はじめに

腸内フローラという言葉を聞いたことがありますか? 

便秘に悩んでいる人は、もしかしたら一度ぐらい聞いたことがあるかもしれません。
便秘だけでなく、私たちの健康に実はとても密接に関係している腸内フローラ、一体どのようなものなのでしょうか。

腸内フローラとは腸管内にまとまりをもって共生している腸内細菌の一群のことをいいます。

腸内フローラは優勢常在菌の構成に基づいて3つの型に分類することができます。
また、この型のことをエンテロタイプと呼んでいます。
この構成に影響するのが、ヒトのお腹の中(腸内環境)の特徴(生物学的)と、ライフスタイル(食習慣や住環境など)と考えられています。

ヒトは胎児の時は無菌状態であり、母親の産道を通過する時に初めて微生物に接触すると考えられています。生まれてくる胎児は母親の産道を通過した後に、初めて外の空気に接触します。
そして母親から母乳という栄養を摂るようになります。
このように元々持っているものではなく、外から加えられた要因によって乳幼児期から腸内フローラは構成されていきます。

予防医学の観点からも、ヒトの健康に対する有用性が注目されています。
一例ではありますが、腸内フローラの構成細菌が欠落する疾患では特定の細菌を移植するケアも存在しています。それほどにヒトの健康に与える影響は大きいのです。

腸内細菌は、お腹の中(腸管内)で食事などの栄養や宿主細胞と相互に作用することによって、ヒトが健康的に生活をするための生理活性物質を作り出しています。
つまり腸内細菌を味方につけることによって、健康的な生活を送りやすくすることが可能です。

便の中には食事などの食べカスだけではなく、消化活動などに必要な物質などが、役目を終えてカスとして残ります。これを合わせたものが、便として排泄されます。
(※代謝産物や、脱落した腸管細胞など)

便秘が体に悪いことはイメージできますが、ただ単に宿便が溜まってしまうということだけが問題なのではなく、腸の環境や消化に必要な運動を悪くしてしまうことも問題なのです。
(※必要な生体内濃縮や腸管細胞の運動性低下を招きます。)

ここでは便秘の改善をおこない、腸内環境が向上することによって体の調子が良くなるということを説明していきます。

腸内フローラとは

腸内フローラとは、花畑のようにまとまりをもって共生している腸内細菌の一群のことをいい、その様子を顕微鏡でのぞいてみると、まるでお花畑のようだったという理由から、腸内フローラと例えられています。
そして、予防医学の観点からもヒトの健康に注目され耳にするようになってきました。

腸内細菌の予防医学では、プロバイティクス、プレバイオティクスといわれるものが存在します。

■プロバイティクスとは
人体に良い影響を与える微生物(善玉菌)、または 、それらを含む製品、食品のことになります。
ヒトにとって良い微生物そのもの、またはそれ由来の有効成分を摂取する事です。

■プレバイオティクスとは
腸の善玉菌増殖を促して、腸内フローラを改善し、 健康に有益な効果を与える食品成分のことになります。良い微生物にとって有益な物質を摂取する事です。

そして、重要なポイントは次です。

病原菌の制御を目的に、抗生物質を摂取することがよくありますが、これは知識と注意が必要です。
たしかに、一時的な感染制御として「感染症になっても抗生物質があれば大丈夫」という考え方が存在するのも事実です。しかし、微生物に対抗するための方法と考えた時に、抗生物質などに頼りすぎていると腸内フローラに悪影響を及ぼすということも考えなくてはなりません。
それだけではなく、より強いとされる薬剤耐性菌などを出現させるきっかけにもなり得るのです。

つまり、抗生物質に依存した医療だけでは限界があり、このことから、近年の感染症対策は腸内フローラの改善が求められています。
近年の予防医学に対する注目度は高く、予防医学を正しく実践できる知識が必要です。

ではみなさん、どのような腸内細菌を知っているでしょうか?
乳酸菌、納豆菌、大腸菌などなど・・・・・・。
これらは食品に含まれるものや、感染症の原因となるものです。

しかし、これらは腸内フローラの主要な構成メンバーではありません。
成人の腸管内常在菌はバクテロイデスやクロストリディウムという、2つのグループで90%が構成されています。

『腸内細菌がヒトに与えるメリット』ということを考えるときに、まずはフローラを畑のようなイメージとして捉えて、大半を構成する常在菌の存在が重要であることを覚えておきましょう。

フローラの解析方法

腸内細菌はどのようにして解析されているのでしょうか?
ここでは、腸内フローラの解析方法について説明していきます。

腸内細菌の解析方法にはまず、分離培養法があります。
この方法で解析(培養)できるのは腸内細菌全体の3割程度といわれています。

残りの細菌は試験管内では培養できないとされています。
細菌によっては空気に触れる事自体が苦手なものが存在する、というような理由などがあげられます。
(※これらは腸管内の嫌気環境(低酸素濃度)の再現が困難であることや、生体内での生育必須因子が未知であるため、難培養性細菌として扱われています。)

つまり、生理的な環境を現存の培養条件では再現できないということです。

そこで、培養によらない解析法も存在しています。
(※メタゲノム解析法や16SリボソームRNA遺伝子解析法が利用されています。)

このような、培養に依存しない遺伝子解析法(網羅的)によって多くの腸内細菌を検出することができます。

エンテロタイプ

ここまで腸内フローラの常在菌の重要性について説明してきましたが、この常在菌のバランスによって3タイプに分類しています。
この分類のことをエンテロタイプと呼んでいます。

実際に日々の生活に役立つポイントとしてどう摂取したら良いのかです。
例えば、ヨーグルトなどの選択に大切なのはプロバイオティクス株の多様性です。
これは数種類の菌株を含む商品を選ぶと良いです。

つまり、異なる商品をサイクルさせながら摂取する事が大切です。

腸内フローラの特徴を比較するためには、ヒトのフローラタイプを把握する必要があります。
それを考えるための一つの指標として、エンテロタイプという概念があります。
これは腸内に常在する3種の細菌の比率によって区別される腸内フローラの型のことをいっています。

性別や人種に関係なく食餌の影響を受けるという考え方が一般的で、優勢菌によって分類します。

1型 Bacteroides(バクテロイデス)型 
肉食中心の欧米人に多いとされ、アジア人には多くないとされています。菌種・菌株レベルでの解析は不十分です。またBifidobacterium (ビフィズス菌)との混合タイプはBB型として細分化されていきます。バクテロイデスの中には病原性を有する菌株も存在することから病原細菌として認識されていました。しかしながら、近年の研究で肥満者にはバクテロイデスが少ないことや、菌体表層分子に宿主の免疫抑制活性があることが明らかになりつつあります。病原性と有用性という2面性を持った医学的に重要な細菌です。

2型 Prevotella (プレボテラ)型 
炭水化物を多く取り、動物性タンパク質を少なく取るヒトに多く見られる傾向です。ヒエやアワを主食とするアフリカ・プルキナファソの子供に多く見られるタイプです。

3型 Ruminococcus (ルミノコッカス)型 
日本の子供の腸内フローラは他国に比べてビフィズス菌が多く、大腸菌が少ないことが特徴的です。善玉菌が多く悪玉菌が少ないのは優れたフローラであるといえます。しかしながら、日本の子供にはアレルギーが多く、感染症を発症しやすいことから、免疫系においては必ずしも良好とは言えません。また、個人のエンテロタイプは数年をかけて変化します。

エンテロタイプの説明はとても難しいものがありますが、自分がどのようなタイプなのかを把握しておくことで、日々の体調管理につながります。
自分がどのようなタイプなのか調べてみるのも良いかもしれません。

便秘と腸疾患

ここまで腸内フローラの説明をしてきましたが、今度は便秘についてもう少し掘り下げていきます。

便秘をともなう消化器疾患には、大腸憩室炎や逆流性食道炎などがあります。

大腸の一部が腸壁の外に飛び出すポケットのことを憩室と言います。

憩室が出来てしまうのは良い状態とは言えません。

大腸検査の10%程度の頻度で憩室は発見されます。
憩室は加齢に伴う生理現象ですが、炎症を伴った大腸憩室炎は大腸の形態に障害を与える疾患です。
便秘を緩和していくことで、憩室の炎症進行を予防することができます。

腸管に対する長期的な圧迫なども回避しなければなりません。

便秘は、消化器官の運動を調節するのに必要なシステム(体性内臓反射)を妨げます。
システム(体性内臓反射)が妨げられると、食道においても噴門括約筋(胃袋の入り口)のゆるみを引き起こし、逆流性食道炎(胃酸の逆流)を起こす要因にもなります。

大腸での憩室の形成は、食生活の欧米化であると考えられています。
このことから、憩室炎の予防には便秘を緩和する食生活やライフスタイルの見直しが推奨されています。

腸を守るライフスタイル

ここまで便秘が引き起こす弊害について説明してきました。

便秘の緩和を目的にした腸内環境を目指すために、まずはお腹(腸)をあたためることをオススメします。

お腹(腸)の保温はシステム(体性内臓反射)の機能向上に加えて、血流も改善し、腸管の蠕動運動が回復します。

具体的には、腰またはお腹を60℃で1日1回10分間、熱布すると排便回数が増えます。

副交感神経も優位になるこの方法を温罨法といって、医療の現場においても実践され効果を上げています。

また適度な水分補給や食物繊維を多く含む食事の導入、心地良い程度の運動など基礎的な対策も重要です。

便秘を改善し、病気のリスクを軽減させましょう。
きっと、病気の予防だけではなく明日の健康につながります。

まとめ

いかがだったでしょうか?腸内フローラの可能性、便秘についてのリスク、病気との関係性についても分かってくれたのではないでしょうか。

基本的なことはもちろん、腸内環境を改善し、病気のない元気な毎日を楽しみましょう!

監修

千葉大学医学部附属病院 宮山 友明

千葉大学医学部附属病院 宮山 友明

専門分野 
循環器内科

経歴
1998年 千葉大学医学部医学科卒業。
2008年 千葉大学大学院医学薬学府環境健康科学を専攻し、医学博士号を取得。
現在 千葉大学医学部附属病院循環器内科医員として、心臓専門医として診療、研究。

資格
医師免許

活動:
日本抗加齢医学会専門医としてアンチエイジング医学、日本医師会認定健康スポーツ医としてスポーツ医学にも取り組み、各種メディアで活動中。

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