はじめに

内臓脂肪型肥満と皮下脂肪型肥満の違いを知っていますか?

りんご型肥満、洋梨型肥満とそれぞれ呼ばれるこの二つには、それぞれ脂肪のつく部位や脂肪の落としやすさに違いがあります。

一方で、肥満解消の仕方には共通するところも多いのです。

今回は、内臓脂肪型肥満と皮下脂肪型肥満の違いや原因、解消法についてご紹介します。

内臓脂肪型肥満と皮下脂肪型肥満の違い

1)内臓脂肪型肥満の特徴


(1)臓器の周囲につく脂肪

内臓脂肪とは、臓器の周囲につく脂肪のことを言います。腹部CT検査を行って、お腹周りの内臓脂肪量が100cm2以上あると内臓脂肪型肥満と判定されます。また、より簡易的に内臓脂肪型肥満かを知るためには腹囲を測定します。おへその高さで測定し、男性で85cm以上、女性で90cm以上になると(内臓脂肪量が100cm2以上あるという目安になるため)内臓脂肪型肥満であると判定されます。


(2)リンゴ型肥満

手足が細めなのに、体幹部のお腹周りだけが出ていることから、内臓脂肪型肥満はリンゴ型肥満とも言われます。女性ホルモンには内臓脂肪を溜まりにくくする作用があることから、内臓脂肪型肥満は中年男性や閉経後の女性に多く見られる傾向にあります。


(3)つきにくく、落ちやすい脂肪

内臓脂肪は血流の豊富な臓器などにつく脂肪のため、皮下脂肪に比べるとつきにくく、落ちやすいという特徴があります。


(4)過剰な内臓脂肪は様々な生活習慣病のリスクを高める

内臓脂肪が過剰になると、乳がん、大腸がん、肝臓がんなどの一部のがんの発症リスクが高まると言われています。また、高血圧や脂質異常症、糖尿病のリスクも増すため、結果的に心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化に伴う病気のリスクが高まります。

2)皮下脂肪型肥満の特徴


(1)皮下組織につく脂肪

皮膚の下(皮下組織)につく脂肪のことを皮下脂肪と言います。お腹周りだけでなく、二の腕、お尻、太もも、ふくらはぎなどの手足にも見られる脂肪です。女性ホルモンの働きによって、男性よりも女性につきやすいのが皮下脂肪です。

体脂肪率とは、皮下脂肪と内臓脂肪を合わせた脂肪の比率のことを言います。したがって、一つの目安として体脂肪率を参考にするのも良いでしょう。18歳から39歳では、男性は15%から20%、女性は20%から25%が標準となります。


(2)洋ナシ型肥満

お腹周りよりも手足特に下半身に皮下脂肪がつきやすいことから、皮下脂肪型肥満は洋ナシ型肥満とも言われます。女性の肥満に多いタイプです。


(3)つきにくく、落ちにくい脂肪

一定量の皮下脂肪は、体温の維持、内臓を衝撃などから守るといった大切な役割があります。したがって、一度ついてしまうと内臓脂肪よりも落としにくいのが皮下脂肪の特徴です。


(4)過剰・過少な皮下脂肪は不妊の原因となる

皮下脂肪が基準値を上回ったりまたは下回っても、すぐ病気のリスクが高まることはないとされています。しかし、女性の場合は皮下脂肪が多すぎたり、少なすぎると不妊症の原因となります。具体的には、体脂肪率が30%以上あるいは15%以下になると妊娠率は低下します。さらに、体脂肪率が40%以上あるいは10%以下になると、妊娠は極めて困難になります。

内臓脂肪型肥満と皮下脂肪型肥満の原因

内臓脂肪型肥満や皮下脂肪型肥満の原因は、食事や飲酒などによる摂取カロリーが運動などによる消費カロリーを上回っているために起こります。

脂肪1kgを落とすためには、約7000kcalも必要となります。これはフルマラソン2本分に相当するカロリーです。したがって、食生活と運動面の両方を見直して徐々に落としていくことが必要となります。

内臓脂肪型肥満や皮下脂肪型肥満の解消法

内臓脂肪型肥満についても、皮下脂肪型肥満についても、その改善方法は重複する部分が多いです。食事面、運動面、睡眠、その他に分けてまとめます。自身の生活を振り返って、できることから少しずつ改善しましょう。

【食事に関するもの】

(1)炭水化物を単品で食べない

ラーメンだけ、○○丼のみといった単品料理は、どうしても炭水化物や脂質が多くなり、その他の栄養素が不足してしまいます。スープ類、サラダ、副菜なども一緒に食べ、品数を多くするようにしましょう。

(2)1度の食事で炭水化物を重複して食べない

ラーメンとチャーハン、ごはんとお好み焼き、パンとパスタなど炭水化物を重複して食べないようにしましょう。

(3)食べる順番を意識する

同じメニューであっても順序に注意することで、血糖値の上昇を緩やかにし、太りにくくすることができます。

具体的には食物繊維を多く含むメニューを最初に食べます。サラダやスープ類、煮物などです。食物繊維が先に腸内に入ることで血糖値の上昇を緩やかにし、排出を促進してくれます。
次に、肉や魚などの主菜を摂ります。タンパク質や脂質が胃に入ると、インクレチン(GLP-1、GIP )というホルモンが分泌されます。インクレチンには、胃腸の動きをゆっくりにして糖の吸収スピードを緩やかする、インスリン(血糖値を下げるホルモン)の分泌を高めるといった作用があります。
そして、最後にごはんやパンなどの炭水化物を摂ります。つまり、コースメニューのような順序で食事を摂ることは、血糖値の面では理想的と言えます。

(4)野菜・豆類・きのこ類・海藻類・発酵食品を積極的に摂る

ビタミン、ミネラル、食物繊維を多く含む食材を多く摂るようにしたいものです。具体的には、野菜、豆類、きのこ類、海藻類、発酵食品です。できれば、毎食これらをメニューに取り入れるようにしましょう。

果物もビタミンなどを豊富に含んでいてメリットも多いのですが、果物に含まれる果糖は素早く吸収され、血糖値が上がりやすいという特徴があります。したがって、食後のデザートとして少量ずつ摂ることをお勧めします。

(5)脂肪を多く含む食品は賢く摂る

脂質イコール悪ではありません。体内の細胞を構成する細胞膜にとって脂質は必須のため、脂質を極端に制限するとかえって脳血管疾患などのリスクが増します。つまり、脂肪は質を意識しましょう。

そこで、肉などの動物性脂肪に多く含まれる飽和脂肪酸よりも、魚や植物などに多く含まれる不飽和脂肪酸を多く摂るようにしましょう。(肉を全く摂ってはいけない、ということではありません。牛肉に多く含まれるL-カルニチンは脂肪の燃焼を助ける働きがあります。)

不飽和脂肪酸は体内で固まりにくく、血液中の中性脂肪や悪玉コレステロールの減少、善玉コレステロールの増加をサポートしてくれます。具体的には、オリーブオイル・亜麻仁油・エゴマ油・ナタネ油・ゴマ油などの植物油、サバ・イワシ・サンマ・カツオ・鮭・マグロなどの魚です。

(6)減塩し、ダシや酢を活用する

濃い味付けは食欲が増し、喉も乾きやすくなるため、つい食べ過ぎにつながります。また、食塩の過剰摂取は高血圧に直結します。料理では、ダシを活用したり、減塩しょう油などを使用するのも一つです。外食ではラーメンなどのスープを残す(できなければラーメンを食べる頻度自体を減らすなど)ようにしましょう。

酢には内臓脂肪を減らす効果があることが分かっています。その他にも、血圧を下げる、脂肪の合成を防ぐ、脂肪の分解を促進する、血糖値の上昇を抑えるといった減量や生活習慣病予防には嬉しい効果が多くあります。これらの作用は、どの種類の酢であっても1日15ml(大さじ1杯程度)で得られるため、活用しましょう。

(7)1日3食摂ること

欠食すると、その分食事をした際の糖の吸収率が良くなってしまい、同じものを食べていても肥満になりやすく、生活習慣病のリスクも高くなることが分かっています。1日3回できるだけ同じ時間帯に食事を摂るようにしましょう。

(8)寝る直前に食べず、水分摂取をする

1日に同じ量を食べていても、夕食のボリュームが多いと体重は減りにくいものです。これは、睡眠中は筋肉などで糖分が消費されず余ってしまい、中性脂肪などとして蓄えられてしまうためです。できれば、寝る2時間以内は食べないようにしましょう。

空腹感を紛らわすためには、水分を摂取したり、糖類控えめのガムなどがお勧めです。特に、無糖の炭酸水は、炭酸ガスによってお腹が膨らんで空腹感が軽減でき、気分転換にもなります。また、炭酸ガスによって腸内環境を整えるという働きも期待できます。

【運動に関するもの】

(1)有酸素運動は毎日、筋トレは週2日から3日行う

皮下脂肪にせよ、内臓脂肪にせよ、脂肪細胞を分解するためには運動が欠かせません。散歩やウォーキング、ジョギング、サイクリングなどの有酸素運動は毎日実施するようにしましょう。有酸素運動をはじめた場合、運動開始後15分~20分までの時間は血液中の糖質や脂質が使われています。ですので、内臓脂肪や皮下脂肪を減らすためには、20分以上の運動が必要です。


また、有酸素運動のみを行った場合、どうしても体重と一緒に筋肉量も減ってしまいます。すると、徐々に有酸素運動による減量効果が得られなくなったり、リバウンドの原因になります。そこで、週に2日から3日程度の筋トレを実施しましょう。

筋肉量を維持・向上することで基礎代謝量が増え、安静にしているときでも消費されるカロリー量がアップします。特別な器具を使わなくても、腹筋、背筋、腕立て伏せ、スクワットなどといったもので構いません。

(2)運動強度は「ややきつい」程度が最も脂肪燃焼効果が高まる

運動強度は会話も可能な、ややきついなと感じる程度が最も脂肪燃焼効果が高まると言われています。実は脂肪細胞の分解を進めるためには、酸素と結びつく必要があります。

きつい無酸素状態で行うと、脂肪よりも糖分が優先して使われ、脂肪燃焼効果は期待できません。また、きつすぎる運動は活性酸素を生じさせ、体内の細胞を傷つけてしまいます。したがって、運動する際は会話や自然な呼吸を妨げない程度の強度で実施するようにしましょう。

(3)生活習慣病予防のためなら、食後15分の運動がカギ

食後の15分間は食べ物の消化吸収をするために、胃腸に血液が集中します。この間に運動を行うことで、手足の筋肉に血液が奪われ、相対的に胃腸の血液量が減って胃腸の動きも鈍くなります。その結果、糖の吸収も穏やかになり、血糖値の上昇も穏やかになります。したがって、食後すぐ軽めに体を動かすことが糖尿病予防、生活習慣病予防のためには大切です。

【睡眠に関すること】

皮下脂肪や内臓脂肪を減らすためにも、睡眠時間を十分(7時間前後)にとってホルモンバランス保つことが大切です。

(1)成長ホルモンとダイエットの関係

眠りに入ってから2時間から3時間後に分泌量がピークを迎える成長ホルモンには、筋肉の合成の促進、脂肪の分解の促進といった様々な働きがあります。睡眠は減量の観点からも大切なものです。

(2)メラトニンと糖尿病の関係

また、糖尿病を予防する上でも睡眠は非常に重要で、ある研究によれば、不眠症患者には糖尿病が多いというデータがあります。

眠りに入ると脳からはメラトニンというホルモンも分泌されます。メラトニンは膵臓に働くことでインスリンの分泌量を増やし、筋肉に働くことで血液中の糖分を筋肉に取り込んでくれます。したがって、睡眠が十分でないとメラトニンの分泌量も減るため、血糖値が上昇しやすくなります。

(3)睡眠不足と食べ過ぎの関係

睡眠不足が続くと、ホルモンバランスが崩れて食べ過ぎにつながります。通常、脂肪細胞からは食べ過ぎを抑制する働きのあるレプチンというホルモンが分泌されています。しかし、睡眠不足に陥ると、レプチンが減少してつい食べ過ぎてしまいます。

また、胃からは食欲を増進させるグレリンというホルモンが分泌されています。睡眠不足になるとグレリンの分泌量が増えてしまい、つい食べ過ぎてしまうことになります。

【その他(皮下脂肪にはマッサージ)】

内臓脂肪に比べると、皮下脂肪は外からつまむことのできる部分にあります。したがって、マッサージなどの外部刺激が皮下脂肪を落とすためには有効とされます。

体温の上昇している入浴中や入浴後にリフレッシュも兼ねて気になる部分をマッサージすると良いでしょう。その際は、手足(末梢)から心臓(中枢)方向に向かってマッサージすることで、老廃物などが尿などの形で体外に排出されやすくなります。

終わりに

内臓脂肪型肥満と皮下脂肪型肥満の違いについて理解していただけたでしょうか?

内臓脂肪型肥満と皮下脂肪型肥満にそれぞれ特徴はありますが、肥満解消のためにすることは共通する部分も多いのです。

食事・運動・睡眠といった、生活の基本となることを改善していくことからはじめましょう。
また、この3つを日頃から意識し、肥満に陥らないようにしましょう!

監修

・総合診療医 院長 豊田早苗

・総合診療医 院長 豊田早苗

専門分野 
総合診療医

経歴
鳥取大学医学部医学科卒業。2001年 医師国家試験取得。
2006年とよだクリニック開業。
2014年認知症予防・リハビリのための脳トレーニングの推進および脳トレパズルの制作・研究を行う認知症予防・リハビリセンターを開設。

資格
医師免許

所属学会:総合診療医学会、認知症予防学会

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