ダイエットにやる気が出ない理由

ダイエットにやる気の出ない理由については、色々な仮説がありますが、ここではその中の一部をご紹介します。

本能が邪魔をする

私達の祖先は飢餓と向き合っていることが多かったため、食物が獲得できる時は、できるだけ食べた物を脂肪として体に蓄積してきました。そうすることができた人が自然選択として生き残ってきたようです。
なかなか説得力がありますが、これはまだ仮説として浮上している段階で、証明ができているわけではないようです。

しかし、飢餓と戦うなら、動物のように食べられる時にできるだけ食べ、できるだけ動かない戦略を取る可能性はあるように思えます。
さらに、身体の血糖値を上昇するホルモンが複数あるのに対して、血糖値を下げるホルモンはインスリンの1種類だけです。そう考えると、人間は飢餓などで血糖値を上げる必要が多いのに対して、血糖値を下げる必要性はそれほどなかったのかもしれません。

これらの事を考えると、基本的に人は本能のとしてはダイエットを避ける傾向にあると思います。本能に逆らう部分があれば、ダイエットをやる気が起こらないのは当たり前なのかもしれません。

脳の機能が邪魔をする

別の説として、脳の機能にあります。人間には『ホメオスタシス(恒常性維持機能)』と言う機能が備わっています。この機能があるため、人間は外部環境に適応して生存することができました。
ホメオスタシスは、体温を一定に保つ機能をしています。
具体的には、気温が高くなると汗をかいて体温が必要以上に上昇するのを防いだり、気温が下がるとガタガタと震えて筋肉で熱を生産し、ホルモンを分泌して代謝を上げる事で体温上げたりします。

実は、脳の情報処理にもホメオスタシスがあります。
例えば、普段、和食などを食べ慣れている人が、外国の料理などを食べると、途端に気分が悪くなることがあります。それは、油分や調味料、カロリーなどの変化がそこまでなくても、やはり食べ慣れた和食でないと、食べた気がしないという気持ちになるからです。つまり、脳が「少しおかしいぞ」という異常を感知しているのです。
ここで言う和食は、体温で言えば平熱で、脳にとっては恒常性(いつもと同じ状態)です。外国の料理を食べることは、体温で言えば高熱状態で、脳にとっては非恒常性(いつもと違う状態)のため、落ち着かなくなるのです。

ダイエットにやる気の出ない理由を抽象化すると、どの仮説も遺伝子や脳の機能など、強烈に人間に刻み込まれた情報が問題だとわかります。この情報の書き換えがダイエットやる気を上げて、モチベーションを維持するポイントとなりそうです。

やる気とは

そもそも、『やる気』とは何でしょうか。多くの研究成果が示すところによると、脳の特定部位のドーパミン濃度が高い状態ということが分かっています。
ヴァンダービルト大学のチーム研究では、「行動的な人」と「怠け者」のPETスキャンという脳を調査しました。すると、報酬のために努力を怠らない行動的な人の脳では、報酬とやる気に関わる線条体と前頭前皮質という2つの領域でドーパミンの濃度が高いことがわかりました。それに比べて、怠け者の場合は、感情や危険認識に関わる前部島皮質という脳領域にドーパミンが見られました。
【引用文献】
Dopamine impacts your willingness to work | Vanderbilt News
著者:David Salisbury
出版:Vanderbilt University
URL:https://news.vanderbilt.edu/2012/05/01/dopamine-impacts-your-willingness-to-work/
つまり、やる気がある状態とは、線条体と前頭前皮質の2つの領域でドーパミン濃度が高い状態をいいます。
ダイエットの場合でも、この2つの領域にドーパミン濃度が高い状態を作り出すと「ダイエットにやる気がある状態」に導くことができると言えそうです。

ダイエットのやる気をあげるには

では、どうしたらこの部位のドーパミン濃度を上げることができるのでしょうか。
良い悪いにかかわらず、なんらかの報酬や何か重要な事が予測されたとき、人間の脳内ではドーパミンが分泌され濃度が上がります。これにより、行動を起こすエネルギーが生まれるのです。人間でも動物でも、ドーパミン濃度が高いと、物事に取り組もうという気が起きやすくなります。この事を踏まえ、以下の2つの事を常に意識する事がやる気を上げる事に繋がりそうです。

ダイエットに失敗した状態と成功して嬉しい状態を想像し、常に意識する

例えば、ダイエットの目的が「スタイルを良くして好意のある人から褒められること」だとします。
この場合、ダイエットのやる気を上げるには、好意のある人から「現在の体型が好みではない」というような事を言われたと想像します。自分にとってはとても辛い事態ですから、避けようとドーパミンが放出されます。
今度は、自分がダイエットに成功してスタイルが良くなり、好意のある人に褒められたり、告白されたりするところを想像します。こうすると、この報酬が欲しいためにまたドーパミンが放出されます。
これが、強烈なダイエットの妨げになる、本能や脳のホメオスタシスに対する対抗処置である情報の書き換えです。どんな目的のダイエットであれ、最高と最悪の事態を想定して取り組んでみましょう。
ちなみに、ダイエットが成功して得られる利益に臨場感を出すために、理想の体型をした好きなモデルの写真を見える所に貼ったり、ワンサイズ小さい洋服を買う事も良い方法だと思います。

ダイエットが成功した未来を前提とし、現在どんな行動をとるべきかを考える

ダイエットのやる気を起こすためには、今現在している事が体重を減らす事に直結するのだという臨場感を持つ事が大切です。
例えば、ランチを選ぶ時に「本当はラーメンを食べたいけど糖質を減らすために和食にしようかな」などと迷う事は多いと思います。そんな時に「ダイエットに成功した私ならこんな時はどうしていただろう?」とダイエットに成功した事を前提に考えます。すると、「ラーメンを止めて和食にするか」とか「もう1ヶ月間ラーメンを食べてないから、ご褒美に食べてその分今夜はしっかり運動をしよう」など、ダイエットを成功させるための行動様式が勝手に出来上がります。
特に、ダイエットの初期や停滞期はダイエットの成果が出にくいので、やる気やモチベーションを失いやすいと思います。しかし、現在の行動が体重減少につながっているという結果を前提とする事で、痩せる事に臨場感が持てるため、やる気やモチベーションを維持することができるのです。

ダイエットのモチベーションを維持するには

モチベーションは外部からの刺激によるものと、内部(自分)からの刺激によるものの2種類があります。
外部からの刺激とは、ダイエットで体重が減ってきた時に褒められるなどして、モチベーションに良い刺激を与えた場合が該当します。内部からの刺激は、自分自身からやる気が出ている状態の場合が該当します。
モチベーションを維持するために重要な事は、内部からの刺激を絶やさない事です。

では、どの様に内部からの刺激を絶やさないようにするかと言うと、1つ目は「ダイエットに関わる行動ができたら毎回、真剣にほめること」です。自分をほめる事でダイエットをする行動自体が心地良くなり、最終的にはモチベーションという概念すらなくなって自動的にダイエットのための行動がでるようになります。
2つ目は「できない事、失敗したことを責めずに明日行う事に集中すること」です。失敗した事ばかりにとらわれると、失敗する自己イメージが作り上がってしまうため、明日すべき事だけを考えます。失敗した事を忘れようとすると、逆に失敗が強化されるので、明日するべき事に集中するようにします。

おわりに

やる気を出す事やモチベーションを維持する事は、ダイエットだけでなく、学習や新しい習慣を身に付ける時にも役立ちます。ダイエットを通して思い通りにモチベーションを維持したり、やる気を出せることを身に付けたりする事で、思い通りの人生を歩めるようになる事にもつながります。ダイエットを通じ、ぜひ人生を豊かにしてください。

参考文献

1. The American Journal of Human Genetics 1962 Dec;14 (353-62) 
Diabetes mellitus: a "thrifty" genotype rendered detrimental by "progress"?
著者:James V. Neel
出版社:Cell Press

2. 今日からポジティブな自分に生まれ変わる
著者:苫米地英人
出版社:日東書院本社
該当する章:「Want to」を「コンフォートゾーン」にする

監修

・救急医、内科医 増田陽子

・救急医、内科医 増田陽子

専門分野
微生物学、救急医療、老人医療

経歴
平成18年 Pittsburg State大学 生物学科微生物学・理学部生化化学 卒業
平成22 年 St. Methew School of Medicine 大学医学部 卒業
平成24年 Larkin Hospital勤務
平成26年 J.N.F Hospital 勤務

資格
日本医師資格
カリブ海医師資格
米国医師資格

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