師がそのレベルに到達出来るような教育制度やシステム作りは欠かせないものとなるでしょう。

治療技術と東洋医学の知識を学ぶこと以外にやらなければならないことがたくさん出てくるでしょう。さまざまな壁が立ちはだかることになってもそれらを乗り越えなければ、日本の鍼灸師に明るい未来はないものと思っておいた方が良いというのが僕の持論です。

終わりに

幸いなことに、30代の中堅鍼灸師を中心に20代の若手鍼灸師を巻き込んで新しい鍼灸業界の波が出来始めています。すぐに変革が起こらなくてもそう遠くない未来に鍼灸業界が改革に向けての一歩を踏み出す日が来るのではないかと感じています。

一人ひとりの鍼灸師が自分のことだけではなく、日本鍼灸業界のこと、日本社会のことまで考えることが出来るようになった時、人生100年時代における鍼灸師の役割は人々の生活の中で欠かせないものになるのではないかと僕は考えています。

どんな未来が来るにせよ、これからの時代に鍼灸師は何が出来るのかを考えて行くことが大切なのではないでしょうか。すぐに行動が起こせなくてもこれからを生きていく若い世代の鍼灸師には鍼灸業界の未来についていろいろと思いを巡らせて欲しいと思っています。
僕もこれからもずっと考え続けて行きます。

プロフィール

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松永光将(まつながみつひろ)
鍼灸師
あん摩マッサージ指圧師

神奈川衛生学園専門学校卒業

専門学校卒業後カリフォルニアへの語学留学を経て日本に帰国。1年間在宅訪問鍼灸マッサージで働きながら社会人アメリカンフットボールXリーグ1部 明治安田パイレーツでアシスタントヘッドトレーナーとして活動。
2012年から豪華客船へと仕事の舞台を移し、船上鍼灸師として世界中の国の人々を相手に船上で鍼治療を行う。ディズニークルーズ、ホーランドアメリカクルーズ、プリンセスクルーズ、P&O オーストラリア、ロイヤルカリビアンインターナショナルと5つの大手客船会社の船での実務経験を持つ。

船を降りている時はバックパックを背負い写真を撮りながら世界を周るトラベルフォトグラファーとしても活動。
世界50カ国、200を超える都市を旅して来た。
世界を周り、世界での鍼灸の可能性を見出し、日本鍼灸を世界に輩出するべくSNSで豪華客船のことや船上鍼灸師の現状、世界の鍼灸事情を発信している。


HP: http://mitsmatsunaga.com

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