植毛とは

薄毛・抜け毛対策の最終手段として注目を集めるのが、植毛です。AGA治療薬や育毛剤でも改善効果が十分ではない場合、物理的に毛を植えるという解決策を選択するのもいいかもしれません。とはいえ、まずは植毛の仕組みを知ることから始めましょう。

植毛と他の薄毛治療との違い

植毛とは、頭皮に髪の毛を植えることを指しています。今ある毛の根元に新しい毛を結びつける方法を「増毛」といい、これは植毛ではありません。植毛とは、皮膚の中に毛を埋め込むことであり、医療機関でのみ行うことができる薄毛治療法のひとつなのです。
抜けるのを防ぐ、生えるのを促す、といった間接的な抜け毛治療ではなく、物理的に毛を植え付けるため、飲み薬や塗り薬などでの治療では十分な効果が得られなかった人に適しているといえるでしょう。

植毛の種類

植毛にはいくつかの種類があります。まずは使用する毛の種類による分類です。
・自毛植毛:自分の毛を使用した植毛
・人工毛植毛:人工的に作った毛を使用した植毛

自分の毛を使用する自毛植毛の場合、「どうやって抜いてくるか」によっても方法が分けられます。
・メスで頭皮を切り取る方法(FUT法、ストリップ法ともいう)
・ストローのような器具で頭皮をくり抜く方法(FUE法、ダイレクト法ともいう)
それぞれの特徴については、これから詳しくお話ししていきます。

自毛植毛と人工毛植毛の違い

それでは、ここからは各植毛法の詳しい解説に入りましょう。

自毛植毛の方法① FUT法(ストリップ法)

FUT法とは、「Follicular Unit Extraction(毛包摘出)」を略した呼び方です。後頭部や側頭部などの一部をメスではぎ取り、毛がない部分に植え込みます。頭皮をはぐことから、ストリップ法と呼ばれることもあります。
後頭部や側頭部は薄毛になりにくく、周囲の毛で隠すこともできるため、この部分の毛が材料として用いられるのが一般的です。1㎝×10~20㎝程度に細く頭皮を切り取り、髪の毛を採取します。傷口は線状なので、縫合しやすく、傷跡も目立ちにくいという特徴があります。採取した髪の毛は毛根部(毛包)ごとに切り分けられ、必要な場所に植え込まれていくのが一般的です。

FUT法は、一度に多くの毛を採取できるというメリットがあります。また、ある程度、広範囲の採取のため、毛根が傷つきにくく、移植後の定着率が良いのも魅力のひとつです。
ただし、頭皮に傷跡が残ってしまうのがデメリットと言えるでしょう。また、医師が手作業ですべてを行うため、時間がかかるのもマイナス要素のひとつです。

自毛植毛の方法② FUE法(ダイレクト法)

FUE法とは、「Follicular Unit Transplantation(毛包移植)」を略した呼び方です。FUT法がメスで頭皮を切り取るのに対し、FUE法は「穴あけパンチ」を使用し頭皮を切り取ります。髪を採取する部位は同じように後頭部や側頭部です。
髪の毛1本ごとにパンチをあて、毛穴ごとくり抜きます。くり抜いた毛根を、希望部位に埋め込むのです。埋め込む場所にもあらかじめパンチで穴をあける必要があります。

FUE法のメリットは、頭皮に傷跡が残りにくいこと、傷の回復が早いことです。また、今では機械で採取することがほとんどなので、手術内容のわりには時間も短くてすみます。
1㎜にも満たない極細のパンチを使用しますが、採取時に毛包を傷つけやすい点がデメリットかもしれません。採取した毛の一部は、ロスになってしまう可能性があるのです。

人工毛植毛の方法

人工毛植毛では、主にナイロンやポリエステルなどの合成繊維で作られた人工の髪の毛を使用します。自毛植毛とは違って髪の毛を採取する必要がないのが特徴です。

近年は技術が向上してきたため、人工毛であってもキューティクルの質感までかなり再現されています。カラーバリエーションも充実しており、見た目では地毛と判別できないくらい自然な髪の毛です。
埋め込む場所は、毛根がある皮膚よりも奥深くの「帽状腱膜(ぼうじょうけんまく)」という組織です。組織と馴染むようにループ状に植え込むことによって、抜けにくくしてくれます。
ただし、あくまでも「人工物」ですので、拒絶反応がみられたり、数年おきに植え替えが必要になったりすることに注意が必要でしょう。

今の主流はFUE法

従来は、大量の毛の採取が可能でロスが少ないFUT法が主流でした。これは、FUE法を手作業で行うのに膨大な時間と手間と金額がかかったためです。しかし、パンチング作業を自動で行える装置が開発されたため、現在では患者も医師も大幅に負担が改善されました。
リスクが低く負担も少なくなったため、現在行われる自毛植毛の多くは、機械を用いたFUE法となっています。

植毛のメリット

薄毛治療法として、植毛には多くのメリットが認められますが、植毛の最大のメリットは、高い発毛効果です。人工毛にせよ自毛にせよ、物理的に毛を埋め込むわけですから、飲み薬や塗り薬よりも効果が期待できます。体質や持病などでAGA治療薬が使用できない方でも、植毛ならば可能なケースもあるのです。
また、薬の副作用によるデメリットもないので、身体的な負担も少ないのが利点ともいえます。

ここからは、自毛植毛と人工毛植毛それぞれのメリットをお伝えします。

自毛植毛のメリット

私たちの体には、いわゆる「拒絶反応」という異物を攻撃して排除する仕組みが備わっています。せっかく髪の毛を植えても、拒絶反応によって抜けてしまっては意味がありません。その点、自毛はもともと自分の体の一部ですから、拒絶反応が起こらないのが最大のメリットだと考えられます。
自毛のメリットはそれだけではありません。毛根そのものを植えるため、一度髪が抜けてもまた生えてくるのです。当然、美容院などでカットをしても伸びてきます。死んでしまった毛根がよみがえるのと同じだとイメージしてもらえばいいでしょう。根本的に薄毛の改善を図れるのは、自毛植毛です。

人工毛植毛のメリット

人工毛植毛の場合、メリットは何といっても「無限性と即効性」にあります。自毛を使用する植毛の場合、材料になる毛の量はどうしても限られてしまいます。しかし、人工毛なら無限です。好きな場所に好きなだけ植えられるのが、人工毛植毛の利点といえます。自毛がほとんど残っていない状態であっても、いわゆる「フサフサの髪」を実現できる可能性があるわけです。
さらに、人工毛はある程度の長さになった状態で植え込まれます。自毛植毛とは違って、その場で薄毛改善効果が得られるという点もメリットのひとつです。すぐに広範囲の薄毛改善が期待できるのが、人工毛の特徴です。

植毛のデメリットと注意点

メリットがあるところには、残念ながらデメリットも存在しているものです。植毛も例外ではありません。デメリットや注意点もしっかり把握してから植毛を選択するようにしましょう。

植毛は手術のひとつです。麻酔のリスクや感染症のリスクは必ず付きまといます。医師の技術や病院の管理体制によっては、医療ミスなどの事故のリスクもあり得ることは忘れないようにしてください。
もうひとつは費用面です。植毛には健康保険が使用できません。治療費そのものも高額なことが多く、病院によって費用も異なります。事前に複数の病院に費用を確認しておきましょう。

続いて、自毛植毛と人工毛植毛のデメリットを解説していきます。

自毛植毛のデメリット

植毛のうち、ほとんどの人は自毛植毛を選択します。やはり多くのメリットがあるからです。ただし、自毛植毛の場合はどうしても「抜ける本数」つまり、「植えられる本数」に限度があるということです。加齢とともに髪の数は減少していきますから、無限に植えられる魔法ではないということを知っておきましょう。
人工毛を使用した植毛と比べると、手術費用も高額になりがちです。「いつ、どこの毛を、どれだけ、どこに」移植するのかは、医師と十分に話し合っておく必要があるでしょう。

人工毛植毛のデメリット

人工毛のデメリットは、定期的なメンテナンスが必要な点です。人工の毛ですから、一度カットしてしまえば伸びてくることはありません。また、白髪やカラー剤の色落ちなどといった自毛の変化にも対応できません。植毛時は自毛となじんでいても、期間の経過とともに不自然さが目立ってしまうことがあります。
それに加えて、人工毛の定着率は永久的ではありません。数年おきに上直しが必要になることが前提といえます。自毛植毛は半永久的に効果を得ることができるのに対し、人工毛は半永久的にメンテナンスが必要な方法といえるでしょう。
また、人工毛は体にとって「異物」です。免疫機能の働きによって、アレルギーや炎症などの副作用が起きたり、拒絶反応によって地肌に定着せずに抜けてしまったりする可能性もあります。

植毛の値段

AGA治療の中でも、植毛は高額な部類に入ります。植毛は健康保険適用外の治療のため、病院によっても費用が異なり、中には倍以上の価格差が生じるケースもあります。植毛の平均的な相場を知り、病院選びの判断材料のひとつにしてみてはいかがでしょうか。

自毛植毛の場合

・軽度(生え際の軽い後退):1,500~3,000本(約500~1,000グラフト)→約50万~100万円
・中度(M字状の後退、頭頂部の薄毛):3,000~7,000本(約1,000~2,500グラフト)→約80万~150万円
・重度(かなり広範囲):8,000~15,000本(約3,000~5,500グラフト):→約200万~300万円

植毛では「グラフト(株)」という単位を使用します。「1グラフト=1つの毛穴」を意味し、1グラフトには1~4本の毛が生えています。平均すると1グラフト=2.7本で、これがひとつの指標として用いられています。今回はわかりやすくするために、ある程度数値をならして計算させていただきました。
ちなみに、1㎠あたりに必要な植毛の本数は50~60本程度です。このことから、思っている以上に髪の毛が必要になることがわかります。

人工毛植毛の場合

人工毛植毛の場合、1本あたりの費用は自毛よりも安価に設定されています。とはいえ、ほぼ毎年メンテナンスが必要なのも事実です。1回の植毛費用は自毛の半額程度ではありますが、1年で60%ほどが抜け落ちてしまうといわれています。トータルコストで見ると、実は自毛植毛のほうが圧倒的に割安になるケースがほとんどです。

女性の植毛

薄毛=男性というイメージが強いですが、もちろん女性であっても植毛を受けることは可能です。そして近年では、植毛希望者の2割以上を女性が占めているそうです。いわゆる美容外科や美容皮膚科の中には、「女性専用」をうたうクリニックも少なくありません。脱毛や美容整形同様に、女性でも安心して植毛が受けられるところがほとんどです。

女性の場合、髪や頭皮が男性よりもデリケートです。パーマやヘアカラーなどで頭皮そのものが傷んでいるケースもあるため、より繊細で高度な技術が求められるといえるでしょう。費用だけでなく、技術面でも信頼のおける病院を選ぶことが非常に重要です。多くのクリニックでは、初回のカウンセリングや医師による診察は無料で行われています。複数のクリニックでカウンセリングを受け、自分の目で確かめてから植毛を受けるのがよいでしょう。

おわりに

人の第一印象は、髪の状態にも大きく左右されるものです。できるなら清潔感と若々しさを保ちたいと願う方も多いでしょう。内服薬等での治療を半年以上続けても薄毛が改善されない場合、植毛を検討する時期かもしれません。
内服薬や外用薬も決して安いものではありません。植毛は内服薬等の治療と比較すると高額に映りますが、長期的な目で見ると、実は意外とお得な場合もあります。特に、一度行ってしまえばほぼメンテナンス不要の自毛植毛は、できるだけ早い時期に済ませてしまうのが良いといえるでしょう。
薄毛治療が思うように進まずに悩んでいる方は、植毛のメリット・デメリットを十分に理解するためにも、一度カウンセリングに足を運んでみてはいかがでしょうか。

監修

・救急医、内科医 増田陽子

・救急医、内科医 増田陽子

専門分野 
微生物学、救急医療、老人医療

経歴
平成18年 Pittsburg State大学 生物学科微生物学・理学部生化化学 卒業
平成22 年 St. Methew School of Medicine 大学医学部 卒業
平成24年 Larkin Hospital勤務
平成26年 J.N.F Hospital 勤務

資格
日本医師資格
カリブ海医師資格
米国医師資格

関連する記事

関連するキーワード

著者