AGAとは

髪の毛が薄くなるのは、年をとれば当たり前かもしれません。しかし、10代・20代の男性や女性など、一見薄毛とは縁がなさそうな方々でも、抜け毛に悩んでいる場合があります。その原因がAGAかもしれません。

AGAとは「Androgenetic Alopecia」の頭文字を略したものです。Androgeneticとは「男性の(男性ホルモンアンドロゲンの影響による)」、 Alopeciaは「脱毛症」の意味で、日本語では「男性型脱毛症」と呼ばれます。男性に多くみられる症状ではありますが、もちろん女性のAGA患者も存在しています。その場合、AGAの頭に「女性」を意味するFemaleを付けたFAGAと呼ばれるのが一般的です。
AGAとFAGAに違いはなく、どちらも男性ホルモンの異常によってもたらされる脱毛症です。

AGAと一般的な薄毛の違い

加齢による薄毛とAGAには、明確な違いがあります。加齢による薄毛の場合、毛根の発毛機能そのものが衰えることが原因です。毛根に、新しい毛を作り出す元気がなくなってしまったということです。

ところが、AGAの場合はそうではありません。AGAは男性ホルモンであるテストステロンが『5αリダクターゼ』という酵素と結びつくことが原因で起こります。『5αリダクターゼ』とは、主に皮脂腺や毛乳頭などに多く存在している酵素です。この酵素と結合したテストステロンは、『ジヒドロテストステロン』という強力な男性ホルモンに変化します。『ジヒドロテストステロン』が毛根の細胞に作用した結果、脱毛を促す『TGF-β』という成分が活性化し、髪の毛の抜け代わりのサイクルが乱れてしまうのです。

カタカナとアルファベットばかりで難しいですが、簡単にまとめると次のような流れになります。
①男性ホルモン(テストステロン)+酵素(5αリダクターゼ) → 強力な男性ホルモン(ジヒドロテストステロン)
②強力な男性ホルモン(ジヒドロテストステロン)が毛根の脱毛因子(TGF-β)を刺激
③抜ける量>生える量になり、薄毛を引き起こす
このように、男性ホルモンと酵素の働きによって発毛サイクルが乱れた結果の薄毛が、AGAなのです。

AGAの診断目安

AGAには診断基準があり、頭を横から見たときに、以下の2つの間の距離を測ります。
①耳孔(耳の穴)と頭頂部(頭のてっぺん)を結んだ線
②生え際の一番後退している部分
この①から②の距離が2㎝以下の場合が、AGAの目安といわれています。実際の診断基準は、医師による診断が必要なので、これだけでAGAであるとは厳密には決められません。目安と思って参考にしてください。

女性もAGAになる理由

女性も微量ながら、男性ホルモンであるテストステロンを分泌しています。特に、30代後半からは、女性ホルモンの分泌量が減少し、その結果、相対的に男性ホルモンの量が増えることになります。また、頭髪の発育を促すのは女性ホルモンの働きのひとつでもあります。
女性のAGAが40代以降に多いのは、女性ホルモンの減少が要因のひとつといえるのです。

AGA治療と薬の種類

テレビやインターネット、雑誌などで、「AGAはお医者さんで治せます」という広告を目にしたことがある人も多いでしょう。その通りで、AGAには治療法があるのです。主に薬を使用した治療ですが、いったいどのような薬が用いられるのでしょうか。

飲み薬

飲み薬の効果は、5αリダクターゼを阻害する点にあります。5αリダクターゼがテストステロンと結びつかなければ、脱毛因子が異常活性化することがありません。こうして、脱毛優位になってしまっているヘアサイクルを正常に戻す効果が期待できます。

主に使用されている飲み薬には、以下があげられます。
・プロペシア
・フィナステリド
・フィンペシア
・ザガーロ
・ロゲイン
いずれの薬も医療機関でのみ入手することが可能です。どの薬が使用されるかは、体質や病院の方針などによって異なります。なかには危険な副作用を起こすケースもあるため、自己判断で個人輸入品などには手を出さないようにするのが賢明です。

塗り薬

塗り薬は、直接頭皮に塗り、有効成分を毛根に届かせることが目的です。発毛因子の活性化や頭皮の血流改善などの効果を持っています。内服薬が「髪が抜けるのを防ぐこと」を主眼に置いているのに対し、外用薬は「髪が生えやすくすること」を目的にしています。
ただし、頭皮を通じて成分が吸収されるため、飲み薬と比較すると効果はやや低いと言わざるを得ないでしょう。
塗り薬の代表的なものに『ミノキシジル』があります。

その他の治療法

飲み薬や塗り薬のほかには、以下のような治療法も存在しています。
・育毛メゾセラピー
・HARG療法
簡単に言うと、「脱毛抑制・発毛促進」効果を持つさまざまな成分を頭皮に注射する治療法のことです。およそ1ヶ月に1回、頭皮に注射を行い、これを6回程度繰り返します。

AGA治療の受けられる場所

進行してしまうと、治療が困難になることが多いのがAGAです。もちろん市販の育毛剤を使用したセルフケアや、エステサロンでのケアなども効果がないとはいえません。ですが、十分な効果を得たい場合はやはり医療機関での治療が好ましいでしょう。
AGAの治療が受けられる代表的な標榜科は、皮膚科、内科、美容外科です。

AGA治療の期間

AGAは見た目に関わることですから、できれば早めに治したいと思う方も多いでしょう。
一般的にAGAの治療には、長い期間が必要です。もちろん、進行具合や治療法、薬に対する感受性などの個人差はありますが、平均的な治療期間の目安は以下のとおりです。
・効果が出始めるまで:2~3ヶ月程度
・効果を感じ始めるまで:半年程度
・薄毛が気にならなくなるまで:1年~3年程度
髪の毛にも生え変わりのサイクルがあります。治療が軌道に乗り、髪が生え始めるまでには、最低でも2~3ヶ月程度は必要になります。「生えてきた」ことを目に見えて実感できるようになるまでの期間として、半年程度は見ておきましょう。最低でも半年は続けることを目標にしてください。

AGA治療の費用

ここでは、治療に必要な費用や健康保険の適用についても解説します。

AGA治療に健康保険は使える?

病院でAGA治療を受ける際、健康保険証が使えるのかは非常に気になるところです。それにより、費用面が大きく変わってきます。
残念ながら、AGA治療は健康保険を使用することはできません。単なる薄毛とは異なるものの、AGAも老化の一種と考えられているからです。つまり、病気ではなく「人間の自然な生理現象」と捉えられているわけです。たとえ病院での専門的なAGA治療であっても、費用は全額自己負担です。区分上は「美容目的の自由診療」として扱われます。
自由診療ため、まったく同じAGA治療薬であっても、費用は病院によって異なるのが現状です。健康保険が使用できませんから、確定申告等での医療費控除や、高額医療費助成制度も適応されません。AGA治療には、ある程度のまとまった金額がかかることを念頭に置いておく必要があるでしょう。

AGAの治療に必要な費用相場

AGAには長期間の治療が必要にもかかわらず、健康保険も適用されません。そうなると、やはり費用は気になるでしょう。AGAの治療費は病院によってまちまちではありますが、それぞれの治療法ごとのおよその相場がこちらです。
・内服薬:5,000~10,000円/月
・外用薬:10,000~20,000円/月
・育毛メゾセラピー:50,000~80,000円/回
・HARG療法:100,000~200,000円/回
どの治療法を選択するかにもよりますが、AGA治療の総額は、およそ30万円~100万円程度と。AGA治療は、ある程度の期間続けなければ効果が期待できません。お財布とも相談しながら病院選びを行うことをおすすめします。

AGA治療の効果

AGA治療はかなりの高額になるので、効果がなければがっかりしてしまいます。AGAの治療効果はどれくらいなのか、ご説明します。

治療効果は8割以上

近年のAGA治療は非常に優れており、8割以上の患者が効果を実感しているそうです。特に治療効果が高いのは、20代や30代といった若年性の方々です。ほぼ100%に近くに改善効果がみられたという調査結果もあります。

早期治療が大切

AGAは進行性の症状です。治療効果を高めるには、早いうちに治療を開始することがおすすめです。抜け毛が進行してしまっていると、効果が現れにくいだけでなく、治療期間や起用の面でも大きなマイナスとなります。「もしかしてAGAかも?」と思ったら、早めにAGA治療可能な専門医を受診するのがよいといえます。

コスパがいいのは内服薬

効果が高いとされる治療法はいくつかありますが、やはり費用と効果どちらも視野に入れて、ベストな方法を選びたいものです。
その点から考えると、飲み薬での治療がおすすめできます。そもそも、育毛メゾセラピーやHARG療法は、対応できる医療機関が限られています。通いやすい場所で治療が受けられるとも限りません。そして、とにかく費用そのものが高額です。AGA治療は続けることが重要ですから、交通費や時間的な拘束を考えると、向き不向きが顕著な治療法でしょう。
その点、飲み薬はほとんどの病院で処方が可能です。効果も高いうえに、外用薬よりも費用が安く済みます。AGA治療は飲み薬から始め、様子を見ながら他の治療法も検討していくのがよいでしょう。

AGA治療の副作用

さて、AGA治療を始める前に知っておきたい大切なことがもうひとつあります。それが副作用についてです。実をいうと、AGA治療薬は、別の病気の治療薬だったものがほとんどです。副作用として発毛がみられたため、その部分をうまく利用してAGA治療薬としている場合も少なくありません。
なかには危険なものもあるので、自己判断での服用や治療中止は厳禁です。必ず医師と相談しながら治療を進めてください。
以上を念頭に置いたうえで、治療薬ごとの主な副作用を紹介します。

内服薬の代表的な副作用

・低血圧
・性欲減退
・意欲低下
・ED
・胎児奇形(女性が使用した場合)
・体毛の増加
・むくみ
・頭痛
・めまい
・動悸
・乳房肥大
・肝機能障害
AGA治療薬は、ホルモンの分泌と密接に関連しています。そのため、女性や未成年には、使用が禁止されている薬もあります。また、定期的に採血などを行ってホルモン状態や体調を確認することも大切です。副作用を見ると、自己判断での個人輸入品の使用が危険な理由をご理解いただけたと思います。

外用薬の代表的な副作用

次に外用薬にみられることの多い副作用を紹介します。
・頭皮のかゆみ
・頭皮の発赤
・頭皮の湿疹
・ふけの増加

外用薬であっても、頭皮以外の副作用がみられることもあります。
・動悸
・頭痛
・めまい
・むくみ
・低血圧
副作用の種類や程度は、人によって大きく異なります。ここに紹介したものはあくまでも代表的なものにすぎません。使用中に「いつもと違う」と感じたら、すぐに医師に相談しましょう。

自己判断は厳禁、医師の指示に従って!

万が一、副作用とみられる症状が現れた場合、「まあ、いいや」で済ませてはいけません。すぐに医療機関を受診し、医師に相談してください。また、自己判断での増薬なども副作用のリスクを高めます。AGA治療薬の使用は、必ず医師の指示に従って行ってください。
また、アレルギー体質の方、他の薬を使用している方、妊娠を希望している方(男女問わず)などは、治療前に必ず、その旨を医師に伝えるようにしてください。

おわりに

単なる「抜け毛や薄毛」とは原因が異なるのが、AGAです。中年以上の男性だけでなく、10代や20代の男性や女性であっても発症する可能性は十分にあります。「髪が薄くなってきた」、「抜け毛が増えた」と感じたなら、AGA治療可能な病院を受診してみてはいかがでしょうか。
AGAは早期治療が重要です。健康保険は使用できないため、費用は高額になりがちですが、専門家のもとで治療を受ければ高確率で改善が期待できます。
ただし、自己判断での薬の使用は絶対にNGです。AGAとは異なる抜け毛の場合もありますし、AGA治療薬には危険な副作用もあるからです。自分に合った効果的な治療法を選択するだけでなく、健康被害を避けるという観点からも、やはり皮膚科や美容外科などの受診が適切だといえます。お近くの病院を探してみてください。

監修

・救急医、内科医 増田陽子

・救急医、内科医 増田陽子

専門分野 
微生物学、救急医療、老人医療

経歴
平成18年 Pittsburg State大学 生物学科微生物学・理学部生化化学 卒業
平成22 年 St. Methew School of Medicine 大学医学部 卒業
平成24年 Larkin Hospital勤務
平成26年 J.N.F Hospital 勤務

資格
日本医師資格
カリブ海医師資格
米国医師資格

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